THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2024年05月

元日の能登半島地震で大きな被害を受けた地域を、大型連休直前に取材で訪れました。石川県を中心にサービスを展開する北國銀行および北陸鉄道とつながりを持っていたので、金沢市でまず両社の担当者から話を聞いた後、現地に向かいました。その模様は東洋経済オンラインで記事にまとめましたので、ご興味のある方はご覧ください。

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現地ではまず道路に衝撃を受けました。金沢市と輪島市を結ぶ自動車専用道路、のと里山海道と能越自動車道は、七尾市と志賀町にまたがる徳田大津IC(インターチェンジ)と輪島市ののと里山空港ICの間が、金沢方面は通行止めで、輪島方面も至るところで盛り土が崩れ、応急処置として細く曲がりくねった道を何とか通している状況でした。そのため通常は約2時間で行ける金沢〜輪島間が、一般道(県道1号)とほぼ同じ約3時間もかかりました。

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金沢市から輪島市への道はこのほか、半島の外縁をなぞるように走る国道249号線がありますが、こちらは輪島市内が通行止めで、大型車両が走れる金沢〜輪島間の道路は県道1号と片道のみ開通している自動車専用道路しかありません。港は隆起で使えない状況であり、過去の震災と比べても厳しい状況にあることを教えられました。それだけに海沿いに集結した自衛隊の姿が頼もしく思えました。

加えて北國銀行と北陸鉄道から聞いた話では、従業員も大変であることがわかりました。幸いにして亡くなった方はおらず、軽い怪我をした人が数人とのことでしたが、二次避難で金沢市などにいる方、避難場所から仕事場に向かっている社員がいるそうで、一部の銀行の支店は営業日や時間を限り、バスは迂回を含めた臨時ダイヤでの運行となっていました。

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交通分野で感心したのは、のと里山空港やのと鉄道穴水駅をハブと見立てて、ここで特急バスや鉄道に乗り継ぐことで、珠洲市や能登町の人々が金沢市に向かえる便を運行していることです。地震によって運転士不足がこれまで以上に深刻となった中で、異なる分野の事業者が連携をすることで移動を確保しようという姿勢に感心しました。



北國銀行によれば、現地企業や商店の本格的な復興は大型連休以降とのことで、北陸鉄道からは大型連休を使って家族が倒壊した実家を確認した後、解体に取り掛かる人が多いという話もありました。マスメディアは4月末時点での解体終了がわずかであることを悲観的に報じていましたが、表面的な数字だけを取り上げるのではなく、もっと地域の事情を汲み取った報道をしてもらいたいものです。

能登半島の中で、奥能登地域と呼ばれる輪島市、珠洲市、鳳珠郡穴水町および能登町の2市2町の人口は合わせて約5.8万人。東日本大震災で大きな被害を受けた自治体で言えば、宮城県気仙沼市とほぼ同じで、石川県全体の人口の約5%にすぎません。高齢化も進んでおり、珠洲市では50%を超えています。今後急激な人口減少に見舞われて、インフラ整備がさらに厳しくなる可能性もあります。

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2つの会社はこうした可能性ももちろん認識していました。そして能登を支えていくために、両社がともに挙げていたのが観光でした。しかも北國銀行は、金沢や加賀に観光に来てもらうことが能登の復興につながるという動きが大切と話し、北陸鉄道では、観光産業への支援によって交通の需要が増えてくることを期待していると語っていました。

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たしかに輪島市の中心部など、数年前に訪れたときとは景色が一変してしまっており、復興はこれからという言葉を実感しました。だからこそ、同じ石川県内の他の場所を観光してもらい、それを復興に役立ててもらうという方法は、多くの人にとってなじみやすいと思いました。マスメディアで能登の話題がめっきり減って気になっているという方、まずは北陸に足を運び、そこで間接的に能登を支援してみてはいかがでしょうか。

ひさしぶりに自動運転シャトルに乗りました。今週月曜日から6月12日まで、東京のお台場で走行していて、予約をすれば誰でも無料で乗れるというので、昨日足を運んできました。理由のひとつは、自動運転シャトルの代表格であるフランスのナビヤ「アルマ(ARMA)」だけでなく、昨年日本に上陸したエストニアのオーブテック開発の「ミカ(MiCa)」も走り、2台を乗り比べることができたからです。

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乗った印象を簡単に言えば、車内の仕立ては東側ルートを走るミカのほうが自動車的であるものの、乗降口にステップがあることが気になったうえに、加減速のスムーズさ、エアコンの効きなど、動的な部分は西側ルートを走るアルマのほうが洗練されていて、10年近く前から世界各地で走行を続けてきた実績が生きていると感じました。

