THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2024年10月

今月18日、東京都江東区にある海の森水上競技場で、第10回バステクin首都圏が開催されました。バス・商用車の専門誌の出版社ぽると出版が主催する体験型イベントで、大阪府で行われるバステクフォーラムともども、毎年開催しているそうです。このイベントに初めて行ったので、今回はそこで気づいたことを書いていきます。

IMG_2902

会場には最新の電気バスやディーゼルエンジン観光バス、安全性能や運転環境の向上のための各種機器を搭載した車両など、合わせて16台が展示。乗客として試乗できる車両もありました。さらに電気バスの運行を支える充電設備,バスの安全・快適・ 経済性向上に貢献する各種機器・用品・システムなどもあり、今のバス技術がほとんど把握できる、価値ある場でした。

IMG_2818

ここでは電気バスの中から気になった車両をいくつか紹介します。まずはアルテックが輸入するトルコ・カルサンの「e-JEST」です。全長5.9mと日野自動車「ポンチョ」より小柄で、デザインは欧風。メカニズムは前輪駆動が特徴で、信頼性の高いBMW製モーターを採用しています。それが関係しているのか、乗った印象は乗用車的で、プジョーの小型商用車をベースにしていた先代ポンチョを思い出しました。すでに長野県や栃木県で導入しているようです。

同じ前輪駆動で、日野「デュトロZ EV」をベースの小型バスの試作車も目を惹きました。西鉄(西日本鉄道)グループの西鉄車体技術と日野が共同開発したもので、ちょうど先代ポンチョに似た成り立ちで、デザインはもう少し洗練させてほしいところですが、全高を除けば5ナンバーサイズで、床の高いワンボックスタイプより、利用者に優しい乗り物になりそうです。

IMG_2855

すでに国内各地でいくつかのサイズの電気バスを投入しているEVモーターズ・ジャパンは、既存の中型バスF8の新型と、コミュニティバス用よりさらに小型の車両を展示していました。後者は世界初公開で、全長5.99m、乗車定員11名ということでした。こちらは床が高めなのが気になりましたが、サイズ感は日野+西鉄車体技術の車両同様、地域輸送にフィットしそうだと感じました。

IMG_2889

このブログでは中国や韓国の電気バスをいくつか紹介してきましたが、それ以外に欧州車も入ってきており、大手以外の日本のメーカーも新規・改造合わせて、さまざまな車両を提案していることがお分かりでしょう。それだけ電気バスのニーズがあることが窺えます。事業者としてのカーボンニュートラルへの取り組みだけでなく、快適性向上など、利用者にとってのプラス要素があるからでしょう。

これは鉄道では明らかで、ディーゼルカーを電車(蓄電池式を含む)に置き換えた路線は、利用者からも快適になったという声が聞かれます。同じことがバスにも言えると思っています。以前にもブログで書きましたが、電気自動車を敬遠する人が多いのは、充電時間や航続距離が不便という理由が多いからで、これらを事業者がコントロールするバスは別物として考えるべきではないでしょうか。

IMG_2852

なによりも大切なのは利用者が安全快適に移動できることです。電気バスの選択肢が増え、採用する事業者も増えていけば、この面も研ぎ澄まされていくでしょう。乗用車がここまで進化したのは、世界各国からさまざまな車種が出て、競争を重ねてきていることもあると思います。バスについても同じように、さまざまな国から、さまざまな仕様の車両がこの国で移動を担うことで、レベルアップしていくことを期待しています。

石油に代わる次世代エネルギーとして、電気とともに注目されている水素。最近も自動車分野ではトヨタ自動車とドイツのBMWが技術提携を行い、航空分野では川崎重工業が水素燃料による航空エンジンの運転試験に成功などのニュースがありました。このうち自動車分野の話題については、インターネットメディア「webCG」でコラムを書かせていただいたこともあるので、今回はこのテーマを取り上げます。

IMG_0126

電気と水素は競争相手ではなく、得意分野が違うと考えています。私が読んだエネルギーの専門書では、電気は大量に貯蔵しようとするとバッテリーの重量が嵩むのに対し、水素は地球上の元素でもっとも軽いので、大量に貯蔵しても重くならないというメリットを挙げ、水素をそのまま燃焼するのではなく、燃料電池で電気に変えて使うのが前提と書いていました。

よって水素活用は「重厚長大」の分野が適しているとしていました。この考えには私も同意します。つまり自動車では大型トラックや観光バスが向いています。乗用車で言えば、コラムでも書きましたが、BMWが得意とするような大型セダンやSUVになるでしょう。自動車より大型で、現在はエンジンに頼っている船舶や航空機も可能性がありそうです。



