THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2025年02月

仕事で佐賀県に行ってきました。現地のモビリティ事情もさることながら、デザインも気になっていました。「さがデザイン」というキャッチコピーが象徴しているように、佐賀県では県を挙げてデザインへの取り組みを進めており、2017年度のグッドデザイン賞でグッドデザイン・ベスト100を受賞するなど、各方面で評価されているからです。

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今回は九州佐賀国際空港からアクセスしましたが、玄関口である空港からデザインは始まっていました。1階の観光案内所、2階のスーベニアショップ「SAGAIR」など、柔らかいラインや自然素材の活用で、心地よい空間となっていました。観光案内所の上には、「HELLO! SAGA DESIGN」というメッセージも掲げられていて、佐賀がデザイン重視の地域というメッセージが伝わってきました。

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バスに乗り、まず目指したのは県立博物館です。始まったばかりの「SAGA DESIGN AWARD 2025」の入賞展示会が、敷地内にある女子洋画研究所で開催されていたからです。佐賀からはじまる、佐賀を心地よくする「デザイン」を発見し、讃え、県民へ広く知ってもらうというのがコンセプトで、製造時の環境負荷を抑えた器、牧場のデザイン経営など、多彩なモノ・コトが披露されていました。

博物館は佐賀城の敷地内にあり、県庁もこの中にあります。こちらも正面玄関奥のホールから地下食堂まで、心地よい空間になっていました。近くには、県立図書館や市村記念体育館の脇にある「こころざしのもり」と名付けられた広場があります。図書館は改装中でしたが、坂倉準三氏設計の体育館は健在で、独特のコントラストを見せていました。


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佐賀駅周辺にも見どころはあります。北口・南口駅前広場は最近リニューアルしたもので、駅の高架下には、飲食店とイベントスペースを融合した「サガハツ」があります。さらに南口から県庁方面に伸びる中央大通りは、都市の幹的存在ということから、歩道が広く、ベンチが用意されているうえに、広場もいくつか用意されていて、歩いてみたくなるまちづくりになっています。

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実は佐賀県、歩くライフスタイルへの転換を促す活動もしています。注目は「歩こう。佐賀県。」というわかりやすいキャッチコピーでしょう。 実際の計画でも、中央大通りの「トータルデザイン」「未来ビジョン」など目を引くプロジェクトが多く、ただ機能を追求するだけでなく、「心地よさ」や「豊かさ」にも踏み込んだまちづくりに好感を抱いています。


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訪れたのが週末ということもありますが、昨夜は多くの若者がサガハツの飲食店に集まり、今日は朝から南口の駅前広場に出店が並んでいました。駅そのものも、人口約22万人の地方都市としては活気がありました。もちろん福岡に鉄道やバスで出かける人もそれなりにいましたが、デザインへのこだわりが、ここで生活を楽しもうという気持ちにつながっているような気がしました。

東京都中央区と港区を走る「東京高速道路」が4月5日20時をもって閉鎖となり、接続する首都高速道路八重洲線は代替路が完成するまで、10年間にわたり通行止めになることが決まりました。現在は日本橋の上を走る首都高速を地下化するというプロジェクトが、本格的に動き出すことを教えられます。

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この道路については、ちょっと説明が必要かもしれません。首都高速の一部のようですが、独立した会社で、道路の下にある商店や飲食店からの賃料収入で維持管理をする方式で運営しています。なので通行料は無料です。ただし開通が1959年と首都高速より古いこともあり、高速道路と言いつつ最高速度が40km/hであり、車線は狭く、カーブが急であることも頭に入れておく必要があるでしょう。

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世界を見渡せば、市街地中心部に乗り入れる高速道路計画が中止になった例がいくつかあります。今は観光地として有名なパリのサン・マルタン運河も、かつて高速道路に変わるプランがありました。韓国ソウルのように、一度作った高速道路を撤去するという動きもあります。今回は撤去するのではなく、遊歩道に作り替えるということで、鉄道の廃線跡を遊歩道に活用したパリや米国ニューヨークなどの事例に近くなりそうです。

