THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年12月

2023年は特定小型原付の導入、路線バスの運転士不足、ライドシェアの議論など、例年以上にモビリティの話題が多かったと感じています。さらに前年のJR西日本の公表がきっかけとなった赤字ローカル線では、同じJR西日本の芸備線が、国が指針を示した再構築協議会で議論されることになりました。

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そして3月にここで取り上げた、富山県内を走るJR西日本の城端線・氷見線でも、活性化の取り組みが決まりました。 富山県では7月に城端線・氷見線再構築検討会を立ち上げ、議論を行ってきました。その結果、今週月曜日に城端線・氷見線再構築実施計画(案)がまとまったのです。内容は県やJR西日本のオフィシャルサイトで見ることができるので、興味のある方はご覧になってください。

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富山県城端線・氷見線再構築検討会ウェブサイトはこちら

再構築事業の実施予定期間は10年間で、事業主体はJR西日本からあいの風とやま鉄道に変わり、車両は電気式気動車などの新型車両に置き換えるとともに、24両から34両に増やし、現状で城端線42本、氷見線36本の列車本数をともに60本程度とするそうです。さらに両線の直通運転、交通系ICカード対応なども盛り込まれています。

具体的には、前半の5年で新型車両の導入や交通系ICカード対応を行うとともに事業主体を移管し、後半の5年で直通運転のための整備を進めるとのことです。費用は合計382億円で、国が128億円、県と沿線4市がそれぞれ75億円、JRが104億円を負担しますが、JRは150億円を支出するそうで、残り46億円は積み立てられる予定です。

城端線と氷見線は、2020年からLRT化の検討が始まったものの、今年3月に新型鉄道車両の導入をベースとした利便性・快適性向上という方向に転換しました。ここまでは以前のブログで取り上げましたが、その後わずか9か月で上に書いた方針をまとめたスピードには驚きました。新幹線開業に伴って並行在来線の運営のために生まれた第3セクターが、他のJR路線を引き継ぐことも画期的です。

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さらに車両の刷新や本数の増加だけでなく、直通運転や交通系ICカード導入まで含めているうえに、パーク&ライドの推進、街中を回遊するモビリティの整備、アニメキャラクターを活用した観光アピール(藤子・F・不二雄さん、藤子不二雄Aさんはどちらも沿線出身です)など、まちづくりにも踏み込んでおり、モビリティを真剣に考えていることが伝わってきます。

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内容を見ながら感じたのは、私も書籍などで触れてきた富山市の経験が生かされていることです。表面的な項目だけでなく、地域の可能性を信じた攻めの姿勢、利用者にも伝わりやすいメッセージからも感じます。富山市では森雅志前市長がリーダーとして牽引しましたが、そういう人がいなくても前に進める動きが出てきたことも感心しました。これからも富山の交通改革を注視していきたいと改めて思った次第です。

2023年のブログは今回が最後となります。今年もお付き合いいただきありがとうございました。次回の更新は2024年1月6日になります。素敵なクリスマス、良いお年をお迎えください。

今年のモビリティ関連の大きなニュースのひとつに、東京モーターショーがジャパンモビリティショーに変わったことがありました。これと歩調を合わせるように、モーターショーの主役だった自動車会社のモビリティ視点、つまり乗り物ではなく人の移動を主役として考えた取り組みが目立ちつつあります。今年8月に開業した芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)の沿線でも、そんな事例がありました。

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ライトラインの芳賀町側終点の脇には、本田技研工業(ホンダ)および同社の研究開発を行う本田技術研究所の施設があります。かつてブログで紹介した東武鉄道東上線みなみ寄居駅がホンダの出資で生まれたので、そのような話があるか取材し、みなみ寄居駅の最新情報とともに「東洋経済オンライン」で記事にしました。くわしくはご覧になっていただければと思いますが、ルートや停留所の位置について要望はしなかったものの、軌道と車道の確保のため敷地の一部を提供したとのことでした。

