THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2024年06月

自動車の取材で何度も訪れたことがある神奈川県の箱根に、初めて船に乗る取材で行ってきました。芦ノ湖を巡る遊覧船に加わった富士急行の「箱根遊船SORAKAZE」です。長い間この地で遊覧船を運航してきた西武グループの伊豆箱根鉄道が、箱根周辺での展開を縮小することになり、静岡県函南町にある十国峠の施設ともども、富士急行が事業を引き継ぎ、新型船を就航させることになりました。

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詳細については自動車専門誌「ENGINE」に執筆したので、気になる方はご覧になっていただければと思いますが、SORAKAZEは新造ではなく、西武時代に建造された大きな窓を持つ双胴船をベースに、JR西日本特急列車「やくも」、完全電気推進タンカー「あさひ」などを手掛けた川西康之氏がデザインを担当したものです。



特筆すべきは時代背景を考え、量から質への転換を図るとともに、環境対応を図っていることで、定員を700人から550人に減らす代わりに、天然芝を敷き詰めたデッキ、ブランコ風ベンチ、赤富士をイメージしたソファ、畳を敷いた小上がりスペースなど、遊び心あふれる空間に仕立ててあり、ゆったり移動する船旅にふさわしい場になっていました。

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一方で気になったのは、同じ芦ノ湖に小田急電鉄が就航している箱根海賊船との関係です。かつて西武と小田急は、この地域でバスを含めた激しい競争を繰り広げ、「箱根山戦争」とまで呼ばれました。西武側の規模縮小で争いは収まったかのように思えますが、富士急と小田急のウェブサイトでは、相手側の船は紹介されず、元箱根や箱根関所跡近くの港は、200mほどしか離れていないのに別々になっています。

下は天然芝が敷き詰められたSORAKAZEのデッキから元箱根港を眺めた写真で、左側の白い低層の建物があるあたりに富士急、右側の鳥居の近くに小田急の港があります。たしかに残るひとつの港の場所は違いますが、利用者から見れば同じ港で両方の船に乗れたほうがいいわけで、会社が変わっても戦争の爪痕が残ってしまっているような光景は残念でした。

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さらに懸念するのは、こういう雰囲気を残していると、多くの人から公共交通は競争原理が成り立っていると見られ、利用者が減って赤字になれば撤退するのが当然とみなされることです。今、日本の多くで人口減少や少子高齢化から公共交通の利用者が減り、運賃収入だけでは到底運営していけないのに、黒字赤字で判断しようとする人が多いのは、こうした状況も関係しているのではないかと思います。

このブログで何度も書いてきましたが、欧州の公共交通はそうではありません。その名のとおり公共施設の一部という考えから、公的組織が地域の交通を一元的に管轄し、まちづくりという視点で路線や便数などを考え、税金や補助金を主体とした運営がなされています。黒字か赤字かで言えば大赤字ですが、生活のために必要なインフラという考えから、公が支える仕組みになっているようです。

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公共交通で競争原理が成り立つのは、人口も所得も増え続けているような世の中だと思っています。今はそれとは逆に近い状況であるわけで、そもそも競争そのものが成り立たないと考えるのが自然ではないでしょうか。日本の交通事業者から「競争」という考えがなくなることで、黒字赤字という議論が少なくなり、欧州のように公で支える仕組みに近づいていくことを希望しています。

今回のテーマはモペッドです。モペッドとはモーター+ペダルという意味の造語で(ゆえに「モペット」は誤りです)、エンジンを使ったタイプは昔からありました。セルモーターや変速機がない代わりに、ペダルを漕いで助走をつけ、その勢いを使ってエンジンを掛けるという仕組みでした。本田技研工業の第1号車はこのタイプで、私もフランスの「ソレックス」に乗っていたことがあります。

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最近のものは電気モーターを使っており、見た目は電動アシスト自転車に似ています。とはいえモーターだけで走ることができるので、特定小型あるいは一般原動機付自転車(原付一種)としての登録が必要で、警察では「ペダル付き原動機付自転車」と呼んでいます。つまりナンバープレートの装着や自賠責保険への加入が義務付けられますが、都内で見かけるものの多くはナンバーをつけていません。違法車両であることは明白なので、ここでは違法モペッドという表現を使っていきます。

