THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年09月

多くの地方が、過疎化と高齢化に悩む中、地域交通を維持しようと革新的な手法で取り組んでいる事業者がいくつかあります。今回はその中から、島根県に本拠を置くバイタルリードの代表取締役・森山昌幸氏にオンラインでインタビューをする機会がありました。内容については、オンラインメディア「レスポンス」で公開していますので、興味のある方はご覧ください。なお私は現地を訪れたことがないので、今回の写真はすべてイメージと考えてください。

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同社が展開しているモビリティサービス「TAKUZO」は、5年前に実証実験を始め、翌年から本格サービスに移行した、地方のための新しい交通サービスです。タクシーを使ったサブスク(定額)、乗合のAIオンデマンド交通で、専用の配車システムが複数の移動需要を束ね、乗合とすることで、最小限の運行台数で効率よく配車することが特徴です。料金は月額3000~5000円で、運行時間はタクシーの空き時間帯を活用した平日9:00~16:00を想定しています。



話を聞いていて印象的だったのは、住民の移動だけでなく、タクシー事業も支えていくという考えです。具体的には、利用者の発着時間を少しずつずらしてもらうことで、1台あたりの輸送人数の最大化、運行コストの最小化を目指しているそうです。

地方の中には過度にクルマに依存した社会なので、マイカーに限りなく近い移動を提供しようとしがちですが、利用者に寄り添いすぎると、事業者側が体力的にも金銭的にも辛くなっていくとのことです。利用者にとってそこそこ便利でありつつ、タクシー事業者がやっていけることが大事と考え、自らサービスを立ち上げたそうです。

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たしかに人口減少が進む地方では、タクシーの利用者も少なくなっていくので、そのままではドライバーの収入も減ってしまいます。そうなればドライバーのなり手はますます減っていきます。それが最終的には利用者に降りかかってきます。もちろんライドシェアを解禁すれば話は変わりますが、現状のルールで考えれば、地域住民の移動と交通事業者の維持を、同時並行で考えていく必要があるのです。

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裏を返せばいままでは、「お客様は神様」という考えが強かったのだと思います。これはモビリティに限った話ではなく、多くの分野で言えることです。たしかにそれは日本らしさではありますが、そこにこだわりすぎるあまり、犠牲になっていることはないでしょうか。大切なのは全体最適という視点です。厳しい場所で地域移動を成立させている人の言葉は重いと感じたのでした。

原動機付自転車(原付)の排気量をすべて125cc以下にするというニュースが今月初めにありました。警察庁が7日、二輪車の車両区分見直しに関する有識者検討会を開くと発表したものです。最高出力を4kw以下に制御した総排気量125cc以下の二輪車を原付と区分することに関し、車両の走行評価や関係者からのヒアリングを通じて、安全性や運転の容易性などを重点に検討するとしています。

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実は原付という言葉、交通方法や運転免許などを定めた道路交通法と、保安基準や点検整備などを規定した道路運送車両法で定義が違います。

道路交通法の原付には一般原付と、今年7月に導入された特定小型原付があり、一般原付は排気量50ccあるいは定格出力0.6kW以下。一方道路運送車両法では125cc/1kW以下で、50cc/0.6kW以下を第一種、その他を第二種としており、他に特定小型原付があります。道路交通法での51〜125ccは小型の二輪自動車(小型二輪)と呼ばれます。ここでは道路交通法の一般原付に沿って話を進めていきます。

原付125cc化の背景にあるのは、現在の50ccでは今後さらに厳しくなっていく排出ガス規制にパスできないこと、東南アジアや欧州など海外では125ccが主流で、ほぼ日本専用のエンジンを作るのはコスト面で厳しいという事情があるようです。

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フランスの二輪車免許区分(出典:Sintes Assurances

これが実現に移されると、125cc以下のカテゴリーが2種類生まれることになりますが、例に挙げたフランスのように、海外では出力で区分する例は多くあります。同じ排気量でも性能に差があるためで、フランスのPermis Aはそれを考慮して、年齢別に出力の上限を変えています。これは日本でも導入していいと思っています。さらに電動車両は排気量そのものが存在しないので、出力による区分が一般的になるでしょう。 

