THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2024年09月

仕事で東京お台場に行ったので、東京ビッグサイトで開催されていた「ハイウェイテクノフェア2024」を見てきました。公益財団法人高速道路調査会が開いているもので、今年は第20回目になるそうです。リアル開催は今週木・金曜日の2日間だけでしたが、同じ内容をオンライン展でも展開しており、こちらは10月17日まで開催しているので、興味のある方はご覧になってください。

IMG_2570

会場にはNEXCO東日本/中日本/西日本、首都高/阪神高速/本四高速のグループに加えて、橋梁やトンネル、照明や標識、点検や診断など、高速道路に関するさまざまな展示が行われていました。内容的にはB to Bが対象のようでしたが、「はたらくくるま」なども数多く置かれていたので、もっと一般向けに周知しても良さそうに思いました。

IMG_9208
ハイウェイテクノフェア2024のページはこちら

そう思ったのは最新技術の中に、現在高速道路が抱えている問題解決のヒントがあると感じたからです。たとえばAIを使って交通インシデントを早期発見・対応したり、標識や表示を回転させて内容を切り替える装置を活用すれば、逆走の対策ができそうに思えました。高度な技術や柔軟な発想があることは展示から伝わってきたので、それを多方面に活かしていくことも大切だと感じました。

せっかく高速道路を取り上げたので、個人的に気になっていることも記しておきます。そのひとつは、地方に行くと2車線の道路が多いことです。国土交通省の資料を見ると、仏独や韓国では、2車線の高速道路は存在せず、米国でもごくわずかとなっています。そして我が国の高速道路の事故率では、4車線以上のおよそ2倍という数字もあります。

IMG_3910

先月も鳥取自動車道のトンネル内で正面衝突事故がありましたが、中央分離帯もない2車線なのに高速道路扱いした結果、スピードを出す自動車が増え、対向車線へのはみ出しなどが起こるのではないでしょうか。個人的にはあれを高速道路と呼ぶべきではなく、制限速度も一般道路並みにすべきだと考えています。

スクリーンショット 2024-09-28 21.18.48
スクリーンショット 2024-09-28 21.19.38
国土交通省の資料はこちら

日本の高速道路の長さは、2車線区間を含めても上記の海外諸国と比べて短いというデータもあります。ただし多くの地方で人口が減少していることを考えれば、新規路線の建設より前に、今ある2車線道路を4車線にすることを望みます。基本となる道路を広く作っておけば、工事の際の代替車線確保などもしやすくなるはずです。

ちなみに同じ国土交通省の資料を見ると、2車線区間は東北、山陰、東九州などに目立つことがわかります。整備新幹線問題もそうですが、たださえ人口減少や高齢化などで厳しい環境にある地域が、インフラも脆弱というのは可哀想に思います。国土ネットワークという視点で高速道路網を整備するのであれば、太平洋側に近い規格を与えるべきではないでしょうか。首都圏などへの人口集中の理由は、ここにもあるような気がします。

日本を代表する総合デザイン会社であり、モビリティ分野だけでもモーターサイクル、鉄道、バス、フェリーなど多彩な分野で活動しているGKデザイングループのことは、ブログ読者の中にも知っている人がいるでしょう。このたび同社が出している広報誌「GK Report」の最新号(No.45)で、都市交通をテーマとした対談に出していただきました。

IMG_2484

対談の内容をはじめとする誌面については、オフィシャルサイトから見ることができます。私の発言はともかく、長年都市交通に関わってきたデザイナーの言葉はとても勉強になりました。それとともに思ったのは、数ある乗り物の中でも、LRTがもっとも景観を左右する、建築に近い存在ではないかということでした。

IMG_2292
GK Report No.45の紹介ページはこちら

鉄道は都市部では高架や地下を走ることが多いので、車両は見えないことも多く、高架線は景観としてはマイナスに思えることもあります。バスはさまざまな自動車に混じって道路を走るので、停留所を含めて存在感はいまひとつです。その点LRTは、地上を走ることが多いうえに、車体はバスよりはるかに長くて背も高く、走る場所がレールの上と決まっているので識別しやすいうえに、鉄道よりゆっくり走ります。こうしたことから建築っぽいと感じたのです。

