THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2025年12月

2025年最後のブログは、少し前にここで取り上げた姫路から大阪への移動で使った、JR西日本の新快速を取り上げます。これまでも私は関西に行ったときに、しばしば新快速を使っていましたが、京都〜大阪間、新大阪〜三ノ宮間など30分以内の利用でした。今回は約1時間の乗車だったので、この電車の魅力をいろいろ考えることになりました。

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姫路と大阪を結ぶ鉄道は、JR西日本の山陽新幹線と神戸線(山陽本線・東海道本線)、山陽電気鉄道+阪神電気鉄道と3通りあります。最速はもちろん新幹線ですが、今回は大阪の宿が野田駅の近くだったので、新幹線だと乗り換えが増え、所要時間は15分ぐらいしか変わらないことに気づきました。加えて費用は約3倍になります。山陽+阪神は運賃は安いですが、時間が30分ぐらい余計に掛かるうえに、直通特急は野田駅に停まりません。ということで新快速を選択したのです。

なぜ新快速は速いのでしょうか。理由としては、特別料金を取らない列車としては数少ない、最高速度130km/hでの運転を行っていることと、走行区間の半分近くになる草津〜西明石間が複々線となっていることが大きいと思いました。ちなみに我が国の特別料金不要列車が 130km/h 運転をしたのは新快速が初めてで、草津〜西明石間は日本最長の複々線区間になっているそうです。

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首都圏で姫路〜大阪間に近い距離を探すと、東海道本線の小田原〜東京間があります。複々線区間が長いところも似ています。しかし新快速が87.9kmを 61分で走破するのに対し、小田原〜東京間は83.9kmを81分かけて走ります。首都圏で130km/hを実現している路線としては、つくばエクスプレスが思い浮かびますが、58.3kmを最速45分なので、スピードでは新快速が上回っています。しかも多くの通勤車両が使うロングシートではなく転換クロスシートを採用しているので、快適性も上です。

でも新快速は特別な存在ではなく、日中は1時間に4本、15分間隔で走っています。大阪駅では両方向ともに、0、15、30、45分に発車するというわかりやすさです。これも多くの利用者を集める理由になっているでしょう。しかも最近の鉄道は運転区間の短縮という流れがある中で、全区間約275kmを走破する列車もあります。特別料金を取らない列車では日本最長距離になるそうで、この区間内であれば乗換なしで移動できるのは、ありがたいことです。

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前回の大阪万博が開催された1970年に、当時の国鉄の手で走り始めた新快速は、並行する民営鉄道への対抗として生まれました。しかしスピードでは新快速が上回ることから、ライバルは停車駅を増やし、座席指定の豪華車両を用意するなど、質を高める方向を目指しているようです。新快速も以前から「Aシート」という座席指定サービスはあり、来年春からは他の路線で好評の「うれシート」を導入しますが、後者は一般車両を活用する予定で、無理に戦わず棲み分けしようという気持ちが伝わってきます。

私が今回新快速に乗ったのは平日の夕刻ですが、姫路駅出発時点でもかなりの乗客がおり、地域に定着していることが伝わってきました。鉄道輸送の長所である高速性や定時性の高さ、低料金、長距離輸送という項目を、さまざまな挑戦によって高レベルで実現しているからでしょう。なによりも新幹線か新快速かという選択を、利用者に考えさせること自体が凄いことです。

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今年もTHINK MOBILITYをお読みいただきありがとうございました。来週は正月休みをいただきます。次回の更新は2026年1月10日の予定です。良いお年をお迎えください。

最近日本国外で、日本独自の自動車の規格である軽自動車が話題になることが増えてきました。

きっかけは今年6月、欧州と北米に拠点を持つ自動車メーカー、ステランティスのジョン・エルカン会長の「欧州は日本の軽自動車のような安価な小型車が必要だ」という発言。その後欧州ではこのカテゴリーを「Eカー」と呼ぶようになりました。さらに今月は米国のトランプ大統領が、SNSで「米国内での小型車製造を承認した」と投稿しました。アジア歴訪中に日本と韓国で見かけた軽自動車やコンパクトカーを「とても小さくてキュート」と気に入ったことが背景にあるそうです。

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これらのニュースを見て一部のメディアが、日本の軽自動車の国際進出の可能性を報じていましたが、私はそのようにはならないと思っています。

欧州委員会は今週、2035年までにガソリンエンジンを積んだ新車の販売を禁止するという計画を撤回しましたが、その際にEカーの具現化として、小型乗用車M1のサブカテゴリーであるM1Eを新設しています。 ところがその全長は4200mm以下で、軽自動車よりかなり長く、コンパクトカー(欧州ではBセグメント)とほぼ同じです。最初に紹介したステランティスで言えば、昨年日本でも発売されたフィアット「600e」がちょうど全長4200mmになります。

