THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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12月11日は、ユネスコの世界遺産に日本の歴史的建造物や自然環境が初めて登録された日です。今から32年前のこの日、青森県と岩手県にまたがる白神山地および鹿児島県の屋久島が世界自然遺産、奈良県の法隆寺と兵庫県の姫路城が世界文化遺産として登録されました。今年の秋はその4件のうち、唯一行っていなかった姫路城に、少し前のブログで取り上げた広島からの帰りに立ち寄りました。

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ただここでは姫路城そのものではなく、駅前広場とそこから城に向かう大手前通りにスポットを当てます。駅前広場は今年、再開発が完成して10周年を迎え、4年後には大手前通りの改修が完了していますが、2015年にはグッドデザイン賞で特別賞を受賞し、2022年には以前このブログでも紹介した国土交通省の「ほこみち」の第1号として指定されるなど、以前から高い評価を受けている場所です。

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新幹線を降りて北口を出ると、目の前に広場があり、その向こうに大手前通りが姫路城に伸びていく様子を、クリアに見ることができます。普通の駅前にあるバスやタクシー乗り場が、広場の西側にあるからです。大手前通りが右にカーブしているのはそのためですが、おかげで城の眺めを遮られることがないし、まちの軸をはっきり感じます。

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さらなる眺望を望むなら、2階の眺望デッキ(キャッスルビュー)がお勧めです。城門をイメージしたという吹き抜けの箱になっていて、額縁に収められた絵画を見ているような眺めでした。このデッキから伸びる歩道橋も優しいカーブを描いていて、人工物の冷たさを感じさせないようにという作り手の気持ちが伝わってきます。

一方駅前広場の東側には、キャッスルガーデンと芝生広場があります。地上にある芝生広場に対し、キャッスルガーデンはサンクンガーデンと呼ばれる一段低い位置にあるスペースで、城のまちらしい石造りとしているうえに、そのまま駅の地下街にアクセスできる使いやすさにも感心しました。

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駅前広場から伸びる大手前通りは、歩道や自転車レーンが広く取られているだけでなく、ベンチが各所に置かれ、一部の飲食店はテーブルを出したりして、歩いて巡ろうという気持ちにさせてくれます。中でも目に留まったのは、「緑と花のおもてなし空間」。企業や団体が花壇の世話をし、市民がスポンサーになってそれを支える形の市民花壇で、ゆったりした気持ちで散策することができました。

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姫路市ではこの駅前について、市民参加のプロセスを積極的に取り入れ、専門家や行政が緊密に情報交換をしながら設計や工事を進めていったそうです。たしかにハコモノっぽくなく、商業主義でもない空間で、まちが生きていることが伝わってきました。しかもエリアによって素材や造形を変えているので、訪れた人を楽しませてくれます。姫路城に行くときは、こちらにも注目してみてください。

オンデマンド交通というと、地方の路線バスの減便や廃止に対応するための移動手段と考えている人が多いと思いますが、最近は大都市でも見るようになってきました。私が事務所を置いている東京都渋谷区も例外ではなく、9月から「GO SHUTTLE」の実証実験が始まりました。そこで早速利用してみました。

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渋谷区はオンデマンド交通の実証実験を始めた理由として、区内の交通弱者の移動機会向上、区内の公共交通の拡充、持続可能な公共交通の実現を挙げています。主な運行エリアは、渋谷区北西部にある笹塚、幡ヶ谷、本町、初台、西原、大山町、元代々木町で、運行時間は8時から20時までとなっています。

利用するには、タクシー配車アプリ「GO」で予約し、あらかじめ登録したクレジットカードやコード決済で支払い。料金は通常のタクシーの5〜6割程度となるそうです。誰もが利用可能ですが、高齢者、障害者、妊娠中の方や子育て世代の方には、毎月400円× 20枚つづりのチケットを配布することになっています。

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私が利用した理由は単純で、これまでオンデマンド交通に乗る機会がなかったからで、無料クーポンも配布されたので使うことにしました。GOのアプリでオンデマンド交通を選び、希望時間や乗る場所、降りる場所などを指定し、予約をすると、車両のナンバーやチケット番号、車内での着座位置が示されます。アプリのインターフェイスはわかりやすく、戸惑うことはありませんでした。

指定された出発スポットに行くと、まもなく車両が到着しました。トヨタ自動車の「ノア」で、オンデマンド交通でよく見る「ハイエース」より床が低く乗り降りしやすい印象です。この日は渋谷区役所まで行きました。本来はもっと短距離の利用を想定しているのかもしれませんが、距離は約4kmで、タクシーメーターの数字をは2000円を超えていましたが、実際はアプリにあるとおり1570円でした。

