THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年06月

来週末の7月1日から、電動キックボードなどについて特定小型原動機付自転車(特定小型原付)という新しいルールが導入されます。それを前に、電動キックボードシェアリングサービス「LUUP」を運営する株式会社Luupの代表取締役社長、岡井大輝氏にインタビューする機会がありました。内容はニュースサイト「Seizo Trend」で前後編に分けて掲載してありますので、ご興味のある方はご覧いただければと思いますが、個人的にも感心するところの多い取材でした。

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もっとも印象に残ったのは、電動キックボードへのこだわりはないという言葉でした。たしかに現時点でも、電動アシスト自転車を並行して用意していますが、将来は3輪あるいは4輪の電動マイクロモビリティを提供したいとのことで、2019年の東京モーターショーなどで、プロトタイプも公開しています。若者だけでなく高齢者も乗れることを目指しているそうです。地域についても、東京などの大都市だけでなく、地方や観光地などへも進めていきたいとしています。

昨年このブログで書いたことですが、特定小型原付は電動キックボードだけのカテゴリーではありません。先日取材を受けたメディアも特定小型原付=電動キックボードと誤解していましたが、改正道路交通法には「電動キックボード等」と書かれており、3輪や4輪でも寸法や性能が合致していれば特定小型原付になります。現に本田技研工業発スタートアップから生まれた「ストリーモ(Striemo)」は、今月初めに特定小型原付の型式認定を取得したと発表しました。

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ストリーモ特定小型原付適合のニュースリリースはこちら

パリでは電動キックボードのシェアリングが危険とのことから、今年4月に住民投票が行われ、投票率は低かったものの圧倒的多数がシェアリング終了に賛成し、実行される見込みですが、仮に日本で同様の状況になったとしても、特定小型原付のカテゴリー自体は残り、逆に地方や観光地のモビリティとして脚光を浴びることになりそうですし、そこまで考えて今回のルールが制定されたと見ています。

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ではなぜ電動キックボードを選んだのか。これに対する答えは、世界中で普及していること、そして場所を取らない乗り物であるということでした。たしかに電動キックボードは、ひとり乗りの移動体としては自転車よりもさらに小さく、最小クラスと言えます。これは狭い土地を有効活用することが大事な大都市でシェアリングを展開するときにとても有利です。そのために同社では、キックボードと同等サイズの自転車をわざわざ自社設計したほどです。

ただし車両を用意しただけでは、モビリティとしては完璧とは言えません。その点も岡井社長は理解していて、歩道と車道の間に位置する「中速帯」を提案していました。いまある環境では自転車レーンがそれにあたりますが、今後は自転車だけでなく特定小型原付も走ることになるわけで、これらの乗り物が走る場所を中速帯と呼んでいました。これからのルールに沿った考え方であると感じました。




電動キックボードだけにこだわるのではなく、人が移動しやすくするにはどうすればいいかを考え、そのために最適な車両やインフラなどを組み合わせたサービスを提供していきたいというLUUPのビジョンは、まさにモビリティ=移動可能性の本質を追求するものです。来週末のルール変更後、パーソナルモビリティのシーンがどのようになるかを含めて、動向を見守っていきたいと思っています。

先週に続いて二輪車の話題を、ちょっと違う角度から取り上げます。今回取り上げるのは、日本自動車工業会(自工会)二輪車委員会が開催しているメディアミーティングです。先月25日に行われた第6回メディアミーティングは、静岡県田方郡函南町にある「バイカーズパラダイス南箱根」で行われると聞いたので、ツーリングがてら参加してきたのです。

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当日の様子は自工会のオフィシャルサイトに紹介されていますので、そちらをご覧ください。個人的にまず感心したのは、自工会二輪車委員会委員長でヤマハ発動機代表取締役社長の日髙祥博氏が参加したことです。同氏は会場に駆けつけたメディア関係者と歓談の後、バイカーズパラダイスの建物内でミーティングをスタート。モータージャーナリストのKAZU中西氏、自工会常務理事の江坂行弘氏も参加しました。

ミーティングはさきほどまでの和やかな雰囲気から一転して真剣そのもの。まず中西氏が関わる「伊豆スカイライン・ライダー事故ゼロ作戦」の活動や、この活動によって伊豆スカイラインのライダーのマナーが変わってきたことが紹介され、その後日高氏および江坂氏、メディアを交えて、ライダーのマナーや高速道路料金など、多彩なテーマにについて議論が行われました。

