THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2025年06月

今年最初のブログで自動運転について取り上げましたが、その後バスの自動運転レベル4を体験することができました。茨城県日立市の「ひたちBRT」がそれで、専用道区間でのレベル4運行を今年2月から始めています。取材内容は自動車メディア「AUTOCAR JAPAN」で記事にしましたが、人間のドライバーの運転と比べると、道路脇の歩道を歩く人に反応して徐行したりはしたものの、アクセルやブレーキ、ハンドルの扱いは自然で違和感はありませんでした。

DSC03213

乗車体験以上に印象的だったのは、車両を運行する茨城交通の担当者の話です。レベル2での実証実験だった最初は加速やブレーキ、ハンドル操作などがぎこちなく不安もあったが、細かい動作をひとつひとつ改善していくことで、路線バスとしての営業運行が開始できるレベルになったと答えていました。私も国内外でレベル2の車両にいろいろ乗って、しだいに運転が上手になっていることを実感しています。なので今後、移動サービスのレベル4が国内に普及していくことに疑問は持ちません。

鉄道の自動化も進んでいます。鉄道については、国際電気標準会議(IEC)が定義する「IEC 62267」でレベルが定められていて、国土交通省によると下の表のようになっています。自動車のそれに準じたレベルですが、感心するのはレベル分けに自動運転という言葉は用いず、GoA(Grade of Automation)という呼び名にしていることです。レベル1やレベル2に自動運転という言葉を使うより、このほうが誤解を招かない表現であり、自動車業界もこの表記を取り入れてはどうかと思ってます。
鉄道の自動運転レベル
日本国内で最近、多くの鉄道事業者が取り組んでいるのがGoA2.5です。免許が必要な運転士の代わりに車掌のみの乗務が可能というところがGoA2との違いです。いち早く対応したのはJR九州で、2020 年 12 月から福岡県内の香椎線で実証運転を実施し、2024 年 3 月より GOA2.5 での運転を開始しています。最近は東京メトロ丸ノ内線や大阪メトロ中央線などでも実証実験が始まっているようです。

IMG_6814

自家用車では、世界初のレベル3を実現した本田技研工業が、上級セダン「アコード」にハンズオフ(手放し運転)などが可能となる高度なレベル2を搭載して発売しました。こちらについては自動車メディア「webCG」で報告しています。レベル3を経験したメーカーがレベル2を採用したことで、技術の後退と思う人がいるかもしれませんが、個人的には納得しています。

レベル3については国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で2020年6月、国際基準が成立していて、高速道路などにおける時速60キロ以下の渋滞時などにおいて作動する車線維持機能に限定した自動運転システムと定義されています。今回乗ったアコードは、レベル2なのでシステムではなく人間が運転主体になるという違いはありますが、高速道路の制限速度の上限でもハンズオフが可能です。

IMG_7269 (1)

しかもレベル3は、システムが運転の交代を要請したときは、人間が即座に変わらなければいけないという条件があります。これを「レベル3の罠」と呼ぶ人もおり、最近は人気漫画「ゴルゴ13」でも取り上げられました。漫画を読んでないので内容は分かりませんが、私もレベル3は曖昧な部分が多いと思っており、移動サービスや物流サービスのようにレベル2からレベル4への進化が自然だと考えています。

今年最初のブログではタクシーの自動運転の話もしましたが、そのとき触れた米国ウェイモの自動運転実験車両を、東京都内で見る機会が出てきました。レベル4タクシーの運行実績では世界トップレベルということもあり、あれを自家用車として買えばいいと思う人がいるかもしれません。ただし現時点での車両価格は15万ドル(2000万円以上)だそうです。今後、技術革新や量産効果でコストは下がっていく可能性はありますが、人間のドライバー以上の安全性をシステム側で確保するのは大変だと予想されます。

IMG_7524

それに仮にレベル4の自家用車が出てきたとしても、同じレベル4の大型トラックが走る高速道路やタクシーが運用される地域など限定となるはずで、いつでもどこでも自動運転ということにはなりません。それを実現するのはレベル5ですが、既存の交通ルールをもれなく遵守するうえに、逆走やペダル踏み間違いによる暴走などあらゆる事態を、日本全国すべての道路で想定しておかなければなりません。