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海外の真似をする必要はない、東京独自の道路を考えれば良いという人もいるでしょう。しかし東京は最近、都道府県別の交通事故死者数でトップに立つことが多くなっているうえに、一極集中の問題もあります。東京で暮らすひとりとして、これ以上東京を便利にしなくてもいいという気持ちもあります。環境問題も避けては通れません。夏の関東平野の酷暑と言うべき状況は、東京の熱が風で北に押し寄せるためという解説を多く見るからです。

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さらに言えば、東京高速道路が外縁を走る銀座は、昔から「銀ぶら」という言葉があるように、歩いて楽しむまちです。先週紹介したソニーパークは「縦の銀ぶら」をコンセプトとしています。しかし現実は歩道は狭く、ウォーカブルシティとは言えません。本来は歩道幅をもっと広げるべきだと思いますが、東京高速道路が遊歩道化されれば、新しい銀ぶらのスタイルが楽しめそうです。

東京の道路で、約2kmもの自動車専用道路が遊歩道に変わるというのは、我が国のモビリティでは芳賀・宇都宮LRTに匹敵する革命的な出来事ではないかと思っています。LRTについては、計画時点では反対が多くありましたが、開業後はこのブログでも紹介しているように、予想以上の利用者数を記録しています。世界各地でLRTの導入が進んでいる理由を、具体例として示すことができたと感じています。

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東京の中心を走る自動車専用道路が歩行者専用道路に切り替わるというのは、それと同じぐらいインパクトのあることです。良くも悪くも東京の影響力は大きいので、改革の効果を多くの人が実感することで、LRT同様、世界中で広まりつつあるウォーカブルシティへの理解が、この国でも深まっていくことを期待しています。

東京・銀座の数寄屋橋交差点角にオープンしたソニーパークに行ってきました。ここにはかつて、ソニーの創業者のひとり盛田昭夫氏により作られたソニービルがありましたが、2017年に営業終了。その後の解体時に、敷地の角にあった小さなパブリックスペース「ソニースクエア」を拡張するという考えで公園化し、ソニーパークという名称でイベントなどを行ってきました。そして4年前から新しいビルの工事が始まり、今年1月26日にオープンしたものです。

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中に入って気づいたのは、ソニービルが採用していた、フロアが階段などを使い螺旋状につながるスキップフロアを継承していたことです。ソニービル時代はここにあった製品ショールームは、近くの銀座4丁目交差点角にある銀座プレイスに移転し、こちらはアクティビティの場となったこともあり、階段やスロープなどの動線そのものをアピールするデザインになっていました。

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もちろん車いすやベビーカーの利用者などのために、エレベーターも3基用意されています。でも私は階段を使いました。理由はこの建築を、ゆっくり移動しながら鑑賞したいと思ったからです。たしかに階段は体力を使うし、バリアフリーとは言えません。でも目に映る景色の変化をじっくり味わいながら、移動することができます。ソニーパークはそこまで考えてこの造形を与えたのかもしれません。

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そういえばほかにも、階段を効果的に使った建築はありました。以前このブログでも紹介した、大阪の南海電鉄難波駅はそのひとつで、駅ビルに入ると3階の改札口に向かう「大階段」があります。難波駅が2階から3階に移動したのは1970年代で、すでにエスカレーターが普及していたはずですが、ミナミのターミナルにふさわしい堂々とした存在感は、階段でないと実現できなかったのではないかと感じました。

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本州と四国を結ぶしまなみ海道の途中、愛媛県今治市の大島にある亀老山(きろうさん)展望台も印象に残っています。景観を乱さずに眺望をもたらす「見えない建築」というテーマで隈研吾氏が設計。山頂にスリットを刻んでその中に建造物を入れるという凝った構造で、階段を上った先にある展望台からの絶景もさることながら、階段や通路を複雑に配したデザインもまた見物だと思っています。

