THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2026年09月

JR北海道(北海道旅客鉄道)が今月16日、「黄色線区」と呼ばれる維持が難しい赤字の8区間について、今年4月に沿線の自治体に示した上下分離方式を、自治体から反発を受けていたことなどを理由に、撤回すると発表しました。

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このブログでは2年前にも、JR北海道について書きました。そのときには上下分離方式を導入して、下の部分は国が支えるべきと書きました。なので今回のニュースは、上下分離方式が頓挫して一気に廃止に向かうような感じもありますが、ここでの相手は自治体であり、今後は国を相手にして存続に向けた議論が始まるような動きなので、必ずしも暗いニュースではないと考えています。

上下分離方式をもう一度説明しておくと、インフラの設置や維持は自治体が行い、運営を民間企業が担当するものです。自動車と道路の関係が近いでしょう。道路は税金で建設され、維持されるのに対して、その上を走る車両は利用者が買ったり借りたりして走らせます。公共交通の中でもバスやタクシーは、道路の負担はしていないので、上下分離の上側と言うことができます。

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ニュースを伝える北海道新聞のオフィシャルサイトはこちら

我が国の鉄道は多くの場合、民間企業がインフラの維持と車両の運行の両方を行う形をとっているので、多くの日本人はそれが当然だと思うかもしれません。しかし海外は異なります。たとえばEU(欧州連合)では1991年という早い時期から、上下分離方式とオープンアクセス(市場解放)が推進されてきました。

オープンアクセスというのは、鉄道事業者か否かを問わず、さまざま企業が列車の運行事業に参入できる制度です。代表格のひとつがイタリアの「イタロ」で、フェラーリやフィアットの会長を務めたルカ・コルデロ・ディ・モンテゼーモロ氏などが設立し、既存の路線で高速列車を運行。2028年にはドイツで高速鉄道サービスを開始すると発表しました。

米国の鉄道は貨物列車がメインということもあり、上下分離方式はちょっと変わっていて、線路を保有するのは複数の民間貨物鉄道会社であり、旅客列車の「アムトラック」がその線路の上を走っています。鉄道の上下分離は公設民営のパターンが多いですが、アムトラックの正式名称は全米鉄道旅客公社であり、旅客列車だけ見れば民設公営になります。

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「イタロ」のオフィシャルサイトはこちら

なので欧州の上下分離を例に取ると、日本とは枠組みが大きく違うことがわかります。欧州は上も下も国レベルなのに対し、日本は上が民間企業、下が沿線自治体という小さな組織だからです。北海道のような人口密度が少なく、過疎化が進む地域は、人口の約4割が集中する札幌市以外は自治体の力に限度があります。日本式の上下分離を回していくには無理があります。

そんな中でJR北海道は、自治体相手の上下分離を諦め、国が議論を主導するように、協議会の設置を要請したそうです。最終的に国がどう判断するかはわかりませんが、欧州の事例や北海道の現状を見ると、この流れのほうが妥当ではないかと考えています。個人的には2年前のブログでも書いたように、国がインフラを支える制度を、全国に先駆けて導入してもらいたいと思っています。

とりわけ北海道で注目したいのは貨物輸送です。土地が広く海から遠い地域があり、食料自給率は200%を超えるうえに、本州と直結する道路はなく鉄道だけです。トラックの運転手不足を含めて考えれば、これほど鉄道貨物輸送にふさわしい地方は国内では珍しく、少なくともが貨物列車が走る線区は残すべきだと考えます。札幌延伸に向けて整備が進む北海道新幹線も、貨物輸送を考慮した整備が望まれます。

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もうひとつは記者会見で、JR北海道の社長も述べていた観光列車についてです。現在はJR北海道自身が運行していますが、先日も富良野線を走る「富良野・美瑛ノロッコ号」が老朽化により運行終了というニュースがありました。ここはオープンアクセスを取り入れて、北海道の観光輸送に興味がある事業者を幅広く募り、斬新な企画の列車を走らせてもらうような動きを期待しています。

