THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: デザイン

通勤電車というと、片側に3・4箇所の両開きの広いドアを持ち、車内に入るとドアの間は進行方向に対して横向きに座る長い座席(ロングシート)と、それに沿ってつり革があるというレイアウトが一般的です。ところが最近、これとは違う座席配置の車両が増えてきました。

IMG_3484

まずは少し前にブログで紹介したRDEフォーラムも行われた鉄道技術展・大阪2026の会場、インテックス大阪への往復で使った大阪メトロ中央線です。ここには昨年の大阪・関西万博の開催に合わせて、斬新なデザインの400系が導入されました。そのうちの1両がクロスシートとなっているのです。車体中央部のドアの色がグリーンではなくグレーなので、外からもわかります。

IMG_3485

同じ関西を走るJR西日本の新快速のような片側2人掛けではなく、ひとり掛けです。おかげでロングシートと同等以上の通路を確保できており、つり革も同じ位置にあります。座ってみると、鉄道は横方向の揺れが少ないので、加減速のときの前後の揺れを背もたれで受け止めてくれるクロスシートは楽だと、あらためて感じました。

大阪メトロ中央線は近鉄(近畿日本鉄道)けいはんな線に乗り入れ、奈良市の学研奈良登美ヶ丘駅まで直通運転しているので、全区間を乗り通すと約1時間になります。たしかに座席定員は減りますが、6両中1両なら、長時間移動のためにも、こういう座席があっていいと思いました。

IMG_3137

車いすやベビーカー利用者のために座席を置かない、フリースペースも目にするようになりました。写真は京王電鉄2000系の5号車に設けられた「ひだまりスペース」で、ひと足先に登場した西武鉄道40000系の「パートナーゾーン」も近い作りです。座席をなくした代わりに、中央部に腰壁を備えていることが特徴です。

IMG_3140

横の窓がかなり下まで広がっていることも目立ちます。子供でも外が見えるようにという配慮だそうですが、私が乗った電車では、窓際に立つ人がいないことにも気づきました。ここまで大きいと外から丸見えなので、気が引けると思うのかもしれないし、子供のための空間だと理解する人が多いためかもしれません。

鉄道技術展・大阪2026では近畿車輛のブースに、「近車式多用途客室」が展示してありました。上で書いたように、車いすやベビーカー利用者に対応したフリースペースは増えていますが、ベビーカーを押してきた親などが座る場所は用意されていないことが多かったりします。そのための座席ということで、一部が東武鉄道80000系、近畿日本鉄道8A系などに採用されているそうです。

DSC08451

電車はもともと都市内の短距離輸送用として生まれたこともあり、昔からロングシートが一般的でした。乗り降りしやすく、通路が広く取れるなどの特徴が向いているのでしょう。ただ近年はさまざまな利用者のことを考えた設備が大事になりつつあります。個人的には鉄道会社や車両会社、デザイナーの腕の見せ所ではないかと思います。斬新な車内をどんどん提案してもらいたいものです。

まずは下の写真をご覧ください。これは事務所の近くにある商店街の道路です。手前から奥に向けての一方通行で、歩道はなく路側帯があるだけですが、最近、自転車の通行部分を示すブルーの矢羽根型の表示が両脇に加わりました。この商店街から伸びる脇道(2枚目)は一方通行ではありませんがさらに狭く、路側帯すら設けられていませんが、同じように矢羽根表示が新たにペイントされていました。

IMG_2962

IMG_2955


これを好ましい交通安全政策だと思う人は少ないのではないでしょうか。そもそも自動車1台がようやく通れる程度の幅で、歩道もないのに、自転車の通行場所だけを示すことに、違和感を抱いたのではないかと思います。

国土交通省の資料を見ると、国が定める自転車通行空間には、自転車道、自転車専用通行帯(自転車レーン)、車両混在(上で見せた矢羽根型路面表示など)の3つがあります。下のグラフにあるように、トータルでの距離は年々伸びていますが、増加分の多くは車両混在の路面表示となっています。これが我が国の自転車通行空間の実態なのです。