おまけに日本は、自動運転の事故に関して世界的に厳しい国で、大阪・関西万博の自動運転バスが駐車場で待機中に自動パーキングブレーキが作動しておらず、コンクリート壁に接触する事故を起こしたことで、約2か月間、運行が休止されました。これを含めて、自動運転にまつわる動きを見れば見るほど、この国でレベル5の自家用車が走り回るのはかなり先になるだろうと思いが強くなっています。

日本に来る外国人観光客が増えていることは、知っている人も多いと思います。オーバーツーリズムの問題も各地で発生しているようです。ただ、世界には上があります。フランスはその代表で、昨年の外国人観光客数は五輪・パラリンピックがあったこともあり、1億人を超えたそうです。もちろん世界1位で、約6800万人の人口を大きく上回っているわけですから、驚くべき数字です。

フランスが観光に積極的であることは、以前からお付き合いがあるフランス観光開発機構の活動からも実感します。メールニュースでさまざまな情報を届けてくれるだけでなく、現地の担当者を招いてのプレゼンテーションやワークショップもひんぱんに行っているからです。今月も旅行業とメディア関係者を対象としたワークショップがあったので参加してきたのですが、そこで面白い取り組みを教えてもらいました。

Château des ducs de Bretagne, Nantes © Philippe Piron _ LVAN
Nantes © Philippe Piron _ LVAN

舞台はパリからTGV(高速鉄道)で2時間の場所にある、ロワール川沿いの都市ナントです。フランス王国に併合される前、当時のブルターニュ公によって公城が建てられ、その後はアフリカ大陸とアメリカ大陸を結ぶ三角貿易の港として発展。造船業も盛んになりました。SF小説の父と呼ばれる作家ジュール・ヴェルヌの生まれ故郷であるなど、文化的な要素もありますが、以前は産業のイメージが強い都市でした。

Le Grand Éléphant
Nantes © David Gallard _ LVAN

しかし近年のナントは観光都市としても注目されています。その象徴と言えるのが、造船所の跡地を活用して作られた遊園地 「レ・マシン・ド・リル」で、街のシンボルにもなっている高さ12mの象「グランド・エレファント」をはじめ、さまざまな機械仕掛けの生き物が、来場者に驚きと喜びをもたらしています。

さらに観光公社「ヴォワヤージュ・ア・ナント」の担当者からは、興味深い仕掛けを教えてもらいました。市内にある130以上のアートスポットを巡る23kmのルートを考え、歩道などに細い緑色の線を描いた「グリーンライン」です。最近はSNSの普及もあって、特定の場所に観光客が固まりがちですが、それを分散させる効果もありそうです。訪れる側から見ても知らない場所を発見できたり、効率的に巡ることができたりというメリットがあります。

スクリーンショット 2025-06-20 22.09.42
スクリーンショット 2025-06-20 22.02.00
ヴォワヤージュ・ア・ナントのオフィシャルサイトはこちら

ただヴォワヤージュ・ア・ナントの人によると、グリーンラインのルート選定は簡単ではなかったとのこと。商店や飲食店などが、自分たちの店の前に引いてほしいというお願いが多く、調整が大変だったそうです。またナントで話題になったことを受けて、他の都市でも導入を考えたそうですが、やはり商店などの調整がうまくいかず、採用されなかったという話も聞きました。

これ以外にもナントには観光客向けの便利なサービスがあります。そのひとつが「パス・ナント」で、有効期間は24/48/72時間および7日が選べ、48時間パスの場合39ユーロで公共交通のほかブルターニュ公城内の歴史博物館 、レ・マシン・ド・リルのギャラリーなど50のアトラクションが無料になるというものです。また平坦な土地なので、サイクリングも向いていそうです。

