THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年11月

仕事で東京の地下鉄を利用したときのこと。乗り換え駅にこんなポスターが貼ってありました。ウーバーです。タクシーと共存していくという意味を込めつつ、わが国でのライドシェア解禁を見据えた明確なメッセージに、思わず足が止まってしまいました。いよいよ日本でもライドシェアが認可されるかもしれないという気持ちが、さらに強くなりました。

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ただし東京は現時点でタクシー不足とは感じないので、ライドシェアが必要なのは、むしろ地方や観光地だと思っています。このうち地方では、すでにタクシーとの共存を目指した、いくつかの先行事例があります。

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やぶくるのオフィシャルサイトはこちら

まずは国家戦略特区に選ばれたこともあり、マスコミで紹介されることが多い兵庫県養父市の「やぶくる」です。導入は2018年で、このブログで何度か取り上げた京都府京丹後市「ささえ合い交通」同様、交通空白地自家用有償旅客運送の制度を活用していますが、京丹後市と違うのはウーバーなどのアプリは使わず、電話受付としており、タクシー会社が対応していることです。電話口で「やぶくるお願いします」と言って必要事項を伝えれば、手配してくれるそうです。

続いて紹介するのは、徳島市で介護福祉サービスを展開するイツモスマイルが、町営バスが廃止された同県神山町で展開する「まちのクルマ」です。利用者はマイナンバーカードで登録後、電話あるいは同社開発の地域アプリ「さあ・くる」で予約。運賃は1乗車8000円を上限として85%を神山町が補助し、残りの利用者が負担するそうです。タクシーと自家用有償旅客運送を共同運行することも特徴。IT企業のサテライトオフィス進出、今年度グッドデザイン賞金賞を受賞した高等専門学校の誕生などで、全国的に注目されている町ならではの取り組みだと思っています。

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まちのクルマのオフィシャルサイトはこちら

最後は同じ徳島市の電脳交通が、二種免許保有者を対象に、空いた時間に副業でタクシー乗務員をしてもらう実証実験「スポドラ」です。一般ドライバーが対象ではないですが、副業でできるところはライドシェア的です。電脳交通の技術を使い、需要ピークの時間帯だけ勤務してもらう 形で、副業人材を受け入れたいタクシー事業者と求職者をマッチングするとのことで、横浜・埼玉エリアで来年1月9日まで実施するそうです。

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スポドラのオフィシャルサイトはこちら

最近の日本は、2つの事象を対立軸に置いて議論するのが好きなようで、タクシーとライトシェアもそういう関係に当てはめる人がいます。しかし私は、タクシーとライドシェアは共存ができると思います。なによりも移動の選択肢が増えるのは好ましいことです。今回紹介したように、共存の道を探っている事例もあります。モビリティ(移動可能性)という言葉に沿った内容で、ライドシェアが導入されてほしいと願っています。

今年9月に大阪府を走る金剛バス(金剛自動車)が、12月20日いっぱいですべての路線の運行を終了するというニュースは、モビリティに興味がある人であれば覚えていると思います。その後沿線の自治体や他のバス会社などが協議を行い、3分の2の路線が存続することになったそうですが、都市部のバス会社がまるごと営業を止めてしまうという発表はショッキングでした。

今年は4月にJR西日本(西日本旅客鉄道)が、2019年度の輸送密度が1日2000人未満の線区について収支率などを開示するという問題提起があり、他の鉄道事業者からも同様の発表が相次ぎました。金剛バスの一件はそれに並ぶ衝撃でしたが、異なる部分もあります。鉄道は利用者減少によるローカル線の危機なのに対し、バスは運転士不足が原因で、都市部の路線も影響を受けていることです。

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このテーマについて今週、ニュースサイト「東洋経済オンライン」で記事を公開させていただいたところ、バスの記事では珍しく多くの方に読まれ、Yahoo!ニュースでは多数のコメントをいただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。そこでは自宅近くの路線が減便の末に廃止になったことなど、現状を報告するとともに、運転士不足の理由についても触れました。ご興味があればお読みください。

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そこにも書きましたが、自分なりに考える運転士不足の理由は、過酷な労働環境と低賃金の、大きく分けて2つがあると思っています。ただこれは、一方だけを改善すれば良いわけではなく、両方を見直さなければ効果は薄いと考えています。