スクリーンショット 2026-06-06 12.46.45
スクリーンショット 2026-06-06 12.57.23

狭い道と言えばもうひとつ、SNSなどで話題になっているのが、下の写真のように追い越しのための右側部分はみ出し通行を禁止したイエローのセンターラインが引かれた道路です。警察庁では自動車が自転車の右側を通過するときの目安として、少なくとも1メートル程度の間隔を空け、間隔を確保できない場合には時速20〜30キロ程度で追い抜くことが安全としています。しかし写真の道路の場合は、四輪車は間隔を開けると右側にはみ出すことになり、イエローラインなので違反になります。

IMG_2823

それならと違反回避のために時速20〜30キロで追い越しをすると、この道路の制限速度は写真にもあるように時速40キロなので、後続車もスピードを落とすことになり、追い越しに時間が掛かることから、対向車にも影響を及ぼすなど、交通に乱れを生じさせることが考えられます。

私は欧米での運転経験もありますが、追い越しのための反対部分はみ出し通行を禁止する区間が、日本ほど多い国はちょっと記憶にありません。見通しの悪いカーブなど、限定した場所で禁止とするのがほとんどです。 はたして自転車が車道を通ることを想定しているのでしょうか。自転車が車道を走るという前提であれば、自動車は追い越しのためにセンターラインをはみ出すことになるわけで、イエローラインにはしないからです。

では狭い道で歩行者と自転車、自動車が共存するには、どうすれば良いのでしょうか。ここではシェアドスペース(歩車共用空間)の考え方を紹介しておきます。

スクリーンショット 2026-06-06 13.32.28

シェアドスペースはオランダで考え出されたもので、歩道と車道を一体化して、信号機や道路標識などをなくすことで、道路を共用してもらうというものです。例としてグローニンゲンの事例をGoogleマップのストリートビューで紹介します。一見すると事故が増えそうな感じを受けますが、移動者が注意深く行動するからでしょう、実際には事故は減り、自動車のスピードが低下したという報告も出ているそうです。

自転車王国と言われるオランダで、シェアドスペースの考えも生まれていることに注目です。最初に紹介した渋谷区の商店街も、そもそもはシェアドスペースであるはずです。そこに矢羽根型の路面表示を描いて、自転車通行空間の整備をアピールすることが安全につながるのでしょうか。狭い道まで無理に区分することはなく、公道という呼び名のとおり、みんなで使うという原点に立ち返ってほしいものです。

このブログでは何度か取り上げている「RDE(レールウェイ・デザイナーズ・イブニング)フォーラム」。毎年秋のイベントというイメージを持っている方がいるかもしれませんが、今年は5月27〜29日に大阪市のインテックス大阪で行われる「第2回鉄道技術展・大阪」の併催事業として、5月28日(木)13:30〜18:30に開催されることになりました。

スクリーンショット 2026-04-04 18.47.55スクリーンショット 2026-04-04 18.55.21

個人的にはそれ以外にも変化があります。ひとつは今年からRDEの実行委員のひとりとして運営に携わるようになったこと、もうひとつは当日のキーノートスピーチを担当させていただくことです。本年度も審査委員を担当するグッドデザイン賞などで、鉄道のデザインは長年見てきましたが、鉄道専門でもデザイン専門でもない人間であり、身に余る光栄だと感じているところです。

今回のテーマは「蘇る地方鉄道ー型破りのデザイン戦略と地域ブランディング」です。それを受けて私は「地方は大胆になれる」というテーマで話を進めるつもりです。地方は鉄道に限らず、たしかに厳しい状況に置かれています。しかし東京で生まれ、東京で暮らす自分が地方に行って感じるのは、狭い土地に多くの人が密集する東京では、むしろ実現が難しいモノやコトがあることです。

