THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2024年03月

京都市でバスや地下鉄を運行する京都市交通局が、6月1日に市バスのダイヤ改正を行うと発表しました。オフィシャルサイトにくわしい説明がありますが、大きな柱としては、コロナ禍後の利用状況に応じた増便、洛西地域のまちづくりと連携した運行の見直し、観光特急バスの新設など観光系統の再編の3つがあります。

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バスのダイヤ改正というと、最近は運転士不足を受けての減便や路線廃止などのニュースが多い中で、市バスは一部で減便をしつつ、利便性を高めるための増便や路線新設も行っており、全体では車両数、走行キロ数ともに増えています。鉄道駅との接続を重視していることも目立つ点で、京都駅から地下鉄とバスを乗り継いで観光地に行ってもらうことで、生活路線の混雑緩和を狙っているようです。

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京都市交通局のダイヤ改正を伝えるサイトはこちら

また洛西地域では地域活性化の取り組みが進んでおり、新ダイヤはその一環でもあります。この地域にある洛西ニュータウンは当初、地下鉄が延伸される計画があったものの、財政難から実現せず、人口減少と高齢化に悩んでいます。しかし21世紀に入って東側を走る阪急電鉄京都線に洛西口駅、JR西日本京都線に桂川駅が生まれており、この2駅とニュータウン内の洛西バスターミナルを結ぶ路線や便を充実させるとのことです。

洛西地域には市バスのほか京阪京都交通、阪急バス、ヤサカバスと4つのバス事業者がありますが、ICカード定期券であれば、どの事業者のバスに乗ってもいいという仕組みも予定しているそうです。一方市の中心部では、市バスと民営の京都バスで重複していた系統番号を別々にするという動きもあります。市バスと京都バスは以前から連絡定期券や一日乗車券で連携しており、回数券は市内を走る9つの事業者すべてで使えるものもあるなど、一元化が進んでいます。

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だからこそ鉄道の一元化も進めてほしいと思っています。現在京都市内を走る鉄道は、JR西日本、阪急電鉄、京阪電気鉄道、近畿日本鉄道、京福電気鉄道(嵐電)、叡山電鉄、市営地下鉄と7つの事業者がありますが、一部の事業者が一日乗車券などで連携しているだけで、地下鉄四条駅と阪急烏丸駅のように、乗り換え駅なのに駅名が違ったりする場所もあります。

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実は外国人向けには、京都をはじめ関西地区のJR以外のほとんどの鉄道に乗ることができる「KANSAI RAILWAY PASS 2day/3day」という、MaaSと呼びたくなるような乗車券があります。以前から課題になっている市バスの混雑解消には、当事者も提案しているように、鉄道との連携が効果的です。京都市内のすべての鉄道が単一のチケットで乗れるようになれば、現在のようなバス依存が少し薄まるような気がしています。

このブログでも何度か紹介してきた、世界初のMaaSアプリ「Whim」を運営するフィンランドのMaaS Globalが、破産を申請したというニュースが入ってきました。私自身、2018年に「日本福祉のまちづくり学会」のメンバーとともに同社を訪れ、CEOのサンポ・ヒエタネン氏と意見交換をした経験を持つだけに、残念ではありますが、予兆がなかったわけではありませんでした。

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1年以上前のことになりますが、同社が日本で新たな展開を行うという話を聞き、取材を申し込んだものの、その後計画が変更になったために、記事にならなかったという経験があるのです。あとで気になってWhimのホームページを見ると、いくつかの都市でサービスが中止しているという現状を見ることになりました。

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欧州のニュースでは、画期的でもあったサブスクメニュー、つまり定額乗り放題が原因という記述がありました。サブスクが収益の核ということは、私も同社から聞いていました。それが軌道に乗らなかったのは、新型コロナウイルスの流行前に考えられたサービスであることと、すべての移動をひとつのアプリで検索・決済可能とするなど最初から完璧に近い内容だったことが大きいと考えています。

コロナ禍によって、日本を含めて多くの人が移動に対する考えを変えました。テレワークやオンライン会議などの普及で、リアルに人と会う機会は減り、毎日会社に行かないという人も増えました。サブスクを選ぶ人は大幅に少なくなったはずです。しかも完璧に近い内容だったので、他の都市では一部のメニューしか展開できず、魅力を発揮できなかったという課題もあったようです。

しかしながらMaaSそのものは、これからも進化を続けると思っています。それまでの公共交通は、テクノロジーはともかく、サービスについてはアナログ中心でした。そんな業界に、デジタルの可能性を教えてくれたのがMaaS Globalだったからです。スマートフォンを使う人の割合が、今後さらに増えていくことを考えれば、やれることはまだたくさんあると考えています。