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それに比べるとエスカレーターやエレベーターは個性的なものが少ないですが、例外もあります。私が乗った中では、パリ郊外のシャルル・ド・ゴール空港第1ターミナルのエスカレーター、グランダルシュ(新凱旋門)にある透明なカプセル型のエレベーターなどです。ユニバーサルデザインが重要になっている今こそ、万人向けでありながら乗ること自体が楽しみになる、このようなデザインを求めたいものです。

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ただし私は健常者のひとりとして、健康維持のためにも、環境保護のためにも、なるべく階段を使ったほうが良いと考えています。ウォーカブルシティにも通じるこのマインドを多くの人が抱くために、階段のデザインはもっと創造的であってほしいと、ソニーパークのフロアを上り下りしながら思いました。

このブログでは何度か紹介している「レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング(RDE)」。昨年11月には記念すべき第10回が栃木県の宇都宮市で、「ライトラインが描くまちの未来―芳賀・宇都宮ライトレールの誕生と都市のデザイン―」というテーマで行われました。私が担当したレポートが今週公開となったので、興味のある方はお読みいただければと思いますが、ここでは記録を取りながらもっとも印象に残ったことを取り上げます。それはカッコよさについてです。

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この日はライトラインの計画や工事に関わった宇都宮市と、運行を担当する宇都宮ライトレールの担当者がキーノートスピーチで登壇しましたが、2人ともこの件を取り上げたので驚きました。宇都宮市からは市長の言葉として、「車両デザインにはこだわってほしい」という言葉が紹介され、宇都宮ライトレールでは誰もがあの電車に乗ってみたいと思わせる形をお願いしたとのこと。おかげで想定外の利用があり、街が賑やかになったと話していました。



近年の鉄軌道の通勤車両は、基本設計を共通として、先頭部の造形や車体の色などで個性を打ち出すことが多くなっています。ライトラインで言えば、車両は福井鉄道を走る「FUKURAM」と基本構造が同じです。しかし先頭は流線型になるよう、1.5m長くしています。これを受けて、トータルデザインを担当したGKデザイングループでは、先頭を伸ばすと視界を妨げられることから、ピラーを先頭に向けて細くするなどの工夫をしたという説明がありました。

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カッコよさの理由について宇都宮市では、福岡県を走るJR九州の路線にスタイリッシュな新型車両が導入されたところ、街並みや市民の服装が洗練されていったというエピソードを挙げ、宇都宮ライトレールでは欧州のLRTの多くが流線型で、街に賑わいを生み出す理由のひとつになっていると話していました。

たしかに私が欧州で乗ったLRTをはじめとする地域鉄道用の車両は、それほどスピードを出さないにもかかわらず、流線型に仕立てた車両が多かったことを思い出しました。日常的に利用する乗り物にも、こうした考え方は大切であることを教えられました。

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もちろんこれは地上を走るすべての乗り物に共通して言えることだと思います。しかし日本では、コストやスペースなどの効率を重視する傾向があります。公共交通だけでなく、個人が自由に買って乗ることができる乗用車でさえも、価格や燃費、使い勝手など、いろいろな機能を背負わせる反面、美しさやカッコよさにあまりこだわらない人が多いと感じています。

その理由として、欠点が少ないことを優先し、周囲と合わせることを大事にする国民性はありますが、すべての移動をマイカーに託すような考え方も、関係していると思います。逆にLRTの停留場の近くに住んだりすれば、移動の一部をLRTで賄えるので、デザインのプライオリティは上がりそうです。

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自分も似たような立場で、東京23区内で暮らし、移動の多くは公共交通ということもあり、上の愛車に20年ぐらい乗っています。デザインに惹かれて選んだので飽きず、結果的にお金の節約にもなっています。服装が洗練されたかは分かりませんが、モビリティ以外のデザインにも興味を持つようになったことで、日々の生活に彩りと深みが加わっていると実感しています。

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