ここにきてまた自動運転の話題が増えてきました。先週はテスラが米国で運用を始めたロボタクシー(自動運転タクシーサービス)専用車両「サイバーキャブ」を日本で初公開。そして今週は、グーグルから独立したウェイモがタクシー配車アプリGO、タクシー会社の日本交通とともに、来年中に東京都内で100台規模のロボタクシー運行を目指すと発表しました。

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ちなみにテスラのサイバーキャブの公開は、今週末の20日まで大阪、来週22・23日は名古屋、26~28日は東京新宿のテスラ・ディーラーで展示されることになっています。

一連の動きに対して、SNSなどで多くの反響が上がっていますが、個人的な肌感覚としては、最近の自動運転の話題としてはネガティブな意見が多いと感じています。いずれも日本ではなく米国の会社が主体だからでしょうか。しかしロボタクシーの先進国が、すでに商用運行を行っている米国と中国であることは、多くの人が認めるところです。

自動運転の制御技術は、航空宇宙や防衛分野との関係が深いと考えています。ミサイルは早くから誘導装置によって目標に向かって飛んでいたし、旅客機が上空でオートパイロットにより飛行していることはよく知られています。こうした経験はやはり尊重すべきというのが持論です。

ウェイモの母体となったグーグルの自動運転は、米国の国防高等研究計画局(DARPA)が主催したロボットコンテストの優勝者を招聘したところから始まりました。テスラの創業者イーロン・マスク氏は、同じ時期に宇宙開発企業のスペースXを立ち上げています。今はスペースXの一部になったAI開発企業を含めたノウハウが、自動運転技術に生かされていることは容易に想像できます。

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それにこのブログを、ほとんどの人はスマートフォンやパソコンなどで見ていると思いますが、それらのOSは米国生まれです。米国の自動運転システムに懸念を示しつつ、スマートフォンやパソコンを日常的に使い続けるのは奇妙に思えます。日本は多くの乗り物が、先行する欧米諸国から技術やデザインを参考にしながら、国産化を実現してきました。ロボタクシーにおいても、まずは米国の技術を借りるというのは理に叶ったことです。

加えて現政権が、米国とのつながりを重視していることは、EV (電気自動車)の補助金額でも明らかです。テスラやウェイモもその流れを考えての発表だと感じています。とはいえ国内でも自動運転技術の研究開発を行っているテックカンパニーはいるので、並行してこうした企業の成長を後押ししていかないと、スマートフォンやパソコンのOS同様、米国に席巻されることになるでしょう。

テスラとウェイモの自動運転技術が違うことは私も把握しています。以前このブログで紹介したルールベースとAIベースのうち、ウェイモは前者、テスラは後者に当たります。最近はAIベースが主流になりつつあることも書きましたが、そんな中で先月ウェイモがこの動向について出したメッセージ「10 AI insights」は注目です。

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ウェイモの「10 AI insights」はこちら(英語)

くわしくはサイトを見ていただきたいですが、カメラだけでは不十分、高精度(HD)マップは必要、車載検証レイヤーは重要、実走行経験に代わるものはないなど10項目を掲げており、説得力がありました。AIを否定しているわけではなく、高精度マップのアップデートや検証レイヤーなどでの活用は奨励しています。直近ではAIの暴走もニュースになっているので、ルールベースとAIベースのハイブリッドが理想なのかもしれないという気がしました。

ちなみにウェイモは6月の発表で、完全自動運転でこれまで3億5000万kmを走破し、死亡または重傷につながる衝突事故を94%削減したとあります。日本では自動車の安全性能が向上しているにもかかわらず、交通事故の死者数は近年横ばいなので、一歩進んだ安全性能として完全自動運転はありではないでしょうか。

