南海電気鉄道が、現在建設中のなにわ筋線に乗り入れる次期空港特急の導入を発表しました。これまで「ラピート」が築いてきた価値と精神を継承しつつ、次世代の南海グループのフラッグシップとなることを目指して開発に取り組むとのことですが、多くの人が注目したのは、車両デザインのパートナーとしてイタリアのピニンファリーナと共創するということです。

ピニンファリーナと言えば、数多くのカーデザインを手掛けてきたことで知られています。なので「なぜ鉄道?」と思った人がいるかもしれませんが、欧州ではいくつか実例があり、私もスイス連邦鉄道で乗ったことがあります。またスイスとイタリアを結ぶユーロシティ(国際特急列車)は、やはり自動車ではおなじみのジョルジェット・ジウジア氏が立ち上げたイタルデザインが手掛け、フィアット・グループが開発した車体傾斜装置「ペンドリーノ」を組み込んでいます。
スイスがデザイン後進国かというと、全然そんなことはありません。同国が1950年代に提唱したタイポグラフィ(文字を美しく効果的に配置・表現するデザイン手法)はその後、スイス・スタイルとして世界中に広まりました。多くの人が今も使う「ヘルベチカ」という書体も、このときに生まれたものだそうです。下の写真でユーロシティが停車する右隣のホームにあるスイス連邦鉄道の時計も、スイスを代表するデザインのひとつになっています。

そんなスイスの鉄道がイタリアンデザインを取り入れているのは、移動体に求められるダイナミズムやエレガンスの表現に長けているからでしょう。私は今年度を含めて、長年グッドデザイン賞の審査委員を務めさせていただいていて、鉄道をはじめとするモビリティのデザインを数多く見てきていますが、他のジャンルと大きく違うのがこの動感表現であり、この点でイタリアは今なお世界のトップレベルにあると思っています。
昔の話になりますが、NHK BSでピニンファリーナのドキュメンタリー番組の解説を担当することになり、事前に全編を見た中でもっとも印象的だったのは、デザインをまず遠くから見て、走る姿を想像しながらチェックしていたことです。日本のカーデザインは細部にこだわりがちですが、疾走中は細かい部分は見えないわけで、プロポーションが命であるという主張に共感しました。
日本の鉄道車両で海外のデザインを採用した事例として、JR西日本(西日本旅客鉄道)の新幹線車両500系を思い出す人は多いでしょう。ドイツのアレクサンダー・ノイマイスター氏が手掛けたもので、今も山陽新幹線「こだま」として走り続けていますが、かつては東海道新幹線東京駅まで乗り入れていました。航空機を思わせる丸い断面やシルバーの車体色など、それまでの新幹線車両とは明らかに違うデザインで、日本初の300km/h営業運転を実現するなど高性能も自慢でした。

ただ東海道新幹線を運行するJR東海(東海旅客鉄道)にとっては、自社の車両とドアの数や座席数が異なり、運行管理に支障があることなどを表向きの理由として、同等の性能を持つN700系の登場もあり、東京駅への乗り入れは2010年で終了しました。その後は前述のとおり山陽新幹線内で使われていましたが、1997年から走りはじめていて、まもなく30年選手になるということで、来年1月に定期運行が終了することになっています。
外国人が多く乗る空港アクセス特急だからこそ、日本人がデザインしてほしいという書き込みも目にします。しかし新型特急が発着する関西国際空港の第1ターミナルは、イタリアを代表する建築家レンゾ・ピアノが関わっていることを、忘れてはいけないでしょう。実はイタリアつながりでもあるわけで、個人的にはピアノの建築とピニンファリーナの車両のコラボレーションという点にも注目しています。

南海電気鉄道のニュースリリースはこちら
もちろん日本人のひとりとして、同じ国のデザイナーや、モビリティに関わる会社には活躍してほしいと思っていますが、個人のデザインの嗜好や評価は、それより上に位置するものであるべきでしょう。国の意見が優先されるのは、ナショナリズムがすぎると感じるし、会社の意見を優先というと、500系の東京駅乗り入れが打ち切られたあの瞬間を思い出します。素晴らしいモビリティデザインは、素直に褒めて好きになりたいものです。
*来週は夏休みをいただきます。次回の更新は8月22日の予定です。