このオンデマンド交通、11月20日からは、名称が「GOエコノミー」へ変更されるとともに、以前から要望が多かった。2席同時予約が可能になるなどの改良が施されました。ちなみに渋谷区ではスマートフォンの操作に慣れていない人のために、GOエコノミーの予約方法や、LINEアプリを使った利用補助の申請方法などの講習会も実施しています。

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私の事務所からは、最寄りの鉄道駅や路線バスの停留所へは10分ぐらいだし、いずれも日中の便数は1時間に5本以上あるので、現状でも公共交通での移動に困ることはありません。地方の人から見ると、そのような環境なのにオンデマンド交通を導入するのは贅沢だと言われそうです。

ただし渋谷区の資料を見ると、事務所のすぐ近くに停留所があるコミュニティバスの「ハチ公バス」については、オンデマンド交通の実証実験と合わせて再編も検討すると記されています。オンデマンド交通への転換を考えているのかもしれません。ハチ公バスは狭い道を縫うように周回するので、駅や区役所に行くには時間は掛かりますが、全線100円という運賃はありがたいと思っていました。

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ただこの100円の維持のために、行政側の負担があることも事実です。コロナ禍を経たりして、地域住民のライフスタイルが変化し、移動へのニーズが以前とは違ってきている可能性もあります。安泰に思われていた東京23区内の公共交通にも、変化が求められてきているということかもしれません。まずは実証実験の結果に注目したいと思います。

神奈川県川崎市と千葉県木更津市をトンネルと橋で結ぶ自動車専用有料道路、東京湾アクアライン。何度も利用してきた道ですが、今年の秋、いつもと違う状況に遭遇しました。週末の土曜日より平日の金曜日のほうが混雑していたのです。時刻は同じ夕方ぐらいだったのですが、土曜日は以前体験したような渋滞がまったくなかったのです。

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知っている人がいるかもしれませんが、東京湾アクアラインは時間帯別料金を採用しており、今年の4月からは、土日祝日の上り線(川崎方面)の13〜19時は、ETC利用の料金が通常の2倍の1600円になる代わりに、20時から翌日4時までは400円に下がります。

そのことは知ってはいましたが、私は距離と時間と費用を比較したうえで移動手段を選択することが多いので、安さのために数時間待つということはせず、そのまま通過しました。あとで料金をチェックしたら、土曜日の分は1600円になっていましたが、「時は金なり」であり、2倍の料金を支払ったおかげで、渋滞を回避できたと解釈しています。

そのアクアラインをテーマとした会議が、11月14日に千葉県で開催されました。第5回東京湾アクアライン交通円滑化対策検討会がそれです。アクアラインの時間帯別料金は2年前から実施していて、ETCを使えば普通車で通常800円の片道料金を、土日祝日の上り線は13〜20時が1200円、20〜24時は600円にしました。しかし依然として13〜19時に渋滞が発生したうえに、下り線でも朝の5〜7時に交通集中があったそうです。

そこで今年4月からは、上に書いたように変動幅を大きくし、下り線も0〜4時は400円、5〜7時は1000円としました。その結果、ピーク時の所要時間は土曜日が3分、日曜日が5分とやや減少し、早朝深夜はかなり増えるという結果が出ました。早朝深夜については、これまで京葉道路経由だった人がアクアラインに流れたという分析もあります。

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東京湾アクアライン交通円滑化対策検討会のページはこちら

ピーク時でも土曜日は3分の短縮なので、自分が走った日は例外的だったのかもしれませんが、高速バスについては最大で14分短縮、1日累計遅延時間は約41%減少と、一定の効果は出ているとしています。

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一連の対策でわかるように、現在のアクアラインは、神奈川県や東京都の人たちが千葉県に出かける、観光路線としての意味合いが大きくなっています。途中にある海ほたるパーキングエリアも観光スポットになっています。観光目的であれば、帰宅時間が決まってはおらず、千葉県側で過ごしてもらう時間を長くし、消費を伸ばしてもらうというメリットもあります。

日本は航空運賃を除くと、時間帯でここまで大きな差をつけることは、モビリティシーンではあまり見られませんでした。でも観光路線であれば、需要の平準化のためにも、このぐらいの差別化はして良いと思っています。 逆に平日に時間帯別料金を導入することは、通勤を含めた業務でアクアラインを使う千葉県民に影響が出るので、しないでしょう。なので平日の渋滞については、しばらくは我慢するしかなさそうです。