車両だけでなく停留場などのインフラにも同じ印象を持ってします。バスの停留所より立派な作りである一方、鉄道駅のように駅舎の内部やホームが見えにくいということはなく、停留場名や行き先などの表示まで、路上からはっきり見えます。なので車両とインフラのデザインがバラバラだと、景観として違和感を感じてしまいがちです。

IMG_4994

私がこれまで見てきた欧州のLRT(路面電車/トラムの中で最近開業した路線)では、車両や停留場だけでなく、架線やそのための支柱に至るまで、景観の邪魔にならず、統一感のあるデザインでまとめてある事例が多くありました。LRTの車両を落ち着いた色にする代わりに、バスは逆にわかりやすいグラフィックやカラーとした都市もいくつかありました。それだけLRTは景観の一部であるという意識が強いのかもしれません。

IMG_7944

GKデザイングループでは、富山地方鉄道の富山港線(旧冨山ライトレール)および市内電車環状線、昨年開業した芳賀・宇都宮LRTと、国内のLRTのデザインを担当してきました。双方に共通しているのは、トータルデザインという考え方です。GK Reportにも書いてありますが、モビリティ以外のさまざまなデザインを担当してきた経験を生かし、車両や停留場だけでなくサインやプロモーションなど、LRTに関係するデザインをひとつのものとして進めてきました。

おかげで富山も芳賀・宇都宮も、目に見えるすべてものに統一感があり、都市景観にすっと溶け込んでいます。同じ気持ちを抱いている人は多いのではないでしょうか。つまりLRTには機能面だけでなく、デザインによって都市景観に彩りを添える力もあると考えています。だからこそ今後も日本に新たなLRTが生まれ、GK以外のデザインスタジオが参入することで、トータルデザインが磨き上げられていくことを期待しています。

先週のブログでも触れた日本福祉のまちづくり学会全国大会では、パリパラリンピック期間中だったこともあって、「Parasports Challenge!(パラスポーツチャレンジ)」というイベントが併催されました。全国大会とは違い参加無料、事前申込不要で、週末でもあったので多くの人が訪れていました。

IMG_2045

北海道科学大学の体育館内に用意されたのは、義足ラン、車いすバスケット、シットクロスカントリースキー、ゴールボール、ウェルチェア・スキルズ、ボッチャの6つで、すべて体験可能でした。このうち私は、チェアスキルと呼ばれることも多いウィルチェア・スキルズを体験しました。手動タイプの車いすでスラロームやスロープ、段差などをクリアしていくというものです。

IMG_2040

これまで車いすに乗ったのは平坦地の直線路だけだったので、想像以上の発見がありました。どうやら私は新しい乗り物に対する適応力が高いようで、スラロームはすぐにできるようになり、サポートの人から褒められましたが、スロープや段差は難儀しました。どちらも普段歩いているときは意識しないレベルでしたが、車いすでクリアしようとすると、とても大変なのです。

サポートの人から教えられたのは、荷重移動です。スロープの登りでは上体を前傾させ、降りるときは逆に後傾させるのです。それでも登りはそれなりの力が必要で、降りるときは逆にハンドリムを押さえてスピードが出ないようにする必要がありました。段差の登りは瞬間的に荷重を前から後ろに移動することでキャスター(前輪)を浮かせ、その後は前傾しながら勢いをつけて、腰を浮かせるようにして後輪を段差の上に乗せていく感じです。

IMG_2048

モーターサイクルのトライアルに似ていると思いました。昔トライアルの真似事をしていたことがあるので、すぐに操ることができたのかもしれません。それとともに、パラスポーツで車いすを使う競技が多数あるのは、車いすを操ることもスポーツであるためだと思いました。欧州ではこのような、健常者向けにチェアスキルを体験してもらう機会があるそうです。車いすが特別な乗り物ではないことを伝え、親しみを持ってもらうために、良い取り組みだと感じました。

IMG_2289

東京に戻った週には、このブログで何度も紹介しているWHILLの新製品「Model R」の発表会があったので、こちらにも乗りました。今はWHILLのような電動車いすやシニアカーが多数出ているので、快適な移動を求める人はこれらがお薦めです。デジタル技術を活用したバッテリー残量やお出かけ履歴などのチェック機能も魅力です。でもそれによって、手動の車いすの存在価値がなくなったわけではないことが、今回わかりました。価値あるイベントでした。

