THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2024年02月

今月2日、東京駅から銀座、晴海、豊洲市場などを経由して東京ビッグサイト付近に至る都心部・臨海地域地下鉄(臨海地下鉄)の運行事業者について、現在りんかい線を走らせている東京臨海高速鉄道が選定されたというニュースがありました。理由として挙げられたのが羽田空港へのアクセスで、JR東日本が昨年工事を開始した「羽田空港アクセス線」3ルートにりんかい線が含まれていることを重視したそうです。

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羽田空港アクセス線については、3つのルートが合流する東京貨物ターミナル駅にスポットを当てた記事を「東洋経済オンライン」に書きました。興味がある方は読んでいただければと思いますが、臨海地下鉄に話を戻すと、現地の交通事情にくわしい人は、2020年にプレ運行をスタートした東京BRT(バス高速輸送システム)と競合する路線であることに気づいているはずです。

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東京BRTのオフィシャルサイトはこちら
東京都「都心部・臨海地域地下鉄」事業計画案のページはこちら

たしかに両者の路線図(右の臨海地下鉄は予定)を見比べると、都心側の起点は違うものの、築地あたりから先はほぼ同じです。しかも東京BRTは2月1日、東京オリンピック・パラリンピックの選手村を改修し、今年入居が始まった「晴海フラッグ」に向かう「選手村ルート」を追加したばかりです。臨海地下鉄の発表は翌日であり、東京BRTがこの地域の公共交通としては役不足なのではないかというメッセージを感じます。

そう思える理由はいくつかあります。4年目を迎える現時点でもプレ運行とのことで、海外のBRTでは必須と言える専用レーンがなく、信号制御などによりBRT車両の通行を優先させるPTPS(公共車両優先システム)も導入されていないようです。輸送力の大きい連節バスは一部に過ぎず、起点は虎ノ門ヒルズというターミナルと言えない場所で、新橋は鉄道駅から離れた場所に停留所があることも気になります。臨海地下鉄の計画が動きはじめた中で、本格運行に向けて進化をしていくのかも疑問です。



地方では昨年、2015年と国内では早い時期に導入した新潟BRTについて、市長がBRTという名称を廃止すると表明し話題になりました。当初から乗り換えが不便などの意見が出ていたうえに、新型コロナウイルス感染症による利用者減少、そして運転士不足が重なったこともあって、専用レーンの整備を止めるなど、BRT構想そのものを見直すと、交通事業者と合意したそうです。

2つのBRTに共通しているのは、計画段階では専用レーンに言及していたようなのに、実施に移せないことです。道路は自動車のものであり、今より狭くなることは許さないというドライバーが、残念ながらそれなりにいるからでしょう。多くの歩道が狭いままで、自転車レーンが増えないのも同じ理由ではないかと、ドライバーのひとりとして悲しく思います。

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一方昨年7月に開業した芳賀・宇都宮LRTは、当初の予測を上回る利用者数を記録しているうえに、現地事情を知る人の話では、渋滞も目立たないようです。LRTはBRTに比べて整備費が高額になるので、計画段階では異論が多く出されますが、開業のかなり前に車線の減少などは終わっているので、この時点で違う道を選ぶなどの対策を取っており、運行開始で自動車からLRTに乗り換えた人が加わったので、問題なく推移してるのでしょう。

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日本の多くのBRTが、専用レーンを用意しないなど曖昧なまま導入が進んでいることは、このブログでも取り上げましたが、ここへきてその影響が出てきていると感じます。LRTは当然ながら、レールという専用走行空間を確保しているので、BRTにまつわる問題はありません。たしかに産みの苦しみはあるものの、LRTのほうが曖昧な考えの入り込む余地が少ない分、日本にふさわしい都市交通システムではないかと思いつつあります。

今月5日、首都圏にまとまった雪が降り、多くの交通が影響を受けました。中でも大きな打撃を受けたのが首都高速道路で、2日以上にわたり通行止めとなった区間もありました。来週末にも東京地方には降雪があるという予報があるので、今回は予防的な意味も込めてこの話題を取り上げます。

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首都高速は長時間にわたる通行止めの理由として、積雪が広範囲にわたり、高架橋が多いので雪が溶けにくく、雪寄せ場や雪捨て場もないことなどを挙げています。個人的にはすべて納得しています。とりわけ高架橋がネックになったことは、日本の人口100万人以上の都市の中で、札幌市、仙台市、京都市に都市高速がないことからもわかります。京都市にないのは景観保護のため、残る2都市は高架道路が雪に弱いことを示していると思っています。