それとともに今回興味を持ったのは、走行する場所が車道ではなく、遊歩道だったことです。しかもパイロンなどでルートが仕切られておらず、白線が引かれているのみで、歩行者と同じ空間の中で移動することになっていました。 ミカが走る東側ルートには車道と交差する場所もあって、そこでは横断歩道を渡っていました。

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最高速度は電動車いすと同じ6km/hに抑えられており、歩行者を感知すると自動で減速するので、接触の危険はありませんでした。ただ電気自動車で、走行中に音をほとんど出さないので、背後から車両が近づいても気づかない人はいました。アルマは歩行者に接近すると自動的に鐘の音(パリの路線バスやLRT車両に似た耳に優しい音です)を鳴らしますが、日本のバスのクラクションとはまったく違う音なので、接近に気づかない人がいました。

大きく重い乗り物が歩行者空間を走ることを危険と思う人がいるかもしれません。しかし私がかつて訪れたスイスのシオンでは、道路標識に記載はありましたが、歩行者専用道路の中を自動運転シャトルが走っていました。さらに言えば、欧州にはトランジットモールもあります。自動車の通行を遮断して、歩行者とLRTだけが通行できる道路で、歩道と軌道は分かれていますが、電車がいないときは自由に横断しています。

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LRTの車両は自動運転シャトルよりはるかに大型で重く、ブレーキをかけてもその場で急停止はできません。それでも欧州各地でこうしたシーンを認めているのは、ウォーカブルシティといっても歩く能力は人それぞれであり、歩行を補助するための低速モビリティが必要と考えているからでしょう。さらに自動運転シャトルを含めて、プロが運転しているということも、歩行者との共存を認めている理由だと思います。

今回のシーンで言えば、グリーンスローモビリティのようなライトな車両でも良いし、ひと目で公共交通とわかる色使いが欲しいとも感じましたが、東側ルートだけでも約1kmの距離があり、途中に駅はないので、足腰の弱い人などは重宝するはずです。結果的には多くの人にとって移動の自由を拡張する考え方と言えるのではないでしょうか。

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ただ繰り返しになりますが、それはスピードを低く抑え、運転のプロが操る乗り物であるからこそ成立することでもあります。自転車や電動キックボードは、不特定多数の人が自分の好みの速度で走れるわけで(一部の特定小型原付が備える歩道モードも現状は任意での切り替えです)、歩行者との共存は危険性が高いことを、今回の体験であらためて教えられました。

日本で暮らしているほとんどの人は、イオングループが展開するショッピングモール「イオンモール」を知っていると思います。郊外の開けた土地に広大な店舗と駐車場を用意し、多くの人がマイカーを使って来場するというシーンも同時に思い浮かべるのではないでしょうか。

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そのイオンモール、近年都市部への展開が多くなっており、結果的に鉄道でアクセスしやすい拠点が目立つようになりました。個人的にもこの動きは気になっていて、先月仕事で埼玉県越谷市のイオンレイクタウンを訪れたのを機に、イオンモールに取材をしたうえで、東洋経済オンラインに記事をまとめました。気になる方はご覧になっていただければと思います。



 記事を書く過程では、自分自身が流通業にくわしくないこともあって、いろいろな発見がありました。そのひとつが、イオンモールはイオングループの中ではデベロッパー(イオンではディベロッパーと表記)であるということです。つまり三井不動産や三菱地所などと同じ業種です。ちなみにスーパーマーケットを運営するのはイオンリテール、いなげや、ダイエー、マルエツなどとなっています。

つまりイオンモールは自分で小売を行うのではなく、さまざまな業種の専門店に入ってもらい、その賃料を収入としていることになります。多くの専門店が営業できるだけの集客力は重要になるでしょう。しかもイオンモールが進出したことで、地元の商店街が寂れてしまったという話も聞きます。地方の衰退を加速させる懸念があったことも、都市部に目を向けるようになった理由になりそうです。

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しかし都市部には、以前からそこで住んだり働いたりしている人が多くいるわけで、すべての来場者がマイカーで押し寄せると、交通渋滞によってさまざまな問題が発生し、地域社会に迷惑をかけることになります。実際にインターネットで調べると、具体的な事例がいくつか出てきます。そこで鉄道駅の近くにイオンモールを開設する、あるいはイオンモールの近くに新たに駅を作るなどの動きが出ているのでしょう。

