THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年07月

先月、駐日ジョージア大使のSNS投稿をきっかけに、公共交通車両の優先席について議論が盛り上がったことがありました。大使が座っていた鉄道車両の座席が優先席であったことがきっかけで、「優先席は必要な人のために空けておくべき」などの反論がありました。

こうした意見に対して大使は、「空いている席に座ることに何ら問題はありません」「大切なのは必要とする方が来たときに率先して譲る精神です」と主張しました。私自身は大使の意見に賛同しますが、いろいろな意見があっていいと思います。しかし自分の意見を他人に押し付けるというのは、多様な意見は認めないという逆の結果になるので、注意が必要だと思います。

IMG_9932

日本人の特徴を言い表す言葉のひとつに「同調圧力」があります。日本が島国で、多くの人が日本語という単一の言語を話すことなどから、お互いに同調行動を取りながら生活することが多いことが理由と言われており、東京大学教授の中根千枝氏が1967年に書いた「縦社会の人間関係 単一社会の理論」などによって、昔から指摘されていることです。

IMG_6729

最近では新型コロナウイルス感染対策のマスクについても、「する派」「しない派」が生まれ、「すべき」「やめましょう」など、他人に同調を促す意見が多く見られました。自分に同調する仲間を増やして多数派になり安心したいという気持ちから、このような行動に至ったのかもしれません。

ただし昨年秋にひさしぶりに訪れた欧州では、そのような空気は感じませんでした。現地の公共交通では、空いているときはほとんどすべての人がマスクなしでしたが、混んでいるときはマスクをする乗客もいて、途中で付ける人もいました。個人が状況に応じて自由に着用を選んでいるような気がして、これが本来の姿だと思いました。

なので優先席についても、どのように使うかは各自の判断に任せたいという気持ちですが、ひとつだけ書いておきたいのは、混雑時に空いている席があるときは座ったほうが、その分床が広く使え、混雑が緩和するということです。これは特に、鉄道車両より床面積に限りがあるバスで明らかです。そして優先席を必要とする方が来たら、譲ればいいのではないでしょうか。

IMG_7916

ちなみに欧州の公共交通車両にも優先席はありますが、座席を色分けしたりせず、上の写真のルクセンブルクLRTのように、小さなステッカーを貼っているだけというパターンを多く見かけます。優先席を特別扱いしない姿からは、すべての座席が高齢者や障害者などに譲る場所であってほしいというメッセージが伝わってきました。

IMG_7593

最近日本でも目にするようになってきた、車いすやベビーカーの利用者などのためのフリースペースについても、気づいたことがあります。先日乗っていた路線バスでは、車いすを固定する場所に折り畳み式の座席があり、しかもそこが優先席だったためか、座っていた人がなかなか立ち上がらず、車いす利用者の乗車に時間がかかっていました。上の写真にあるパリを走るバスのように、フリースペースは座席がないほうがスムーズだと感じました。

多かれ少なかれ日本人が宿している同調性には、良い面もたくさんあるので否定はしません。ただ公共交通を含めた公共空間は、すべての人に等しい地位や権利が与えられる場だと思っているので、同調を求めるあまり、特定の意見が支配するような風潮はないことを望みますし、今回を含めこういう話題を考えるきっかけを与えてくれる点は、公共交通の良さだと改めて感じています。

今週、鉄道貨物に関連する2つのニュースがありました。ひとつは海上コンテナを鉄道で運べるようにするために、JR貨物が開発した低床貨車を使い、今年度中に実証実験を始めるというもの。もうひとつは北海道新幹線の札幌延伸に伴いJR北海道から経営分離されることが決まっており、廃線・バス転換が議論されている函館本線の函館〜長万部間について、貨物列車を残すために検討会議が設置されるというものです。

IMG_6871

どちらも先週のブログで取り上げた、いわゆる「2024年問題」への対策もありそうですが、個人的には大型トラックの最高速度引き上げよりも、はるかに納得できる取り組みだと感じています。というのも、以前も触れたことがありますが、日本は貨物輸送における鉄道の割合がかなり低いからです。