とはいえ単独の高架橋なら、北海道や東北地方にもあります。妻の実家がある青森市には、港をまたぐ「青森ベイブリッジ」があります。実はこの橋、下り車線など一部に融雪装置が埋め込まれているそうで、事故の減少に貢献しているとのことです。同様の対策は他の橋や歩道、駐車場のスロープなどにあります。もちろん雪寄せ場や雪捨て場も数多く用意しています。

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これらの設備をすべて首都高速に入れれば、通行止めはなくなるかもしれません。でもその代わり、工事区間は通行が制限されるうえに、設置だけでなく維持のための費用、さらには土地代も掛かります。当然ながら通行料金は大幅値上げとせざるを得ないでしょう。青森ベイブリッジでも、予算や期間の関係で、全線の融雪は実現できていないようです。

年に数回しか降らない雪のために、そこまでの時間とお金をつぎ込むことが妥当でしょうか。料金値上げとなれば、多くの人が反対すると思います。しかも東京は公共交通が発達しています。代わりの足はいくらでもあります。それに仕事を休みにするという選択肢もあります。私も雪が降った翌日の取材は延期になりましたが、もちろん受け入れました。

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青森ベイブリッジの融雪設備が下りから導入されたことにも注目です。現地のクルマは全車がチェーンやスタッドレスタイヤを装着しているはずです。ノーマルタイヤでは橋を上ることすらできませんから。なのに融雪設備を入れているのは、スタッドレスタイヤが万能ではないからです。東京で雪が降ると、ノーマルタイヤでの走行を非難する声が挙がります。その点は同意ですが、スタッドレスタイヤを履けば安心という言い切り型のメッセージには注意が必要です。

それにもし首都高速の耐雪性能を上げて、雪の日に通行ができるようにしても、チェーンや冬用タイヤのチェックを入口で行う必要があるわけで、東京の交通量と首都高速の出入口の数を考えれば、各所で大渋滞が発生するのは確実でしょう。そこまでして普段どおりの移動にこだわることが理解できません。

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自然の前では人間は無力ということは、能登半島地震でも教えられました。でも私たちは、自然の恵みのおかげで生きることができています。無理に自然を克服しようとしないことが、文字どおり自然ではないでしょうか。それにこれ以上、東京を完璧に近づけていくと、地方の衰退がさらに進んでいきそうな気がします。日本が日本であり続けるためにも、東京は少しぐらい不便なほうがいいというのが、雪国の生活を知る東京人としての気持ちです。

1か月前のブログで、新幹線に頼らず在来線の高速化を望みたいという話をしました。今回もまた、今ある鉄道の活性化として、駅(路面電車の停留場を含む)を取り上げます。駅は一般的に、鉄道事業者が作るものです。日本の鉄道は多くが民営なので、駅の周辺に百貨店や住宅地を用意するなど、まちづくりを含めた整備をすることもあります。

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とはいえまちづくりは本来、自治体のほうが長けているはずです。加えて多くの鉄道会社は今、経営面で厳しい状況にあります。そのためもあって最近、自治体などが駅の設置を持ちかけ、費用も負担するという請願駅が増えています。個人的にもこうした駅には注目しており、東武鉄道東上線みなみ寄居駅、JR東日本中央本線東小金井駅など、いくつか記事にしてきました。今週もJR東日本南武支線の小田栄駅の記事が東洋経済オンラインで公開されたので、ご興味のある方はご覧ください。

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私が請願駅に興味を抱いたきっかけは、2011年に「富山から拡がる交通革命」(交通新聞社新書)の執筆で訪れた、JR西日本高山本線の婦中鵜坂駅です。富山市の交通まちづくりというと、LRTが話題になりがちですが、同市ではそれ以外の公共交通の高機能化も見据えており、住宅や会社が建ち並んでいた地域に市の負担で駅を作りました。一定の利用者があったことから、臨時駅から常設駅に格上げされ、富山地方鉄道などでも新駅の開設が続いています。



鉄道事業者にとっては、仮に無人駅であってもダイヤ改正や路線図などの変更が必要になります。しかし利用者が多くなれば、それは事業者の収益になるので、費用対効果を見極めた上で多くの場合は了承するのでしょう。一方自治体側にとっては、集合住宅や商業施設が生まれた場合、住民や買い物客がすべてマイカー移動になると渋滞を引き起こすこと、バスもその渋滞に巻き込まれることから、駅の設置に踏み切った例が多いようです。