最初の写真を見ると、停留所の設置に合わせて右側の車線がややオフセットしています。道路の右側はホンダ関係者の駐車場なので、この一部が提供されたと思われます。ライトラインへの土地提供と言えば、途中の清原地区市民センター前のトランジットセンターがもともと隣接するデュポンの敷地だったという記憶があります。ホンダでもそれに近い対応をしているということです。

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さらにホンダではライトライン運行開始に合わせて、JR東日本宇都宮駅との間の送迎バスを廃止しています。こちらについては、自治体やLRT事業者との議論はないものの、バスの利用実績からシミュレーションを行い、LRTを利用する他の乗客への影響を確認したうえで判断したという説明でした。コスト削減だけでなく、周辺の渋滞緩和、バスの運転士不足対策など、数々のメリットが考えられます。



もうひとつ、今年度のグッドデザイン賞で特別賞のひとつであるグッドフォーカス賞 [地域社会デザイン]に輝いた、ダイハツ工業の福祉介護・共同送迎サービス「ゴイッショ」も紹介します。こちらは介護業界の人手不足を解決するために、介護施設の業務の3割を占めるという送迎の仕事を地域に委託したことに加え、複数の施設の利用者を乗合で送迎することで効率化を図るとともに、空き時間で地域内の他の移動も賄うというものです。

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ゴイッショのオフィシャルサイトはこちら
グッドデザイン賞受賞ギャラリーはこちら

ゴイッショは香川県三豊市で2019年に実態調査を実施したあと、実証実験、プレ運行を経て、2022年6月に正式運行に発展。今年9月からは滋賀県野洲市でも実証実験が始まりました。同社の車両を使わなければいけないのかが気になりましたが、担当者に尋ねたところ他社の車両でもかまわないとのことで、この点も評価されてグッドフォーカス賞受賞となりました。

2つの事例に共通しているのは、自動車会社の本業である車両販売がなく、インフラ整備やサービス提供で社会との関わりを持ち、課題解決しようとしていることです。売るだけでは解決できないことが増えてきたのだと思いますが、どちらもモビリティという言葉にふさわしい事例であり、モーターショーがモビリティショーに移行した今後は、こうした取り組みがさらに増えていくのではないかと関心を寄せているところです。

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そういえば来年は、トヨタ自動車が静岡県裾野市の工場跡地に建設を進めている「ウーブンシティ」の第1期建物が完成予定とのことです。モビリティの実証実験は2025年以降ということですが、先月近くを通ったところ、建物が形になりつつありました。ここまで書いてきた事例とは違い、ウーブンシティはゼロから構築していく地区であり、既存の地域より理想的なモビリティサービスが展開できるのではないかと期待しています。

仕事で鳥取市に行ってきました。同市の人口は約18万人と、都道府県の県庁所在地で最少であり、鳥取県の人口約55万人も、都道府県の中でもっとも少ない数字です。日本の中でもとりわけ過疎化と高齢化が進んでいる地方とイメージする人がいるかもしれません。しかし現地を訪れると、まちづくりについては先進的な部分もあり、人口の多い少ないだけで都市を判断してはいけないことを教えられました。

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今回訪問したのは、JR西日本鳥取駅から南南東6kmほどのところにある若葉台という地区です。ここは1989年にまちびらきした「鳥取新都市」というニュータウンが広がっており、1999年には国土交通省の都市景観大賞「都市景観100選」に選定されています。その理由のひとつとして挙げられているのが「ボンエルフ(Woonerf)」の概念を取り入れたことです。

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ボンエルフとはオランダ語で「生活の庭」という意味を示す言葉で、歩行者と自動車が共存できるように、自動車の通行部分を蛇行させたりハンプを設置したりして、歩行者と同じレベルまでスピードを低下させるまちづくりです。オランダでは1970年代に始まった手法だそうで、日本でもいくつか導入している事例があります。

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鳥取新都市のボンエルフでは、ただ車道を蛇行させているだけでなく、道路に張り出した部分に草木を植えたり街灯を設けたりしており、考え抜かれた空間設計がなされています。電線は地中化しているのですっきりしており、家の作りは上質で、手入れも行き届いていて、首都圏の高級住宅地を思わせるほどでした。しかもボンネルフを導入したおかげで、今は知っている道路が生活道路か幹線道路かすぐにわかります。