スクリーンショット 2025-06-24 9.40.29

ナントでは毎年夏にアートイベントを行なっており、今年は6月28日から8月31日まで開催されるそうです。公共空間にさまざまな現代美術が展示され、歴史博物館では葛飾北斎の展覧会が行われるとのことです。時間とお金に余裕がある人は現地を訪れてみてはいかがでしょうか。また観光客を誘致したいと考えている国内の地方都市の関係者は、ナントをはじめとするフランスのアイデアを参考にしてみてはどうかと思っています。

大阪市のうめきた公園を取り上げた2回前のブログで、大阪・関西万博に行ったことを書きました。今回はその話をします。といっても、目玉になるはずだったエアモビリティ(私は「空飛ぶクルマ」という表現は適切でないと感じるひとりです)には興味がなく、自動運転バスは営業時間外の事故の影響で運転中止だったりしたので、それ以外のアクセスや場内のモビリティをチェックしつつ、展示物の一部を見て回りました。

DSC04170

そのときの様子は、自動車専門ウェブサイト「AUTOCAR JAPAN」の連載記事にまとめたので、興味のある方はそちらを見ていただくとして、ここでは訪れた施設のひとつにスポットを当てます。それはルクセンブルク・パビリオンです。ブログでも以前紹介したように、3年前に行って感動したというのが訪問の理由ですが、中に入って驚いたのは、当時も紹介した無料公共交通を、アピールポイントのひとつとしていたことです。



他のいくつかのパビリオンと同じように、ルクセンブルクは20人ぐらいのグループに分かれて内部を巡っていきます。最初に入ったのは、この国の多様な生き方を紹介する部屋で、5つぐらいの小さなブースの前のサイネージに、現地で暮らす人々が映し出され、自分たちの生活を紹介していました。その中にLRTの車内を再現した部屋があり、サイネージに映し出された人が、無料公共交通の良さに触れていたのです。

DSC04183

次の空間は、中央に地球を思わせ大きく光る球体があり、周辺にスクリーンが並んでいて、ルクセンブルクの先進性を紹介するアイコンが並んでいたのですが、そこにも無料公共交通がありました。たまたま隣の人がアイコンを押したので覗いてみると、説明が出ていました。混雑もあり訪れたパビリオンは片手で数えるほどなので、くわしくは分かりませんが、ここまで公共交通を前面に押し出したのは、他にないのではないでしょうか。

DSC04199

ルクセンブルクに行ったことのある日本人は少ないでしょう。無料公共交通を体験した人は、数えるほどだと思います。それが証拠にGoogleで調べると、3年前の私の記事がトップに出てきます。だからこそ、このことを万博で紹介するのは、ルクセンブルクにとってだけでなく、日本にとっても価値があ流と考えています。

公共交通の多くを民間企業が運営し、黒字赤字を問題にする日本の考え方が、世界的に特異であることは、このブログで何度も書いてきましたが、多くの日本人はそれを当たり前と思っています。しかし無料となれば、そもそも黒字赤字という議論が成り立ちません。パビリオンを訪れた日本人が、自分たちの国とは違う運営をしていることに気づき、日本もその方法に近づけてほしいと思うことを期待しています。



ルクセンブルクのパビリオンには続きがあります。最後の部屋では、移動しない良さも味わえました。メディアでも紹介されていますが、ネットに寝転びながら、自分のまわりに映し出される動画を見て、空中を浮遊しているような感覚を味わえるのです。万博のようなイベント会場はとにかく歩きます。だからこそ寝転んで楽しめるのは、多くの人がありがたいと思ったはずです。個人的には無料公共交通にも通じる、フリーであることの喜びが堪能できたのでした。

IMG_7047

パビリオンの外観も感心しました。グレーのパネルはベニヤ板の表面を塗装しただけで、国旗の色でもあるブルーとレッドのストライプは荷造り用バンドです。GDPで世界トップクラスの国らしからぬセンスに感心しました。万博の建造物というと、大屋根リングやトイレに多額の費用がかけられていることが報道されています。万博すべてがそういう傾向だと思い込み、こうした素晴らしい発見の機会を失うのは、もったいないことです。

