THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2025年10月

路線バスを取り巻く環境が厳しく、路線の廃止や減便が各地で発生していることは、このブログでも何度か取り上げました。こうした状況を前に、諦めるのではなく、攻めの姿勢で移動の足を維持する地域があることも、いくつか紹介してきました。今回はそのひとつ、「上田市地域公共交通利便増進事業」をスタートさせた長野県上田市を訪れたので、この地の取り組みに触れていきます。

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上田市では危機的状況を直視しつつ、公共交通を確保・維持するために、官民連携で地域公共交通利便増進事業を検討してきました。同事業は、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(略称「地域交通法」)第2条第13号で定められており、実施に当たって地域公共交通利便増進実施計画を作成し、国土交通大臣の認定を受けることで、法律上の特例措置(国や都道府県の補助額嵩上げなど)を受けることができます。実施期間は今年10月から5年間、実施区域は上田市と西隣の青木村の全域となっています。

このブログで何度も書いてきましたが、公共交通は公立学校や図書館のように、税金や補助金主体で運営するのがグローバルでの流れであり、黒字赤字で判断するという日本の常識は、世界の非常識とも言えます。しかしながら公費を投入するわけですから、無駄を省きつつ安全性や利便性を高めていくことは大事です。

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具体的な改革は、上田市のウェブサイトにくわしく記してありますが、路線の統合や振り替え、渋滞回避や商業施設立ち寄りなどを理由としたルート変更など、きめ細かい再編が実施されているうえに、一部の路線では30分間隔や1時間間隔のパターンダイヤを導入しています。

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一例を挙げると、塩田線・信州上田レイライン線は、運転手不足や低い収支率を踏まえて廃止を検討したものの、両路線を統合することで路線維持。さらに朝夕の往復1便は、沿線地域の通勤通学の移動手段として上田駅〜別所温泉間を運行するのに対して、日中は塩田地域内の生活施設、鉄道駅及び観光施設を結ぶ循環運行としました。使いやすい路線バスにしていこうという熱意と工夫が伝わってきます。

欧州の公共交通では一般的なゾーン制運賃の導入もニュースで、最小100円、最大1000円の間で、ゾーンを跨ぐごとに100円ずつ上がっていく内容としました。上田市では2013年から、最大運賃500円を導入してきており、その効果を検証した結果、ゾーン制に移行するとのことです。差額については段階的に引き上げていくそうですが、通勤通学定期券は据え置きとされます。

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一連の施策を見て思い出したのは、市内を走る上田電鉄別所線の「赤い鉄橋」が、2019年の台風で一部流されたときの対応です。こちらについては昔、市の交通政策課に取材した記事がありますが、国の「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助」の適用を選択。市が橋梁を所有し、復旧事業の事業主体となることで、上田電鉄の負担を免除し、市の負担分の95%は交付税措置とすることで実質的な負担を2.5%に抑えたというものです。



上田電鉄はこの前にも2度、廃止の危機にありましたが、いずれも市の主導で存続が決まりました。そんな経緯を知っているだけに、今回のバス改革も「さすが上田」という印象を持ちました。公共交通はもうオワコンという前に、このような創意工夫を参考にしてほしいと思います。ただ今回の事業実施は5年間であり、その後を考えれば、最終的には欧米のように、税金や補助金を主体とした運営に、国の主導でシフトしていってほしいものです。

大阪・関西万博が今週月曜日に閉幕しました。私は以前ブログで書いたように、5月に訪れましたが、先月も取材で行く機会がありました。欠席という選択もありましたが、それでも足を運んだのは、もう一度行きたいと思わせる魅力を感じたからです。前回の訪問で会場の概要が把握できたこともプラスになりました。そんな経験を踏まえつつ、モビリティという視点で万博を振り返りたいと思います。

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まず当初は商用運航が計画されていたものの、結果的にはデモフライトに終わったエアモビリティについては、「空飛ぶクルマ」というキーワードが示しているように、もともと一部の事業者がかなり前のめりで、それが上記の結果に現れたような気がしています。つまりこの責任は、多くは事業者によるものであると考えており、万博の運営側を批判するのはかわいそうだと思いました。

