THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2025年08月

日本には島がいくつあるか、知っていますか? 6,852島と答える人がいるかもしれませんが、これは1987年に海上保安庁が公表したもので、2年前に国土地理院が数え直したところ、14,125島と倍以上になりました。測量技術の進歩で、地図に描かれた陸地のうち、自然に形成されたと判断した周囲長0.1km以上の陸地を対象に数えたことが、倍以上になった理由だそうです。

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離島と呼ばれるのはこのうち、北海道、本州、四国、九州、沖縄本島以外で、ほとんどは無人島ですが、400あまりの島には人が住んでいます。そのうちのひとつ、静岡県熱海市の初島に、下の写真にある新しい高速船を就航し、観光施設も運営する富士急行のプレスツアーで行ってきました。船や施設はAUTOCAR JAPANの連載で取り上げましたが、当日はそれ以外の案内もしていただいたので、離島のモビリティというテーマで紹介していきます。

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初島は熱海市の中心部から10kmほど離れた相模湾にあり、人口は220人ぐらい。観光業のほか漁業、農業に従事する人が住んでいるようです。一周4kmほどなので、自転車で十分と考える人がいそうですが、現実にはそれは大変です。灯台がある最高峰の海抜は51mあるので、海沿い以外はほとんど山道だからです。公共交通も存在しないので、現地の人の移動手段は原付と軽トラックがメインでした。

気になったのは燃料となるガソリンです。電気や水道は本土からケーブルやパイプで供給され、携帯電話は灯台の近くに基地局がありましたが、高速船は車両は積めず、燃料の運搬もできません。島の外に行く必要がないので、原付と軽トラックという選択になるのかもしれませんが、ガソリンは専用の船で運んでいるそうで、海が荒れたりすると供給はどうなるのか、不安を抱きました。



島内は低速短距離移動なので、電動のほうがいろいろな面で便利そうです。ただ海岸を離れるとすぐに坂道が始まるうえに、熱海市は高齢化率が50%近くと、静岡県の市でもっとも高いことを考えると、私が体験した車両では、3輪あるいは4輪の特定小型原付がふさわしいと感じました。大都市では批判が集まっている特定小型原付ですが、初島のような場所にはむしろマッチしていると感じました。

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自動車は移動よりも、農産物や鮮魚などの運搬が主な役目になりそうなので、軽トラックが適役です。ただし島内はもちろん高速道路はないので、以前ブログで書いたように、高速道路を走行不可能とする代わりに保安基準を緩和し、価格を下げた車両があれば、そのほうが望ましいでしょう。

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過去に訪れた島を思い出しながら、初島を巡って、100の島があれば100通りのモビリティが求められると感じました。住民が少なく、土地が狭く、産業が限定されることが関係しているでしょう。軽トラックや原付は大量生産なので、地域のニーズに対応しにくい面があります。日本は島国であるわけですから、法規面でも構造面でも、もう少し離島の生活に柔軟に対応できるようになって良いのではないかと思いました。

栃木県を走る芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)が、今月26日に開業2周年を迎えます。それを前にした19日には、累計利用者数が1000万人の大台に達したという発表がありました。開業前の想定より半年ほど早い到達とのことです。

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なぜここまでの利用者を集めたのでしょうか。沿線に住む人そのものが増えたことは大きいと思います。先月のブログで、自宅の近くにある東京メトロ方南町駅を取り上げたときに、直通運転開始前と現在の人口比較をしたので、今回も開業前の2015年と今年3月の宇都宮市総人口、市役所のある旭1丁目、以前ブログで取り上げた新設の小学校に近いゆいの杜7丁目で比べると、次のようになりました。

宇都宮市合計  519,904人→513,086人 98.7%
旭1丁目     485人→412 人            84.9%
ゆいの杜7丁目  594 人→1,844人           310.4%

市役所のある地域は、市の平均をやや上回る減り幅なのに対して、ゆいの杜7丁目は爆発的な伸びを示しています。東京のような大都市ではなく、タワーマンションが林立しているわけでもないのにこの増加は驚くべきで、宇都宮市全体の人口が微減というレベルに収まっているのは、ライトライン沿線の人口増加のおかげとも想像できます。それだけLRTには、人を惹きつける力があるということでしょう。