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それ以外の要件としては、完全電動であること、27あるEU加盟国で組み立てられなければならないことがあります。その代わり、メーカーごとのCO2排出量算出の際のクレジットが、1台あたり1から1.3に増やされるとのことです。このカテゴリーが少なくとも10年間続けられることも明らかになっています。

欧州委員会が、自分たちのEV(電気自動車)シフトが間違いではなかったことを主張しつつ、思ったようにEVが売れずに苦労していたメーカーに助け船を出したような内容で、欧州委員会らしい対応だと感じましたが、カテゴリーが独立すれば国ごとに補助金を用意したりしやすくなるので、販売台数の増加に結びつくかもしれません。

トランプ大統領が推進しようとしている小型車政策も、米国内で製造することは明言しているし、EVに限定するかどうかは分かりませんが、一部のニュータウンなどで場内移動に使われているカートタイプの乗り物より本格的な車両を作るとなると、ボディサイズや出力など軽自動車とは異なる内容になりそうな気がしています。

自動車にはグローバルな車種とリージョナルな車種があります。軽自動車はリージョナルな自動車です。アジアなどでこれをベースとした車両が走ってはいますが、欧米は日本より早く自動車が普及した地域であり、軽自動車のような車両に興味を示したとしても、それはあくまで「ような」であって、地域に合った寸法や出力にするのは当然のことです。

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私は軽自動車を所有したことはありません(二輪の軽自動車=軽二輪は数台あります)。理由は税金は安いものの、価格は高いものでは300万円近くするうえに、燃費も良いとは言えないからです。それでも地方に住んでいれば選んだかもしれませんが、公共交通に恵まれた東京で暮らしているし、近場は自転車や二輪車を使うので、マイカーは高速道路を使った片道100〜200kmぐらいの移動に活用しています。こういう用途には軽自動車は不向きだと判断しているのです。

安全性については、現在の新車については、小型乗用車と同じ衝突安全基準を満たしています。ただし前面衝突や後面衝突の試験では、衝突時の運動エネルギーは車両重量に比例していることも事実です。また学術分野では、軽自動車の交通事故について研究した論文がいくつかあります。ここでは神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野の大野雄康氏らによる研究結果(英語)を紹介しておきます。単一病院ですが20年以上にわたり5000人以上を調査したもので、信頼に足ると思っています。

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このブログでは何度か軽自動車について触れていますが、昨今の海外のニュースを受けて、改めて日本国内で近場の移動や物流を賄う自動車であってほしいという思いを強くしました。二輪で言えば原動機付自転車に近い位置付けです。原付でも日本一周はできて、テレビ番組にもなっていますが、それは移動ではなく冒険でしょう。軽自動車も同じで、無理に背伸びせず、身近な移動のパートナーであり続けてほしいものです。

最近もニュースで取り上げられることが多い、高齢ドライバーの交通事故。たしかに警察庁の統計では、交通事故死者に占める65歳以上の高齢者の割合が50%を超えたのは2010年と、それほど昔のことではないのに、今年上半期は56.8%に達しています。さらに75歳以上のドライバーが関係する死亡事故は増加しているうえに、それ未満の年齢層と比べると、車両単独事故の比率が高いという傾向も出ています。

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これらの数字を見ても、交通事故による犠牲者を減らすために、高齢ドライバー対策が重要であることは明らかですが、海外はどうなのでしょうか。先月、安全性の高さで定評のあるスウェーデンのボルボカーズで、約30年にわたり安全分野の研究開発を行ってきたエキスパートが、東京でメディア向けセミナーを開催したので出席してきました。 内容についてはマイナビニュースで記事にしたので、ここでは個人的に感じたことを記していきたいと思います。

まず感じたのは、自動車メーカーがここまで高齢ドライバーの研究や実験を行っていることへの驚きと、その結果を数字などを多用してはっきりと、わかりやすく伝えていたことでした。最初のほうで紹介していた、高齢者は骨折しやすく回復に時間がかかるという言葉は、日常生活でも聞く話なので納得できたし、左右方向の首の可動域が狭くなっていて、動く物体より止まっている物体を注視する傾向があるという調査結果からは、運転という行為を多角的に研究していることが伝わってきました。

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運転免許の返納については、スウェーデンでは自動車は個人の移動手段として重要という認識で、運転を止めることで生活面で大きな問題が生じることを懸念する声が、インタビューで多数出たとのことでした。つまり運転免許返納は、年齢ではなく身体や認知などの状況で判断するべきとのことでした。これについては同感ですが、同時に自分の運転能力をどう評価するかという部分も興味を持ちました。

