THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: ニュース

10月1日、東海道新幹線が開業して60周年を迎えました。このブログでは50周年の時も取り上げていますが、あのときからの10年間は、いままでとは違う出来事が起こったりしているので、別の視点で綴っていきたいと思います。

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いままでとは違う出来事、それは新型コロナウィルス感染症の流行による移動制限です。これまで新幹線は、東日本大震災や今年夏の豪雨などで、全線運休となったことがありました。自然の前では人間は無力であることを思い知らされました。ただ自然が相手の場合は、インフラの修復や天候の回復で、元に戻るかもしれないという希望を抱けます。しかしコロナ禍では当初、先が見えませんでした。そんな中、公共交通として運行を続けるという状況は、災害以上に厳しかったのではないかと回想しています。

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あの頃このブログでは、物流への活用や個室の設定などの提案をしましたが、このうち物流については今週、JR東日本が東北・上越・北陸新幹線などで貨物輸送に乗り出すというニュースがありました。

おそらくJR東日本でも、コロナ禍で何ができるかを考え、貨物という答えが導かれたのでしょう。その証拠に、2021年からは荷物輸送サービス「はこビュン」を本格的にスタートさせ、北海道の鮮魚などを東京に運んだりしてきました。2023年からは複数の車両を荷物専用としたり、荷物専用の臨時列車を仕立てたり、東京駅で東海道新幹線に載せ替えたりするトライアルを重ねています。現在は山陽・九州新幹線もこの種のサービスを手がけています。

今回のニュースでは、ひとつの列車すべてを貨物用とはせず、一部の車両を使って運ぶとのことですが、列車まるごとでの輸送も考えているようです。いずれの手法もトライアルはしており、始発/終着駅や車両基地のほか、一部の人が懸念している途中駅での積み下ろしも、大宮駅で屋上駐車場を活用したりして経験しています。つまり突然思いついたサービスではなく、何度も検証を重ねた結果の本格導入と見るべきでしょう。

ご存知の方も多いと思いますが、日本は物流の多くをトラックに依存しています。あるサービスが便利だったり安価だったりすると、そこに集中してしまうのはこの国の悪しき習慣のひとつであり、モーダルシフトをもっと推進すべきでしょう。その点、新幹線はトラックよりはるかに速く、しかも時間に正確に荷物を運ぶというメリットをアピールできます。日本の物流機能を維持するためにも、早期に軌道に乗ることが望まれます。

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個室については、そのものの実現はしていませんが、東海道・山陽新幹線のS workPシートなど、これまでより多様な車内にしようという動きは感じます。私も利用したことがありますが、普通車の3人掛け座席の中央にパーティションを設けたので、座席の横に小さな荷物を置くことができ、パソコンの画面を隣の人に見られることもなく、既存の設備を活用した仕立てとしては考えられていると思いました。

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ただしこの10年間に登場したJR以外の特急電車では、このブログでも紹介した近畿日本鉄道「ひのとり」や東武鉄道「スペーシアX」など、さらに踏み込んだ提案があることも事実です。そして東海道新幹線の普通車からは消えた車内販売については、個人的にはワゴンの到着を待つより買いに行ける場所があったほうがいいと思っているので、カフェスペースが欲しいところです。多様化のきざしは伝わってきているので、それを伸ばす方向での発展を期待しています。

仕事で東京お台場に行ったので、東京ビッグサイトで開催されていた「ハイウェイテクノフェア2024」を見てきました。公益財団法人高速道路調査会が開いているもので、今年は第20回目になるそうです。リアル開催は今週木・金曜日の2日間だけでしたが、同じ内容をオンライン展でも展開しており、こちらは10月17日まで開催しているので、興味のある方はご覧になってください。

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会場にはNEXCO東日本/中日本/西日本、首都高/阪神高速/本四高速のグループに加えて、橋梁やトンネル、照明や標識、点検や診断など、高速道路に関するさまざまな展示が行われていました。内容的にはB to Bが対象のようでしたが、「はたらくくるま」なども数多く置かれていたので、もっと一般向けに周知しても良さそうに思いました。

