THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: テクノロジー

今週11日、政府によるデジタル行財政改革の取りまとめ案が判明しました。このなかでは自動運転について、特定の条件下で人が運転に関わらない「レベル4」を2025年度までに全都道府県で推進するとしています。ライドシェアについてはタクシーだけでなくバスや鉄道などの運送事業者が参入できるよう検討を始めるとしています。ライドシェアは前回触れたので、今回は自動運転に絞って書きます。

441457173_3435376036593056_6889149451935644700_n


政府によれば、自動運転の推進は急激な人口減少社会に対応するためとしていますが、このブログでも何度か書いてきたとおり、バスやタクシーの運転手不足は深刻であり、働き方改革でさらにそれが加速していることも関係しているでしょう。一般のドライバーが移動を補助するライドシェアとともに、運転手なしで移動できるサービスの提供は喫緊の課題だと思います。

これに先駆けて日産自動車では今月初め、自社開発の自動運転技術を搭載した新世代の実験車の走行を公開しました。日産は2017年度より自動運転モビリティサービスの実証実験を進めており、2027年度より自治体や交通事業者を含む関係各所と協議したうえで、サービスの提供を目指していくとしています。

231206_Mobility_Service_Photo1.jpg12
日産自動車のニュースリリースはこちら

そんな中、日産とアライアンスを組むフランスのルノーは、レベル4の開発の主軸を自家用車からバスなどの公共交通に移し、自家用車向けの同技術の開発は進めない方針を発表しました。最近はレベル4移動サービスに積極的な自動車会社がいくつかありますが、ここまではっきり言及したのは珍しいのではないでしょうか。すでに中国WeRideと共同開発した車両が、全仏オープンテニス(ローラン・ギャロス大会)に投入されており、今後は同じフランスのEasyMileなども加わるそうです。

Autonomous Shuttle  Roland Garros
ルノーのニュースリリースはこちら(フランス語)

たしかに現在のアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)や車線維持支援などのレベル2またはレベル2+を体験すると、これで十分であり、一段階上のレベル3はコストが跳ね上がるわりに作動範囲が限定されていることも知っているので納得です。ルノーでは、イノベーションはできるだけ多くの人々に共有され、経済的に利用しやすく、有用でなければ意味がないとしており、フランスらしい考えだと感じました。

自動車の安全技術は年々上がっているのに、交通事故の死者はここ数年ほぼ横ばいで、昨年は増加に転じました。最近の事故のニュースを見ると、「前を見ていなかった」という、驚くべき報告がいくつもあります。おそらくスマートフォンを見ながらの運転だったのでしょう。レベル3はシステムが運転の交代を要請してきた場合、人間が運転を引き継がないといけないので、こういう人は交代に応じない可能性が出てきます。

Renault Group - Experimentation

しかも自家用車は所有者が日常点検などをしなければいけないことが、法律で決められています。これはレベル4でも引き継がれると予想していますが、すべてのドライバーが自動運転に対する知識を持ち、点検を行うシーンは、残念ながら期待できません。それを含めて考えても、レベル4は移動サービスとしての展開が妥当です。かつて「自動運転があれば公共交通はいらない」と言っていた人がいましたが、今は「自動運転は公共交通のためにある」という流れなのです。

今週日曜日、福井県永平寺町で、産業技術総合研究所(産総研)・ヤマハ発動機・三菱電機・ソリトンシステムズが開発に関わった、日本初の自動運転レベル4による移動サービスが始まりました。レベル4については今年4月1日に解禁となったものの、各種許可が必要になることから実現はしばらく先と思っていたので、予想より早い実現という印象を受けましたが、現場を知っている者としては納得できるところもあり、拙速ではないと理解しています。

2023-05-27 11.28

というのも、今回レベル4が導入されたルートは、鉄道の廃線跡を活用した遊歩道であるうえに、交差する道路がないからです。永平寺町の自動運転は、レベル2だった時代に全線を通して乗ったことがありますが、途中国道など何本かの道路と交差します。今回はその部分を除いた約2kmで実施しているのです。とはいえレベル4には限定された領域という条件があり、走行する道路は公道(永平寺町道)なので、日本初という表現は妥当だと思っています。