ただし今回の検討では、最高速度は30km/hのままで、交差点は原則として二段階右折となるなど、交通ルールはいままでどおりとなるようです。つまり排気量が125ccになるだけとのことです。そうなると、同じ二段階右折があり、最高速度は20km/hに落ちるものの、運転免許は不要、ヘルメット装着は努力義務となる特定小型原付で十分と思う人が出てきそうです。

特定小型原付は車体の全長が1.9m、全幅が0.6m以内で、動力源は外部電源により供給される電気に限られ、定格出力0.6kW以下となっています。定格出力は最高出力とは違うもので、本田技研工業の電動スクーター「EM1:e」では定格出力0.58kW、最高出力1.7kWです。つまり同車は原付規格ですが、全幅以外は特定小型原付の規格にも収まります。 

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上に挙げたフランスの区分では、AMが日本の原付、A1が小型二輪に相当します。AMはこのブログでも紹介したことがある、中学校で取得するASSR相当の交通安全教育を受けた14歳以上の人なら運転免許不要で乗れ、最高速度は45km/hです。同国では電動キックボードも25km/hまで出せるそうですが、それでも速度差は20km/hあります。しかも45km/hまで出せるので、幹線道路以外なら流れに乗って走れそうです。

対する日本の原付は、名前のとおり自転車の一種として位置付けようとしていることが、最高速度や二段階右折などのルールから伝わってきます。しかし個人的には、自転車の仲間としてふさわしいのは特定小型原付までで、最高出力は抑えられているとは言え125ccのエンジンを積んだ二輪車が、自転車相当というのは理解し難いものです。

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まだ検討会が始まったばかりなので断定はできませんが、今回の話はメーカー側の事情は汲んでいるものの、ユーザーにとってのメリットはあまり多くなさそうという感じがしています。せっかく50ccという枠をなくすわけですから、これを機にゼロベースで抜本的な改革を行ってほしいものです。

最近になって再び、ライドシェアが話題になってきました。私はこのブログをはじめ、以前からこのテーマを何度か取り上げてきたこともあり、昨日は静岡放送SBSラジオの朝の番組「IPPO(いっぽ)」に出演させていただきました。そのとき話した内容を含めて、今ライドシェアが取り上げられる理由、自分なりの考えを書いていきます。

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ライドシェアが何かは、知っている人もいると思いますが、一般のドライバーがマイカー(自家用車)を使い、料金を取って乗客を輸送することです。スマートフォンアプリを使い、運転手と利用者をマッチングさせる仕組みで、米国ウーバーが考案。現在は中国、東南アジア、南米など世界各地で展開しています。

一部の人は、ライドシェアは利用者(ライダー)が相乗りすることで、単独の輸送はライドヘイリングと呼んでいます。しかしこの形も、ドライバーとライダーが移動をシェアしているうえに、生みの親のウーバーがライドシェアと名付けたわけで、相乗りを含めてライドシェアと呼んでいいと考えています。



最近ライドシェアが取り上げられることが増えたのは、過疎化が進む地方で公共交通が衰退していることに加えて、新型コロナウイルス感染症でタクシー運転手が減っていること、運転手の高齢化、外国語対応などが理由としてあると考えています。加えて来年からは、トラックやバスを含めたプロのドライバーに年間960時間以内という年間残業時間上限が設定されます。

これに対して国土交通省では、今年5月に現在5台となっている法人タクシーの最低台数を4台以下に減らす方針を明らかにすると、今週は外国人労働者の在留資格「特定技能」の対象にタクシーやバス、トラックのドライバーを追加するとともに、過疎地への個人タクシー参入を認め、年齢上限を80歳まで広げる検討に入ったそうです。

なりふり構わずといった感じですが、台数を減らすのはタクシー会社の都合であり利便性は低下するし、公道を走る以上外国人であっても日本語の読み書きができ、二種免許を取得することが条件です。最後の上限年齢引き上げは、利用者の中には不安を抱く人もいるでしょう。なぜそこまでしてタクシーにこだわるのか不思議でさえあります。