日本人の中には、水素の利活用は日本がもっとも進んでいると思っている人がいるかもしれませんが、実際は欧米や中韓でも展開は始まっています。たとえば鉄道車両では、日本でも研究開発が進んでいるものの、いち早く実用化を果たしたのは欧州で、フランスのアルストム製の車両がドイツなどで走行しています。

Alstom_iLint_Québec_20230530_197

水素が重厚長大分野向きと書いた理由はもうひとつあります。水素ステーションのような供給拠点の整備が、費用的にも法規的にも大変だからです。よって海外では走行経路が定まりやすいトラックへの導入が主流で、乗用車から展開を始めたトヨタも、今後のトレンドはそうなると技術説明会で話していました。

だからこそ水素ステーションの整備には、鉄道や高速道路のような、ネットワークの考え方が必要だと思います。 コラムでも書いたように、欧州はその点を認識しており、主要ネットワークの200kmごとに設置を義務付けていくそうですが、これを日本の高速道路に当てはまると、現在の半分以下の約70カ所となります。裏を返せば、それだけ水素ステーションの設置は大変なのでしょう。

IMG_2797

しかしながら日本は、現在も自家用車メインでの普及という考えが根強いようです。先日も事務所の近くで移動式の水素ステーションを見つけましたが、営業時間だけでなく曜日も限定であり、しかも大通りから離れた住宅展示場のあった場所で営業していました。電気自動車は高速長距離走行に不向きですが、それでも多くのサービスエリアやパーキングエリアに充電スポットがあります。高価なインフラだからこそ、ネットワークという視点で設置してもらいたいものです。

昨日まで千葉市の幕張メッセで開催されていた「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024(ジャパンモビリティショービズウィーク2024」では、水素カートリッジなる製品が展示されていました。ポータブルバッテリーへの対抗かもしれませんが、バッテリーは自宅で充電できるのに対し、水素カートリッジは水素ステーションに行くか、LPガスのように配達してもらわなければなりません。アウトドアシーンでの活用では、カセットボンベもライバルになるでしょう。

IMG_0087

日本はエネルギーに恵まれていません。電気はもちろん、その電気を使って作る水素も、資源の多くは海外からの輸入に頼っています。だからこそ、それぞれのエネルギーの特性を理解し、適材適所で活用していくことが必要ではないでしょうか。電気と水素、それぞれを使用したさまざまな乗り物を試し、施設の見学もしてきたひとりとして言えるのはやはり、近場は電気、遠出は水素という役割分担が望ましいということです。

欧米のみならず、最近は日本でも取り上げられることが多くなったウォーカブルシティ。そんな中、本田技研工業(ホンダ)の創業者である本田宗一郎氏および藤澤武夫氏の「理想的な交通社会の実現に寄与する」という思いを実現するために、両氏およびホンダが拠出した基金をもとに設立されて今年50周年を迎えた国際交通安全学会が、先月、ウォーカブルシティをテーマにしたシンポジウムを東京で開きました。

IMG_2205

内容については自動車専門ウェブメディア「AUTOCAR JAPAN」で紹介しているので、興味のある方は見ていただきたいと思います。そこでは国内外の事例を紹介するとともに、今後日本でウォーカブルシティが普及するにはどうすればいいかなどを議論していました。気になったのは、取り上げた事例はいずれも最近のものであり、日本で昔からある歩行者天国という歩行者用空間についての言及がなかったことです。



歩行者天国の歴史は半世紀以上に及びます。その起源は東京の銀座などではなく、実は北海道旭川市のJR北海道旭川駅北口から北に伸びる平和通買物公園だそうで、1969年の社会実験のあと、1972年に常設になりました。歩行者天国を考えたのは、当時の五十嵐広三旭川市長でした。理由は交通事故の多さと札幌の商圏拡大への対応で、後者はJR函館本線の複線電化、札幌での地下鉄開業やオリンピック開催などの影響を懸念していたそうです。

IMG_8533

国道を歩道にするという前例のない計画だったので、中央官庁は当初、頑として認めなかったそうですが、当時の商店街理事長である山本政治郎氏が「かつて士農工商という言葉があったが現在も生きているのだろうか」「実験を真剣に考えている若い芽だけはどうか摘まないでくれ」と投げかけたことを契機に推進派が勢いを増し、社会実験が成功したこともあり、国道を近くの道路に移管することで恒久実施になったそうです。

IMG_8497

その後旭川駅が高架化されたことで、駅前広場も整備されました。日本の駅前広場としてはかなり広い空間が確保され、西側には商業施設やホテルがあり、東側がバスターミナルと、わかりやすい空間です。マイカー用の駐車場は駅から少し離れた場所に確保してありました。旭川の公共交通はJRを除けばバスだけであり、多くの人はマイカー移動であることが想像できますが、それでも駅前とそこから伸びる道路を歩行者専用としたのは英断だと思います。