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ただし千葉県内で、アクアライン周辺自治体の人口が急激に増えているかというと、そうとは言えません。千葉県の統計では、2019〜23年の人口増加数トップは5年連続で流山市で、2位には千葉市、柏市、松戸市がランクイン。アクアラインが乗り入れる木更津市、インターチェンジから近い袖ケ浦市も増えていますが上位ではなく、逆に周辺の君津市や富津市が、減少数が多い自治体ベスト5に入る年もあります。

人口増加が目立っているのはつくばエクスプレスをはじめ、東京に直結する鉄道路線が走っている場所で、やはり鉄道の輸送力や定時性が人口増加に効果的だと実感します。しかし空いていれば17分で通過できるアクアラインから近い自治体の人口が減少というのは、もったいない感じがします。観光目的で来た人を定住人口に育てていくようなアクアライン活用にも、期待したいと思っているところです。

インバウンド急増によるオーバーツーリズム問題が、日本の各地で顕在化しています。そのひとつが京都で、今週、京都市交通局の市バスが混雑して市民が乗れないという問題が起きているとして、LRT導入の提言が京都商工会議所でありました。京都には交通局が運行していた市電が1970年代まで走っていたので、路面電車としてみれば復活を提言したということになります。

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私も最近京都を訪れたとき、外国人の多さに驚きました。バスについても、路線によっては観光客が殺到し、スーツケースをそのまま持ち込んだりしているので、足の踏み場もないことがありました。私もまた来訪者なので驚きだけで済みますが、地域住民は困っているでしょう。昨年には「観光特急バス」が導入されましたが、土日祝日限定であることに加えて、情報があまり伝わっていないのか、利用者はあまり多くないようです。

LRTが議論に上がったのはやはり、芳賀・宇都宮LRTの成功が大きいと思います。他にも神戸市、岐阜市などで、LRT導入の議論が盛り上がっているからです。それに海外ではLRTを含めた路面電車が都市を走るのは一般的で、多くの外国人観光客はそれに慣れているし、バスよりも路線がわかりやすいなど、LRTのメリットはいくつかあります。現実に広島市や長崎市では、多くの外国人観光客が路面電車を使っています。

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広島駅は以前ブログで紹介したように、新幹線の改札に面した自由通路の奥に路面電車乗り場があり、バスは停留場の下、地上に乗り場があって、棲み分けができています。長崎は新幹線の駅から停留場が少し離れており、高床式の単行車両が主役ではありますが、主な観光地の名前のついた停留場が多く、路線図を見ただけで電車で行こうという気になるでしょう。

今年長崎を訪れた際には、路面電車とバスの両方に乗りましたが、観光客で混雑していた電車に対し、バスは見たところ地域住民がメインでした。バスは電車に比べてきめ細かい路線が設定できるので、地域交通に向いていると実感しました。一方の路面電車は、広島電鉄の低床連接車は大型路線バスの約2倍となる150人前後が乗れます。まとまった利用者が一定の場所を目指す観光需要に向いています。

もちろん京都には既存の鉄軌道はありますが、金閣寺、銀閣寺、清水寺は駅や停留場から遠く、バスに頼る人が多くなっています。嵐山は3路線が乗り入れていますが、京都駅から直通で行けるのはJR西日本だけで、阪急電鉄と嵐電は2度の乗り換えが必要になるなど、ネットワークとして見ると不満を感じていました。

ゆえに以前からLRTの議論はありました。今もインターネットでその計画は見ることができますが、個人的には東大路通、北大路通、西大路通、九条通を巡る大周回コースをベースに、京都駅への乗り入れ、道幅が狭い東側は上下別線とするなどの対策を施したうえで導入すれば、鉄軌道のネットワークが一気に良くなると期待しています。

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もうひとつ、京都市中心部はおおむね平地で、道路が碁盤の目のように走っています。これを活用して、裏通りの一部は自動車の通行を地域住民と緊急車両のみとし、歩行者および自転車など軽車両の専用道路にしてはどうかと思います。生活道路の安全性は高まるはずだし、シェアサイクルなどで移動する人が増えれば、道路渋滞が緩和されるかもしれません。

ここまで希望的な部分を書いてきましたが、京都の観光では懸念もあります。インバウンドは増えているのに対し、日本人観光客はそうではないことです。京都市が発表した昨年の観光総合調査の結果でも、外国人観光客数は過去最高を記録しましたが、日本人を含めた総数は過去最高ではありません。さらに日本人宿泊者数、修学旅行生数はいずれも、一昨年より減っているという数字もあります。

