THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2024年12月

2024年最後のブログになります。今年は元日にいきなり能登半島地震が発生したことが、今も記憶に深く刻まれています。私は4月に現地を訪れ、翌月このブログでも報告しました。能登半島ではその後9月に豪雨災害にも見舞われており、現地の方々は大変な苦労をされていることと察します。そんな中でモビリティは臨機応変に対応を進めているようなので、現状を紹介していきます。

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まず奥能登2市2町と金沢駅を結ぶ北陸鉄道の特急バスは、これまで輪島市〜金沢駅間が4往復、珠洲市〜金沢駅間と能登町〜金沢駅間がそれぞれ1往復というダイヤでしたが、9月からは輪島市〜金沢駅間が6往復に増える一方、珠洲市と能登町からの便は輪島市の能登空港を経由し、穴水町にある穴水駅までの運行になる代わりに、それぞれ5往復に増便されました。能登空港や穴水駅をハブとする傾向がさらに強まったことになります。

直通がなくなったことを不便だと思う人もいるでしょう。しかしダイヤを見ると、穴水駅〜金沢駅間は約2時間かかるのに対し、能登町役場〜穴水駅間は約50分、珠洲市役所〜穴水駅館は約1時間10分なので、災害によって運転士不足がより深刻になっていることを考えれば、穴水駅〜金沢駅間2往復分の運転士を穴水駅までのバスに振り向け、トータルでの便数を増やしたことがわかります。

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ちなみに穴水駅から金沢駅までは、のと鉄道とJR西日本七尾線を乗り継ぐことでも行けます。所要時間はJRの特急を利用すると約1時間50分で、渋滞に影響されないというメリットもあります。移動の選択肢か増えたという点でも、今回のダイヤ改正は個人的には評価しています。

地域内交通では輪島市内で、震災直後に走り始めた市内循環無料バスに代わり、8月から運行をスタートしたAIオンデマンド交通「のらんけ+(プラス)」が注目です。運賃は無料のまま、停留所を約90か所と3倍以上に増やしており、スマートフォンアプリまたは電話で乗車の1時間前までに予約するというものです。需要に合わせて迅速に変化していく姿勢に好感を抱いています。

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「のらんけ+」を紹介する輪島市オフィシャルサイトはこちら

そして直近の話題では一昨日、赤字が続く北陸鉄道の浅野川線と石川線を、「みなし上下分離方式」で運行する事業計画が国に認定され、公的な支援を受けながら運行を続けることが決まりました。みなし上下分離とは、インフラの維持管理を別会社とせずに、国の財政的な支援を受けながら沿線の自治体などが維持費などの一部を負担するというもので、群馬県の上毛電気鉄道などで実例があります。

このうち地震による液状化現象で被害が出ている内灘町と金沢市を結ぶ浅野川線では、北陸新幹線が敦賀駅まで延伸した3月16日から、石川県観光ブランドプロデューサーも務める松任谷由実さん(ユーミン)の楽曲「acacia[アカシア]」が、内灘駅到着車内メロディーとして使われています。

内灘町は砂丘地で、砂防のためアカシア(正確にはニセアカシア)を植樹してきた歴史があり、内灘駅の北側にはアカシア1〜2丁目という地名もあります。以前この地を訪れた松任谷由実さんが、群生のアカシアに感動し歌を書いたとのことで、5月にはチャリティシングル「acacia[アカシア] / 春よ、来い(Nina Kraviz Remix)」として発売されており、収益は能登半島地震災害義援金として石川県に寄付されることになっています。

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たしかに復興はまだ始まったばかりですが、ここまで書いてきたように、バスを乗り継いで珠洲市を目指したり、電車で松任谷由実さんの楽曲を聴きながら内灘町に行ったりすることはできます。多くの人が被災地に目を向け続け、足を運んでいくことも、復興への後押しになると思います。皆さんも時間を見つけて、訪れてみてはいかがでしょうか。

*今年も当ブログにお付き合いいただき、ありがとうございました。次回の更新は2025年1月11日(土曜日)の予定です。良いお年をお迎えください。

2018年に国土交通省によって提案されて以来、全国各地で導入が進んでいるグリーンスローモビリティ(グリスロ)。最近は首都圏の住宅地でも見るようになりましたが、導入によってどのような効果が現れるかを調査した結果は、これまであまり見た記憶がありませんでした。そんな中、電動カートを供給しているヤマハ発動機が、大学との共同研究の結果を発表したので紹介します。

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ヤマハ発動機ではグリスロの導入により、1外出機会が増加し、2コミュニケーション・社会参画機会も増加した結果、3健康寿命が向上し、4行政負担が軽減するというビジョンを描いており、グリスロを使った移動が高齢者の健康促進や社会保障費の抑制に寄与するのではないかと考え、2021年から産学共創プラットフォームにおける千葉大学、日本福祉大学との共同研究を行っているということです。