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実は日本にも、ライドシェアに近いモビリティサービスはすでにあります。「交通空白地自家用有償旅客運送」です。以前も紹介した京都府京丹後市の「ささえ合い交通」では、自家用有償旅客運送の講習を受け、ライセンスを2年(優良運転者は3年)ごとに更新。自動車保険に独自の項目を盛り込み、毎朝ドライバーのアルコールチェックや健康状態確認を実施しています。現在は16人のドライバーが登録しているそうで、タクシーよりも需要変化に柔軟に対応できそうです。

海外でもフランスなどでは、ライドシェアではタクシーライセンスを持つことが義務づけられているようです。日本もささえ合い交通のルールを参考にするか、不安なら二種免許を義務化して、個人タクシー解禁とドライバー年齢引き上げを想定している人口約30万人以下の都市に限定して、ライドシェアを認めてもいいのではないでしょうか。

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おそらく今後、タクシーを擁護する勢力から、自分たちの苦境や反省点には触れず、ライドシェアの問題点だけを並べて徹底的に攻撃するという、かつても展開された構図が再発するのではないかと予想しています。それでいいのでしょうか。もし両者が共存すれば、地方に暮らす人々に、移動の選択肢がもたらされます。日々の移動に苦労している人々にこそ、そういう環境を提供してあげたいと考えています。

数年前に鉄道専門誌に記事を書いたこともある、石川県の北陸鉄道の鉄道路線。金沢市から北へ伸びる浅野線と、南へ向かう石川線があります。このうち石川線については少し前から、鉄道のまま残すか、BRT(バス高速輸送システム)に転換するかという議論が続けられていましたが、先月末に沿線自治体などが出席した会議で、鉄道として存続させるという方針が出されました。

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理由として挙がっているのが、運転士不足です。BRTに転換したほうがコストが抑えられるそうですが、ドライバーがいないのです。鉄道での存続が難しければバスに転換、という解決策が常識だと思っている人にとっては、意外な結果だったかもしれません。

最近の地域鉄道のBRTへの切り替え事例としては、災害で不通となっていたJR九州日田彦山線の一部区間を転換した「BRTひこぼしライン」があります。ただしここは、線路を復旧させるのに多大な費用が掛かるうえに、運休前の2016年度の輸送密度が1日あたり299人にすぎなかったので、バスでも問題なく運べそうという想像ができます。

しかし石川線は災害で被害を受けたわけではなく、線路や駅は残っています。しかも昨年度は1年間で97万8000人の利用がありました。1日平均で2679人を運んでいるわけで、昨年話題になった1日1000人のボーターダインは余裕でクリアしています。路線バスの乗車定員は大型でも85人ぐらい、石川線を走る2両編成の電車の定員は250人なので、単純計算でも運転手が3倍必要になります。

現在、全国でバスの運転手が不足しており、そのために減便等が行われているという話はよく聞きます。石川線の利用者数を見れば、運転士不足のために運転本数を減らしたりすると、ただでさえ鉄道より輸送力が小さいので、たちまち交通混乱を引き起こす可能性があります。これは石川線に限った話ではなく、相応の利用者がいる鉄道に共通したことです。鉄道が厳しいからバスにする、という単純な図式ではなくなっているのです。

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こうした背景から鉄道の存続が決まったわけですが、何もしなければ数年後に同じ議論が再発し、鉄道もBRTも無理ということで、この地域を走る公共交通の柱が消える可能性もあります。つまり残ったレールの活用が大事になります。ここで提案として上がったのが、ひとつは以前から計画のある、金沢側の起点である野町駅(上の写真)から線路を延ばし、繁華街の香林坊を通り、金沢駅を抜けて金沢港へ達するものです。もうひとつは、JR西日本北陸本線との接続駅である新西金沢駅(下の写真)からJRに乗り入れて金沢駅に向かうというものです。

たしかに以前利用したとき、新西金沢駅でJR(西金沢駅)に乗り換える人が予想以上に多いことに驚きました。しかもここで接続する路線は、現在はJR西日本ですが、来年3月の北陸新幹線敦賀延伸にともない、第3セクターのIRいしかわ鉄道に転換することが決まっています。石川線と北陸本線では、車両規格や電化方式、最高速度などいろいろな面が違うので、すぐに乗り入れできるわけではないですが、第3セクターは自治体が運営に関わるので、歩み寄りが期待できます。