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2024年京都観光総合調査の結果はこちら

こうした状況を見ると、当面は年間観光客数を現状レベルにキープし、その中で日本人にも外国人にも快適な場を提供すべく、モビリティなどのレベルを上げていくという対策が大事ではないでしょうか。その過程でLRTが必要になるかもしれませんが、モビリティは目的ではなく手段であり、これからも観光客が訪れたくなる土地であることが、すべての基本だと思っています。

ジャパンモビリティショー2025が始まりました。私は今週水曜日のプレスデー初日に行きました。すでに多くのメディアで紹介されていますが、内容は自動車中心で、メディアはまだモーターショーから脱却しきれていない印象です。ここではモビリティジャーナリスト目線で、気になった展示を取り上げていきます。

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まずはスズキ「SUZU-RIDE(スズライド)2」です。2年前のモビリティショーで、このブログでも紹介した「SUZU-RIDE」「SUZU-CARGO(スズカーゴ)」として参考出品されていたものの進化版です。前作では収納ボックスの上にシートがありましたが、今回は荷物を出し入れしやすいよう、別々になりました。このシリーズは特定小型原付を想定して開発しており、説明ボードにもそう書かれていました。

モビリティショーには参加していませんでしたが、電動アシスト自転車でトップシェアのパナソニックサイクルテックが先月発売した「MU」も特定小型原付です。電動アシスト自転車づくりの経験を活かした成り立ちで、発表会では路線バスの減便や廃止が続く中、日常の移動手段に不安を抱く人が多くなっていることを開発の理由に挙げていました。

これらを見れば、特定小型原付が電動キックボードのためのカテゴリーではないことは理解してもらえるでしょう。しかしながら、特定小型原付は交通ルールについては自転車と同じであり、先月青切符導入のブログでも書いたように、日本は自転車の走行空間が絶対的に不足していることも事実です。

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特定小型原付の車両は、自転車と同じ場所を走ることになります。だからこそ、スズキやパナソニックのような大手メーカーに、道づくりを後押しするようなアクションを望みたいものです。 スズキの開発スタッフへの取材では、たしかにインフラが後回しになっているので、その点も考えていきたいと話していました。

鉄道には駅があり、飛行機には空港があります。モビリティ(移動可能性)は乗り物それ自体で完結するわけではなく、インフラやサービスとセットで利便性や快適性を考えていくのが一般的です。自動車も道路や駐車場などのインフラがなければ機能しません。ジャパンモビリティショーなのですから、そのあたりのアプローチも望みたいと思っています。

もうひとつ、ダイハツ工業が参考出品した「ミゼットX」にも興味を持ちました。かつて3輪軽トラックのミゼットが、高度経済成長期に庶民の足として活躍したことは、映画などでも取り上げられていますが、そのミゼットの名前を引き継いだことから、その現代版と言えるでしょう。

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当時と違うのは4輪であること、電動であること、子供用のシートを2つ揃えた3人乗りであることなどですが、個人的にはどのカテゴリーに属するかも気になりました。そこで開発スタッフに話を聞くと、会話の中で「シトロエン・アミ」という車種が出てきました。つまりこのブログで紹介してきた、欧州の超小型モビリティのカテゴリー(L6e/L7e)を想定しているそうです。

もちろん軽自動車の枠内には収まりそうですが、衝突安全試験にパスするのは難しいとのこと。それ以前に、このクルマで高速道路を120km/hで走りたくはないし、そういう姿を見たくないと思う人が多いでしょう。

しかしその下の超小型モビリティは、これもブログで書きましたが、日本ではボディサイズの規定が厳しいうえに、地域限定の認定制度か、軽自動車より緩いものの衝突実験が課せられる型式指定制度のどちらかを選ぶことになり、今回のショーでの展示車両でナンバーを取得しているのは、前者の制度を使ったAIM「EVM」ぐらいに限られています。

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ミゼットXの開発スタッフは、現行の日本の超小型モビリティの制度よりも、欧州のそれのほうがふさわしいと考えたので、このような説明が出てきたのでしょう。私も同感だったので、大手自動車会社の中にこのような思想の持ち主がいたことに対して、嬉しい気持ちになりました。

もちろんルールを作るのは国土交通省になりますが、同省よりも、自動車や自転車を作って売っている会社のほうが、ずっと利用者に近い場所にいます。だからこそこういう立場の人たちが、開発した車両が役目を果たせるようなインフラやルールの構築に向けて、アプローチをしていってほしいものです。そんなきっかけを感じられたことが、今回のジャパンモビリティショーの収穫のひとつでした。

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