永平寺町が扉を開けてくれたことで、廃線後の道路を活用したBRTなどでは、レベル4の実現性が高くなったと言えます。続いて茨城県境町のように、レベル2でありながら他の自動車との混流や交差点の通過、右左折などを実現している地域で、課題をクリアしながらレベル4を目指していくのではないでしょうか。とはいえいずれも移動サービスに限った話であり、1年前のブログで書いたとおり、マイカー(自家用車)の完全自動運転、つまりレベル5は当面先という考えは変わりません。

IMG_1105

ところで今回のニュースを含めて、最近自動運転の話題を見るたびに感じているのは、同じAIを使う、ChatGPTなどの生成AIとの関係です。AIはデータを取得し、ディープラーニングなどの手法を取り入れることで、さまざまな作業を可能としていますが、データの取得が不十分な分野、まったく新しい分野では正確な答えを出してもらえないこともあるというのは、多くの人がChatGPTで体験していると思います。

IMG_7369

昨日、私も会員になっている日本都市計画学会の第12回定時総会が開かれましたが、その中でもChatGPTの話題が出ました。事務的なタスクをChatGPTに任せることで、クリエイティブな仕事により多くの時間を割くことができるというような話で、AIの特性を熟知した指摘であり、とても共感しました。 

同じ自動運転でも、移動サービスは車両の動きや走行するルートのデータが取得済みなので、今回の永平寺町のように他の自動車がなく交差する道路もないなら、事務的なタスクに近い状況で走らせることができます。対するマイカーの走行は、日々新しい状況が生まれる、いうなればクリエイティブな環境です。だからこそドライバーは突発的な状況にも対応できる心構えをしておかなければならないし、AIにそれを任せるのは現時点では難しいという結論になるのです。

IMG_9243
日本都市計画学会のウェブサイトはこちら

私は自動運転を含めたAIの仕事を否定するわけではなく、むしろ可能性を楽しみにしているひとりですが、成り立ちから考えれば万能とは言えないのも事実です。ChatGPTについても、安全や信頼が重視される状況では使用は控えたいという気持ちです。自動運転もこれと似ていて、突発的な事態に見舞われることがほとんどなく、ルーティーンの繰り返しで走ることができるような地域から導入していくのが望ましく、その意味でも永平寺町は日本初にふさわしい場所ではないかと思っています。

東京ビッグサイトで3月15〜17日に開催されていた「スマートエネルギーWeek春2023」に行ってきました。太陽光・風力発電、水素・燃料電池、バイオマス、スマートグリッドなど、次世代エネルギーに関連するさまざまな分野の最新技術を見ることができました。その中で個人的に興味を持ったのは、モビリティにも関係があるバッテリーや水素タンク、燃料電池などをパッケージ化した提案でした。

IMG_0511

スマートグリッドEXPOの本田技研工業(ホンダ)ブースでは、すでに原動機付自転車(原付)に採用している交換可能なバッテリーを使った製品が並んでいました。中でも目を引いたのは軽商用車の床下に8個のバッテリーを積んだ「MEV-VANコンセプト」で、最高速度70km/h、満充電での航続距離75kmとのこと。近場の配達が主な任務なら十分だし、充電の待ち時間から解放されるメリットもあります。

ただ一方で、約10kgのバッテリーを8個も交換するのは大変な作業であることも事実で、4個ぐらいで同等の性能が出せる、超小型モビリティ規格の商用車があればいいのではないかと思ったりもしました。

IMG_0480

すでにコマツのパワーショベルなどの実用例がある建設機械の新提案もありました。写真は酒井重工業の電動ハンドガイドローラ(小型締固め機械)で、バッテリーを2個積んでいました。作業員の労働環境を改善するだけでなく、工事現場周辺の騒音振動問題も軽減されることが期待されます。自動車以上に電動化のメリットを享受できる分野ではないかと感じました。

