THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年10月

東京モーターショー改めジャパンモビリティーショーが、昨日から一般公開となりました。私は25・26日のプレスデーで、ひと足先に見てきました。自動車ニュースサイト「webCG」で、その様子をガイド風コラムにまとめたので、ご興味のある方はご覧になっていただければと思いますが、モビリティを名前に冠したとおり、出展者も展示物もこれまでになく多彩になっていました。

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なかでも出展数が多いうえに、独創的なデザインやエンジニアリングで目を引いたのが、パーソナルモビリティや超小型モビリティなどの、小さな乗り物でした。とはいえここですべてを紹介することはできないので、あるカテゴリーに向けて自動車メーカーのエンジニアたちが開発した3台を紹介したいと思います。

その3台とは、スズキの4輪電動パーソナル/マルチユースモビリティ「SUZU-RIDE(スズライド)」「SUZU-CARGO(スズカーゴ)」、トヨタ自動車の3輪電動パーソナルモビリティ「LAND HOPPER(ランドホッパー)」、そして本田技研工業発スタートアップのストリーモが販売している立ち乗り3輪パーソナルモビリティ「Striemo(ストリーモ) S01JT」で、いずれも今年7月に施行された特定小型原付を見据えていることが共通しているのです。

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ストリーモはすでに特定小型原付仕様を発売しているのに対し、スズキとトヨタはどちらもコンセプトカーで特定小型原付を想定した設計という違いはあります。ただしLAND HOPPERはボディサイズの発表があり、特定小型原付の枠内に収まっています。前にも書いたとおり、特定小型原付のカテゴリーが導入されたのは今年7月なので、その前から設計に入っていたと考えるのが自然でしょう。

つまりこのブログなどで主張してきたとおり、特定小型原付は電動キックボードのためのカテゴリーではないことが、日本を代表するモビリティの展示会で、大手メーカーや関連会社によって立証されたことになります。特定小型原付のルールが、日本のモビリティシーンでは異例と言えるほどスムーズに成立したのも、自動車メーカーがなんらかの形で関わっていたからではないかと想像しています。



ただし同じ特定小型原付でも、電動キックボードと今回紹介した車両たちでは、役目が異なると考えています。電動キックボードは、大都市で現役世代が駅から目的地までのラストマイルの移動手段として使うのに対し、今回ショーで披露された車両たちは、3輪や4輪になっていることでわかるとおり、地方の高齢者の運転免許返納後の移動手段が想定されます。だから自動車メーカーが相次いで提案してきたのでしょう。

これに限らず、会場に展示されたパーソナルモビリティを見て感じたのは、日本人の几帳面さやきめ細かさが製品に反映しやすいジャンルではないかということです。今後、高齢化に悩む国や地域が多くなることを考えれば、日本らしさを生かせるジャンルとして、産業としても強みになるのではないかと思っています。

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だからこそインフラの整備を進めてほしいと思います。特定小型原付は、基本的に自転車と同じルールで走るので、自転車道や自転車レーンの整備が重要になります。そこに大手自動車メーカーが参入しようとしているわけですから、メーカー団体などが国に対して走行環境の整備を働きかけて行くことを希望します。運転免許返納後も安全快適な移動を提供しようという気持ちは歓迎できることなので、それをより安全快適にするためにも、インフラ整備の後押しをしてもらいたいものです。

本田技研工業(ホンダ)と米国GMクルーズホールディングス(クルーズ)、ゼネラルモーターズ(GM)が今週、日本で自動運転タクシーサービスを2026年初頭に開始するために、サービス提供のための合弁会社設立に向けた基本合意書を締結したと発表しました。指定場所への迎車から目的地への到達まですべて自動運転で行われ、配車から決済までをスマートフォンのアプリで完結するサービスとなるそうです。

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ホンダのニュースリリースはこちら

使用するのは3社で共同開発した専用車両「クルーズ・オリジン」で、運転席のない対面6人乗りの箱型であり、自動運転レベルはレベル4相当になるとのことです。同車は来週から東京ビッグサイトで開催される「Japan Mobility Show 2023」で展示予定となっています。当初導入するのは東京都心部で、数十台レベルからスタートし、500台規模での運用を見込んでいるとのこと。その後台数の増加、サービス提供エリアの拡大も目指していくそうです。