国土交通省の2020年のデータでは、国内貨物のモード別輸送(トンキロベース)で、自動車が約5割、海運が約4割を占めており、 鉄道の占める割合は全体の5%程度です。これをOECD(経済協力開発機構)の中にあるITF(国際交通フォーラム)の数字と比べると、海運が約4割というのは、同じ島国の英国や半島のイタリアを大きく上回っているのに対し、鉄道の5%程度は国土が広く路線も充実している米国やドイツだけでなく、路線の長さでは日本より短い英国やイタリアにも劣っているのです。

都市部を除けば旅客鉄道をあまり目にすることがない米国で、貨物鉄道が一定のシェアを持っていることを意外に思ったかもしれません、やはり国土が広いので、トラックでの長距離輸送は効率面でも安全面でも劣るうえに、東西方向の物流は海運が使えないので、鉄道が幅を利かせているようです。なので函館本線が貨物専用になったとしても、個人的には特に驚きはありません。

IMG_6798

しかも鉄道は船舶には及びませんが、トラックよりはるかに大量の荷物を一度に運ぶことができます。JR貨物のコンテナ貨物列車は最大1300トンとのことで、最初に書いた海上コンテナで言えば、トラックで運ぶとなると40台以上必要になります。もちろん運転手も40人以上確保しなければいけません。ドライバー不足問題の解消のためにも、モーダルシフトは有効です。

欠点としてはやはり、旅客鉄道もそうですが、それだけで輸送が完結することはほとんどないことです。また大量輸送ということは、一定量荷物が集まってから運びはじめることになるので、速達性でも劣ります。これが我が国においてトラック輸送の比重が高くなった理由のひとつでしょう。

しかしながら前回も紹介した全日本トラック協会のウェブサイトには、2024年問題解決に向け、荷主とトラック事業者が連携して取り組んでほしいこととして、待ち時間や待機時間の削減、作業削減など労働環境の改善、リードタイム延長などを挙げています。荷主にとっては、必要な時に必要な分だけ荷物を届けてくれる便利な存在ですが、その裏でドライバーは運転以外に多大な時間や労力を要しているのです。

IMG_6147
全日本トラック協会「2024年問題」特設サイトはこちら

おまけに前にも書いたように、日本は人口そのものが減っているわけですから、物理的にもこれ以上のサービス向上は困難です。だからこそ現状を維持するために必死になるのではなく、自分を含めた荷主が「ゆっくり運んでもらおう」と、気持ちをリセットすることが必要ではないでしょうか、そうすれば鉄道や船舶へのモーダルシフトが進み、環境対策や安全対策になるとともに、なによりも物流を担うひとりひとりが、より気持ち良く任務につけるような気がします。

いわゆる2024年問題に対する動きが、良からぬ方向に動いてきたと感じています。今週木曜日、大型トラックの高速道路での最高速度について、警察庁は現行の80km/hから引き上げる検討に入ったというのです。このブログでも過去に取り上げた、いわゆる「2024年問題」に対応すべく、物流の効率化を図るためで、有識者会議を設置して年内に提言を取りまとめる予定とのことです。

IMG_2072

この件、経済産業省が昨年9月から開いてきた「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の中で、全国物流ネットワーク協会が先進安全装備を装着した大型トラックに限り、高速道路の速度制限を80km/hから100km/hに緩和してほしいと要望していました。一方内閣官房では今年に入って「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が開かれており、先月「物流革新に向けた政策パッケージ」が決定。そこに記された24項目の中に、高速道路のトラック速度規制の引上げがありました。

経産省の検討会では、2024年問題に対して何も対策を行わなかった場合、営業用トラックの輸送能力が2024年には14.2%、2030年には34.1%不足する可能性があると試算しています。一方で最高速度を80km/hから100km/hに引き上げた場合、単純計算すれば輸送力は最大1.25倍になるので、机上の理論では対策のひとつにはなるでしょう。しかしそれ以外の部分で、多くの問題があることも事実です。

IMG_2092

私は以前、乗用車の最高速度120km/h引き上げに賛成したときにも、大型トラックについては80km/hのままで良いと主張してきました。理由は「運動エネルギーは質量および速度の2乗に比例する」という、多くの方が学校で習ったであろう計算式です。つまり 20tの大型トラックは2tの乗用車の10倍の運動エネルギーを持ち、それが80km/hから100km/hになるとさらに約1.5倍になるのです。