その結果、同じ地域でグリスロを利用した人は利用しなかった人に比べて、外出機会や行動範囲が1.7〜1.9倍多く、人との交流は2.8〜5.2倍となっているそうです。さらに9割以上の利用者が車内で会話をしたということで、運転手や知人のほか、初対面の乗客との会話も目立っていたとのことです。つまり先に紹介したビジョンのうち1と2は数字で裏付けられたことになります。

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ヤマハ発動機の共同研究を伝えるニュースレターはこちら

ヤマハ発動機のグリスロ車両は横や後ろの窓がないオープンな構造で、アミューズメント的な要素もあり、乗ってみようという気になりやすいのではないでしょうか。しかも小柄なので乗員の距離が近く、開放的な雰囲気も手伝って、自然と運転手や他の乗客と話をするようになります。これは私も何度か乗って実感しているところです。

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そして3についても、現在論文発表の準備中とのことですが、グリスロ利用者の要支援・要介護リスク評価尺度が約1点減少傾向の可能性があるとしています。

この発表を見て、富山市が5年前に大学などと共同で、公共交通と高齢者の医療費の関係の調査結果を公表したことを思い出しました。高齢者が路面電車などに安価で乗れる「おでかけ定期券」利用者は、利用していない人より歩数が多く、医療費も少ないというものです。そういえば昨年開業した芳賀・宇都宮LRTでも今年7月のブログで書いたように、同様の結果を発表していました。

富山や宇都宮の結果を出したのが自治体だったのに対し、ヤマハ発動機はグリスロに車両を提供している民間事業者です。にもかかわらず大学と共同で、このような研究を行ったことに感心しました。同社では、「モビリティの可能性を広げ、人々が賑わう豊かなまちづくりを」をテーマとした「Town eMotion」という取り組みも進めており、私もイベントに出させていただきましたが、社会的、文化的な視点を持った企業のひとつとして好感を抱いています。

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グリスロの運賃は一回100円ぐらいというところが多く、それだけでは運行は到底不可能であり、税金や補助金が主体になります。日本には公共事業そのものが無駄遣いだと考える人もいます。私は公共交通はインフラのひとつであり、社会活動に不可欠と信じていますが、そう思わない人たちを説得するために、今回紹介したような研究結果はとても有益だと感じました。モビリティサービスに関わる多くの人が、このような手法を実践してほしいと考えています。

先月JR東日本から、千葉県を走る久留里線の久留里〜上総亀山間が、バスを中心とした新たな交通体系への転換が必要という発表がありました。つまり廃止に向けて動き出したことになります。首都圏の路線ではありますが、営業係数(100円の運賃収入を得るのに必要な営業費用)は1万3580円と、JR東日本のすべての区間で最高であり、1日平均の通過人員ではJR発足年の1987年度が823人だったのに対し、昨年度は10分の1以下の64人になっています。

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このブログでは、北海道や東北の基幹路線については、国が線路を管理する上下分離方式を導入しての維持に言及しましたが、今回についてはJR東日本の決定を尊重します。現地を何度か訪れて概況を知っていること、並行して高速バスが走っており、区間利用を認めれば代替交通手段になること、そして地域の交通の軸が大きく変わったことなどからです。

最後に挙げた交通の軸とは、神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ高速道路、東京湾アクアラインのことです。1997年に開通した当初は、普通車の通行料金が4000円で、まもなく3000円(ETC利用車は2320円)になったものの、多くの人にとって使おうとは思えない額でした。そこで2009年から、千葉県が差額分を負担する形で、ETC利用車のみ800円にしたのです。

おかげで木更津市を中心に、新たなベッドタウンが形成され、移住者が増えました。アウトレットモールをはじめとするレジャー施設もいくつか作られました。橋のたもとにある木更津金田インターチェンジの近くには、巨大なパークアンドライド駐車場を備えたバスターミナルがあり、多くの通勤者が利用しています。さらに県庁所在地の千葉市、房総半島南部や東部に行く高速道路も整備されました。

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久留里線も高速道路も、木更津市に向かうことは同じですが、自動車ならそのまま川崎市を経由して東京や横浜に行くことができます。千葉駅までの所要時間も高速道路のほうが短くてすみます。今回廃止が決まった区間を走る高速バスは、このルートで東京駅や千葉駅に向かっています。いずれも所要時間は短く、バスの本数も多いので、こちらを選ぶのは当然でしょう。

最初のほうで、1987年度に比べて昨年度の通過人員が激減したことを書きましたが、この間にアクアラインが開通し、続いて大幅値下げが行われたことを考えると、アクアラインを含めた高速道路の整備で移動手段が変わったことが、この結果になったと考えられます。千葉県にとっては、十分に元は取れたと言えるのではないでしょうか。

久留里線が走る房総半島内陸部には、いすみ鉄道と小湊鐵道も走っています。このうちいすみ鉄道は、元国鉄の木原線で、名前のとおり、久留里線とつなげて木更津駅と大原駅を結ぶ計画でした。ただし木原線と久留里線がつながり、小湊鐵道とともに運行の一体化が図られても、廃止は免れたかもしれませんが、メインルートがアクアラインを含めた高速道路であり続けることは変わらないのではないかという気がします。

