THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2024年01月

トヨタ自動車が2人乗りの電動超小型モビリティ「C+pod(シーポッド)」を、今年の夏頃に生産終了すると発表しました。C+podはまず2020年12月に、法人ユーザーや自治体などを対象に販売が開始され、1年後にはリース契約による個人ユーザーへの販売もスタートしていました。昨年11月までの約3年間の累計販売台数は約2000台だったそうです。

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超小型モビリティには、自治体などがシェアリングとして運用する認定制度と、一般の乗用車と同じ型式指定の2つの展開方法があり、C+podは型式指定を取得した唯一の車種でした。つまり生産終了によって、個人が購入して乗る超小型モビリティはなくなることになります。以前からこのカテゴリーに注目してきたひとりとしては残念ですし、日本の制度設計がはたして良かったのか、改めて考えさせられました。

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超小型モビリティに似たカテゴリーは、世界各地にあります。日本が制度設計の参考にしたと言われる欧州では、L6eとL7eという2つのカテゴリーがあります。ボディサイズの制約はなく、最高出力や最高速度、車両重量でクラス分けされています。ではL1eからL5eまでは何かというと、2輪車や3輪車のカテゴリーになっています。つまり欧州の超小型モビリティは、2輪車や3輪車の派生型なのです。

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国土交通省の超小型モビリティについての説明はこちら

しかし日本では、軽自動車が存在していたこともあり、認定制度と型式指定のどちらも、軽自動車をベースとしています。欧州とはスタート地点からして違うのです。なので2輪車に比べて安全と考える欧州とは対照的に、軽自動車と比べて4人乗れない、高速道路が走れないなどのデメリットを挙げる意見が目立ちました。

しかもその後、2020年の型式指定の導入に際しては、一般の乗用車ほどのレベルではないものの衝突試験を義務付け、軽自動車と同じだったボディサイズはミニカー(原付3/4輪)と同じ、全長2.5m、全幅1.3m以下にしました。新規参入のハードルは高くなり、C+podが唯一の存在となりました。しかも厳しい規格が影響したのか、価格は166万5000円からと高価です。この数字も生産終了につながったと考えています。

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欧州の超小型モビリティの代表格と言えるシトロエン「AMI」の販売台数は、2020年4月から昨年11月までで4.3万台と、C+podの約20倍です。欧州など12カ国で販売していることもありますが、7990ユーロからという低価格を実現しつつポップに仕立てたデザインの力は大きいと思いますし、家電量販店での取り扱い、カーシェアリングでの展開など、さまざまな手法でこのジャンルを広めていこうという強い意志は、C+podを上回っていると感じます。

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日本で新たにこのジャンルへの参入を考える車両がないわけではありません。昨年秋に開催されたジャパンモビリティショーでは、いくつかのスタートアップから提案がありました。しかし型式指定を取るとなると、小さなボディで衝突試験をクリアしなければならず、価格上昇につながることが懸念されます。それを見越してひとり乗りのミニカー登録とした車両の提案もありました。

いずれにしても、こうした車種が市場に出てくるまでは、超小型モビリティの型式指定はゼロになるわけです。AMIをはじめとする海外勢も、ボディサイズや衝突安全性能の関係で、型式指定を取るのは難しいでしょう。2013年に超小型モビリティの認定制度が創設されて、たった10年ほどで制度自体が成り立たなくなりつつあることを、カテゴリーを作った側はどう考えているのでしょうか。現状に即した柔軟な対応を望みたいところです。

少し前の話になりますが、昨年11月、千葉市の幕張メッセで、第9回レイルウェイ・デザイナーズ・イブニングが行われました。鉄道デザインの未来を考える活動として2013年から続いているもので、私も何度か参加しています。昨年は「鉄道とブランディング」というテーマで、年末に私がまとめた実施報告がアップされたので、対象をモビリティに広げて、このテーマを考えたいと思います。

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日本のモビリティシーンで、早くからブランディングを確立した存在と聞かれたら、阪急電鉄の名を挙げる人が多いのではないのでしょうか。1910年の開業時からマルーンの車体色を使っているうえに、塗装前にパテを使って表面を平滑に仕上げることで、光沢のある見た目に仕上げているとのこと。車内についても、木目調の化粧板とゴールデンオリーブ色の座席の組み合わせは長年不変で、座席は表面の素材や内部のスプリングにもこだわっているそうです。