私は以前から、自動運転移動サービスは人口減少や高齢化などに悩み、なおかつ交通量が少ない地方こそ向いていると主張してきました。なのでクルーズ・オリジンも地方に進出してほしいと思っていますが、東京都心でまず始めるというプロセスも、別の視点で理解できます。

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クルーズのオフィシャルサイトはこちら

東京は交通量が多いので、多彩でかつ難易度の高い交通状況が体験できます。ホンダ自身、ここで安心して使えるサービスが実現できれば、他の地域への展開は難しくはないと説明しています。クルーズがまず米国サンフランシスコで自動運転タクシーサービスを導入したのも、坂道が多くケーブルカーを含めた多彩な交通が存在しているからだったそうです。このあたりの考え方は、ホンダが初めての四輪レースでいきなり頂点のF1に挑戦したことと、なんとなく共通しています。

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それに東京都心から始まった新しいモビリティサービスは他にもあります。少し前にこのプログでも紹介しましたが、電動キックボードシェアリングのLUUPは当方の取材に対して、実証実験の場所を東京都心とした理由として、短期間に大量の移動データを取ることが安全性の検証に必要であり、スタートアップで予算もない自分たちにとっても重要だったと語っていました。その結果、現在はホンダが技術実証を行う宇都宮市のほか、宮城県仙台市や大分県別府市など全国各地に展開しています。

東京から導入する理由として、ビジネス面で有利ということもあるでしょう。逆に言えば地方で展開するにはやはり、初期投資や事業収支が問題になりそうです。このあたりは鉄道の考え方に近いのではないかと思います。多くの地方鉄道が、利用者の減少で厳しい状況に置かれていますが、一方で7月に開業した芳賀・宇都宮LRTは投資に見合った効果を出しつつあります。どちらも初期投資や営業収支に左右されず、長い目で考えることが大切だと思います。

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もうひとつ、自動運転移動サービスの実現は、ライドシェアとタクシーの関係を変える可能性もあると考えています。ドライバーがいないので、2種免許の有無は関係なくなるからです。それでも一部のタクシー関係者はライドシェア同様、自動運転についても反対するかもしれません。しかしドライバー不足は現実に起こっていることであり、その影響をもっとも受けるのは移動者たちです。乗る人たちのことを第一に考えて判断を下してほしいと願っています。

私も会員になっている日本福祉のまちづくり学会の全国大会が、先月末から今月初めにかけて、栃木県宇都宮市で行われました。LRT開業後間もないこともあり、「LRTを軸に地域の移動と交通を考える」というテーマで連携セミナーが開催され、運行事業者である宇都宮ライトレール常務取締役の中尾正俊氏が基調講演を行いました。

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中尾氏は長年広島電鉄で実務に携わり、その経験を買われて現職に招かれただけあって、説得力のある話の連続でした。その中に、お金の話がありました。芳賀・宇都宮LRTの整備費用は684億円。この金額だけを見れば高いと思うかもしれません。しかし1kmあたりの整備費用は47億円で、地下鉄は約300億円、新交通システムは約100億円という数字が平均的であり、はるかに安く収まっているとのことです。

興味深かったのは、続いて出された道路との比較です。同氏が紹介した、宇都宮市で最近整備された道路の1kmあたりの整備費用は、どれも50億円以上で、LRTを上回っていました。たしかに栃木県のオフィシャルサイトを見ても、片側2車線の広い道路は、多くが1kmあたり50億円を超えていました。LRTのような鉄軌道より、BRTを含めたバスのほうがコストは少ないという主張をよく聞きますが、道路の整備予算を含めれば、割安とは言い切れないわけです。

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今年度の宇都宮土木事務所の主要事業一覧はこちら

それとともに感じたのは、道路はここまで必要なのかということです。日本は総人口だけでなく、運転免許の保有者数も減少しています。なのに道路だけは増えています。しかもLRTは開業まで紆余曲折があったのに、道路はそういう議論もあまりなく次々に作られています。日本の自動車関係の税金が高い理由のひとつがここにあると思っています。ドライバーの負担を減らすためにも、今の道づくりの考え方は見直すべきではないでしょうか。