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ただしアクアラインも、近年は休日を中心に渋滞が目立ち、昨年に続いて来年も、土日祝日の日中の値上げが発表されました。昨年7月からは土日祝日の午後1〜8時の上り線が、それまでの800円が1200円になりましたが、来年4月からは土日祝日の午後1〜7時の上り線は1600円になり、下り線も午前5〜7時は1000円とするそうです。

それでも東京への一極集中は続いているので、渋滞が完全に解消することはなく、さらなる値上げもあるかもしれません。なので木更津駅や館山駅を経由して安房鴨川駅に至る内房線は、状況次第では需要が戻る可能性もあります。

たとえば現在内房線を走る特急列車「さざなみ」は、東京駅の発車が不便な場所にある京葉線ホームからなのが難点ですが、休日は新宿駅始発もあり、私も乗ったことがあります。木更津駅までは1時間20分ほどと、アクアラインが渋滞していれば所要時間はさほど変わらず、運賃+料金も現時点でマイカーの料金+燃料代と同等です。つまり来年4月以降は割安になりそうです。言うまでもなく移動中は飲食はもちろん映画鑑賞や睡眠など自由に過ごすことができます。

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そして残った久留里線の木更津〜久留里間は、住宅地の中を走る区間もあるので、路線を維持するのであれば、増便と駅の追加で沿線住民の期待に応えていく必要があるでしょう。休日は駐車場が混雑で入れないほど人気の道の駅が、既存の駅から徒歩圏内にあるなど、潜在需要は残っていそうなので、そういうポイントを地道に掘り起こしていくことも重要です。

いずれにしても大事なのは、なにがなんでも自動車あるいは鉄道という画一的な考えではなく、状況に応じて最適な手段を提供し、移動する側は賢く選択するということだと思っています。

JR東日本が昨日、2026年3月からの運賃値上げを国土交通省に申請したというニュースがありました。鉄道事業者の値上げはこれに限ったことではなく、来年4月からはJR北海道や九州で予定されています。利用者数がコロナ禍以前に戻らないこと、多くのものの値段が上がっていること、賃金も上昇傾向であることなどを考えれば、値上げ自体は妥当だと考えます。

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ただ今回は、「電車特定区間」「山手線内」という2つの運賃区分を「幹線」に組み入れ、幹線と「地方交通線」の2本立てにしたことが目を惹きます。その結果、値上げ率は幹線が4.4%、地方交通線が5.2%なのに対し、電車特定区間は10.4%、山手線内は16.4%にまでなっています。紙のきっぷでの幹線の初乗り運賃は150円から160円へと10円アップに留まるのに対し、東京駅と渋谷・新宿・池袋駅の間は210円から260円になるそうです。

一極集中が進む首都圏の鉄道運賃が、他の幹線と同じ水準になるのは、不公平感が薄れて好ましいと感じています。ただしこれまでは、並行する他の鉄道に水準を合わせていたという側面もあったわけで、値上げによってJR以外に利用者が流れることも予想されます。ネットワークのバランスが崩れる可能性もあり、他の鉄道事業者にとっては利用者増は喜ばしい反面、それが負担になる懸念もあります。

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JR東日本のニュースリリースはこちら

たとえば私もよく使う東京〜新宿間は、中央線快速のほかに東京メトロ丸ノ内線も走っており、所要時間は中央線快速のほうがやや速いですが、運賃は同等です。それが新運賃では50円の値上げになるので、丸ノ内線を使う人が増えそうです。他にも並行している区間はいくつかありますが、丸ノ内線の列車は乗車定員が中央線快速の半分ほどなので、慢性化している遅れがさらにひどくなる可能性もあります。

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それを考えれば、欧州などで導入されている、ひとつの都市圏内の運賃体系を事業者によらず統一する方式が好ましいのではないかと感じます。やはり欧州などで一般的なゾーン制は、不公平感が大きくなると指摘する人もいますが、東京都交通局が運行する23区内の都営バスや都電の運賃は均一であり、これを鉄道に広げるような感じで、利用者にとっては運賃計算がはるかにわかりやすいはずです。

とはいえいきなり東京に全面展開するのは大変なので、そこまで規模が大きくない都市でトライしてはどうかと思います。さらに福岡などで導入しているクレジットカードのタッチ決済の上限運賃の仕組みなどを活用して、まずはクレジットカード利用者についてゾーン制を実施し、問題点をチェックするという手法もできるでしょう。

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一方で地方交通線の運賃は、今回も幹線より少し高めに設定されています。値上げを伝えるニュースリリースにも沿線人口の減少という言葉があり、先日廃止が発表された久留里線の一部区間を筆頭に、厳しい状況にあることが想像できます。こちらについては少し前にJR北海道をテーマにした回で触れたように、線路を国が保有する上下分離方式の導入を考えてもいいと思います。それにより利便性が高まれば、移動弱者の課題解決に寄与するのではないでしょうか。

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