ナンバーなしで乗ることができるのは、多くの車両がオンライン販売だからでしょう。販売業者のウェブサイトには原付登録が必要などと書いてありますが、登録するかどうかは購入者の判断になります。そして多くの購入者がナンバーを取らずに乗るのは「バレないから」「逃げ切れるから」の2点に尽きると思っています。多くは違反を承知で乗っているというのが個人的な見解です。もともと違反をしているからでしょう、信号無視や歩道走行など、他の違反も平然としているという印象です。

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私も東京都内で違法モペッドを何度か見たことがあります。歩道を歩いていて、すぐ横を抜いていったこともありました。個人的には自動車の駐車違反などより、はるかに人に直接危害を及ぼす状況であり、前に書いたように確信犯である可能性も大きいので、積極的な取り締まりをしてほしいと思いますが、路上で監視したり自転車で追いかけたりという現状の対策は役不足なので、自分なりに考えた案をここで挙げておきます。

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それは違法モペッドを含めたパーソナルモビリティのための取り締まり用車両を用意することです。具体的には郵便配達やフードデリバリーなどに使っている二輪や三輪の原付二種がふさわしいと思っています。パトカー(四輪の警察車両)は軽自動車から3ナンバーのセダンまであるのに、白バイが大型二輪ばかりであることを不思議に思っていました。小型の二輪/三輪車なら機動性の高さを生かして、生活道路での交通事故や住宅地内での事件などでも役立つはずです。

近年、電動キックボードをはじめ、新しい形のパーソナルモビリティがいろいろ出てきました。多くは個人が使うために開発されたものですが、業務用として生まれた車両もあります。すでに一部の民間企業は積極的に導入していますが、自治体や警察などの公的機関はあまり活用していないと感じています。私もいくつか乗ってみて、便利であることは確認しているので、安全で快適な社会の構築のために役立ててもらいたいものです。

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ちなみに私はモペッドそのものを撲滅すべきとは思っていません。特定小型原付登録なら、スピードが20km/h未満に抑えられるので安全性は高まるし、同じカテゴリーの電動キックボードより安定感があるからです。すでにこのカテゴリーに対応した車両がいくつか販売されており、自転車シェアリングでおなじみの「オープンストリート」では、首都圏の一部のステーションで車両を用意しています。



同社が特定小型原付の車両を導入した経緯などは、インターネットメディア「メルクマール」で記事が公開されているので、気になる方はご覧になっていただければと思いますが、私も乗ってみたところ、自転車に近い車体なのですぐに慣れ、漕がないので楽であるうえに、電動キックボードより安心だと感じました。体力に自信がない人でも安全快適に移動できるパーソナルモビリティという点で、存在価値があると思っています。

今週11日、政府によるデジタル行財政改革の取りまとめ案が判明しました。このなかでは自動運転について、特定の条件下で人が運転に関わらない「レベル4」を2025年度までに全都道府県で推進するとしています。ライドシェアについてはタクシーだけでなくバスや鉄道などの運送事業者が参入できるよう検討を始めるとしています。ライドシェアは前回触れたので、今回は自動運転に絞って書きます。

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政府によれば、自動運転の推進は急激な人口減少社会に対応するためとしていますが、このブログでも何度か書いてきたとおり、バスやタクシーの運転手不足は深刻であり、働き方改革でさらにそれが加速していることも関係しているでしょう。一般のドライバーが移動を補助するライドシェアとともに、運転手なしで移動できるサービスの提供は喫緊の課題だと思います。

これに先駆けて日産自動車では今月初め、自社開発の自動運転技術を搭載した新世代の実験車の走行を公開しました。日産は2017年度より自動運転モビリティサービスの実証実験を進めており、2027年度より自治体や交通事業者を含む関係各所と協議したうえで、サービスの提供を目指していくとしています。

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日産自動車のニュースリリースはこちら

そんな中、日産とアライアンスを組むフランスのルノーは、レベル4の開発の主軸を自家用車からバスなどの公共交通に移し、自家用車向けの同技術の開発は進めない方針を発表しました。最近はレベル4移動サービスに積極的な自動車会社がいくつかありますが、ここまではっきり言及したのは珍しいのではないでしょうか。すでに中国WeRideと共同開発した車両が、全仏オープンテニス(ローラン・ギャロス大会)に投入されており、今後は同じフランスのEasyMileなども加わるそうです。

Autonomous Shuttle  Roland Garros
ルノーのニュースリリースはこちら(フランス語)