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なかには不要になる道路も出てくるはずです。そういう道は歩行者や自転車などスローモビリティのために転換することを提案します。自動車が走るより傷みがはるかに少ないので、補修の費用が抑えられそうです。欧米ではウォーカブルシティの推進もあって、こうした道が増えています。写真のパリのセーヌ川沿いの道は、かつては私も走ったことがある自動車道でした。日本もこうしたシーンが多く見られるようになってほしいものです。

芳賀・宇都宮LRT(愛称:ライトライン)が開通して1ヵ月が経ちました。開業の日に立ち会わなかったことは以前も書きましたが、その後の1ヵ月で宇都宮市と芳賀町にそれぞれ2回ずつ、合計4回行く機会があり、ライトラインも何度か利用したので、感想を綴っていきたいと思います。なおこの間、当初は車両の愛称だったライトラインを路線にも適用するという発表があったので、このブログでもその呼び名を使っていきます。

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まずこの1ヵ月で感じたのは、利用者の変化です。当初はマニアを含めて見たい乗りたいという人が多数でしたが、先月末に再訪すると、ほとんどが地域住民と思われる方々でした。でも利用者が減ったわけではなく、当初予測の1.4倍という数字を実感しました。当初は現金での利用者が多く、それが遅れを誘発していましたが、先月末にはほとんど遅れは出ていませんでした。違反車両との接触事故も、最近は聞かなくなりました。

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地域交通としては利用者が幅広いことも印象的です。沿線の会社や学校に通う通勤通学客、ショッピングセンターに向かう買い物客の他、週末に利用したときは、停留場もあるサッカースタジアムでJリーグの試合が行われ、とりわけビジターのサポーターが多く乗っていました。ルート設定や停留場の位置をしっかり考えた結果だと思います。それだけにバスやシェアモビリティとの接続はもう少しスマートにしてほしかったとも感じました。

沿線の風景も、路面電車という言葉から想像するものとはかなり違っています。JR東日本宇都宮駅周辺はビルなどが建ち並ぶ大通りを走るのに対し、車両基地がある平石あたりからは専用軌道になり、田んぼの中を駆け抜け、鬼怒川を長い橋で渡ります。対岸は学校、工場、スポーツ施設などがある清原地域。続いてロードサイドとして発展したゆいの杜を抜け、芳賀町に入るとダウンヒルとヒルクライムが連続したようなと急坂をクリアし、終点に至ります。

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路面電車のような区間と新交通システムを思わせる区間が混在し、しかも出来上がった風景の中を縫うように走るという成り立ちが、変化に富んだ車窓につながっているのでしょう。そういえば海外で近年開通したLRTもこういうシーンがありました。自分がまず思い出したのは昨年秋に訪ねたルクセンブルクです。移動のツールであると同時に、それ自体がアミューズメント的な要素も備えているし、そういう部分も含めて設計したのかもしれません。

4回にわたる沿線への往復で、ライトラインを使ったのは2回。残り2回はマイカーで行きました。いろいろな角度から路線を見たいという気持ちのほかに、東京都内にある自宅からの所要時間を比べたかったという理由もあります。結果は、宇都宮市内のショッピングセンター、芳賀町内の自動車メーカーの研究施設のどちらにも、それぞれ同等の時間を要するという結果になりました。

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芳賀町へは、本来は自動車のほうが早いはずですが、行きは首都高速道路で大渋滞に巻き込まれたので、所要時間は変わりませんでした。逆にライトラインは、前にも書いたように現金利用者が減り、遅れが少なくなっているので、確実性を重視する自分はこちらを多く使うことになりそうです。そこで気になるのが専用軌道を走る区間で、スピードアップの余地があると感じています。東北自動車道の一部区間で実施している最高速度引き上げのような措置は導入できないのでしょうか。

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先日には宇都宮商工会議所が、JR駅西側への延伸計画について、新年度での予算化などの要望を宇都宮市に対して行いました。このニュースからも、現地の人々がLRT効果を予想以上に実感していることがわかります。さらに今週は、私も審査委員を務める今年度のグッドデザイン賞で、特別賞であるグッドフォーカス賞を受賞しました。手前味噌にはなりますが納得の選定であり、素直に祝福したいと思います。

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