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人口が増えればその分、自動車の数も増え、交通渋滞に悩まされるということになりそうです。しかし栃木県などの調査結果によると、LRT開業後は周辺道路の渋滞は減少傾向とのこと。増加した住民は移動の一部をLRTなどの公共交通で行っていることが窺えます。

さらに以前から住んでいる住民も、移動の一部をLRTに振り替えたと考えられます。ライトラインは開業当初は現金での運賃支払いが多く、遅延が目立っていましたが、現在は交通系ICカードの利用率が向上し、運賃収受による遅れはほとんどなくなりました。これまで公共交通とは無縁だった人たちが、LRTを使おうとカードを持つようになったからでしょう。

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栃木県は、自動車検査登録情報協会の統計によると、自家用乗用車の世帯当たり普及台数が都道府県別で第5位で、その数は1.55台でした(昨年3月末現在)。つまり半分ぐらいの世帯は複数所有ということになります。ただし日本自動車工業会が昨年発表した、2023年の自家用車市場動向調査では、車両価格の上昇を負担に感じ、減車を考えている人が増えているという意見も出ています。

たしかに今年モデルチェンジしたダイハツ工業の軽乗用車「ムーヴ」の価格は135.85~202.4万円と、30年前に登場した初代の約1.7倍です。日本人の平均年収が30年間ほとんど横ばいであることを考えると、負担は大きくなっているはずです。それでも代わりの交通手段がなければ、我慢して所有するしかないですが、この地域にはライトラインがあります。

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公共交通と自動車を対立軸に置く人は今も多いですが、自動車で賄っていた移動をすべて公共交通に置き換えるのは、かなり難しいことです。しかし2台ある自動車を1台に減らして、公共交通と併用するなら、車両価格の上昇も追い風になるし、ハードルはかなり低いはずです。自家用車の普及率が高い栃木県で、ライトラインが予想以上の利用者を記録している理由は、そんな考え方をする人が増えているということなのでしょう。

でもこうした動きは、日本に先駆けてLRTが導入された欧米では珍しくないことです。日本はこれまで新設のLRTがなかったので、効果を懐疑的に見る人も多かったようですが、ライトラインの成功で、LRTにはまちの賑わいを取り戻す力があり、自家用車との共存が可能であることが、理解されつつあります。そのきっかけをこの国にもたらしたことが、ライトラインの大きな価値だと思っています。

今から80年前の今日、長崎に原爆が投下されました。私は実際にその場にいたわけではないし、このまちで暮らしたことすらありませんが、長崎が最後の被爆地であり続けるためにも、世界中のひとりでも多くの人が広島とともにここを訪れ、地元の人たちや展示施設などを通して惨状を知り、後世に伝えていくことが大事であると、今日改めて思いました。

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そのためには、多くの人が安全快適に長崎を巡ることができることもまた、大切であると考えます。今年の春、久しぶりに長崎を訪れる機会があり、公共交通を使っていくつかの場所を訪れたので、モビリティ視点で気づいたことを綴っていくことにします。

まず取り上げるのは、JR九州西九州新幹線開業にともなって、150m西側に移設された長崎駅です。これまで駅があった部分は駅前広場、商業施設、ホテル、多目的広場などに生まれ変わりましたが、逆に旧駅の東側を走る国道202号線上の路面電車(長崎電気軌道)停留所、国道に面した路線バス停留所や高速バスのターミナルは遠くなってしまいました。

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駅から路面電車の停留所に向かって歩くと、3分の2ほど進んだところに、レールが埋め込まれていました。ここが旧駅のあったところだそうです。この位置であれば、路面電車やバスへの乗り換えは楽だったでしょう。

同じ被爆地である広島では、8月6日を前に、路面電車がJR西日本の広島駅ビル2階に乗り入れることで、山陽新幹線をはじめとするJR各線との乗り換えが楽になりました。しかも長崎県によると、長崎駅の駅前広場は観光バスとタクシーの乗降および待機に使われる以外は、一般車の駐車場になるとのこと。マイカー移動が多い地域であることは理解しますが、ウォーカブルシティの考え方が国内でも根付きつつあるので、複雑な気持ちを抱きました。 

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長崎県「長崎市中心部の交通結節等検討会議」のウェブサイトはこちら

路面電車の路線図を見ると、平和公園、原爆資料館、出島、めがね橋、大浦天主堂など、有名な観光地をそのまま名前とした停留場がいくつもあります。市役所、メディカルセンター、長崎大学といった停留場名も目にします。それだけ地域住民にとっても観光客にとっても重要な移動手段なのでしょう。だからこそ駅との直結を考えてほしいし、すべての路線バスが駅前広場から乗れるようになってほしいものです。

