先週末は私が所属している「日本福祉のまちづくり学会」全国大会で北海道に行ってきました。毎回研究発表をさせていただいていて、今回は4月に体験しに行った石川県小松市のライドシェアをテーマとしましたが、ここで困ったことが起こりました。原稿を提出した6月初めからここまでの間に、日本のライドシェアを取り巻く状況がガラッと変わってしまったからです。

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最大の動きは7月、国土交通省に「交通空白」解消本部が設置され、一部の自治体やメディアが使っていた、自家用有償旅客運送発展型の「自治体ライドシェア」に代わる名称として、「公共ライドシェア」が登場したことです。同本部ではタクシー、乗合タクシー、ライドシェアなどを地域住民や来訪者が使えない「交通空白」の解消に向けて早急に対応していく組織としており、公共ライドシェアは「日本版ライドシェア(自家用車活用事業)」と並立するものと定義しています。

多くのメディアが日本版ライドシェアばかりを紹介し、これまで傍流どころか無視に近い扱いをされてきた自家用有償旅客運送発展型ライドシェアについて、政府が公共ライドシェアという看板を掲げ、導入支援を進めると明言したのは大きな転機であり、このブログなどで日本のライドシェアは2種類あると説明してきたひとりとして、喜ばしく思います。

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国土交通省「交通空白」解消本部オフィシャルサイトはこちら

公共ライドシェアの確立は、当初6月を目処としていた、日本版ライドシェアへのタクシー事業者以外の参入が、タクシー業界の反対で延期されたことへの反動だと思っています。実は小松市などが関わる「活力ある地方を創る首長の会」から生まれた自治体ライドシェア研究会は、4月に一般社団法人全国自治体ライドシェア連絡協議会に発展し、政府と協力・連携して公共ライドシェアの導入に取り組んでいくとしていました。この動きは大きかったと感じています。

一連の動きに対応する民間事業者もあります。たとえば日野自動車は昨年7月、自家用有償旅客運送向けの遠隔運行管理受託サービスを鳥取県智頭町で導入しており、続いて今年7月からは、小松市と智頭町、兵庫県朝来市で、通信型ドライブレコーダーを用いた運行管理業務の実証実験を開始しています。ドライブレコーダーのデータを用いて事故やトラブルの記録し、日報の作成も可能で、安心・安全な運行をサポートしていくとしています。

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日野自動車のニュースリリースはこちら

一方日本版ライドシェアでは、国内最大のカーシェアリング事業者であるパーク24グループのタイムズモビリティが、Uberのパートナーである法人タクシー事業者ロイヤルリムジンとともに、カーシェア車両を活用したライ ドシェアの試験運用を東京都内で開始すると発表しました。カーシェア車両によるライドシェアは日本初になります。自家用車を所有していない人、あっても使える時間に制限がある、所有車が条件に合わないなどの場合でもライドシェアに参加できます。

その日本版ライドシェアでは、7月から曜日や時間帯に加えて、雨天や酷暑時にも稼働可能となりましたが、実際はアプリの未対応やドライバー不足により、運行実績ゼロのタクシー事業者が多いというニュースもあります。一方の公共ライドシェアでは、タクシーに空車がない場合に限りライドシェアを配車する「タクシー優先配車」を、10月から導入するとしています。この場合、料金はタクシーと同額になるとのことです。

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パーク24のニュースリリースはこちら

日時だけでなく天候まで細かくルールを定めた日本版ライドシェアと、タクシー優先配車というシンプルな手法を考えた公共ライドシェア。日本らしいのは間違いなく前者ですが、移動のニーズにリニアに応えられるのは後者でしょう。ドライバーにとっても昨今の天候より、タクシーが足りなくなるタイミングのほうが読みやすいはずです。というかタクシーの運転手も、そのような感覚を研ぎ澄ませて運行をしていたはずで、この種のモビリティサービスには必須の技術ではないでしょうか。

いずれにしても国の方針で、我が国のライドシェアは日本版ライドシェアと公共ライドシェアという2つのルールが確立されたことになります。理想を言えばひとつにまとめたほうがわかりやすいですが、まちづくりのなかでこの種のモビリティサービスを入れる際には、2つの手法を選べるようになったわけで、敷居は下がったし裾野は広がったと言えるでしょう。今後も動向に注目していきたいと考えています。