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次に会場アクセスについては、5月に行った時に記事にしたので、詳しくはそちらを見ていただきたいと思いますが、大阪メトロ中央線の終点夢洲駅に隣接した東ゲートと、周辺各地からのバスが到着する西ゲートのうち、東ゲートの混雑が報じられていました。でもこれは当然のことです。鉄道とバスでは輸送力が圧倒的に違うからです。

バスはJRゆめ咲線の終点桜島駅発着の便を除いて、すべて予約制でしたが、先月はほとんどの路線が早々と満席になっていました。一部の路線は開通前の阪神高速道路を使ったりして、速達性では鉄道並みでしたが、キャパシティでは比べ物になりません。今回の万博は、大量輸送に鉄道が適していることを証明した場でもありました。



会場内でもっとも印象的だったのは、万博のシンボルでもある大屋根リングでした。1周約2kmなので、半周すると15分ぐらい。歩くのにちょうど良いスケール感でした。しかも昼間は眺めがいいし、夜はライトアップが美しく、木の上を歩く感触は独特の心地よさでした。リングの下も、至るところにベンチがあって、休憩場所には事欠きません。しかも日陰になります。9月に行ったときは、この日陰に救われました。

そして位置関係の掴みやすさも、忘れるわけにはいきません。会場がおおむねリングの中というのはわかりやすいし、内側にいても、リングの見え方で自分がどのあたりにいるか把握できます。会場内を集会するバスも、大屋根リングに沿って走っていて、わかりやすいと感じました。柱に番号や施設を示すサインなどが貼ってあることも助かりました。だからでしょう、先月はほとんど地図を見ずに場内を歩き回ることができました。

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欧州の小さな城塞都市を思い出す作りは、「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインの理念が伝わってきたし、私を含めた東京の人間も、山手線や環状7号線などを場所の説明によく使うわけで、環状のインフラはモビリティに好ましいことを教えられました。そして数字に表せない、さまざまな心地よさ。万博を訪れた多くの人が、印象的だったものとして大屋根リングを挙げていますが、私も同じ気持ちでいます。

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最後になりますが、私の万博訪問に際しては、パビリオンの設営や運営に携わった方々のお世話になりました。他にも知人のクリエイターやデザイナーなどが、さまざまな立場で万博に関わっていました。それ以外のすべての関係者を含めて、一部の政治家やマスコミのネガティブキャンペーンに心を傷つけられながらも、来場者に素晴らしい体験を届けてくれたことに対して、この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

今年8月3日に開業した、広島電鉄の新しい広島駅停留場と駅前大橋ルートを、先月見に行くことができました。JR駅を貫くように設置された自由通路から直結という利便性の高さ、国内の路面電車では最大級のターミナル、新ルートによる所要時間短縮など、機能的にも感心しましたが、個人的には路面電車を見せる、舞台装置としての演出にも惹かれました。

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広島駅停留場は、JR駅自由通路の南端にあります。自由通路は幅広く、柱は目立たなくて気持ちいい空間なのですが、停留場に着くと、さらなる開放感が味わえます。停留所のところだけ天井が高く、出口に向けてその天井がさらに高くなっていって、その先は空、という作りが効いているのです。

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駅ビルを観察すると、停留場は少なくとも2フロア分を使っていました。ビル内の駅は普通1フロア分なので、かなり贅沢です。しかも完全吹き抜けではなく、3階には発着する電車を見ることができる階段状ベンチや通路があります。ベンチには何人かが腰を下ろして、電車を眺めながらひと休みしていました。

停留所の左右にも、電車を見る場所があります。両脇にカフェが入っているので、電車を待ちながひと休みできるのです。ただ実際には路面電車はひんぱんに発着しているので、カフェで待つ必要はありません。やはり3階のベンチと同じように、電車を眺めながらひと休みできるスペースとして用意しているのでしょう。 