IMG_8508

私が訪れたのは9月初めの日曜日で天気も良かったこともあり、駅前ではライブパフォーマンスが行われ、道路には出店が並んでいました。8月にはさまざまな電動モビリティの試験運行が行われたという掲示がありました。単に歩行者空間とするだけでなく、その空間を活かすべく、多彩なイベントを企画して盛り上げようとしていることも感心しました。ちなみに明日13日には、旭川市出身でパリ五輪陸上女子やり投げで金メダルを獲得した北口榛花選手の凱旋パレードがあるそうです。

IMG_8515
旭川平和通買物公園のオフィシャルサイトはこちら

ウォーカブルシティはたしかに欧米発祥で、歩行者天国とは概念が違うかもしれません。しかし旭川のそれは、24時間365日歩行者専用道路であり、駅前広場と一体化され、イベントなども積極的に行っています。なので個人的には、日本におけるウォーカブルシティのパイオニアと呼んでもいいような気がしています。シンポジウムでは東京丸の内や大阪なんばなどが取り上げられましたが、このような地方の先進事例にも、もっと光が当たってほしいと思いました。

10月1日、東海道新幹線が開業して60周年を迎えました。このブログでは50周年の時も取り上げていますが、あのときからの10年間は、いままでとは違う出来事が起こったりしているので、別の視点で綴っていきたいと思います。

IMG_3056

いままでとは違う出来事、それは新型コロナウィルス感染症の流行による移動制限です。これまで新幹線は、東日本大震災や今年夏の豪雨などで、全線運休となったことがありました。自然の前では人間は無力であることを思い知らされました。ただ自然が相手の場合は、インフラの修復や天候の回復で、元に戻るかもしれないという希望を抱けます。しかしコロナ禍では当初、先が見えませんでした。そんな中、公共交通として運行を続けるという状況は、災害以上に厳しかったのではないかと回想しています。

202005

あの頃このブログでは、物流への活用や個室の設定などの提案をしましたが、このうち物流については今週、JR東日本が東北・上越・北陸新幹線などで貨物輸送に乗り出すというニュースがありました。

おそらくJR東日本でも、コロナ禍で何ができるかを考え、貨物という答えが導かれたのでしょう。その証拠に、2021年からは荷物輸送サービス「はこビュン」を本格的にスタートさせ、北海道の鮮魚などを東京に運んだりしてきました。2023年からは複数の車両を荷物専用としたり、荷物専用の臨時列車を仕立てたり、東京駅で東海道新幹線に載せ替えたりするトライアルを重ねています。現在は山陽・九州新幹線もこの種のサービスを手がけています。

今回のニュースでは、ひとつの列車すべてを貨物用とはせず、一部の車両を使って運ぶとのことですが、列車まるごとでの輸送も考えているようです。いずれの手法もトライアルはしており、始発/終着駅や車両基地のほか、一部の人が懸念している途中駅での積み下ろしも、大宮駅で屋上駐車場を活用したりして経験しています。つまり突然思いついたサービスではなく、何度も検証を重ねた結果の本格導入と見るべきでしょう。

ご存知の方も多いと思いますが、日本は物流の多くをトラックに依存しています。あるサービスが便利だったり安価だったりすると、そこに集中してしまうのはこの国の悪しき習慣のひとつであり、モーダルシフトをもっと推進すべきでしょう。その点、新幹線はトラックよりはるかに速く、しかも時間に正確に荷物を運ぶというメリットをアピールできます。日本の物流機能を維持するためにも、早期に軌道に乗ることが望まれます。

IMG_2725

個室については、そのものの実現はしていませんが、東海道・山陽新幹線のS workPシートなど、これまでより多様な車内にしようという動きは感じます。私も利用したことがありますが、普通車の3人掛け座席の中央にパーティションを設けたので、座席の横に小さな荷物を置くことができ、パソコンの画面を隣の人に見られることもなく、既存の設備を活用した仕立てとしては考えられていると思いました。

IMG_0887

ただしこの10年間に登場したJR以外の特急電車では、このブログでも紹介した近畿日本鉄道「ひのとり」や東武鉄道「スペーシアX」など、さらに踏み込んだ提案があることも事実です。そして東海道新幹線の普通車からは消えた車内販売については、個人的にはワゴンの到着を待つより買いに行ける場所があったほうがいいと思っているので、カフェスペースが欲しいところです。多様化のきざしは伝わってきているので、それを伸ばす方向での発展を期待しています。

このページのトップヘ