今回はウェイモは東京への導入、テスラも大都市での展示です。これはプロモーションとしての要素もあると考えています。テスラのサイバーキャブは明らかにタクシー向きではないパッケージングですが、効率抜きのカッコよさは1950年代のテールフィンに通じるし、SUVが多くなった今だからこそ、低い位置に座っての移動は付加価値になるかもしれません。

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もちろん本音は地方での展開を望みたいところです。タクシーが潤沢な東京などの大都市に対し、地方は過疎化により廃業したり、高齢化で夜間の運転を控えるドライバーが出たりしていることを、現地で話を聞いているからです。財源については、国土交通省で今春展開した地域公共交通確保維持改善事業(自動運転社会実装推進事業)などを発展させてはどうかと考えています。

このブログで何度も取り上げている歩行領域電動モビリティのブランドWHILL(ウィル)が、新製品「Model C Lite」を発表しました。製品の概要は自動車専門メディア「AUTOCAR JAPAN」で記事にしていますが、今年はWHILLが一般公開されてから15年でもあったので、ここでは自分が見てきたWHILLの足跡を振り返りながら、保守的なこの国で革新的なモビリティが成長を続けている理由も考えてみました。

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僕がWHILLに初めて出会った場所は、2011年の東京モーターショーでした。まだ会社が設立される前で、既存の車いすを電動化したプロトタイプが展示されていました。スタートアップでありながら東京モーターショーという場を選んだ見識は、今思えばチャレンジングです。実車を見て斬新なコンセプトとデザインに衝撃を受けた私は、すぐに取材を申し込みました。

翌年会社としてのWHILLが設立され、2014年には市販第1号車のModel Aが登場します。こちらは翌年度のグッドデザイン賞で、審査委員として接しました。このとき私は、モビリティユニットのユニットリーダーとして、他のユニットのリーダーたちと議論を重ねたのですが、他のユニットの方々の評価が想像以上に高く、もっとも優れたデザインと認められた1件のみに贈られる、グッドデザイン大賞を受賞することができました。

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日本より車いす人口が多く、障害のある人への理解度が高い米国を当初から主要マーケットと考えていたことも特筆すべき点です。こちらは2017年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で確認できました。広大な会場を快適に巡るために、Model Aがレンタルで用意されていたのです。登場から3年目でしっかり米国に根付いていたことに感心しました。



その後のWHILLは、ニューモデルを次々に送り出す一方で、販売だけでなく観光地や商業施設などでのモビリティサービスも展開していきましたが、その中で驚いたのが空港などに導入されている自動運転です。搭乗口まで乗客を運び、利用後は自動で返却を行うという考え方は説得力があったし、国内のみならず欧米の複数の空港でも導入されているという実績は、自動車の自動運転で米国や中国が先行していることを考えれば凄いことです。

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WHILLがここまでの地位を確立することができた理由として、やはりデザインの力は大きいと思います。「健常者も乗りたくなるパーソナルモビリティ」はそのとおりで、自分も3年前のジャパンモビリティショーでお借りして、場内を巡りながら実感しました。左右の斜めの長円形パネルをブランドアイデンティティとしている点も感心できます。

今回のModel C Liteでも、折り畳みのためのグリップ部分をライトグリーンとしてわかりやすくしたうえに、発表会の会場をライトグリーン基調にしていました。この色の起用については社内でも議論があったそうですが、結果的には新しいイメージを加えていると感じました。帝人と共同開発したカーボンファイバーの新素材を取り入れたことも特徴で、老舗とスタートアップは対立する関係ではなく、ともに手を取り合ってより良いものを生み出していく姿勢が大切だと教えられました。

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いまや東京都内でWHILLを見かけるのは、珍しいことではなくなりました。今回の発表会でも日常的にWHILLを利用しながら、さまざまな分野で活躍している方によるトークセッションが行われていて、幅広い層に浸透していることが確認できました。モビリティベンチャーを成功に結びつけるのは大変という中で、ここまで着実に成長を続けているのは賞賛に値します。引き続きWHILLを見続けていこうという気持ちになりました。

