THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2024年04月

10年前の2014年、日本創生会議が発表した「消滅可能性都市」という衝撃的なフレーズを、今週再びメディアで目にするようになりました。有識者グループ「人口戦略会議」が新たな分析結果を公表したからです。今回の消滅可能性都市の数は744で、2014年に比べて152少なくなっていますが、一方で「ブラックホール型自治体」「自立持続可能性自治体」という新たな言葉が出てきました。

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ブラックホール型自治体とは、大都市を中心に、出生率が低く外からの人口流入に依存している自治体のことで、東京23区のうち16区、大阪市、京都市など25自治体が選ばれました。一方の自立持続可能性自治体は、人口移動がないと仮定した場合にも減少率が20%未満にとどまる自治体で、つくばエクスプレス沿線で子育て支援に力を入れる千葉県流山市、別荘地としての知名度を生かし移住を促進している長野県原村、台湾の半導体工場を誘致したことで話題の熊本県菊陽町など65自治体が入っています。

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これまでは地方の人口減少だけを取り上げていたのに対し、今回は大都市への人口集中も人口減少につながることを示唆するとともに、悲観的な数字を並べるだけでなく、具体例を挙げてまちづくりの指針を示していることが特徴で、10年前より踏み込んだ内容だと感じています。

ではなぜ大都市に人口が流入しているのでしょうか。先月、理由のひとつになりそうなエピソードがありました。青森に帰省していた妻から、テレビのワイドショーで東京が大雪だと騒いでいると連絡があったのです。でも送ってもらった写真を見ると、青森のほうが多いような気がします。なのに東京の情報を大々的に取り上げていたとのことです。似たような傾向は飲食店や観光地の紹介でも見られますが、これでは多くの人が東京に興味を持って当然です。

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一極集中はモビリティにもいろいろな影響を及ぼします。ローカル線の廃止や減便が地方の人口減少と関係があることはもちろん、バスやタクシーの運転士不足も、待遇面の問題はありますが、人そのものが少ないことも理由と考えています。さらに若者のクルマ離れも、大都市と地方の乗用車のひとりあたり台数で東京都が0.231と最低(最高は群馬県の0.677)であることを見れば、関係は明らかです。

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東京の鉄道は利用者が右肩上がりで好ましいと思うかもしれませんが、車両の数や運転間隔などが限界に近いとも感じており、京阪神ぐらいがちょうどいいという気がします。この国のモビリティが持続可能であり続けるためにも、住む場所・学ぶ場所・働く場所・遊ぶ場所がバランスよく備わった、持続可能な都市が全国にバランスよく存在し、一極集中の流れに歯止めをかけてくれることを望みます。

日本ではあまりお目にかかることのない乗り物のひとつに、三輪タクシーがあります。東南アジアや南アジアで普及しており、タイのトゥクトゥクやインドのオートリキシャ(人力車が名前の由来)は日本でも知られています。日本やイタリアの小型3輪トラックをベースとしたこのカテゴリーにも今、電動化の波が押し寄せています。e-tukという呼び名もあるので、ここでもこの名前を使っていきます。

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Mahindra Last Mile Mobilityのオフィシャルサイトはこちら

3輪タクシーの電動化が目立っているのはインドで、総合自動車会社のマヒンドラ&マヒンドラ(上の写真)、ベスパで有名なイタリアのピアッジオ、専門企業のYCエレクトリックなどいくつものメーカーが参入しており、日本のテラモーターズも名を連ねています。

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電動化の理由はもちろん環境対策で、昔のオートリキシャは2ストロークエンジンを使っていたこともあり、自動車以上に電動化が必要とされていたようです。しかも車体が小型軽量で短距離走行が多く、営業用として使うことになるので、バッテリーとモーターでの走行に向いています。その結果、多くのメーカーが電動化に乗り出し、上のグラフにあるように、二輪や四輪を大きく凌ぐ勢いで普及が進んでいるようです。

興味深いのは最近、欧米でもe-tukを手がける会社がいくつか出てきていることです。そのひとつがオランダ・ユトレヒトのeTuk Factory(下の写真)で、スマートシティを実現するためのラストマイルの乗り物として、10年以上前から生産。写真の商用車のほか乗用車もあります。テレマティクスを搭載してバッテリー容量などの集中管理ができるという先進的な一面も持っています。

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eTuk Factoryのオフィシャルサイトはこちら

観光ツアー用として提供している都市もいくつかあります。米国コロラド州デンバーのeTuk Rideはクラフトビールが人気な土地らしく、ブルワリーを巡るツアーもあります。運転しないので昼飲みも大丈夫だし、オープンボディなので匂いが車内にこもらないなど、相性は良さそうです。世界文化遺産に登録されているクロアチアのドゥブロヴニクにもEco Tuk Tours(下の写真)があります。狭い道が多い土地に適していそうです。

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Eco Tuk Toursのオフィシャルサイトはこちら

e-tukは静かで排気ガスを出さないだけでなく、個性的な見た目と乗り味もまた魅力だと思っています。私もエンジン車のトゥクトゥクに乗ったことがありますが、移動することそれ自体がアミューズメントでした。ゆえに欧米のいくつかの都市が導入し、生産まで手がけるようになったのでしょう。タクシーより小柄で、三輪ゆえ小回りが効くことも、その土地をより深く味わう点で向いているのではないでしょうか。

今週月曜日、以前から議論されていたライドシェアが東京都内で導入され、昨日は神奈川県でも開始となりました。早速多くのメディアで報道されていますが、海外でライドシェアを実際に使い、日本にある同種のサービスも利用したことがあるひとりとしては、いくつか説明が必要だと思いつつあります。