車両だけでなく、写真の大阪梅田駅ホームも、月一回ワックスがけをしているとのことです。大阪梅田の百貨店や沿線の住宅地にも、いろいろな配慮が行き届いているのでしょう。不特定多数の人が日常的に使う鉄道で、ここまで美しさにこだわるのは異例ですが、それが上品で落ち着いたブランドイメージを作り出していることがわかります。

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道路を走る乗り物では、カワサキモータースジャパンのモーターサイクルを思い出します。欧米では不吉な色とも言われるライムグリーンを、1969年からレーシングマシンで使いはじめ、現在では市販車を含めてイメージカラーになっています。またシリーズ名のNinjaは今年40周年です。いずれも万人向けという感じは受けませんが、むしろそれがカワサキらしさをアピールし、熱狂的なファンづくりに役立っていると考えています。

一度は手放したブランドの象徴を甦らせたのが、今月2日の羽田空港での事故で奇跡の全員脱出を果たした日本航空です。尾翼に描かれている「鶴丸」は、1959年に商標として登録されましたが、21世紀に入ると日本エアシステムとの統合に伴い、一度消滅しました。しかし2010年の経営破綻からの再建のシンボルとして復活。その後は日本ならではのおもてなしはそのままに、エアバス機の導入など柔軟な部分も併せ持つエアラインに変わりつつあるようです。

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最初に紹介したレイルウェイ・デザイナーズ・イブニングでは、実施報告にもあるように、新京成電鉄、南海電気鉄道、相模鉄道の3社が最近のブランド戦略について説明しました。このうち相模鉄道の車両は、最近は東京都内に乗り入れているので乗る機会もあり、独自の存在感を示していると思っています。だからこそ今後、時代の変化にうまく対応しながら長く育てていけるかどうかがキーになりそうです。



今は社会が成熟してきて、デザインやテクノロジーだけでは差別化が難しくなってきました。しかも情報は溢れていて、何をもって判断していいか迷う人も多そうです。そうした人たちに、根源的な哲学や精神をわかりやすく伝えるのがブランドではないかと考えています。モビリティについて言えば、乗ってもらえるかどうかを決める要素のひとつになるわけで、これまで以上に重要になると、鉄道会社の話を聞きながら思いました。

今年は3月16日にJR西日本の北陸新幹線が、金沢駅から敦賀駅まで延伸します。元日の能登半島地震による被害は確認されていないので、予定通りに開業するでしょう。これによって、首都圏から福井県への所要時間は、30分あまり短縮されます。東京駅から乗り換えなしで福井駅まで行けることも朗報になります。一方で東京〜敦賀間は北陸新幹線より、これまでどおり東海道新幹線と北陸本線の特急の乗り継ぎのほうが速くなります。

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さらに大阪駅や名古屋駅から福井駅や金沢駅へは、新幹線の開業に合わせて並行在来線が第三セクター「ハピラインふくい」になり、特急「サンダーバード」「しらさき」が敦賀止まりになるので、所要時間は少し短くなりますが乗り換えが必要になります。サンダーバードのうち1往復は、能登半島地震で大きな被害を受けた七尾市の和倉温泉駅まで直通していますが(現在は運転休止中)、これも敦賀止まりになるので、ゼロだった乗換が2回に増えることになります。

新幹線と言えば、JR九州の西九州新幹線も、課題を抱えています。現在開業しているのは佐賀県の武雄温泉駅と長崎駅の間で、九州新幹線とは接続していません。長崎県は残る佐賀県内の新鳥栖〜武雄温泉間の開通を望んでいますが、当初この区間は在来線と新幹線を直通運転できるフリーゲージトレインが前提だったうえに、今ある在来線特急でも博多〜佐賀間は約40分であることから、佐賀県が膨大な費用がかかるフル規格での建設に難色を示しているのです。

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北陸新幹線や西九州新幹線などが含まれた整備新幹線計画が決定したのは、半世紀前の1973年。今は人口減少、高齢化、所得減少など、その頃はあまり想像していなかった社会課題が山積しています。その中で、空港や高速道路同様、新幹線のあり方も見直す時期に来ていると感じています。そのきっかけになったのが、昨年末に訪れた鳥取県です。



鳥取県には整備新幹線の計画はないこともあり、在来線の高速化を進めています。現地のJR各線の状況については、東洋経済オンラインで記事にしたので、興味ある方はご覧になっていただければと思いますが、ほとんどが単線非電化でありながら、高性能車両を導入し、直線で通過できる一線スルーという方式を取り入れ、枕木を木からPC (プレストレスト・コンクリート)に置き換えるなどの作業を実施。さらに山陽と山陰を最高速度130km/hで結ぶ第三セクターの智頭急行を整備しています。