もうひとつ感心したのは、小学校や郵便局、スーパーマーケットなどはもちろん、大学や企業まであることです。とりわけ後者については、携帯電話やカーナビなどを開発生産していた鳥取三洋電機(現LIMNO)があった関係で、電子機器を扱う企業が多いこともあり、敷地内にも工場やデータセンターなどがあり、近隣には本社を構える企業もあります。職住近接も実現しているのです。

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とはいえ課題もあります。モビリティはそのひとつで、新都心の西側に接するようにJR西日本因美線が通っていますが駅はなく、2kmほど離れた津ノ井駅が最寄になります。よってメインの公共交通は新都心を巡回して鳥取駅に向かう路線バスになりますが、同じJR西日本の高山本線に富山市が新駅を開設した例もあります。駅があれば商業施設や飲食店が集まる鳥取駅に10分程度で行けると思うので、会社や大学への通勤通学が楽になって、ここに住もうと思う人が増えるのではないかと思います。

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一方の地域内交通は現在検討中とのこと。ボンエルフの概念を生かしたまちづくりに加えて、エレクトロニクスを得意とする企業、環境分野に強い大学もあるので、スモールモビリティや自動運転に向いていると考えています。平井伸治県知事が言うように、小さな県ならではのお互いとの近さ、意思決定の速さもプラス材料になるでしょう。次世代型モビリティの実験の場として適していることは自分も感じたことであり、今後の展開に期待したいと思います。

フランスのパリが先月、またもモビリティに関連する新たな取り組みを発表しました。今回対象とするのはSUVで、来年2月に住民投票を行い、賛成多数が得られた場合、SUVの駐車料金を大幅に引き上げることで、市内のSUVを減らすことを目指すとのことです。オフィシャルサイトにも、住民投票が来年2月4日に行われることを含めて記してあります。

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パリではこれまでも、SUVなど大型の乗用車の走行を規制してはどうかという議論はあったと記憶していますが、実行には移せませんでした、それが今回、住民投票という形での実現を目指そうとしたのは、今年の4月に電動キックボードのシェアリングの是非に関する住民投票を行った経験が大きいと思っています。オフィシャルサイトにも「電動キックボードに続いて」という記述があります。

フランスに限ったことではありませんが、自動車のボディは大きく重くなり続けています。パリのオフィシャルサイトによれば、1990年には平均重量は975kgだったのが、現在は1233kgになっているそうです。つまり場所を取るだけでなく環境負荷も高くなっています。パリを含めたイル・ド・フランス地域圏では、大気汚染により毎年平均7900人の早期死亡が発生しているというWHOの報告もあります。

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パリSUV住民投票についてのオフィシャルサイトはこちら

すべてのSUVが規制の対象になるわけではなく、ガソリン/ディーゼル車とプラグインを含めたハイブリッド車は車両重量1.6t以上、電気自動車は2t以上が対象になります。昨年秋にパリで撮影した写真を見返すと、東京に比べれば大型のSUVは少ないので、大混乱にはならないでしょう。もともとフランス車は、日本車やドイツ車に比べて小柄で軽量の車種が多く、対象となる車種は少なめです。そのあたりも見込んでの規制かもしれません。

付け加えれば、SUV規制はパリが2024〜30年に進める気候変動対策のための自動車規制のひとつに過ぎません。これもオフィシャルサイトに書いてありますが、歩行者や自転車のための空間確保はさらに進められ、来年開催予定のオリンピック・パラリンピックでペリフェリーク(環状道路)とイル・ド・フランスの高速道路に用意される関係車両優先レーンは、大会終了後は公共交通と相乗り車両の専用レーンになり、環状道路の最高速度は70km/hから50km/hに引き下げられるそうです。

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さらに2026年までに、市内に300ある学校に面した通りを歩行者専用化していく計画もあるようです。こちらは環境対策とはあまり関係ありませんが、日本でも通学中の子供が交通事故に遭うニュースをひんぱんに目にしているだけに、ちょっとうらやましいと思える決定です。やはりこれからも、パリのモビリティは注視していく価値があるとあらためて感じました。

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