THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: デザイン

大阪・関西万博が今週月曜日に閉幕しました。私は以前ブログで書いたように、5月に訪れましたが、先月も取材で行く機会がありました。欠席という選択もありましたが、それでも足を運んだのは、もう一度行きたいと思わせる魅力を感じたからです。前回の訪問で会場の概要が把握できたこともプラスになりました。そんな経験を踏まえつつ、モビリティという視点で万博を振り返りたいと思います。

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まず当初は商用運航が計画されていたものの、結果的にはデモフライトに終わったエアモビリティについては、「空飛ぶクルマ」というキーワードが示しているように、もともと一部の事業者がかなり前のめりで、それが上記の結果に現れたような気がしています。つまりこの責任は、多くは事業者によるものであると考えており、万博の運営側を批判するのはかわいそうだと思いました。

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次に会場アクセスについては、5月に行った時に記事にしたので、詳しくはそちらを見ていただきたいと思いますが、大阪メトロ中央線の終点夢洲駅に隣接した東ゲートと、周辺各地からのバスが到着する西ゲートのうち、東ゲートの混雑が報じられていました。でもこれは当然のことです。鉄道とバスでは輸送力が圧倒的に違うからです。

バスはJRゆめ咲線の終点桜島駅発着の便を除いて、すべて予約制でしたが、先月はほとんどの路線が早々と満席になっていました。一部の路線は開通前の阪神高速道路を使ったりして、速達性では鉄道並みでしたが、キャパシティでは比べ物になりません。今回の万博は、大量輸送に鉄道が適していることを証明した場でもありました。



会場内でもっとも印象的だったのは、万博のシンボルでもある大屋根リングでした。1周約2kmなので、半周すると15分ぐらい。歩くのにちょうど良いスケール感でした。しかも昼間は眺めがいいし、夜はライトアップが美しく、木の上を歩く感触は独特の心地よさでした。リングの下も、至るところにベンチがあって、休憩場所には事欠きません。しかも日陰になります。9月に行ったときは、この日陰に救われました。

そして位置関係の掴みやすさも、忘れるわけにはいきません。会場がおおむねリングの中というのはわかりやすいし、内側にいても、リングの見え方で自分がどのあたりにいるか把握できます。会場内を集会するバスも、大屋根リングに沿って走っていて、わかりやすいと感じました。柱に番号や施設を示すサインなどが貼ってあることも助かりました。だからでしょう、先月はほとんど地図を見ずに場内を歩き回ることができました。

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欧州の小さな城塞都市を思い出す作りは、「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインの理念が伝わってきたし、私を含めた東京の人間も、山手線や環状7号線などを場所の説明によく使うわけで、環状のインフラはモビリティに好ましいことを教えられました。そして数字に表せない、さまざまな心地よさ。万博を訪れた多くの人が、印象的だったものとして大屋根リングを挙げていますが、私も同じ気持ちでいます。

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最後になりますが、私の万博訪問に際しては、パビリオンの設営や運営に携わった方々のお世話になりました。他にも知人のクリエイターやデザイナーなどが、さまざまな立場で万博に関わっていました。それ以外のすべての関係者を含めて、一部の政治家やマスコミのネガティブキャンペーンに心を傷つけられながらも、来場者に素晴らしい体験を届けてくれたことに対して、この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

今年8月3日に開業した、広島電鉄の新しい広島駅停留場と駅前大橋ルートを、先月見に行くことができました。JR駅を貫くように設置された自由通路から直結という利便性の高さ、国内の路面電車では最大級のターミナル、新ルートによる所要時間短縮など、機能的にも感心しましたが、個人的には路面電車を見せる、舞台装置としての演出にも惹かれました。

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広島駅停留場は、JR駅自由通路の南端にあります。自由通路は幅広く、柱は目立たなくて気持ちいい空間なのですが、停留場に着くと、さらなる開放感が味わえます。停留所のところだけ天井が高く、出口に向けてその天井がさらに高くなっていって、その先は空、という作りが効いているのです。

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駅ビルを観察すると、停留場は少なくとも2フロア分を使っていました。ビル内の駅は普通1フロア分なので、かなり贅沢です。しかも完全吹き抜けではなく、3階には発着する電車を見ることができる階段状ベンチや通路があります。ベンチには何人かが腰を下ろして、電車を眺めながらひと休みしていました。

停留所の左右にも、電車を見る場所があります。両脇にカフェが入っているので、電車を待ちながひと休みできるのです。ただ実際には路面電車はひんぱんに発着しているので、カフェで待つ必要はありません。やはり3階のベンチと同じように、電車を眺めながらひと休みできるスペースとして用意しているのでしょう。 

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停留場を出た電車は、高架線を少しずつ下り、駅前大橋のあたりで地上に降りて、まちの中心部に向かいます。もし、バスやタクシーの乗り場がある地上に停留場があったら、ファッションショーのランウェイを思わせるこのような眺めにはならないはずで、ここもまたエンターテインメント的な要素を含んでいるように思いました。