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まずはニュースでよく見かける「日本版ライドシェア」という表現。この言葉を前にすると、日本にあるライドシェアサービスは1種類しかないと思いがちですが、実際には2種類あります。ひとつは今回東京都内などで、タクシー会社の運営により始まったもので、自家用車活用事業というのが正式な名称です。もうひとつは地方で以前から展開している、交通空白地自家用有償旅客運送の制度を改革したものです。

我が国では日々の移動に困っている地方こそ、ライドシェアが必要だと思っていますが、日本版ライドシェアは逆に前者を指すようです。ただし私がチェックしたライドシェア対応アプリ「Uber」「S.RIDE」「GO」の中で、この呼び名を使っているのはGOだけです。ここからも正式名称ではないことがわかります。「空飛ぶクルマ」と同じように、一部の事業者が戦略的にこの呼び名を広めているのではないかと想像しています。

国交省地方のライドシェア

一方の自家用有償旅客運送発展型は、自治体ライドシェアと呼ばれることもあります。タクシー会社ではなく自治体が主体となって展開していくからでしょう。こちらについては国土交通省の資料にあるように、自家用有償旅客運送制度をベースに、交通空白地という定義を時間帯にも適用、実施主体に株式会社が追加、タクシーの半額程度だった対価を約8割まで高めることなどが昨年末までに決められ、一部地域で導入が始まっています。

さらに今後、タクシーとの共同運用の仕組みの構築、運用区域の柔軟化、首長による最終判断権限などについて、6月をめどに内容を詰めていくことも記してあります。これと大都市でタクシー会社が運用するライドシェアが統合されて、初めて日本版ライドシェアと名乗るべきでしょう。現状では、都市型ライドシェア/地方型ライドシェアと呼び分けるほうがふさわしいような気がします。

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ライドシェアは安全ではないという意見は、今も多く目にします。その中には、内情を知らず否定しているものもあります。国土交通省の統計では、走行距離1億kmあたりの事故件数が自家用車42.7件に対しタクシー149.9件と、タクシーのほうが安全でないことが示されています。このブログで何度か紹介した京都府京丹後市のささえ合い交通では、毎朝アルコールチェックや健康状態の確認を行い、車両にはドライブレコーダーを設置するなど、タクシーに近い安全対策を行っています。

それに今週始まった都市型ライドシェアでは、上で取り上げたUber、S.RIDE、GOはすべて、手順は異なるものの、ライドシェアを使わないモードを、設定画面などで選べます(S.RIDEは最初の写真、Uberは下左、GOは右の画像)。逆にライドシェアだけを選ぶことはできないようですが、とにかく知らないうちにライドシェアに乗ってしまうということは、この3つのアプリについてはないわけです。

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海外でライドシェアを利用した人を中心に、日本での導入を支持する人も多いという報道もあります。それを踏まえれば、移動の選択肢を多く用意し、利用者がそれを自由に選ぶことができる社会が理想ではないでしょうか。ライドシェアが不安なら、黙って避ければ良いだけの話です。声の大きい一部の人たちの意見に、全体が流されるようなことは避けたいものです。

今週末は三重県の鈴鹿サーキットでF1日本グランプリが開催されていますが、先週末は東京都の東京ビッグサイト周辺で、フォーミュラEの東京E-Prixが行われていました。個人的にはレースは観戦も参加もあまり興味はなく、フォーミュラEは申し込もうと思いつつ締め切りを忘れてしまったぐらいです。ただテレビの地上波で放送していたので見たところ、終盤まで接戦の連続で、予想以上に楽しめました。

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ところで東京都ではフォーミュラE開催に合わせて、週末の2日間、「E-Tokyo Festival 2024」というイベントをビッグサイトの中で開催していました。こちらは興味があったので、レース翌日に現地を訪れました。フォーミュラEのコースだった場所は、公道を含めてコース脇のフェンスやコンクリートウォールなどが置かれたままでした。ゆえに臨場感が伝わってきて、東京の公道で世界選手権のレースが行われたのはやはり、画期的な出来事だったのだと感じました。

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フェンスやコンクリートウォールが薄いことにも気がつきました。こちらについては「auto sport web」の記事で、競技審査委員を務めた鈴木亜久里氏が、フォーミュラE独自の規格で他のレースでは使えないとコメントしていました。市街地でもレースができるよう性能を抑えているのかもしれません。レースはスピードやサウンドこそ魅力という人もいるでしょう。でもそれによって開催場所が限られてしまいます。新たなモータースポーツのファンを育てるために、こうしたアプローチは大切ではないでしょうか。

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E-Tokyo Festival 2024にも感心しました。電気自動車だけでなく、ZEV(ゼロエミッションビークル)全体を対象としているので、燃料電池自動車や電動のパーソナルモビリティも展示され、一部は試乗もできました。モビリティショーでは壇上にあった、特定小型原付を想定したスズキの電動4輪車は、間近で見ることができ、高齢者らしき方が熱心に話を聞いていました。子供向けのメニューが多く用意されており、週末の東京都心ということもあって、家族連れを多く見かけました。

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F1とフォーミュラEは、エンジンかモーターかだけでなく、頂点を極めるか、裾野を広げるかという違いもあると感じました。東京都のイベントからもそういうメッセージが伝わってきました。電気自動車とハイブリッド車の関係もそうですが、二者択一ではないと考えています。だからこそフォーミュラEは持ち味を活かして、大都市以外でも開催してほしいものです。併設イベントと合わせて魅力を広くアピールしていくのが、ふさわしい姿ではないかという気がしています。

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