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利用者だけでなく、交通事業者にとってのメリットもあります。移動データが手に入ることです。それに基づいて経路や便数の変更などを行うことで、運行が効率的になり、サービス向上にもつながります。なので個々の利用者を相手にするより、行政や交通事業者と連携してサービス提供やデータ解析を担当する形のほうが、地域全体にメリットが出るという気がしています。

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Trafiのオフィシャルサイトはこちら

欧州では現在、リトアニアのTrafi、イスラエルのMoovitなどが、そのような形で展開しており、前者はモビリティハブとの連携なども進めています。日本でも私が関わる事業者を含め、自治体との協調が増えています。MaaSは新種のITビジネスというより、公的サービスのデジタル化に近い存在であり、今回の一件を機に、地域社会をモビリティで支えていくという意識のMaaSが増えることを望みます。

今日3月16日、北陸新幹線が敦賀駅まで延伸しました。これにともない並行在来線が第3セクターとなり、大阪や名古屋と金沢・能登地方を結んでいた特急がすべて敦賀止まりになるというマイナス面もあることは以前書きましたが、今回はプラス方向のポイントに触れたいと思います。それはシェアサイクル(今回はサービス名に近いこの名称を用います)との連携です。

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これまでの終点である金沢市には、新幹線開業前の2012年から「まちのり」がありますが、加えて2020年4月からは福井県敦賀市「つるがシェアサイクル」、昨年3月からは福井市「ふくチャリ」および石川県小松市「こまつシェアサイクル」の展開が始まりました。そして今日、福井県越前市でも導入されました。

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ボート数は、歴史の長い金沢市の78か所が他を圧倒しており、小松市は29か所、福井市は19か所、敦賀市は15か所あります。今日始まった越前市では、北陸新幹線の越前たけふ駅と、第3セクター「ハピラインふくい」武生駅の2か所でスタートしました。展開範囲ではこまつシェアサイクルが広く、小松駅から10km近くある日本自動車博物館や粟津温泉にもポートがあります。

すべてのサービスが、NTTドコモグループのドコモバイクシェアが運営するアプリで利用できることにも触れておくべきでしょう。東京23区や横浜市などでドコモのシェアサイクルを使っている人は、そのまま使えるので便利です。ちなみに金沢、小松、福井、敦賀のシェアサイクルの会員は、この土日に限り、初乗り無料キャンペーンを実施しているとのこと。新たに会員になる人も対象とのことなので、これを機会に試してみてはいかがでしょうか。

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初乗り無料キャンペーンのページはこちら(まちのり)
Tsuruga MaaS Cardのページはこちら(つるがシェアサイクル)

北陸新幹線の各駅からは、もちろん鉄軌道やバスも走っていますが、公共交通では行きにくい場所もあります。公共交通とシェアサイクルを組み合わせることで、移動の可能性が広がります。すでに敦賀市では、バスとシェアサイクルの1日乗り放題共通フリーパス「Tsuruga MaaS Card」を発売していますが、他の地域でもこのような取り組みを期待しています。

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小松市自動運転バス導入事業のページはこちら

これ以外に沿線でのモビリティのニュースでは、小松市で走り始めた自動運転レベル2のバスがあります。こちらは小松駅と小松空港の間4.4kmを結んでおり、昨年10月からの試験走行を経て、3月9日から通年運行を開始したとのことです。以前も紹介したように「乗り物のまち」としてアピールしている地に、新しい乗り物が加わったことになります。

もちろん既存の新幹線の駅にもシェアサイクルはありますが、ここまで新幹線との結びつきをアピールした例は、あまり記憶がありません。それだけサイクルシェアが日本でも浸透してきたということなのでしょう。今回延伸区間に出かけた際には、活用してみてください。

かつて私も1ヵ月間お借りしたことがあり、このブログで何度か紹介もしたトヨタ自動車の電動3輪スモールモビリティ「i-ROAD」が進化を果たしました。開発担当者がトヨタから設計を引き継いで興したスタートアップ「Lean Mobility」での市販予定車「Lean3」がそれです。会社の背景や車両の概要、簡単な試乗記などを、「東洋経済オンライン」で記事にしたので、ご興味のある方はご覧になっていただければと思います。

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i-ROADの長所も短所も知り尽くした方が手がけただけに、根本の思想は同じながら各部がアップデートされ、乗り物としての完成度は格段に高まっていましたが、それとともにビジネスの考え方も印象に残りました。Lean Mobilityは純粋な日本企業ではなく、日本と台湾のアライアンスメーカーで、すでに台湾の自動車関連企業連合から28億円の出資を受けています。来年まず発売するのも台湾で、その後日本や欧州での展開を考えているとのことです。