自工会とは名前でわかるとおりメーカーの集まりです。にもかかわらずこの日はライディングマナーや高速道路料金など、メーカーが直接関わらない分野まで話題を展開していて、みんなが本気でより良いバイクシーンを目指していることが伝わってきました。メーカーとメディアが対等に意見交換をしている様子も好感を抱きました。

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東京に戻って自工会のオフィシャルサイトを見ると、たしかに二輪車委員会のページは、情報ページの「MOTO INFO」をはじめユーザー寄りの内容が多く、今回のようなミーティングが開催された理由が理解できました。その背景として、世界有数の二輪車メーカーが4つもありながら、普及率では東南アジアや欧州を下回っている現状を変えていきたいという気持ちがあるのかもしれません。

個人的にはこうしたアクションを、自工会全体で展開してもらえればと思います。乗用車は関係する分野が広すぎるので直接対話は難しいかもしれませんが、トラックやバスを擁する大型商用車については、2024年問題や運転士不足などに直面しているわけで、作る人と使う人が直接つながることで、より良い方向に世の中を動かすことができればと期待しています。

自工会が数年前から、「クルマを走らせる550万人」というキャッチフレーズを展開していることを知っている人もいるでしょう。自工会がまとめた「日本の自動車工業2022」によると、その内訳は製造部門が89万人なのに対して、運送会社やバス会社などが属する利用部門は271.8万人と、全体の半分近くを占めています。

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第6回メディアミーティングを伝える自工会オフィシャルサイト「MOTO INFO」はこちら

この数字を見ても、日本の自動車関連業界では、使う人が重要な位置を占めていることがわかります。 だからこそ二輪車委員会が実践しているように、ユーザーに近い立場の人間とメーカーの人間がリアルに交流する場が、もっと必要ではないかと感じています。そう思わせるほど、今回のメディアミーティングはライダーとしても、メディアに関わるひとりとしても、中身の濃い時間でした。

今年の春、新たに乗り物を買いました。本田技研工業の「スーパーカブ」です。車種は第二種原動機付自転車(原付二種)登録のC125で、もうすぐ納車後3ヶ月になります。購入の経緯、車種や色の選択理由などについては.ビジネスニュースサイト「東洋経済オンライン」に書いたので、ご興味がある方はそちらをご覧いただくとして、ここでは毎日当たり前のように見ているスーパーカブを、あえて所有したことで気づいたことを綴っていきます。

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まずは道具としての利便性。自転車より速くて安楽でありつつ、自動車と違って狭い場所にも入っていけます。使いやすさではスクーターのほうが上かもしれませんが、スーパーカブもフレームが低いので足を跳ね上げずに乗り降りできるうえに、スクーターに比べてタイヤが大径なので、安定性や快適性は上です。そして4ストロークエンジンの扱いやすさと優れた燃費、心地よいサウンド。今でこそ原付も4ストロークが当たり前になりましたが、スーパーカブが生まれた60年以上前は2ストロークが当然。その中でいち早く4ストロークを選んだ先見性は大したものだと思います。

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しかもスーパーカブ、単なる優れた道具で終わりではありませんでした。まずはデザイン。60年以上基本的に変わらないフォルムは、1950年代生まれらしい、優しい丸みが心地よく感じます。大径タイヤと低いフレームをひと筆書きでつないだようなS字カーブはその象徴で、機能を犠牲にせず美しく仕立てた、真のデザインを感じます。そのS字カーブの一部を形成しつつ、エンジンをカバーし、足に雨風が当たるのを防ぐレッグシールドを、当時は珍しかった合成樹脂を使って与えたアイデアも画期的だと、乗るたびに感じています。



そして楽しさ。自分自身、学生時代にアルバイトでスーパーカブに乗ったことはありますが、今回自分のものとして付き合いはじめて、モーターサイクル的な操る喜びを堪能しつつあります。その源泉となっているのが、自動遠心クラッチを使ったトランスミッションでしょう。AT免許でも乗れますが、変速まではしてくれず、スロットルを戻してペダルを踏んでという操作を繰り返します。うまくいかないとショックが出ます。だからこそスムーズにできたときの嬉しさは格別です。