とりわけ前者については、長時間労働だけでなく、乗客の安全性や快適性の確保、交通渋滞もある中での定時運行の維持、路上駐車車両の回避、歩道にできるだけ寄せての停車、両替を含めた運賃収受など、多くの業務をひとりで兼務しており、利用者として見ても大変であることはわかります。たとえ待遇が良くなっても、運転士は遠慮したいと思う人が多いでしょう。



Yahoo!ニュースでは、タイトルで利用者に言及したこともあって、いわゆるカスタマーハラスメントの実態を報告する書き込みがいくつか見られました。私が利用者に触れた理由は本文に書いたとおりですが、すべてが実話かどうかはさておき、昔から日本に根付く「お客様は神様」的な思想が、エスカレートしていることは自分も感じています。

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そこで思いついたのは、以前ブログで触れた、悪質な交通違反をした自転車利用者への青切符(交通反則切符)交付検討という話題です。バスには鉄道警察隊のような組織がないようなので、このルールをバスやタクシーの悪質な利用者にも適用できるルールを作るとともに、停留所付近での駐停車や発進の妨害などの交通違反を、運転士が警察に伝えられるようにして、取り締まりをさらに厳しくできないかと考えています。

バスは公共交通であり、多くの利用者にとってなくてはならない、インフラのような存在です。だからこそ運転士を含めた事業者が、余裕を持って移動を提供できるよう、相応の環境整備をしていってほしいと思っています。そうやってバスのプライオリティを上げていくことで、運転士になりたいという人が増えるような社会づくりを望みたいところです。

多くの方には事後報告になってしまいましたが、昨日まで千葉市の幕張メッセで開催されていた第8回鉄道技術展の中で、「MaaS〜その考え方と現況から未来の交通体系を考える」と銘打たれたセミナーに、鉄道会社や自治体、大学でMaaSに関わる方々とともに登壇させていただきました。参加していただいた方には、この場を借りてお礼を申し上げます。

その席で、東京で生まれ、現在は名古屋に住んでいるという大学の研究者の方が、移動するときに東京ではまず鉄道で行けるかを考えるのに対し、名古屋では自動車で行けるかをまず考えるという話をしました。地域性を反映した指摘で、名古屋周辺は何度も行ったことがあり知人も多いので納得できる話ではありましたが、私はどちらでもない、あるいはどちらでもあると思いました。

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首都圏で暮らしつつ自動車メディアで仕事をしてきたこともありますが、出かけるときには多くの場合、いろいろな交通手段の時間や費用などを比べたうえで選んでいるからです。そのときに主に使うのがGoogle マップです。

今週も静岡県御殿場市で開催された新型車の試乗会に行きましたが、東名高速道路が集中工事で渋滞しているという話は知っていたので、いろいろ調べた結果、1日3往復しかない小田急電鉄の特急「ふじさん」が仕事のスケジュールに合っていたので利用しました。集中工事がなかったり、現地での用事と列車の時刻が合わなかったりした場合は、マイカーあるいは高速バスを選んだと思います。

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鉄道技術展のオフィシャルサイトはこちら(終了しました)

最初の画像は今日の10時に、事務所近くの東京都庁から目的地周辺にあった御殿場市役所までの経路を、自動車と公共交通ので検索して比べたものです。週末なので高速道路はさらに混んでいますが、実際に御殿場に行った日も、列車内から見る高速道路はトラックがゆっくり動いていたので、それなりに渋滞していたのではないかと思います。

多くのMaaSアプリは、MaaSがそもそもマイカー移動対抗として生まれた背景もあって、バスやタクシーを含めた公共交通のみの経路検索になります。カーナビは逆に、自動車移動の経路だけを表示します。しかも多くのカーナビは、出発の時点では渋滞情報などを加味しない所要時間を出すので、当初の表示より大幅に遅れて到着ということが、これまで試乗してきた車両で何度もありました。

その点Googleマップは、膨大なデータをもとに的確な渋滞情報を織り込んだうえでの所要時間を出してくれます。自分の経験でも、この時間が大幅に狂ったことはありません。つまりカーナビとしてもとても優秀なのです。一方の公共交通は、鉄道やバスだけでなくタクシーや自転車を含めた案内をしてくれます。真のマルチモーダルと言えるのではないでしょうか。