たしかに現在のアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)や車線維持支援などのレベル2またはレベル2+を体験すると、これで十分であり、一段階上のレベル3はコストが跳ね上がるわりに作動範囲が限定されていることも知っているので納得です。ルノーでは、イノベーションはできるだけ多くの人々に共有され、経済的に利用しやすく、有用でなければ意味がないとしており、フランスらしい考えだと感じました。

自動車の安全技術は年々上がっているのに、交通事故の死者はここ数年ほぼ横ばいで、昨年は増加に転じました。最近の事故のニュースを見ると、「前を見ていなかった」という、驚くべき報告がいくつもあります。おそらくスマートフォンを見ながらの運転だったのでしょう。レベル3はシステムが運転の交代を要請してきた場合、人間が運転を引き継がないといけないので、こういう人は交代に応じない可能性が出てきます。

Renault Group - Experimentation

しかも自家用車は所有者が日常点検などをしなければいけないことが、法律で決められています。これはレベル4でも引き継がれると予想していますが、すべてのドライバーが自動運転に対する知識を持ち、点検を行うシーンは、残念ながら期待できません。それを含めて考えても、レベル4は移動サービスとしての展開が妥当です。かつて「自動運転があれば公共交通はいらない」と言っていた人がいましたが、今は「自動運転は公共交通のためにある」という流れなのです。

日本で初めてライドシェアに乗りました。少し前のブログで紹介した能登地域に行く前日、石川県小松市に足を運び、小松市ライドシェア「i-Chan」を利用したからです。ちなみに小松市のライドシェアは、東京都などで導入しているタクシー会社運営の「自家用車活用事業」とは違います。地方で以前から展開している、交通空白地自家用有償旅客運送の改革により生まれたものです。

小松空港とライドシェア車両

こちらは従来、バスやタクシーがない交通空白地での運行に限られていましたが、多くの地方自治体からの要望を受け、交通空白という定義を時間帯にも適用し、実施主体からの受託により株式会社が参画できることが明確化され、タクシーの半額程度だった運賃を約8割まで高めることなどが、2023年末に決定されました。ゆえに「自治体ライドシェア」と呼ばれています。

一連の流れと並行して、小松市ではライドシェアを導入すべくタクシー事業者との話し合いを開始。反対意見もあったそうですが、ドライバーの高齢化で運転を日中に限りたいという要望もあり、夜間を交通空白とみなして導入することにしました。そんな中、能登半島地震が発生。小松市では市内の粟津温泉で二次避難者を受け入れることになり、避難者の移動もライドシェアで担うことに決めました。

まず2月29日に避難者限定の「復興ライドシェア」として運行が開始され、北陸新幹線が開業した翌月16日に市民向けにサービスを拡充し、22日から定常運行が始まりました。この間には西隣の加賀市でも、ライドシェアが始まりました。自家用車活用事業によるライドシェアは4月からなので、日本で最初にライドシェアが走りはじめたのは石川県ということになります。

ライドシェアパンフレット
小松市ライドシェア「i-Chan」の紹介ページはこちら

運行時間、利用方法、運賃、ドライバーの条件などは、オフィシャルサイトや上のパンフレットをご覧いただくとして、実際に乗った印象を言えば、運転マナーは安心できるものでした。しかも粟津温泉で降り、帰りは旅館でタクシーをお願いしたところ、台数が少ないのでいつ来るか分からないと言われ、30分刻みで時間指定ができるライドシェアに頼ることにしました。タクシー不足であることも身をもって体感しました。

小松市ライドシェアi-Chanアプリ

利用者の声としては、高齢者からはアプリの設定が大変である一方、二次避難者からは能登地域でも導入して欲しいという意見も出たそうです。取材時点で11名がいたドライバーの中にも、二次避難者の方がいるとのことです。こうした対応がタクシーよりも臨機応変にできることも、ライドシェアの利点ではないでしょうか。こうした復興ライドシェアの取り組みに対して、実業家の前澤友作氏からは寄付を受けています。

以前このブログで、自家用有償旅客運送という覚えにくく言いにくい名称に代わる言葉が欲しいと書きましたが、今回の改革ではそれをライドシェアと呼べるようになったことも価値だと思っています。多くの人に移動の自由を提供するためには、住民や観光客にわかりやすい言葉で説明できることが大切だからです。

今後について小松市では、タクシーとの共同運営の仕組みを構築していきたいと話していました。すでに4月に発出された国土交通省の通達で、自家用有償旅客運送の運賃を弾力化することにより、タクシーとの共同運営の仕組みを構築することが可能となっているのて、話で伺ったタクシー事業者との関係を考えれば、実現は難しくはないと予想しています。