これに基づいた対応をしているのが欧州で、高速道路での大型トラックの最高速度は、ドイツとオランダは80km/h、フランスとスペインは90km/hなど、ほとんどの国が100km/h未満です。もちろん環境問題も理由に含まれます。多くの自動車は80km/hより100km/hのほうが燃費が悪くなるからです。鉄道や船舶へのモーダルシフトとともに、トラックそのものの環境負荷を抑えることは、最近頻発する豪雨災害などの気候変動を減らしていくためにも大切です。

IMG_0785
欧州の国別車種別最高速度一覧はこちら

そしてもうひとつ、80km/hから100km/hになることで、ドライバーの負担は確実に増えます。大型トラックは横風の影響を受けやすく、乗用車より重心が高いのでカーブでの安定感は劣ります。なのにこれまでより高速で走らせるわけです。「80km/hで走ればいい」と思う人がいるかもしれません。しかし会社や協会などはドライバーに100km/h走行前提の輸送を課すはずです。もともとはドライバーの働き方改革だったのに、逆の方向に進もうとしているのです。

しかしこの方針を、一概に政府が悪いと決めつけることはできません。なぜならこの国でドライバーの待遇改善に理解を示す人はごく少数で、配達に時間がかかったり新鮮な食料品が手に入りにくくなったりすることへの不平不満を訴える声が圧倒的に多いからです。今回の動きはこうした声を反映したものでもあります。そしてマスコミは、残念ながら安全性や環境対策に踏み込んだ例はあまりなく、事実関係を伝えるだけという内容が目立っています。
jta20230706jiko
全日本トラック協会(全国物流ネットワーク協会とは別組織)によると、今年1~6月に事業用トラックが第1当事者になる事故が多発しているそうです(こちら)。資料を見ると、たしかに前年比で件数、死者、負傷者のすべてが増えています。原因のひとつとして考えられるのが労働環境ではないでしょうか。それがさらに悪い方向に導かれようとしています。高速道路を走るすべてのドライバーに、この影響が降りかかってくる恐れがあります。多くの人がこの問題を真剣に考えてほしいものです。

昨年このブログでも紹介した、公共交通におけるVisaカードのタッチ決済に、今週大きな動きがありました。昨年3月からVisaのタッチ決済の実証実験を始め、今年3月から対象を全線に広げるとともにVisa以外のカードも利用可能とした福岡市交通局の地下鉄(福岡市地下鉄)が、7月7日から新たな取り組みとして、1日の利用額が640円を超える場合、640円を超えた利用額を割引するサービスを開始すると発表したのです。

IMG_6777

つまり1日何度地下鉄を乗っても640円以上にならないということで、事実上の上限運賃設定ということになります。同様のサービスとして、多くの交通事業者で販売している1日乗車券が知られており、福岡市地下鉄も用意していますが、こちらも大人ひとりの料金は640円です。つまり紙の1日乗車券と同じ金額で、クレジットカードでのタッチ決済で1日何度も地下鉄が乗れることになります。

新サービス適用条件
ビザ・ワールドワイド・ジャパンのプレスリリースはこちら

Visaカードによる上限運賃の設定は、海外ではかなり前から行われていたそうです。日本でも昨年から、神姫バスが運行する神戸市の観光バス「シティループ」「ポートループ」で導入しており、通常運賃大人260円のところ700円を1日の上限としていました。しかし神戸市の場合は、数あるバスの中で2つのルートに限定したものであり、福岡市地下鉄は鉄道では日本初であることに加えて、空港線・箱崎線・七隈線全線で使えるのでインパクトはあります。

300260488_2879001302230535_403122137464660995_n

このサービスは特に、福岡市地下鉄に合っていると思っています。とりわけ空港線は、日本の地下鉄では唯一空港に接続しているうえに、新幹線が発着するターミナル駅博多、繁華街の天神や中洲、観光地の大濠公園を結んでおり、1日乗車券の主な利用者である観光客にとって欠かせない路線だからです。さらに今年3月には七隈線が天神南から博多まで延伸し、大型商業施設のキャナルシティへのアクセスも楽になりました。

これらを通常の乗車券で乗ると、たとえば福岡空港と博多の間は片道260円、博多と天神の間は210円なので、それぞれの区間を1往復ずつしただけでも、運賃の合計は940円に達します。これだけでも1日乗車券の方がお得です。しかし日本の大都市周辺に暮らす人が日常的に使っている交通系ICカードには、1日乗車券などの制度はないので、駅などで別途買う必要があります。でもタッチ決済対応のクレジットカードを持っていればその必要がないので、利便性ははるかに上です。