IMG_0859

このブログでも紹介してきましたが、自動運転やドローンなど、最近は地方から導入が進むモビリティサービスがいくつかあります。鉄道の分野でもLRTやハイブリッド車両は、地方で走りはじめました。デザインについても同じことが言えると考えています。地域や利用者が絞り込めるからこそ、思い切った造形や色彩ができるのではないでしょうか。それを「大胆になれる」という言葉に託しました。

DSC07662

当日は車両だけでなくインフラやサービスまで含めて、今の地方鉄道の中からいくつか、個人的に印象に残るモノやコトを紹介したいと思っています。さまざまなモビリティシーンを見てきた者として、鉄道以外の地方のモビリティデザインも紹介することで、地方鉄道復権の後押しになればと考えています。

IMG_8376


事前申し込みは4月下旬より、第2回鉄道技術展・大阪のホームページ(下のバナーからお入りください)で受け付ける予定です。車両メーカーやデザイン会社で地域鉄道に関わった方々のプレゼンテーションやパネルディスカッションも必聴です。第2部の情報交流会のみ、参加費4000円をいただきます。



母体となる鉄道技術展も、200を超える企業・団体が出展予定で、DMV(デュアルモードビークル)の実機展示、ドクターイエローT4編成の写真パネル展示などもあるそうです。こちらの入場料は2000円ですが、インターネットから事前登録をしていただければ無料になります。ご興味のある方、ぜひインテックス大阪にお越しください。

昨日、名古屋市で新しい交通システム「SRT」が走りはじめました。スマート・ロードウェイ・トランジットの略で、名古屋駅と繁華街の栄を結びます。名古屋市住宅都市局都市計画部交通事業推進課が事業を運営、名鉄バスが運行を担当していて、毎週金曜日から月曜日までの4日間運行。実車はまだ見ていませんが、全長18mのメルセデス・ベンツのディーセルエンジン連接バスはシックなカラーをまとい、車内も落ち着いていて、ひと味違う都市交通になりそうです。

srtimg_bus09_s
名古屋市のSRT紹介ページはこちら

実はこの3日前、フランスでも新しい交通システムが走りはじめました。パリを含めたイル・ド・フランス地域圏の南部、エソンヌ県のヴィリー・シャティヨンとコルベイユ・エッソンヌを結ぶ「Tzen 4」です。Tzenとはこの地域圏がBRT(バス・ラピッド・トランジット)に与えた名称で、トランスポートやトラムの頭文字Tと、日本語の禅が由来でフランスでは落ち着いた、穏やかなという意味のzenを組み合わせたようです。

aYR0yt0YXLCxVale_1360-tzen4essais
イル・ド・フランス・モビリテ Tzen 4の紹介ページはこちら(仏語)
 
トラムのクオリティとバスのフレキシビリティを兼ね備えたと説明されるこのTzen、すでに今回開業した路線の近くにTzen 1がありますが、そちらの車両は連節バスを含めてディーゼルエンジンでした。これに対してTzen 4は、全長24mの3連節電気バスで、ベルギーのヴァン・フールとともに開発。充電は停車中に床下から5分以内で完了させるなど、フランスらしく前衛的な内容となっています。

山梨県が富士山麓に導入を計画している「富士トラム(仮称)」への採用が予定されている車両は、やはり3連節で、全長は30mあり、燃料電池を使用し、路上の白線を用いて自動運転をするなど、さらに個性的な内容を持っています。中国中車(CRRC)グループが同様の内容の車両を開発しており、中国内ではすでに営業運転をしているとのことです。ただフランスも地下鉄の無人運転、バスの正着制御などは実用化しているので、Tzenの自動化はさほど困難ではないと想像しています。

fujitram-pamphlet 5
山梨県の富士トラム(仮称)紹介ページはこちら

もちろんSRTとTzenは位置付けが大きく異なります。SRTは名古屋の都心部の回遊性やにぎわいを増すため、まちづくりと一体となった新たな路面公共交通システムとして位置付けています。観光的要素を兼ね備えた路線バスという感じでしょうか。なのでBRTで重要な専用レーンがないことも納得できますが、それ以上に車両に対する考え方の違いが印象に残りました。