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広島駅停留場を実際に訪ねて、路面電車は広島の顔であり、このまちを代表する市内交通であることを、オール広島でアピールしていこうという気持ちが伝わってきました。日本の路面電車でもっとも長い路線を持つという量的な部分だけでなく、質的な部分でも素晴らしい取り組みだと感心しました。

日本に来る外国人観光客が増えていることは、知っている人も多いと思います。オーバーツーリズムの問題も各地で発生しているようです。ただ、世界には上があります。フランスはその代表で、昨年の外国人観光客数は五輪・パラリンピックがあったこともあり、1億人を超えたそうです。もちろん世界1位で、約6800万人の人口を大きく上回っているわけですから、驚くべき数字です。

フランスが観光に積極的であることは、以前からお付き合いがあるフランス観光開発機構の活動からも実感します。メールニュースでさまざまな情報を届けてくれるだけでなく、現地の担当者を招いてのプレゼンテーションやワークショップもひんぱんに行っているからです。今月も旅行業とメディア関係者を対象としたワークショップがあったので参加してきたのですが、そこで面白い取り組みを教えてもらいました。

Château des ducs de Bretagne, Nantes © Philippe Piron _ LVAN
Nantes © Philippe Piron _ LVAN

舞台はパリからTGV(高速鉄道)で2時間の場所にある、ロワール川沿いの都市ナントです。フランス王国に併合される前、当時のブルターニュ公によって公城が建てられ、その後はアフリカ大陸とアメリカ大陸を結ぶ三角貿易の港として発展。造船業も盛んになりました。SF小説の父と呼ばれる作家ジュール・ヴェルヌの生まれ故郷であるなど、文化的な要素もありますが、以前は産業のイメージが強い都市でした。

Le Grand Éléphant
Nantes © David Gallard _ LVAN

しかし近年のナントは観光都市としても注目されています。その象徴と言えるのが、造船所の跡地を活用して作られた遊園地 「レ・マシン・ド・リル」で、街のシンボルにもなっている高さ12mの象「グランド・エレファント」をはじめ、さまざまな機械仕掛けの生き物が、来場者に驚きと喜びをもたらしています。

さらに観光公社「ヴォワヤージュ・ア・ナント」の担当者からは、興味深い仕掛けを教えてもらいました。市内にある130以上のアートスポットを巡る23kmのルートを考え、歩道などに細い緑色の線を描いた「グリーンライン」です。最近はSNSの普及もあって、特定の場所に観光客が固まりがちですが、それを分散させる効果もありそうです。訪れる側から見ても知らない場所を発見できたり、効率的に巡ることができたりというメリットがあります。

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ヴォワヤージュ・ア・ナントのオフィシャルサイトはこちら

ただヴォワヤージュ・ア・ナントの人によると、グリーンラインのルート選定は簡単ではなかったとのこと。商店や飲食店などが、自分たちの店の前に引いてほしいというお願いが多く、調整が大変だったそうです。またナントで話題になったことを受けて、他の都市でも導入を考えたそうですが、やはり商店などの調整がうまくいかず、採用されなかったという話も聞きました。

これ以外にもナントには観光客向けの便利なサービスがあります。そのひとつが「パス・ナント」で、有効期間は24/48/72時間および7日が選べ、48時間パスの場合39ユーロで公共交通のほかブルターニュ公城内の歴史博物館 、レ・マシン・ド・リルのギャラリーなど50のアトラクションが無料になるというものです。また平坦な土地なので、サイクリングも向いていそうです。

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ナントでは毎年夏にアートイベントを行なっており、今年は6月28日から8月31日まで開催されるそうです。公共空間にさまざまな現代美術が展示され、歴史博物館では葛飾北斎の展覧会が行われるとのことです。時間とお金に余裕がある人は現地を訪れてみてはいかがでしょうか。また観光客を誘致したいと考えている国内の地方都市の関係者は、ナントをはじめとするフランスのアイデアを参考にしてみてはどうかと思っています。

仕事で佐賀県に行ってきました。現地のモビリティ事情もさることながら、デザインも気になっていました。「さがデザイン」というキャッチコピーが象徴しているように、佐賀県では県を挙げてデザインへの取り組みを進めており、2017年度のグッドデザイン賞でグッドデザイン・ベスト100を受賞するなど、各方面で評価されているからです。

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今回は九州佐賀国際空港からアクセスしましたが、玄関口である空港からデザインは始まっていました。1階の観光案内所、2階のスーベニアショップ「SAGAIR」など、柔らかいラインや自然素材の活用で、心地よい空間となっていました。観光案内所の上には、「HELLO! SAGA DESIGN」というメッセージも掲げられていて、佐賀がデザイン重視の地域というメッセージが伝わってきました。