一方で長崎には、感心する部分もありました。坂道を楽に上り下りできるような仕掛けが各所に用意されていることです。たとえば有名な観光地のひとつであるグラバー園の周辺には、丘の上にあることもあり、エスカレーターや斜行エレベーター、動く歩道などがあり、近くの大浦天主堂を含めて快適に巡ることができました。

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山頂からの夜景がすばらしい稲佐山には、ロープウェイとスロープカーでアクセス可能です。なかでも印象的だったのは、5年前に運行を開始したスロープカーで、モノレールのように1本のレールに跨りつつ、斜面を走行中も車体は常に水平に保つという凝った構造で、ロープウェイともどもフェラーリなどを手がけた工業デザイナー奥山清行氏が関わっており、洗練された移動空間に仕上がっていました。

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もちろんこうした移動手段が用意されているのは一部で、多くの地域ではアップダウンに苦労しながらの生活が続いています。多くの地域と同じように、人口減少や高齢化も進んでいます。すべての人に安全快適なモビリティを提供するのは大変かもしれません。なので長崎駅周辺など、幹になるところから改革に取り組んでほしいものです。それが多くの人に長崎を知ってもらうために、大事なことだと考えています。

*来週は夏休みをいただきます。次回の更新は8月23日の予定です。

昨年夏、私はJR西日本(西日本旅客鉄道)の芸備線に乗っていました。同線は3年前、JR西日本が輸送密度(平均通過人員)1日2000人未満の線区の収支率などを開示した中で、備中神代〜備後庄原間は2019年度の平均通過人員(輸送密度)が1日あたり100人以下、うち東城〜備後落合間は11人にすぎず、全国に先駆けて「再構築協議会」が立ち上げられたことで話題になりました。 

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その後、東城〜備後落合間の輸送密度は20人と少し好転しましたが、極端に少ないことは変わりなく、気になって足を運んだのです。実際は昨年のブログにあるとおり、平日にもかかわらず予想をはるかに回る利用者がいて驚かされました。なので1日3往復しかなかった列車をもう少し増やせば、現地で滞在しようと考える人が出てくるのではないかという提案もしました。

その提案が参考になったかどうか分かりませんが、先月19日から、再構築協議会による増便の実証実験が始まりました。芸備線の列車が発着する伯備線新見駅と備後落合駅、備後落合駅と広島駅の間で、土日祝日に上下1本ずつ増便するというもので、駅から観光地まで移動する周遊バスも増やしているとのこと。さらに8月21日からは平日の夕方に備後落合〜三次駅の間で運転時間の延長なども行い、地域の人の利便性向上につながるかについても調べるとしています。

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関連するニュースをいくつか読み返すと、実現にあたっては国土交通省と自治体、JR西日本の間で意見の相違もあったようです。従来はこうした溝を埋められず、議論が打ち切りとなって廃線ということもありました。今回のように、実際に走らせて効果を見るという動きは、ローカル線の存廃議論ではあまりないことです。再構築協議会がきっかけになったと言えるかもしれません。

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それでも地元住民と日本人観光客だけでは、利用者の大幅な増加は難しいかもしれません。その場合は、外国人観光客に目を向けてはどうでしょうか。芸備線はJRなので、外国人向けの「ジャパンレールパス」が使えます。しかも広島県内は呉、尾道、西条など、JRで巡るのに適した観光地が多くあります。そこに庄原を混ぜてプロモーションをしてはどうかと思っています。

川沿いを走り続けるのに線路が木に覆われて、景色があまり楽しめないことも気になりました。自然環境を害さない範囲で、沿線の樹木に手を入れてもらい、車窓からの眺望が楽しめるようにしてほしいと感じました。地域住民は線路改良による高速化も望んでいるはずですが、現在の線路のままでも、少し手を入れるだけで魅力は高まるのではないでしょうか。

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もちろんさまざまな実験を行っても、期待したほど利用者が集まらないこともあるでしょう。その場合は自動車による乗合交通への転換を考えて良いでしょう。ただ繰り返しになりますが、完璧でなくてもまず試してみるというのは、最近の日本ではなかなか目にしないマインドで、評価できることです。だからこそ、可能な範囲で挑戦を続けていってほしいと思っています。

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