自分の運転を過小評価する人は、一見すると安全だと感じるかもしれませんが、移動を自ら制限してしまい、健康的な生活を送るうえで好ましくないと指摘していました。逆に過大評価する人は、ミスをしたときに言い訳をしたり、先進運転支援技術(ADAS)を受け入れにくいという傾向もあり、懸念材料が多そうです。こうした部分は先天的でもあるので、年齢や体力、認知以上に難しいテーマだと考えさせられました。

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 もちろんこうした研究結果は車両開発に生かされていますが、一方で高齢ドライバーの安全運転のために挙げた10のポイントの多くが運転者に関することで、自動車メーカーの人間でありながら、車両側の項目はわずか2つに留まっていました。そしてスウェーデンでは1990年代から、インフラで事故を防ぐ対策を進めていることにも言及していました。交通安全は人と車と道路のすべてが協力して作り上げていくものというメッセージと受け取りました。

そういえば隣国フィンランドの首都ヘルシンキは今年8月、1年間交通事故死者ゼロを達成しました。多くの道路を30km/h制限とし、歩行者や自転車のための空間を拡充するなど、主としてインフラ整備がこの結果につながったそうです。また火曜日に放映されたNHK総合テレビ「クローズアップ現代」は、10のポイントのひとつ「交通量の少ない時間帯や昼間に走る」について、海外では限定免許として実施されている場所もあるという解説がありました。世界にはまだまだ交通安全のヒントがありそうです。

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個人的に10のポイントの中でもっとも印象に残ったのは、「運転の練習を続ける」という言葉です。我が国では最近の調査でも、運転に対する自信は高齢になるほど高くなる傾向という結果が出ています。たしかに経験は豊富になっていますが、自分を含めて可動域や判断速度は衰えつつあるわけです。それをカバーするためにも練習が必要という言葉は、とても説得力がありました。

【参考文献】
① Dukic T., & Broberg T. (2012). Older drivers’ visual search behaviour at intersections. Transportation Research Part F, 15, 462–470.
② Broberg, T., & Willstrand, T. D. (2014). Safe mobility for elderly drivers—Considerations based on expert and self-assessment. Accident Analysis & Prevention, 66, 104–113.

12月11日は、ユネスコの世界遺産に日本の歴史的建造物や自然環境が初めて登録された日です。今から32年前のこの日、青森県と岩手県にまたがる白神山地および鹿児島県の屋久島が世界自然遺産、奈良県の法隆寺と兵庫県の姫路城が世界文化遺産として登録されました。今年の秋はその4件のうち、唯一行っていなかった姫路城に、少し前のブログで取り上げた広島からの帰りに立ち寄りました。

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ただここでは姫路城そのものではなく、駅前広場とそこから城に向かう大手前通りにスポットを当てます。駅前広場は今年、再開発が完成して10周年を迎え、4年後には大手前通りの改修が完了していますが、2015年にはグッドデザイン賞で特別賞を受賞し、2022年には以前このブログでも紹介した国土交通省の「ほこみち」の第1号として指定されるなど、以前から高い評価を受けている場所です。

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新幹線を降りて北口を出ると、目の前に広場があり、その向こうに大手前通りが姫路城に伸びていく様子を、クリアに見ることができます。普通の駅前にあるバスやタクシー乗り場が、広場の西側にあるからです。大手前通りが右にカーブしているのはそのためですが、おかげで城の眺めを遮られることがないし、まちの軸をはっきり感じます。

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さらなる眺望を望むなら、2階の眺望デッキ(キャッスルビュー)がお勧めです。城門をイメージしたという吹き抜けの箱になっていて、額縁に収められた絵画を見ているような眺めでした。このデッキから伸びる歩道橋も優しいカーブを描いていて、人工物の冷たさを感じさせないようにという作り手の気持ちが伝わってきます。

一方駅前広場の東側には、キャッスルガーデンと芝生広場があります。地上にある芝生広場に対し、キャッスルガーデンはサンクンガーデンと呼ばれる一段低い位置にあるスペースで、城のまちらしい石造りとしているうえに、そのまま駅の地下街にアクセスできる使いやすさにも感心しました。

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駅前広場から伸びる大手前通りは、歩道や自転車レーンが広く取られているだけでなく、ベンチが各所に置かれ、一部の飲食店はテーブルを出したりして、歩いて巡ろうという気持ちにさせてくれます。中でも目に留まったのは、「緑と花のおもてなし空間」。企業や団体が花壇の世話をし、市民がスポンサーになってそれを支える形の市民花壇で、ゆったりした気持ちで散策することができました。

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姫路市ではこの駅前について、市民参加のプロセスを積極的に取り入れ、専門家や行政が緊密に情報交換をしながら設計や工事を進めていったそうです。たしかにハコモノっぽくなく、商業主義でもない空間で、まちが生きていることが伝わってきました。しかもエリアによって素材や造形を変えているので、訪れた人を楽しませてくれます。姫路城に行くときは、こちらにも注目してみてください。

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