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しかもGoogle マップは世界の多くの国で基本的に、日本と同じ機能が同じ感覚で使えます。おまけに主要な地名や施設は日本語で表示してくれます。これもまた他の経路検索ではなかなか実現できないことです。1年前にルクセンブルクに行ったとき、同国は公共交通が無料なのでMaaSアプリが存在せず、Googleマップだけで各所に不満なく移動できたことが思い出されます。

公共交通事業者は自分たちの鉄道やバス、自動車メーカーは自分たちが作った自動車をなるべく使ってもらいたいという気持ちは理解できます。でもそれが視野や焦点を限定してしまっていることは否めません。その点Google マップは、たしかにグループ企業が自動運転車両を供給はしていますが、地球全体を分け隔てなく見て、私たちが進むべき道を示している感じがします。



そういえば今週はニュースメディア「東洋経済オンライン」で、LRTが開業した栃木県宇都宮市や芳賀町を目的地に仕立てた、自動車と公共交通の比較記事が公開されました。この記事で活用したのもGoogleマップです。みなさんもぜひこのアプリのマルチモーダル性能に注目して、いろいろな移動を試してみてください。時間やお金の節約になるだけでなく、いままでにない体験が得られるはずです。

明日まで東京ビッグサイトで開催しているジャパンモビリティショーを、先週に続いて取り上げます。今回はこのブログで何度も紹介してきたWHILLが、新たなメニューとして用意した「WHILL SPOT」と呼ばれるレンタルサービスを体験したので、印象を交えながら綴っていきます。なお先週紹介したwebCGに加えて、東洋経済オンラインでも記事がアップされたので、ご興味のある方はご覧ください。

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用意されていたのは、WHILLのラインナップでは上級車種と言えるモデルC2です。前のモデルCを含め、何度か乗ったことがあるので、扱いは問題ありません。最高速度は歩行者に合わせて4km/hに設定してもらい、もっとも人が多い東1~6ホールを、1時間かけて回りました。ブレスデーだったので、一般公開日に比べれば来場者は少なめでしたが、それでも人気の展示車両の周囲は人混みができていました。

電動車いすにここまで長時間乗るのは初めてだったので、いろいろなことがわかりました。まずは一見大きく感じる車体が、実際は人間ひとりの占有スペースとさほど変わらないこと。電動なので人間の動きとはもちろん違いますが、10年以上のキャリアがある会社の製品だけあって違和感はありませんでした。小回りが利き、多少の段差なら乗り越えられるところも重宝しました。



ただ車体重量が約50kgあるので、衝突しないよう気をつけて動かす必要はあると感じました。人混みの中を移動するときは、ちょうど将棋の駒のように、空いた場所に進める感じで動いていました。目線は低くなりますが、展示物が見えにくいということはありませんでした。ノンステップバスの展示では、スムーズに乗り降りできることが確認できました。実際に車いすに乗っていたからこそわかることで、貴重な体験になりました。

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歩数は1日目の3分の1ほどで済みました。たしかに楽です。歩くことはできるものの、ここまで広い会場を歩いて回るのは辛いという人には、ありがたい存在でしょう。そして元気に歩ける人にとっても、パーソナルモビリティを体験することは大切だと感じました。その後一般公開日に足を運んだ時も、数名が使用していましたが、歓迎できる行動だと思っています。

かなり前のブログで、英国のショップモビリティを紹介しました。足腰の弱い人がショッピングモールを楽しんでもらえるよう、駐車場などに電動車いすを置き使ってもらうサービスで、日本ではタウンモビリティという名称で導入している地域もあります。WHILLも同様のサービスを、以前から空港や病院、テーマパークなどで行っており、今回はその経験を生かしたサービスと言えます。

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私は東京モーターショー時代から、会場内の移動にこうしたパーソナルモビリティを活用してほしいと、関係者にお願いしたりしてきました。なのでジャパンモビリティショーという新しい看板とともに、このようなサービスが用意されたのは喜ばしい限りです。驚いたのは主催者ではなく、WHILLが独自に導入したサービスということで、同社の決断力や行動力にあらためて感心しました。

今回のショーでは、先週紹介した特定小型原付のカテゴリーに属する車両を含めて、パーソナルモビリティのコンセプトカーがいくつか出展され、市販車については試乗コーナーが用意されていました。次回はこれらの乗り物がWHILLとともにレンタルとして揃えられ、好きなものを選んで乗れるようになってほしいと思いました。

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