ピニンファリーナと言えば、数多くのカーデザインを手掛けてきたことで知られています。なので「なぜ鉄道?」と思った人がいるかもしれませんが、欧州ではいくつか実例があり、私もスイス連邦鉄道で乗ったことがあります。またスイスとイタリアを結ぶユーロシティ(国際特急列車)は、やはり自動車ではおなじみのジョルジェット・ジウジア氏が立ち上げたイタルデザインが手掛け、フィアット・グループが開発した車体傾斜装置「ペンドリーノ」を組み込んでいます。
スイスがデザイン後進国かというと、全然そんなことはありません。同国が1950年代に提唱したタイポグラフィ(文字を美しく効果的に配置・表現するデザイン手法)はその後、スイス・スタイルとして世界中に広まりました。多くの人が今も使う「ヘルベチカ」という書体も、このときに生まれたものだそうです。下の写真でユーロシティが停車する右隣のホームにあるスイス連邦鉄道の時計も、スイスを代表するデザインのひとつになっています。

そんなスイスの鉄道がイタリアンデザインを取り入れているのは、移動体に求められるダイナミズムやエレガンスの表現に長けているからでしょう。私は今年度を含めて、長年グッドデザイン賞の審査委員を務めさせていただいていて、鉄道をはじめとするモビリティのデザインを数多く見てきていますが、他のジャンルと大きく違うのがこの動感表現であり、この点でイタリアは今なお世界のトップレベルにあると思っています。
昔の話になりますが、NHK BSでピニンファリーナのドキュメンタリー番組の解説を担当することになり、事前に全編を見た中でもっとも印象的だったのは、デザインをまず遠くから見て、走る姿を想像しながらチェックしていたことです。日本のカーデザインは細部にこだわりがちですが、疾走中は細かい部分は見えないわけで、プロポーションが命であるという主張に共感しました。
日本の鉄道車両で海外のデザインを採用した事例として、JR西日本(西日本旅客鉄道)の新幹線車両500系を思い出す人は多いでしょう。ドイツのアレクサンダー・ノイマイスター氏が手掛けたもので、今も山陽新幹線「こだま」として走り続けていますが、かつては東海道新幹線東京駅まで乗り入れていました。航空機を思わせる丸い断面やシルバーの車体色など、それまでの新幹線車両とは明らかに違うデザインで、日本初の300km/h営業運転を実現するなど高性能も自慢でした。

ただ東海道新幹線を運行するJR東海(東海旅客鉄道)にとっては、自社の車両とドアの数や座席数が異なり、運行管理に支障があることなどを表向きの理由として、同等の性能を持つN700系の登場もあり、東京駅への乗り入れは2010年で終了しました。その後は前述のとおり山陽新幹線内で使われていましたが、1997年から走りはじめていて、まもなく30年選手になるということで、来年1月に定期運行が終了することになっています。
外国人が多く乗る空港アクセス特急だからこそ、日本人がデザインしてほしいという書き込みも目にします。しかし新型特急が発着する関西国際空港の第1ターミナルは、イタリアを代表する建築家レンゾ・ピアノが関わっていることを、忘れてはいけないでしょう。実はイタリアつながりでもあるわけで、個人的にはピアノの建築とピニンファリーナの車両のコラボレーションという点にも注目しています。

南海電気鉄道のニュースリリースはこちら
もちろん日本人のひとりとして、同じ国のデザイナーや、モビリティに関わる会社には活躍してほしいと思っていますが、個人のデザインの嗜好や評価は、それより上に位置するものであるべきでしょう。国の意見が優先されるのは、ナショナリズムがすぎると感じるし、会社の意見を優先というと、500系の東京駅乗り入れが打ち切られたあの瞬間を思い出します。素晴らしいモビリティデザインは、素直に褒めて好きになりたいものです。
*来週は夏休みをいただきます。次回の更新は8月22日の予定です。