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いずれにしても重要なのは、公共交通がこれまで不得手としており、マイカーの長所のひとつでもあった、シームレスな移動です。とりわけ石川線の沿線にある野々市市は、人口増加が続いており、若年層が多く暮らしているので、金沢駅や香林坊に直通で行けるとなれば、マイカーではなく公共交通で移動するようになる可能性もあります。それを含めたレールの有効活用が、これからの石川線に求められていると考えています。

今週火曜日、警察庁が悪質な交通違反をした自転車利用者に青切符(交通反則切符)を交付するなどの検討に入ったというニュースがありました。たしかに警察庁のオフィシャルサイトを見ると、「良好な自転車交通秩序を実現させるための方策に関する有識者検討会」の第1回が開催されたことが、内容とともに紹介されています。

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これも警察庁のサイトに出ている、今年7月末時点での交通事故発生状況は、前年同期と比較すると、発生件数、死者数、負傷者数のいずれも増加しています。コロナ禍が一段落したあとの行動制限緩和が原因と言われていますが、深刻に考えなければいけない状況です。ただその中で、歩行中、自動車乗車中、二輪車乗車中の死者はいずれも増えているのに対し、自転車乗車中は唯一減少しています。4月からのヘルメットの着用努力義務化が効果を発揮しているのかもしれません。

ではなぜヘルメット着用義務を導入した直後に、こうした話が出てきたのでしょうか。このブログでも以前書いたとおり、ヘルメットを着用しても悪質な違反がなくなるわけではないからでしょう。たしかに検討会で配られた資料によると、近年自転車関連の事故件数は微増、自転車対歩行者(第1・第2当事者の合算)の事故件数については急増と言っていい状況です。しかも自転車乗用中の死亡・重傷事故件数のうち、約4分の3は自転車側にも法令違反があったという結果も出ています。

警察庁でもこれを受けて、5月30日に全国一斉の指導取り締まりを行ったりしています。今回の検討会はその流れの上にあると考えています。個人的には賛同すべき動きです。自転車のルールがここまで守られない理由は、以前も書いたように自転車が一部の歩道を走っても良いという世界的にも珍しいルールがあるために、車道も歩道も走っていいという「なんでもあり」状態になっていることが大きいと感じています。こうした状況を変えていくために、取り締まりを始めていくのは妥当です。

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警察庁の有識者会議を紹介するページはこちら

ただしもちろん、これですべてが解決するとは考えていません。検討会の資料でも、国民へのアンケート結果として、もっとも多かったのは悪質な違反者への指導・取り締まりでしたが、これだけが突出しているわけではなく、自転車の走行空間の整備、交通ルール自体の広報啓発という意見も多く出されているからです。個人的にもインフラと教育は取り締まりと同じぐらい、あるいはそれ以上に重要だと思います。 これも何度か書いてきたことですが、

インフラについては自転車専用の走行空間の整備を急ピッチで進めてほしいものです。道路を管轄する国土交通省は、「ほこみち」など歩行者空間の充実については熱心なので、ぜひとも自転車をはじめとするパーソナルモビリティについても、「おそみち」などのような形で急ピッチで整備を進めていってほしいものです。

もう一つの教育は、以前このブログで紹介したフランスの実例を参考にしてほしいと考えています。つまり運転免許を2段階にして、第1段階は義務教育レベルで取得してもらうという仕組みを作ることです。そうすればこのルールの中で取り締まりや青切符などの運用ができます。

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令和4年度交通安全フォーラム開催結果のページはこちら

今年1月、内閣府が主催する「交通安全フォーラム」に、パネリストのひとりとして出席したことは前にも触れましたが、そこに参加した神奈川県の高校生たちが、電動キックボードを安全に利用するために大事なことととして多かった意見が、専用レーンの整備と学校などでの安全教育でした。現役の高校生から「勉強したい」という声が出たことは驚きでもあり、喜びでもありました。ぜひともこの声を、自転車環境整備にも生かしていってほしいと思います。

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