先週末は私が所属している「日本福祉のまちづくり学会」全国大会で北海道に行ってきました。毎回研究発表をさせていただいていて、今回は4月に体験しに行った石川県小松市のライドシェアをテーマとしましたが、ここで困ったことが起こりました。原稿を提出した6月初めからここまでの間に、日本のライドシェアを取り巻く状況がガラッと変わってしまったからです。

IMG_7161

最大の動きは7月、国土交通省に「交通空白」解消本部が設置され、一部の自治体やメディアが使っていた、自家用有償旅客運送発展型の「自治体ライドシェア」に代わる名称として、「公共ライドシェア」が登場したことです。同本部ではタクシー、乗合タクシー、ライドシェアなどを地域住民や来訪者が使えない「交通空白」の解消に向けて早急に対応していく組織としており、公共ライドシェアは「日本版ライドシェア(自家用車活用事業)」と並立するものと定義しています。

多くのメディアが日本版ライドシェアばかりを紹介し、これまで傍流どころか無視に近い扱いをされてきた自家用有償旅客運送発展型ライドシェアについて、政府が公共ライドシェアという看板を掲げ、導入支援を進めると明言したのは大きな転機であり、このブログなどで日本のライドシェアは2種類あると説明してきたひとりとして、喜ばしく思います。

スクリーンショット 2024-09-07 18.33.15
国土交通省「交通空白」解消本部オフィシャルサイトはこちら

公共ライドシェアの確立は、当初6月を目処としていた、日本版ライドシェアへのタクシー事業者以外の参入が、タクシー業界の反対で延期されたことへの反動だと思っています。実は小松市などが関わる「活力ある地方を創る首長の会」から生まれた自治体ライドシェア研究会は、4月に一般社団法人全国自治体ライドシェア連絡協議会に発展し、政府と協力・連携して公共ライドシェアの導入に取り組んでいくとしていました。この動きは大きかったと感じています。

一連の動きに対応する民間事業者もあります。たとえば日野自動車は昨年7月、自家用有償旅客運送向けの遠隔運行管理受託サービスを鳥取県智頭町で導入しており、続いて今年7月からは、小松市と智頭町、兵庫県朝来市で、通信型ドライブレコーダーを用いた運行管理業務の実証実験を開始しています。ドライブレコーダーのデータを用いて事故やトラブルの記録し、日報の作成も可能で、安心・安全な運行をサポートしていくとしています。

event11
nippou11
日野自動車のニュースリリースはこちら

一方日本版ライドシェアでは、国内最大のカーシェアリング事業者であるパーク24グループのタイムズモビリティが、Uberのパートナーである法人タクシー事業者ロイヤルリムジンとともに、カーシェア車両を活用したライ ドシェアの試験運用を東京都内で開始すると発表しました。カーシェア車両によるライドシェアは日本初になります。自家用車を所有していない人、あっても使える時間に制限がある、所有車が条件に合わないなどの場合でもライドシェアに参加できます。

その日本版ライドシェアでは、7月から曜日や時間帯に加えて、雨天や酷暑時にも稼働可能となりましたが、実際はアプリの未対応やドライバー不足により、運行実績ゼロのタクシー事業者が多いというニュースもあります。一方の公共ライドシェアでは、タクシーに空車がない場合に限りライドシェアを配車する「タクシー優先配車」を、10月から導入するとしています。この場合、料金はタクシーと同額になるとのことです。

4555aea0
パーク24のニュースリリースはこちら

日時だけでなく天候まで細かくルールを定めた日本版ライドシェアと、タクシー優先配車というシンプルな手法を考えた公共ライドシェア。日本らしいのは間違いなく前者ですが、移動のニーズにリニアに応えられるのは後者でしょう。ドライバーにとっても昨今の天候より、タクシーが足りなくなるタイミングのほうが読みやすいはずです。というかタクシーの運転手も、そのような感覚を研ぎ澄ませて運行をしていたはずで、この種のモビリティサービスには必須の技術ではないでしょうか。

いずれにしても国の方針で、我が国のライドシェアは日本版ライドシェアと公共ライドシェアという2つのルールが確立されたことになります。理想を言えばひとつにまとめたほうがわかりやすいですが、まちづくりのなかでこの種のモビリティサービスを入れる際には、2つの手法を選べるようになったわけで、敷居は下がったし裾野は広がったと言えるでしょう。今後も動向に注目していきたいと考えています。

このページのトップヘ