srtimg_bus03_s

日本のバスは、道路車両運送の保安基準で全長12m以内、全幅2.5m以内と決まっており、連節バスは路線を定めて定期的に運行する事業用車両のみ、適用を緩和してもらっています。ここだけみても基準が厳しいことは想像できますが、SRTの車両が国内でも導入例があるメルセデス製なのに対し、Tzen 4ではベルギーのメーカーとともに斬新な車両を新開発したわけで、交通システムに対する力の入れ方の違いを感じます。

632277641_1311203411041522_4549629183182329069_n.webp

我が国は連節バスも、フルフラットバスも、電気バスも、第一号はすべて輸入車です。日本は乗用車については世界トップレベルの技術を持ち、販売にも結びつけています。社会を支えるバスにも、その実力をもっと注ぎ込んでいただきたいものです。日本がフランス並みになることは難しいことかもしれませんが、我が国ならではのデザインとテクノロジーを盛り込んだ、世界から注目されるバスが出現してほしいものです。

少し前の話になりますが、昨年11月下旬に千葉市の幕張メッセで、「RDE(レールウェイ・デザイナーズ・イブニング)フォーラム」が開催されました。さまざまな立場のデザイナーたちが鉄道の未来を考える場として、毎年開いているものです。このほど私がまとめた実施報告が、オフィシャルサイトにアップされたので、今回はこの話題を取り上げたいと思います。

第11回となる今回のテーマは「鉄道と色彩」で、長い歴史を誇るRDEフォーラムで初めて色を扱うことになりました。報告を見ていただければお分かりのとおり、鉄道以外の分野からの話題提供もあり、いろいろな角度から色彩を考えることができました。個人的にはその中でも、パネルディスカッションで話題になった地域との関わりが重要だと感じました。

IMG_1623
IMG_8075

自分が乗った車両ではまず、JR西日本の特急「やくも」に使われる273系電車を思い出します。特急としては異例のブロンズカラーは、宍道湖に沈む夕日、住宅の屋根を彩る石州瓦など、地域の色を反映したとのこと。車内は古来から神事に用いられてきた「麻の葉」 模様、富と長寿の象徴とされる「積石亀甲」模様をあしらっています。デザイナーと鉄道事業者が、地域の声を取り入れながら決めていったというプロセスも感心しました。



地域内の移動を支える車両では、JR東日本の「長野色」が気に入っています。JR東日本は営業区域が広いので、路線や地域ごとに独自の色を用いていますが、アドバンスブルーとリフレッシュグリーンの帯はいずれも爽やかな色調で、自分が信州にいることを実感させてくれます。長野色と言いつつ、東京都の立川駅や岐阜県の中津川駅まで乗り入れているので、多くの人が目にしていると思いますが、東京側の乗り入れは3月のダイヤ改正で高尾駅までになるそうです。

IMG_0393

海外では何度か紹介している、ルクセンブルクのトラムをここでも取り上げます。一見すると銀色と黒の2トーンでクールな雰囲気で、周囲の景観にしっくり溶け込んでいますが、ドアのガラスは5色に色分けされていて、昼は車内を彩り、夜はまちを彩ります。しかも座席の背もたれの水色の部分には照明が仕込まれていて、夜間のアクセントになっています。デザインには色彩と照明のアーティストが参加したそうで、その成果は十分以上にあると感じました。

IMG_7919
IMG_7915

ちなみに今年のRDEフォーラムは、2022年の第8回と同じように、5月27〜29日にインテックス大阪で行われる予定の「鉄道技術展・大阪」の併催イベントのひとつとして開催されるそうです。例年とは時期や場所が違うのでご注意ください。次回も皆さんの興味を惹くテーマが設定されると思いますので、気になる方はスケジュールを空けておいていただくよう、お願いいたします。

このページのトップヘ