IMG_6765

決済の処理速度では、クレジットカードは最大0.5秒で、QRコード決済より早いものの、交通系ICカードの0.2秒以内ほどではありません。ただ個人的には、最近日本でも商業施設や医療施設などでタッチ決済を使うことが多いので、慣れてきた感じもします。それに導入コストは交通系ICカードよりはるかに安価なので、追加で導入するときもさほど負担にはならないのではないかと想像しています。

利用者にとってのメリットは、上限運賃があれば1〜2駅の乗車を気がねなく繰り返せて、早く疲れずスポットを巡ることができるので、いろいろな場所にお出かけしようという気になれることです。観光客を受け入れる都市の側から見ても、こうしたお出かけの人が多くなれば、商店や飲食店のお客さんが増える可能性があるわけで、活性化につながるでしょう。

IMG_6781

日本では交通系ICカードが普及していることから、交通分野へのVisaのタッチ決済は浸透しないのではないかという声も聞かれました。しかし今回の福岡市地下鉄の上限運賃設定というニュースは、このサービスのメリットをわかりやすく伝えており、利用者が増えそうな気がします。同じ福岡市内を走る西日本鉄道のバスや鉄道、さらには他の都市の公共交通にも波及していってほしいものです。

最近の物流業界のニュースで話題になったのが、日本郵政グループとヤマトグループの協業発表でした。2つのグループは6月19日、物流サービスでの協業に関する基本合意書を締結。このブログでも少し前に取り上げた2024年問題や環境問題など、物流業界に直面している社会課題を解決し、利用者の利便性向上と持続可能な物流サービス構築をを目指していくことが狙いとしています。

IMG_6685

具体的には、ヤマト運輸が取り扱う「クロネコDM便」を来年1月31日に終了し、日本郵便が取り扱う「ゆうメール」を活用した新サービス「クロネコゆうメール(仮称)」としてヤマト運輸で取り扱いを開始。「ネコポス」についても2023年10月から順次終了し、日本郵便が取り扱う「ゆうパケット」を活用した新サービス「クロネコゆうパケット(仮称)」として取り扱うことになるそうで、どちらもヤマト運輸が利用者から荷物を預かり、日本郵便に差し出し、日本郵便の配送網で届けるそうです。

IMG_0299

この発表について、フリマアプリのメルカリを利用していた人たちから不満が出ているようです。今年の春からメルカリを始めた私の妻もそのひとりです。メルカリは商品の発送時に、日本郵便で送るかヤマト運輸で送るかを選べます。送料は販売価格から差し引かれるので、料金比較をして安いほうを選択していたようでした。ところが今回のニュースで、それぞれの料金体系を把握しつつあったのが、水の泡になるというのです。

ただし以前からメルカリを利用しており、モビリティジャーナリストとして物流業界も見てきている自分は、違う気持ちでいます。

そもそも日本は人口が減り続けています。それは物流業界に従事する人も同じです。ドライバー不足などがすでに問題になっています。加えて2024年問題によって、配送の遅れも予想されます。一方でフリマアプリを含めたインターネットショッピングの利用者は、新型コロナウィルス感染症の影響もあって増えています。逆にはがきや手紙などの郵便物は、メールやSNSの普及で減少しています。

IMG_6672

そこで、もともとはがきや手紙などの小さな荷物を得意とする日本郵便が、ヤマト運輸の小さな荷物の配達を引き受けることになったようです。ヤマト運輸はこれによって、宅急便など自分たちが得意とする分野に集中できることになります。それに料金が一元化されるのであれば、一部は値上げになる可能性があるものの、わかりやすくなるとも言えます。

IMG_9693

モビリティの分野では、競争から協業へという動きは他にもあります。このブログでも貨客混載や路線バス共同経営の話をしました。物流業界では、すでに日本郵便と佐川急便がいくつかの分野で協業を始めており、今回のニュースはそれに続くものとも言えます。利用者や運転手の減少が続いている中では、背に腹は変えられないのでしょう。今の日本の状況を考えれば、少なくとも「より早くより安く」を求めるのは難しいと思っています。

このページのトップヘ