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バスに乗り、まず目指したのは県立博物館です。始まったばかりの「SAGA DESIGN AWARD 2025」の入賞展示会が、敷地内にある女子洋画研究所で開催されていたからです。佐賀からはじまる、佐賀を心地よくする「デザイン」を発見し、讃え、県民へ広く知ってもらうというのがコンセプトで、製造時の環境負荷を抑えた器、牧場のデザイン経営など、多彩なモノ・コトが披露されていました。

博物館は佐賀城の敷地内にあり、県庁もこの中にあります。こちらも正面玄関奥のホールから地下食堂まで、心地よい空間になっていました。近くには、県立図書館や市村記念体育館の脇にある「こころざしのもり」と名付けられた広場があります。図書館は改装中でしたが、坂倉準三氏設計の体育館は健在で、独特のコントラストを見せていました。


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佐賀駅周辺にも見どころはあります。北口・南口駅前広場は最近リニューアルしたもので、駅の高架下には、飲食店とイベントスペースを融合した「サガハツ」があります。さらに南口から県庁方面に伸びる中央大通りは、都市の幹的存在ということから、歩道が広く、ベンチが用意されているうえに、広場もいくつか用意されていて、歩いてみたくなるまちづくりになっています。

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実は佐賀県、歩くライフスタイルへの転換を促す活動もしています。注目は「歩こう。佐賀県。」というわかりやすいキャッチコピーでしょう。 実際の計画でも、中央大通りの「トータルデザイン」「未来ビジョン」など目を引くプロジェクトが多く、ただ機能を追求するだけでなく、「心地よさ」や「豊かさ」にも踏み込んだまちづくりに好感を抱いています。


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訪れたのが週末ということもありますが、昨夜は多くの若者がサガハツの飲食店に集まり、今日は朝から南口の駅前広場に出店が並んでいました。駅そのものも、人口約22万人の地方都市としては活気がありました。もちろん福岡に鉄道やバスで出かける人もそれなりにいましたが、デザインへのこだわりが、ここで生活を楽しもうという気持ちにつながっているような気がしました。

このブログでは何度か紹介している「レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング(RDE)」。昨年11月には記念すべき第10回が栃木県の宇都宮市で、「ライトラインが描くまちの未来―芳賀・宇都宮ライトレールの誕生と都市のデザイン―」というテーマで行われました。私が担当したレポートが今週公開となったので、興味のある方はお読みいただければと思いますが、ここでは記録を取りながらもっとも印象に残ったことを取り上げます。それはカッコよさについてです。

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この日はライトラインの計画や工事に関わった宇都宮市と、運行を担当する宇都宮ライトレールの担当者がキーノートスピーチで登壇しましたが、2人ともこの件を取り上げたので驚きました。宇都宮市からは市長の言葉として、「車両デザインにはこだわってほしい」という言葉が紹介され、宇都宮ライトレールでは誰もがあの電車に乗ってみたいと思わせる形をお願いしたとのこと。おかげで想定外の利用があり、街が賑やかになったと話していました。



近年の鉄軌道の通勤車両は、基本設計を共通として、先頭部の造形や車体の色などで個性を打ち出すことが多くなっています。ライトラインで言えば、車両は福井鉄道を走る「FUKURAM」と基本構造が同じです。しかし先頭は流線型になるよう、1.5m長くしています。これを受けて、トータルデザインを担当したGKデザイングループでは、先頭を伸ばすと視界を妨げられることから、ピラーを先頭に向けて細くするなどの工夫をしたという説明がありました。

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カッコよさの理由について宇都宮市では、福岡県を走るJR九州の路線にスタイリッシュな新型車両が導入されたところ、街並みや市民の服装が洗練されていったというエピソードを挙げ、宇都宮ライトレールでは欧州のLRTの多くが流線型で、街に賑わいを生み出す理由のひとつになっていると話していました。

たしかに私が欧州で乗ったLRTをはじめとする地域鉄道用の車両は、それほどスピードを出さないにもかかわらず、流線型に仕立てた車両が多かったことを思い出しました。日常的に利用する乗り物にも、こうした考え方は大切であることを教えられました。

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もちろんこれは地上を走るすべての乗り物に共通して言えることだと思います。しかし日本では、コストやスペースなどの効率を重視する傾向があります。公共交通だけでなく、個人が自由に買って乗ることができる乗用車でさえも、価格や燃費、使い勝手など、いろいろな機能を背負わせる反面、美しさやカッコよさにあまりこだわらない人が多いと感じています。

その理由として、欠点が少ないことを優先し、周囲と合わせることを大事にする国民性はありますが、すべての移動をマイカーに託すような考え方も、関係していると思います。逆にLRTの停留場の近くに住んだりすれば、移動の一部をLRTで賄えるので、デザインのプライオリティは上がりそうです。

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自分も似たような立場で、東京23区内で暮らし、移動の多くは公共交通ということもあり、上の愛車に20年ぐらい乗っています。デザインに惹かれて選んだので飽きず、結果的にお金の節約にもなっています。服装が洗練されたかは分かりませんが、モビリティ以外のデザインにも興味を持つようになったことで、日々の生活に彩りと深みが加わっていると実感しています。

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