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もちろん新駅を作ることがゴールではなく、むしろスタート地点だと思っています。以前取り上げたみなみ寄居駅では、隣接する本田技研工業の工場の稼働率が上がるにつれて、東武鉄道は始発の繰り上げや終電の繰り下げなどを行っています。小田栄駅も現在は日中40分間隔という、大都市内の路線らしからぬダイヤですが、現時点でも南武支線の中では利用客は多いので、列車の増発、計画にある川崎駅への路線開設などが必要になりそうです。

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小田栄駅のある南武支線は1930年の開業で、今回のブログで出した他の駅を走る路線はそれ以上の歴史があります。当時と比べれば沿線の状況は大きく変わりました。それに合わせて駅を作るのは、住民や勤労者のためにも、鉄道事業者のためにもなるわけで、自然なことだと考えます。在来線高速化もそうですが、今ある線路を活かすことが大切です。

昨年末、日本のライドシェアに大きな動きがありました。政府が今年4月からライドシェアを部分的に解禁することを決めたのです。とはいえ全面解禁ではありません。タクシーが不足している地域や時間帯で、タクシー会社に登録した一般ドライバーやマイカーを活用する仕組みで、タクシーの配車アプリを使い、運賃はタクシーと同一。タクシー会社は登録したドライバーの研修や運行管理を行い、事故が起きた場合の対応も行うそうです。

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タクシー会社以外の参入については、すでに交通空白地などを対象とした自家用有償旅客運送制度がありますが、これでは移動問題の解決にならないという意見が多く出ていることから、6月までに法整備などの議論をまとめるよう進めていくとのことです。

例によって賛否両論が出ていますが、これまでと違うのは、単純な賛成反対の声だけではないことです。これまでライドシェアに頑なに反対してきたタクシー業界が受け入れの姿勢を示しているのに対し、ライドシェア推進派の自治体からは不満の声が上がっています。

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冒頭の文で、タクシー会社という言葉が何度も出てきたことでわかるように、4月から始まるのはタクシー会社の運営になります。もちろん事故対応などの安心感はありますが、ドライバーの登録も、展開する地域や場所も、アプリの運用もタクシー会社が行います。少し前までライドシェアに反対していた人たちが、ライドシェアを活かすような運営をできるのか、疑問に思うのは私だけではないようで、複数の自治体から法整備を迅速に行ってほしいという意見が出ています。

少なくとも自分の場合は、ライドシェアはタクシーを補完する存在ではなく、比較対象であり続けてきました。時間や運賃(ライドシェアはダイナミックプライスです)などを比べて、どちらかに乗るというパターンです。移動の選択肢が増えれば、それだけ移動が自由になります。ライドシェアもそのひとつであり、日本人が陥りがちな二者択一ではありません。今回の決定に不満を寄せる推進派の人たちも、同じような気持ちではないでしょうか。

だからこそタクシー会社以外がライドシェアを運営できる法整備を進めてほしいところですが、これまでの経緯から考えると、ここでタクシー業界が反対に回る可能性が考えられます。たしかに東京23区内であれば、現状でもタクシーが足りないわけではないので、今回の方式でもいいでしょう。しかし地方は鉄道もバスも1時間に1本ぐらい、タクシーは数台という中で、地域輸送を維持し、観光需要に対応していかなければなりません。さらなる移動の選択肢が必要です。

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ただ今回の議論で、自治体の人たちもこの移動サービスを理解しつつあるのは朗報です。国やタクシー会社より住民に近い場所にいるわけですから、住民の気持ちの代弁者として、真に地方に必要な移動を構築してほしいと思います。そして法整備が絡むわけですから、国会議員の役割も重要です。鉄道やバスでこれだけ問題が出ているのに、国会でモビリティが話題になることが少ないのは残念です。人間にとって移動は必要不可欠という考えで議論を進めていくことを望みます。

地方は運転手がいないという主張は、地方の実情を知らない人ではないかと思っています。このブログで何度か取り上げた京都府京丹後市丹後町の「ささえ合い交通」も、人口は5000人未満で、タクシー会社は成り立たず撤退したのに、ドライバーは16人います。会社員のような仕事の人が少ないので、空いた時間を使えるのかもしれません。地方で飲食店を営みたい、創作活動をしたいという若い人も、同様にして移動支援ができるので、移住促進にもつながると思っています。

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今の日本はバスもタクシーもドライバー不足です。移動が困難に感じる人は増え続けています。ライドシェアは危険だと思う人は、無理に乗ってもらう必要はありません。しかしそうではない人も多くいます。であれば選択肢を増やすべきではないでしょうか。ひとりでも多くの人が、移動が自由になったと感じてほしいものです。

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