自動車の取材で何度も訪れたことがある神奈川県の箱根に、初めて船に乗る取材で行ってきました。芦ノ湖を巡る遊覧船に加わった富士急行の「箱根遊船SORAKAZE」です。長い間この地で遊覧船を運航してきた西武グループの伊豆箱根鉄道が、箱根周辺での展開を縮小することになり、静岡県函南町にある十国峠の施設ともども、富士急行が事業を引き継ぎ、新型船を就航させることになりました。
詳細については自動車専門誌「ENGINE」に執筆したので、気になる方はご覧になっていただければと思いますが、SORAKAZEは新造ではなく、西武時代に建造された大きな窓を持つ双胴船をベースに、JR西日本特急列車「やくも」、完全電気推進タンカー「あさひ」などを手掛けた川西康之氏がデザインを担当したものです。
特筆すべきは時代背景を考え、量から質への転換を図るとともに、環境対応を図っていることで、定員を700人から550人に減らす代わりに、天然芝を敷き詰めたデッキ、ブランコ風ベンチ、赤富士をイメージしたソファ、畳を敷いた小上がりスペースなど、遊び心あふれる空間に仕立ててあり、ゆったり移動する船旅にふさわしい場になっていました。
一方で気になったのは、同じ芦ノ湖に小田急電鉄が就航している箱根海賊船との関係です。かつて西武と小田急は、この地域でバスを含めた激しい競争を繰り広げ、「箱根山戦争」とまで呼ばれました。西武側の規模縮小で争いは収まったかのように思えますが、富士急と小田急のウェブサイトでは、相手側の船は紹介されず、元箱根や箱根関所跡近くの港は、200mほどしか離れていないのに別々になっています。
下は天然芝が敷き詰められたSORAKAZEのデッキから元箱根港を眺めた写真で、左側の白い低層の建物があるあたりに富士急、右側の鳥居の近くに小田急の港があります。たしかに残るひとつの港の場所は違いますが、利用者から見れば同じ港で両方の船に乗れたほうがいいわけで、会社が変わっても戦争の爪痕が残ってしまっているような光景は残念でした。
さらに懸念するのは、こういう雰囲気を残していると、多くの人から公共交通は競争原理が成り立っていると見られ、利用者が減って赤字になれば撤退するのが当然とみなされることです。今、日本の多くで人口減少や少子高齢化から公共交通の利用者が減り、運賃収入だけでは到底運営していけないのに、黒字赤字で判断しようとする人が多いのは、こうした状況も関係しているのではないかと思います。
このブログで何度も書いてきましたが、欧州の公共交通はそうではありません。その名のとおり公共施設の一部という考えから、公的組織が地域の交通を一元的に管轄し、まちづくりという視点で路線や便数などを考え、税金や補助金を主体とした運営がなされています。黒字か赤字かで言えば大赤字ですが、生活のために必要なインフラという考えから、公が支える仕組みになっているようです。
公共交通で競争原理が成り立つのは、人口も所得も増え続けているような世の中だと思っています。今はそれとは逆に近い状況であるわけで、そもそも競争そのものが成り立たないと考えるのが自然ではないでしょうか。日本の交通事業者から「競争」という考えがなくなることで、黒字赤字という議論が少なくなり、欧州のように公で支える仕組みに近づいていくことを希望しています。
詳細については自動車専門誌「ENGINE」に執筆したので、気になる方はご覧になっていただければと思いますが、SORAKAZEは新造ではなく、西武時代に建造された大きな窓を持つ双胴船をベースに、JR西日本特急列車「やくも」、完全電気推進タンカー「あさひ」などを手掛けた川西康之氏がデザインを担当したものです。
特筆すべきは時代背景を考え、量から質への転換を図るとともに、環境対応を図っていることで、定員を700人から550人に減らす代わりに、天然芝を敷き詰めたデッキ、ブランコ風ベンチ、赤富士をイメージしたソファ、畳を敷いた小上がりスペースなど、遊び心あふれる空間に仕立ててあり、ゆったり移動する船旅にふさわしい場になっていました。
一方で気になったのは、同じ芦ノ湖に小田急電鉄が就航している箱根海賊船との関係です。かつて西武と小田急は、この地域でバスを含めた激しい競争を繰り広げ、「箱根山戦争」とまで呼ばれました。西武側の規模縮小で争いは収まったかのように思えますが、富士急と小田急のウェブサイトでは、相手側の船は紹介されず、元箱根や箱根関所跡近くの港は、200mほどしか離れていないのに別々になっています。
下は天然芝が敷き詰められたSORAKAZEのデッキから元箱根港を眺めた写真で、左側の白い低層の建物があるあたりに富士急、右側の鳥居の近くに小田急の港があります。たしかに残るひとつの港の場所は違いますが、利用者から見れば同じ港で両方の船に乗れたほうがいいわけで、会社が変わっても戦争の爪痕が残ってしまっているような光景は残念でした。
さらに懸念するのは、こういう雰囲気を残していると、多くの人から公共交通は競争原理が成り立っていると見られ、利用者が減って赤字になれば撤退するのが当然とみなされることです。今、日本の多くで人口減少や少子高齢化から公共交通の利用者が減り、運賃収入だけでは到底運営していけないのに、黒字赤字で判断しようとする人が多いのは、こうした状況も関係しているのではないかと思います。
このブログで何度も書いてきましたが、欧州の公共交通はそうではありません。その名のとおり公共施設の一部という考えから、公的組織が地域の交通を一元的に管轄し、まちづくりという視点で路線や便数などを考え、税金や補助金を主体とした運営がなされています。黒字か赤字かで言えば大赤字ですが、生活のために必要なインフラという考えから、公が支える仕組みになっているようです。
公共交通で競争原理が成り立つのは、人口も所得も増え続けているような世の中だと思っています。今はそれとは逆に近い状況であるわけで、そもそも競争そのものが成り立たないと考えるのが自然ではないでしょうか。日本の交通事業者から「競争」という考えがなくなることで、黒字赤字という議論が少なくなり、欧州のように公で支える仕組みに近づいていくことを希望しています。