DSC04173

パビリオンにも紹介がありましたが、ルクセンブルクの面積は神奈川県とほぼ同じ、人口は70万人弱で静岡市と同等です。そんな国の規模を考えれば、異例に攻めたパビリオンだと感じました。万博を機に、自分たちの存在を多くの人に知ってもらい、つながりを作ってほしいという気持ちでしょう。その姿勢は国内の地方都市も参考になりそうな気がするし、なによりも無料公共交通を大きく扱っていることは、モビリティに携わる人間として嬉しいことです。万博に行く予定がある人は、ぜひ訪れてみてください。

2年前のこのブログで、「鎌倉ワーケーションWEEK」のトークイベントに出させていただくという告知をしました。その後もこの活動は、毎年春と秋に継続してきましたが、今年の春から「鎌倉ウェルビーイングラボ」に発展。研修や地域共創のプログラム、ワーケーションやキャリアコーチング、環境学習・視察ツアーなど、より幅広い活動をしていくことになっています。

IMG_7194

その活動のひとつとして、今月から来月にかけて3回にわたり、「知りたいね、未来の街のこと〜徒歩15分歳の幸せ〜」が、ヤマハ発動機の街づくり活動TOWN EMOTIONとの共催で開催されます。このうち体験コースになる6月29日(日)9:00〜12:00開催の第2回「歩いて感じる、未来の街の作り方」に、一般社団法人あるっこ代表理事の並木有咲さんとともに、登壇させていただくことになりました。

以前、西隣の藤沢市に住んでいたこともあって、鎌倉市はなじみのある街のひとつです。しかし私が通っていた頃と比べると、外国人観光客が激増したこともあり、鎌倉駅周辺の幹線道路や江ノ島電鉄の混雑が酷くなっていると感じています。さらに昔から発展していたうえに、山がちな地形もあって、高齢者の移動問題も深刻になっているようです。

IMG_6752 (1)

そんな中で鎌倉市では、JR東日本東海道本線の新駅が藤沢市の村岡地区に開業することを契機に、湘南モノレール湘南深沢駅がある深沢地区の再開発を進めようとしています。これから大きく変わろうとしているこの地区について、どのような街を未来に残していきたいのか、どのような街で暮らしたいのか、立ち止まっていっしょに考えていこうという場になっています。

IMG_6773 (1)

今回のイベントの発端になっているのは、建築家、哲学者、人類学者、ケアの専門家、デベロッパー、官公庁職員などさまざまな分野の専門家が集まり2023年4月に立ち上がった「庭プロジェクト」が、藤沢市村岡地区および鎌倉市深沢地区についての研究に基づいて、今年4月に両市に提出した提案書がベースになっているようです。

ここはもともと旧国鉄(日本国有鉄道)の車両工場や貨物駅などがあった場所で、経緯としては前回紹介した大阪市のうめきた公園に似ています。私も先月、新駅側から湘南深沢駅に向かうルートで現地を視察してきました。柏尾川を渡ると広大な空き地が広がっており、はるか向こうにモノレールが見えます。真っ白なキャンパスというフレーズを思い出しました。そして関係者からいただいた予想図を見て、ワクワク感が高まりつつあります。

main

もうひとつ感じたのは、私が藤沢市民だった頃は、鎌倉市に入った途端に道路の整備状況が変わるなど、仲が良くなさそうに思えていた両市が、共同で新駅周辺のプロジェクトに取り組んでいることです。隣同士で市制施行も1年違いなのに、街のキャラクターはかなり違う。だからこそ、友だち付き合いのようにいっしょに行動することで、新しい発見や感動が育まれると思います。その点についても期待しています。

IMG_6758 (1)

3回ともに参加は無料です。申し込みは、鎌倉ウェルビーイングラボのオフィシャルサイトにあるイベント紹介ページからお願いします。直前の案内になってしまいましたが明日の第一回、7月6日日曜日の第3回の申し込みもここで受付しているようです。鎌倉にかりがある人もない人も、歴史のある街がどのように変わろうとしているのか体感するのは貴重な機会だと思います。気になる方はぜひ申し込んでください。

このページのトップヘ