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もちろんエコでもあります。実測燃費は記事にあるとおりリッター50km以上で、これだけでも満足できますが、軽自動車の3分の1以下という外寸も評価しています。2人乗り可能なので、乗用車の平均乗車人員1.3人はカバーできるからです。もちろん衝突安全性は自動車に劣りますが、他の二輪車同様アクセルとブレーキの操作が完全に違うので、ペダル踏み間違いのようなことはありません。エンジン回転を上げた状態でギアを入れるとウイリーすることに気をつければ、全般的に利便性と安全性を兼ね備えた乗り物と思っています。

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便利で快適であり、場所を取らず、デザインに優れ、乗っていて楽しい。実はこれらすべてが、モビリティにおいて重要なことだと思っています。機能性や快適性はもちろん大切ですが、乗ってみたくなることもまた、人々を移動に促すうえで欠かせないからです。スーパーカブはこれらの要素を高次元で兼ね備えているからこそ、60年以上にわたり基本設計を変えずに作り続けられ、累計生産台数1億台以上を達成し、いまなおその記録を更新し続けているのでしょう。オーナーのひとりとして、その足跡を汚さぬよう乗り続けていきたいと思っています。

今週は日野自動車と三菱ふそうトラックバスの経営統合という驚きの発表がありました。このニュースで話題になったのが、モビリティにも関係する日本のバスはどうなるのか?ということです。日野はいすゞ自動車とジェイ・バスという会社を設立し、共同開発生産を続けてきたからです。ふそうも一時期UDトラックスとの間でOEM供給を始め、事業統合も目指していました(その後UDはバスから撤退)。つまりライバル関係にある2つの陣営が手を結んだことになります。

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報道を見ながら、欧州で見たり乗ったりしてきたバスを思い出しました。日本主導でのジェイ・バスとふそうのバス部門統合は、発表内容や資本関係などから考えれば難しいうえに、日野とふそうの持ち株会社はふそうの親会社ダイムラートラックと日野の親会社トヨタ自動車の対等出資であり、いすゞは近年スウェーデンのボルボグループと提携し、ボルボグループだったUDを傘下に収めているので、全社が欧州とのつながりを持つことになったからです。

しかもニュースではあまり出ていませんが、昨年にはトヨタの欧州法人がダイムラーのメルセデス・ベンツ電気バスに燃料電池モジュールを供給という、今回の経営統合の伏線になるような動きもありました。メルセデスは最初の写真にあるバスの電気自動車版を走らせており、レンジエクステンダー(航続距離延長)のために燃料電池を活用するとのことでした。一方ふそうではダイムラーの電気バス導入を検討しているという噂もあり、電動化が遅れている日本への技術導入が期待できます。

発進停止と低速走行が多く、1日の走行距離は200km程度で、乗客だけでなく沿道への快適性も求められる路線バスは、環境対策以外にも電動化のメリットが数多くあると思っています。なので国産大手に先駆けて、ベンチャー企業のEVモータース・ジャパンや中国BYDの車両が次々に導入されているのでしょう。私自身、国内外で複数の電気バスに乗ったことがありますが、鉄道のディーゼルカーと電車の違いと同じで、とにかくスムーズに移動できます。

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もうひとつ欧州の路線バスを見て思うのは、企業連携が進んでいることです。たとえば2つ目の写真にあるドイツのMANは、フォルクスワーゲングループの商用車部門トレイトンに属しており、ここにはスウェーデンのスカニアも入っています。スカニアは日本でもトラックやバスを販売しており、東京都や新潟市、福岡市などで、オーストラリアのボルグレンがボディを架装したディーゼルエンジンバスが走っています。ちなみにボルグレンは鉄道車両も手がけるブラジルのマルコポーロ傘下です。

イルカのロゴマークを掲げた3つ目のイリスバスは、フィアットの商用車部門などが統合して生まれたイタリアのイヴェコと、フランスのルノーのバス部門が統合して生まれた会社で、その後ルノーが手を引き、現在はイヴェコバスとなっています。イヴェコはバスやトラックのほか、建設機械や軍用車両なども守備範囲で、日本でも活躍するドイツの消防車マギルスもグループの一員です。つまり今回のような経営統合は、グローバルで見ればよくある出来事であることもわかります。

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ところで3台ともに、扉が前・中・後ろと3枚あることに気づいたでしょうか。以前のブログで紹介したことがありますが、欧州の路線バス車両はエンジン車であっても、車体後端近くまで低床とした車両が一般的なのです。さらにこれもかつてブログで触れた信用乗車方式をバスにも取り入れているので、連節バスなどではどの扉からも乗り降りできて便利です。技術だけでなくサービスにも、今回の経営統合を生かしてもらいたいところです。

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