代表格の特急「スーパーはくと」は、大阪〜鳥取間を智頭急行経由で約2時間30分で結びます。高速バスより約30分早く、航空機は撤退に追い込まれました。岡山駅や県西部の米子駅に向かう特急も俊足揃いです。おかげで鳥取駅には特急がひっきりなしに発着しており、利用者もそれなりにいます。JR西日本と言えば赤字ローカル線の発表が記憶に新しいですが、高速化を実施した区間は、それ以外の区間ほど厳しい状況ではなく、特急が路線を支えていることがわかります。

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地方の拠点都市を結ぶ鉄道は、新幹線のように新たに線路を作るのではなく、今ある線路と列車の高速化を進めることで、地域の人たちが利用してくれる可能性があることがわかります。しかも投資は新幹線とは比べ物にならないほど抑えられます。そもそもモビリティは、選択肢が多いほど便利で快適になるものです。新幹線があるから特急はなくても良いという考えが、変わっていくことを望みます。

2024年最初のブログになります。今年は元日に能登半島地震、2日に羽田空港の航空機衝突事故と、年明けから大惨事が続きました。能登半島のある北陸地方は、東日本大震災の年に書籍執筆のために富山市を訪問して以降、大学の特別講義や銀行主催のセミナーなど、さまざまな形で関わってきただけに、これまでの大地震とは違う衝撃を受けています。

ただ現在は救助活動が最優先であり、無駄に動いて渋滞を助長したりするのは控えます。羽田空港の事故も、航空安全推進連絡会議の緊急声明にあったとおり、今は原因究明の最中であり、責任追及の段階ではないと判断しています。いまは亡くなった方のご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。 

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ところで年末年始にはこれ以外にもニュースがありました。モビリティ関連では警察庁が一昨日、昨年中の交通事故死者数の発表がありました。能登半島地震の被害が甚大ということもあり、あまり報じられていませんが、8年ぶりに前年を上回りました。しかも8年前は死者数増加は4人にすぎなかったのに対し、今回は一挙に68人も増えており、50人以上の増加は2000年以来のことです。

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交通事故死者数を伝える警察庁のオフィシャルサイトはこちら

さらに目立つのは、65歳以上の高齢者の死者数が減少しているのに、総数は増えていることです。具体的にどの層が増加しているかはわかりませんが、国家公安委員会委員長のコメントの中に、「子どもが犠牲となる痛ましい交通事故や、飲酒運転等の悪質・危険な運転による交通事故も後を絶ちません」という一文があり、気になるところです。

増加の理由のひとつとして思い浮かぶのが、昨年春に新型コロナウイルス感染症対策の行動制限が緩和されたことです。たしかにコロナ禍前の2019年と比べれば、死者数は減っています。しかしその前の4年間と比べると、減り幅は小さくなっています。

自動車の安全技術が進歩していることは、仕事柄多くの新型車に乗ることで体感しています。ではなぜ交通事故の死者は減らないのでしょうか。漫然運転という言葉がありますが、車両の安全性は高まっているのに、ドライバーの安全意識は逆に低下しているのではないかと感じています。

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東京都杉並区で昨年12月、自動車整備工場からバックで出てきた自動車が歩行者をはねたあと、道路を横切って反対側のマンションの植え込みに激突して停止した死亡事故は、多くの人が覚えているでしょう。この道は何度も通ったことがありますが、整備工場は歩道に隣接しているので、車両の出し入れは細心の注意が必要に感じます。また最新情報では、事故車両は車検がない状態だったこともわかっています。

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このひと月前には、同じ杉並区を走る環七通りで転倒事故がありました。こちらはアンダーパスと側道の分岐点にある障害物表示灯に激突したようです。この付近の環七通りはアンダーパスの手前で緩く右にカーブしています。表示灯の黄色いランプが交互に点灯して注意を促していますが、スマートフォンなどを見ていて気づかなかったのかもしれません。昨年はアンダーパスの南側でも同様の事故が起きています。

今回の警察庁の交通事故死者数の発表や、昨年近所で起きた2件の事故から見て、一部の自動車メーカーが目標に掲げている死亡事故ゼロのためには、車両の安全技術以上に、自分を含めたドライバーの安全意識を高めていく必要があると感じました。とりわけスマートフォンを含めた携帯電話を扱いながらの運転は、飲酒運転を思わせる動きであり、飲酒運転並みの懲罰を設けても良いのではないかと思っているところです。

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