 ではイオンモールを訪れる人のうち、鉄道で来る人はどのぐらいいるのでしょうか。イオンレイクタウンについて聞いてみると、平日15%、休日17%とのことでした。一般的に、自動車の数が1割減れば渋滞は半減すると言われているので、15%というのはかなりの効果を上げていると思われます。休日のほうが多いのは、遠方からレジャー目的で来る人、渋滞を避けたいという気持ちを持つ人が多いからではないかと予想しています。

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もうひとつ、イオンモールが早くから環境対策に熱心に取り組んできたことも関係していると思っています。たとえば電気自動車の充電スポットの設置はかなり早く、私も取材で何度もお世話になりました。イオンレイクタウンでは店内に、さまざまな環境対策を実践していることを紹介するボードが掲げてあり、駅直結であることもそこに含まれています。

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とはいえイオンモールは鉄道にこだわっているわけではなく、地域の魅力を高めることが最大の目的であり、その中で鉄道を選択する場合もあると答えていました。モビリティはそれ自体が目的ではなく、まちづくりのための手段のひとつと考えている自分にとっては賛同できる考えです。これからも地域との共生というスタンスで展開をしてほしいと思いました。

大型連休ということで、各地にお出かけしている人も多いかと思います。私も先週末、日帰りで栃木県内を観光してきました。目的のひとつに、運行前の車両のデザインを見せていただいたことはあったものの、乗客として乗るのは初めてだった、東武鉄道の特急「スペーシアX」がありました。とりわけ「GOEN CAFE」と呼ばれる車内カフェに興味がありました。

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実際に利用してみると、それは自分の予想とは違うものでした。1号車(コクピットラウンジ)の乗客が優先で、それ以外の乗客はスマートフォンで予約をする必要があったのです。座席に案内のシートが用意されていたので、それを参考に予約しカフェに行きました。するとその場で飲食をすることはできず、自分の座席に持ち帰って味わうスタイルであることを教えられました。

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私が予想していたのはビュッフェのようなスタイルでした。日本の列車ではほとんど見なくなってしまいましたが、フランスの高速鉄道TGVには今もバル(Le Bar)があります。数年前に利用したときは、飲み物、軽食、お菓子などがある程度で、ビールは缶でしたが、テーブルのほかイスもいくつか用意されていて、しばらくそこで過ごした記憶があります。なのでテイクアウト専用というのは物足りなさを感じました。

しかしいっしょにいた妻は違う考えでした。全線乗車しても約2時間なので、カウンターがあると最初から最後までビュッフェで過ごす人がいるかもしれず、座席が無駄になってしまうというのです。たしかに私たちも、かろうじて2席を確保できたという状況だったので、それも一理あると思いました。以前TGVでバルを利用したのは、約4時間もの乗車だったからであり、同じTGVでも2時間程度なら足は運ばなかったことを思い出しました。

それに日本には駅弁という文化があります。主要な駅にはその土地の食材を生かした駅弁があり、TGVのバルとは比較にならないほど美味です。多くの日本人はそれを買って自分の座席で食べるスタイルに慣れているでしょう。ついでに言えば旅館も部屋に食事を持ってきてくれるスタイルで、ホテルのようにレストランに食べに行くことはありません。

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日本の鉄道から食堂車がほぼ消えたのは、乗車時間が短くなったためもありますが、そういう習慣も関係していると思いました。とはいえコーヒーは淹れたてをほしいという気持ちがあり、駅で買って持ち運ぶのは大変なので、車内で淹れたてが手に入るのはありがたかったです。近畿日本鉄道の特急「ひのとり」がコーヒーの自動販売機を用意している理由も納得しました。コーヒーとともに食べるお菓子も、駅でバラで買うのは難しそうなので、車内で販売する価値がありそうです。

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ただそれはせいぜい2時間程度までの列車の場合です。新幹線で言えば東京と博多や新函館北斗を結ぶぐらいの長距離列車であれば、高速バスと違って乗車中にシートベルトを装着しなくてよく、自由に車内を動き回れるというメリットを生かす意味でも、ビュッフェやバーのようなスペースを考えてほしいものです。それが移動の質を高めることにつながるからです。

東海道新幹線に個室が復活するというニュースが最近ありました。私もこのブログで、新型コロナウイルスの感染が拡大していたときに個室を要望したことがありますが、コロナ禍を経て量から質への転換を期待させるニュースでした。個室や食堂車があった昔と比べると、今の東海道新幹線のサービスレベルはビジネスホテルに近いという印象です。旅行で使う人も多いことを考えれば、移動そのものが体験になるようなサービスを望みたいという気持ちです。

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