この話を聞いて私は、電動パーソナルモビリティのメーカーでありサービス展開も行うWHILLを思い出しました。2012年に設立されたこの会社も、翌年米国に現地法人を設立しており、最初に出資が決定したのは同じ米国の「500 Startups」というベンチャーキャピタルだったからです。

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2つのスタートアップが日本以外を視野に入れたことは理解できます。Lean MobilityのLean3は、台湾や欧州ではL5という専用のカテゴリーがあり2名乗車できますが、日本ではミニカー(原付3/4輪)登録となりひとりしか乗れないのです。一方のWHILLは、米国の電動車いす市場は日本の数十倍もあり、車いす利用者に対する意識も大きく違うことから、いち早く進出したとのことです。こうした挑戦に理解があることは、どちらもまず現地で出資を受けていることで証明されています。

日本のエンジニアリングやデザインが世界的に見てもトップレベルであることは、2つの会社の製品を見ても納得してもらえると思います。しかしそれを受け入れる社会には、明確な差があると感じています。それはルールやマーケットという、文字や数字で表せる部分だけでなく、新しいモノものやコトに対して慎重であり、かつ最初から完璧を求めるという、この国ならではのマインドも大きく働いていると思っています。

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これはスタートアップに限った話ではありません。電気自動車の攻勢が一段落し、再び注目が集まっているハイブリッド車のパイオニアであるトヨタ「プリウス」は、日本で販売が伸び悩む中、米国でハリウッドスターたちが乗り始めたことで人気に火がつき、2代目をニューヨークで初公開するなどグローバルを意識した展開を行うことで、世界に評価が広まっていったことを覚えている人もいるでしょう。

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日本が生み出したモビリティだからこそ、まず日本に導入してもらいたいという気持ちも、もちろんあります。でも我が国は上に書いたような制約があるうえに、挑戦を快く受け入れ、支援を引き受けてくれる国や地域は他に多くあります。となれば、革新的な思想のスタートアップが、まず海外に目を向けるのは当然でしょう。Lean Mobilityの今後に期待したいと思います。

私もよく利用する東京のターミナル、新宿駅西口の再開発が本格化しています。駅前広場を囲んでいた新宿スバルビルと明治安田生命新宿ビルが取り壊されたのに続き、小田急百貨店新宿店本館も姿を消し、吹き抜けの中を地下駐車場にアクセスするらせん状のスロープが巡る地下広場は、工事のための巨大な構造物で覆われました。このあとスロープも撤去されるとのことです。

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新宿駅西口の再開発の内容については、下で紹介しているように、ブログでも2020年10月に取り上げました。そのときは具体的な動きが始まったばかりでもあり、漠然と見ていましたが、小田急百貨店が消え、地下広場が蓋で覆われた状況を目にして、残念という気持ちが大きくなりました。どちらも昭和を代表する建築家のひとり、坂倉準三氏の作品であることも大きいと思います。



これに限らず最近、高度経済成長期に生まれた名建築が、全国各地で姿を消しつつあります。坂倉氏が生まれ故郷の岐阜県羽島市で手がけた旧市庁舎も、解体が決定したそうです。東京で言えば、国立西洋美術館本館や国立代々木競技場など、重要文化財に指定されたものは保存の方向になるようですが、中銀カプセルタワービルのように画期的な建物であっても、解体されています。

一方で現役の施設として存続している建築もあります。東京都内では目黒区総合庁舎がそのひとつです。こちらは建築家村野藤吾氏の手で千代田生命保険本社として生まれ、同社が経営破綻したときに区が買い取り、総合庁舎に衣替えしたものです。維持管理は大変かと思いますが、外観は今もきれいで、内部も階段や中庭など当時の面影を残しています。駅から離れた住宅地の中にあった旧庁舎と比べると、中目黒駅の近くという立地も区民にはありがたいでしょう。

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目黒区総合庁舎についての解説はこちら

建築やデザインに関わる人たちの話では、あの時代は東京オリンピックや大阪の万国博覧会など、国際的なイベントがいくつも開かれたことで、自分たちの実力を世界にアピールする絶好の場が与えられたことが、結果的に日本の建築やデザインが一気にレベルアップし、世界的に評価され、著名な建築家やデザイナーを何人も輩出することになったそうです。

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たしかにあの時代は、日本全体に勢いがありました。建築も例外ではありません。今の日本を築いたという点では、古代から近世にかけて作られた建築に匹敵するのではないでしょうか。後世に名を残すことになる建築家が腕を振るった作品たちです。そういった人たちの偉業を讃え、後世に伝えていくという意味でも、あの頃の建築を残していくことには価値があると考えます。

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