粟津温泉に到着したライドシェア車両

対する自家用車活用事業では、タクシー事業者以外の参入についての不満がタクシー業界内に根強く、当初6月と言われていた解禁が延期になったというニュースがありました。サービスのわかりやすさという点では、2つのライドシェアの一本化が望ましいですが、タクシー業界の意見ばかり聞いていては前に進まないので、とりあえず自家用有償旅客運送改革型のライドシェアだけでも、よりよいモビリティサービスとして発展してほしいと思っています。

今週は公共交通の乗車券に関するニュースが立て続けにありました。まず5月27日、熊本県内の民間バス会社4社と熊本電鉄が将来、交通系ICカードの使用を終了すると発表。翌日には熊本市交通局が運行する市電も、同様の方針を明らかにしました。同じ日には国土交通省が全国の路線バスに対してキャッシュレス決済に限定して運行することを認めると明らかにし、29日には首都圏の鉄道会社8社が、現在の磁気を使った切符から、QRコードを使った切符に置き換える予定と発表しました。

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このうち磁気をQRコードに変更するという発表は、磁気切符は廃棄時に磁気部分をはがさなければならず、リサイクル性に劣るうえに、磁気読み取り部分のメインテナンスが必要であること、QRコードならスマートフォンでも使えるので紙の使用を抑えられること、沖縄のゆいレールなどではすでにQRコードを使っておりエアラインでは一般的であることなどを考えれば、反対する人は少ないでしょう。

残りの2つは、交通系ICカードの取り扱い終了は機器の更新に膨大なコストが掛かること、キャッシュレス方式の認可は運転士の負担軽減と定時性向上に役立つためと言われていますが、それとともに、先週21日に出演させていただいたニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」で辛抱氏が話していたように、新紙幣への切り替えも関係していると思います。

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「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」オフィシャルサイトはこちら

交通系ICカードはキャッシュレス決済では珍しく、現金でのチャージが可能です。たしかに便利ではありますが、紙幣が新しくなるときは、機器を更新しなければならないでしょう。現金払いのための運賃箱も、両替対応のために、同様の措置が必要になりそうです。

これまで問題にならなかったのは、前回の紙幣の切り替えが20年前で、地方にそれほど普及していなかったからでしょう。加えて今は新型コロナウイルス感染症による公共交通の利用者減少で、財政的に厳しさを増しています。交通系ICカードの端末は、熊本の事業者の話では、すべての更新に約12億円かかるそうで、代わりに導入を考えているクレジットカードなどのタッチ決済の2倍近いコストがかかるとしています。

高速道路で使うETCもそうですが、日本のものづくりは完璧を求めるあまり高コストになってしまい、展開を妨げてしまうという例がよくあります。加えて交通系ICカードは、JR東日本という国内最大の交通事業者が、世界的にも利用者の多い首都圏の鉄道を基準として開発したためもあるでしょう。東京への一極集中が進み、地方との差が広がる中では、地方に適したシステムを選ぶというのは納得できる話です。

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前にも書いたように熊本では、市電にはすでに導入されているVisaカードなどのタッチ決済を代わりに導入する計画です。クレジットカードがなければ利用できないと思っている人が多いようですが、銀行口座があれば発行してもらえるデビットカードでも使えます。銀行口座は多くの人が持っているはずなので、障壁にはならないはずです。

現金にこだわる人もいることは知っています。しかしカードは仮に悪用されても、すぐにカード会社に連絡すれば保証をしてくれますが、現金は盗まれたらそれで終わりです。また4月に訪問した石川県の北國銀行の話では、能登半島地震を機に、同行が県内で普及を進めていたタッチ決済に切り替える人が出ているそうです。自宅が火災や津波に遭うと、タンス預金はそのまま失われてしまうのに対し、タッチ決済であれば銀行が口座を管理しているので安心というのが理由でした。

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私はクレジットカードやスマートフォンを早くから使い、MaaSの本を3冊書き、Visaカードの取材も何度かしているので、キャッシュレス推進派であることは認めますが、今の状況を考えれば、自分の利便性だけでなく社会の利便性を考えて行動することが大切だと思っています。もちろん拙速な実施は混乱を招くので、状況を見ながら進めていく必要はありますが、環境問題や経営問題などを含めて考えるべきだと言う時期に来ていると思います。

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