今年の夏のモビリティの話題を振り返るうえで避けて通れないのが「令和8年8月千葉豪雨」でしょう。5月に制定されたレベル1〜5で表す大雨や土砂災害の警報で初のレベル5が出され、千葉市だけでも2700台以上の車両が動かなくなり、県内では浸水した車内に取り残されるなどして4人が亡くなりました。亡くなった方のご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

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首都圏での自然災害ということで、私も自分ごととして感じるようになり、少し時間をおいて現地を訪れました。そのときに感じたことを「東洋経済オンライン」で記事にまとめましたので、気になる方はご覧ください。また昨日はMBS(旧毎日放送)の「よんチャンTV」にコメントを出させていただきました。関西地方の方はご覧になったかもしれません。

今回まず感じたのは、自動車は雪よりも雨に弱いのではないかということです。東京では雪は降らない年もあるので、たまに積雪があるとノーマルタイヤのまま走行した車両が立ち往生しますが、多くは雪が溶ければ再び走り出します。ところが大雨で冠水した場合はそうではありません。最初に紹介した数字でおわかりのように、エアクリーナーやマフラーから水が入り込むことで、エンジンが止まってしまうことがあるからです。

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雪道のためにはスタッドレスタイヤなどの冬用装備が必要ですが、雨の日はノーマルタイヤのままで走れます。これが油断につながっているのかもしれません。雪の日に進めなくなっても、車外へ脱出することはできますが、冠水で進めなくなるような状況では、ドアを開けるのもひと苦労になります。さらに水かさが増えれば車体が浮き流されてしまうことも、千葉豪雨ではありました。

MBSの番組ではアンダーパスがテーマでした。都市部でアンダーパスが増えているのは、踏切や交差点での事故や渋滞を緩和するためとして理解できることです。そして今回、千葉市を含めたいくつかのアンダーパスで、大雪のときのような予防的通行止めが実施されることになりました。千葉豪雨では複数のアンダーパスで死者が出ているわけですから、この判断は正しいと考えています。



ただし気をつけるべきはアンダーパスだけではありません。記事にも書きましたが、「〇〇台」「〇〇丘」などの地名がある場所でも、アップダウンがあります。歩行者や自転車であれば体感でわかりますが、今の自動車では気づきにくいでしょう。しかし水は少しでも傾斜があれば低い方へ流れ、溜まっていくことを忘れてはいけません。

それを考えると、自動運転の一環として開発された高精度地図(ダイナミックマップ)は、道路とその周辺を3次元データで収録しているので、カメラやAIを連携させれば、この先にどのぐらい深い冠水があるか、判別することができそうです。自動運転やSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の技術はこのような分野にも活かせるのではないかと思いました。



 最近増えているSUVは、フロアが高めなので、冠水には強いかもしれません。ただ一部の車種がオフィシャルサイトなどに記している「最大渡河性能」には注意が必要です。700~900mmという数字を掲げたものもありますが、最大という言葉がついているとおり、さまざまな条件が揃ったときのデータで、誰もがいつでもどこでもこの性能を発揮できるわけではありません。

その点感心するのがジープ「ラングラー」で、オフィシャルサイトには「電気シールとボディシールの追加、およびエアインテーク位置の高さを確保することで、他車では渡れない川や冠水したアンダーパスの走行を可能にします」とあり、「進入前に未確認の深みがないか確認を行うこと」「水辺における運転により生じた損傷には新車保証が適用されない場合がある」などの記載があります。数字だけをアピールするだけでなく、このような注意書きも同時に記す姿勢に感心しました。

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昔のブログで、大雪の時に乗っていた車両を置いて帰ったことを書きましたが、今回の千葉豪雨で、大雨のときにもそういう心構えが大事だと思った次第です。モビリティとは移動可能性、移動のしやすさという意味で、移動することが善という意味に取れますが、何事にも限度はあるし、自然の前には人間は無力であるわけで、モビリティは権利ではあるけれど義務ではないという考え方が必要かもしれません。

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