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停留場を出た電車は、高架線を少しずつ下り、駅前大橋のあたりで地上に降りて、まちの中心部に向かいます。もし、バスやタクシーの乗り場がある地上に停留場があったら、ファッションショーのランウェイを思わせるこのような眺めにはならないはずで、ここもまたエンターテインメント的な要素を含んでいるように思いました。

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広島駅停留場を実際に訪ねて、路面電車は広島の顔であり、このまちを代表する市内交通であることを、オール広島でアピールしていこうという気持ちが伝わってきました。日本の路面電車でもっとも長い路線を持つという量的な部分だけでなく、質的な部分でも素晴らしい取り組みだと感心しました。

昨日横浜市で、新たに始まる自動運転移動サービス実証実験の発表会がありました。会場は日産自動車のグローバル本社だったので、日産が主体のプロジェクトかと思いましたが、到着すると最初の写真で掲げられているように、BOLDLY、プレミア・エイド、京浜急行電鉄との4社共同プロジェクトでした。

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ちなみに各社の役割は、このブログでも何度か紹介しているBOLDLYが自動運転サービスの遠隔監視を行う監視システムの提供、プレミア・エイドが監視システムを使用した乗客サポート業務、京浜急行電鉄が交通事業者視点での運行・運用体制構築の支援、日産自動車が実証の企画・運営主体、自動運転車両の提供と運行などとなっています。

ポジションもキャリアも違う4社のロゴが対等に並んだシーンは新鮮に感じましたが、移動サービスの分野では最近、このように自動車会社が他の分野の企業や団体と組んでプロジェクトを進めることが多くなっているのも事実です。

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たとえば歩行領域の電動車では、8月にダイハツ工業がe-SNEAKERを発売し、先月は本田技研工業(ホンダ)が3年前にお披露目したUNI-ONEの事業化決定を発表しました。どちらも最高速度6km/hで歩道を通行する、電動車いすと同じカテゴリーで、内容については記事を見ていただければと思いますが、ダイハツは大阪・関西万博で実証を重ねており、ホンダはまずサンリオエンターテイメントが運営するテーマパークに導入するそうです。

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自動車産業が国の基幹産業のひとつであることは、日米関税交渉のニュースでもひんぱんに報じられてきました。しかし彼らは私たちの移動のすべてを把握しているとは言えません。実際に昨日の発表では日産自動車から、自分たちはクルマを作って売ることが生業なので、それ以外の領域について知見をいただいたという内容の説明がありました。

日産がかなり前から、自動運転の研究開発を続けてきたことは知られていますが、当初は自家用車を想定していました。これまでもブログで書いてきたとおり、同じ自動運転でも自家用車と移動サービスとでは、さまざまな部分が違います。日産もそのことを認識して、今回のユニット結成に至ったのではないでしょうか。 

移動のニーズが昔とは変わってきたことも大きいと思います。平均寿命が伸びたことで、昔は話題にならなかった運転免許返納がクローズアップされていますが、受け皿となる公共交通は運転士不足が深刻で、東京都内でも廃止や減便が続いています。障害者が健常者と同等に移動できる仕組みも大切になりつつあります。





モビリティとは、すべての人が安全快適に、社会や生活に負担をかけず移動できることが重要です。もちろん自動車会社が独力でこのテーマに取り組むという選択肢もありますが、それぞれの分野で経験に長けた事業者のほうが、長い間ユーザーと向き合ってきたわけで、今回の横浜市のようなユニットは理想だと考えます。

横浜市の自動運転プロジェクトについて補足すると、当初の5台を最終的には20台程度に増やすとともに、2027 年以降のサービス提供開始時には、レベル2からレベル4に進化し、ドライバーレスとなってみなとみらいを走り回る予定とのことで、おそらく我が国の自動運転移動サービスとしてはかなり壮大なプロジェクトになるはずです。

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最後になりますが、実験車両として使われる「セレナ」のグラフィックにも感心しました。パートナーを組む会社の意見を聞きつつ、日産がまとめたそうですが、クリーンであるだけでなく、乗降口になるスライドドアの位置をわかりやすく示すなど、モビリティサービスの車両にふさわしい仕立てで、路上を走り回る姿を早く見てみたいと思いました。

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