IMG_0386

H2 & FC EXPOでは、トヨタ自動車のブースに水素や燃料電池関連の展示が多数ありました。個人的に注目したのは水素貯蔵モジュールのコンセプトで、燃料電池自動車「ミライ」で実績のある樹脂製高圧水素タンクとセンサーや自動遮断弁などを一体化しており、展示されたTC10では現行ミライの倍近いタンク容量を持っているそうです。

水素を原料として電気を生み出す燃料電池スタックのパッケージも数社が展示していました。フランスのミシュランとフォルシアの合弁会社でステランティスが出資するシンビオ(Symbio)では、4種類のサイズを用意。展示していたのは定置用ですが、車載が可能な小型の製品もあり、幅広い用途に使えそうだという印象を持ちました。

IMG_0421

今回紹介した展示は、バッテリーは充電に時間がかかり、水素は充填場所が少なく、燃料電池スタックは構造が複雑といったネガを、パッケージの力で解決しようとしている点に感心しました。それとともに、小型にはバッテリー、中大型には燃料電池という使い分けが理想だとあらためて感じました。すべての乗り物をひとつのエネルギーで賄うのはやはり無理があり、適材適所でカーボンニュートラルを目指すのが理にかなっていると思いました。

JR東日本(東日本旅客鉄道)が、QRコードを使った乗車券の導入を発表しました。紙の切符の代わりとして、ICカード乗車券が導入されていない地域を中心に導入していくそうです。一方で高速バスや西日本の鉄道を中心に広まりつつあるのが、Visaカードを使ったタッチ決済です。私も関西や九州などで使ったことがあるので、運営事業者などに話を聞きました。

IMG.3974

その内容はインターネットメディア「ビジネス+IT」で書かせていただいており、ご興味のある方はお読みいただければと思います。そこにも書きましたが、Visaカードのタッチ決済の交通分野への導入は、海外では以前からあったことで、日本導入の理由としてはインバウンド需要への対応が大きく、交通系ICカードとの対抗は考えておらず、それぞれの得意分野を生かしつつ共存していきたいとのことでした。

そこまでいろいろな種類の決済方法があると紛らわしいと思う人もいるでしょう。でも私たちが買い物をするコンビニエンスストアやスーパーマーケットでも決済方法はいろいろあり、各自が好みのデバイスを選んでいます。そのほうが多くの人を快適にできるからであり、こういう話題は社会はどうかという視点で見ることが大切です。



それに多彩な決済方法が選べるのは大都市圏などに限った話であり、国内でも交通系ICカードが導入されていない地域は数多くあります。理由のひとつにコストがあると言われています。多数の利用者がおり運賃収入が多い大都市の交通事業者なら導入や維持ができても、地方ではオーバースペック・オーバーコストになるようです。

現にJR東日本がICカードで統一を図ろうとせず、QRコードの導入を発表し、まず東北地方から展開しようとしているのは、コストも理由にあると思っています。とはいえ地方はおしなべて高齢化率が高く、スマートフォンを持たない人も多いので、キャッシュレスアプリやQRコードを使えない人も出るのではないかと心配しています。

IMG.4875

もちろんクレジットカードを持つことができない、持ちたくないという人もいます。しかしそういう人でも多くは銀行口座を持っているはずで、記事にあるようにデビットカードを持つことで同等の決済ができます。しかもタッチ決済の端末は、交通系ICカードより大幅に安価です。能登半島の先端にある石川県珠洲市が、人口あたりの決済数日本一を記録したことからも、地方にフィットする手段と感じています。

さらにグローバル視点で見ると、クレジットカードは世界共通という利点があります。この点では両替が必要な現金以上に便利です。外国人観光客にとっては、もっともストレスフリーに使える決済手段であり、より多くの観光地に足を延ばしてもらえるきっかけにもなると思います。

IMG.8497

とはいえすべてをクレジットカードに統一すべきとは私も思いません。移動手段と同じように、決済手段も使い分けていいと考えます。大都市は交通系ICカード、新幹線などはQRコード、観光地はクレジットカードというのが望ましいのではないでしょうか。ちなみに認識速度は、交通系ICカードよりやや遅い程度で、QRコードよりはるかにスピーディであり、この点も交通向きです。

このページのトップヘ