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ハイウェイテクノフェア2024のページはこちら

そう思ったのは最新技術の中に、現在高速道路が抱えている問題解決のヒントがあると感じたからです。たとえばAIを使って交通インシデントを早期発見・対応したり、標識や表示を回転させて内容を切り替える装置を活用すれば、逆走の対策ができそうに思えました。高度な技術や柔軟な発想があることは展示から伝わってきたので、それを多方面に活かしていくことも大切だと感じました。

せっかく高速道路を取り上げたので、個人的に気になっていることも記しておきます。そのひとつは、地方に行くと2車線の道路が多いことです。国土交通省の資料を見ると、仏独や韓国では、2車線の高速道路は存在せず、米国でもごくわずかとなっています。そして我が国の高速道路の事故率では、4車線以上のおよそ2倍という数字もあります。

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先月も鳥取自動車道のトンネル内で正面衝突事故がありましたが、中央分離帯もない2車線なのに高速道路扱いした結果、スピードを出す自動車が増え、対向車線へのはみ出しなどが起こるのではないでしょうか。個人的にはあれを高速道路と呼ぶべきではなく、制限速度も一般道路並みにすべきだと考えています。

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国土交通省の資料はこちら

日本の高速道路の長さは、2車線区間を含めても上記の海外諸国と比べて短いというデータもあります。ただし多くの地方で人口が減少していることを考えれば、新規路線の建設より前に、今ある2車線道路を4車線にすることを望みます。基本となる道路を広く作っておけば、工事の際の代替車線確保などもしやすくなるはずです。

ちなみに同じ国土交通省の資料を見ると、2車線区間は東北、山陰、東九州などに目立つことがわかります。整備新幹線問題もそうですが、たださえ人口減少や高齢化などで厳しい環境にある地域が、インフラも脆弱というのは可哀想に思います。国土ネットワークという視点で高速道路網を整備するのであれば、太平洋側に近い規格を与えるべきではないでしょうか。首都圏などへの人口集中の理由は、ここにもあるような気がします。

日本を代表する総合デザイン会社であり、モビリティ分野だけでもモーターサイクル、鉄道、バス、フェリーなど多彩な分野で活動しているGKデザイングループのことは、ブログ読者の中にも知っている人がいるでしょう。このたび同社が出している広報誌「GK Report」の最新号(No.45)で、都市交通をテーマとした対談に出していただきました。

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対談の内容をはじめとする誌面については、オフィシャルサイトから見ることができます。私の発言はともかく、長年都市交通に関わってきたデザイナーの言葉はとても勉強になりました。それとともに思ったのは、数ある乗り物の中でも、LRTがもっとも景観を左右する、建築に近い存在ではないかということでした。

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GK Report No.45の紹介ページはこちら

鉄道は都市部では高架や地下を走ることが多いので、車両は見えないことも多く、高架線は景観としてはマイナスに思えることもあります。バスはさまざまな自動車に混じって道路を走るので、停留所を含めて存在感はいまひとつです。その点LRTは、地上を走ることが多いうえに、車体はバスよりはるかに長くて背も高く、走る場所がレールの上と決まっているので識別しやすいうえに、鉄道よりゆっくり走ります。こうしたことから建築っぽいと感じたのです。

車両だけでなく停留場などのインフラにも同じ印象を持ってします。バスの停留所より立派な作りである一方、鉄道駅のように駅舎の内部やホームが見えにくいということはなく、停留場名や行き先などの表示まで、路上からはっきり見えます。なので車両とインフラのデザインがバラバラだと、景観として違和感を感じてしまいがちです。

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私がこれまで見てきた欧州のLRT(路面電車/トラムの中で最近開業した路線)では、車両や停留場だけでなく、架線やそのための支柱に至るまで、景観の邪魔にならず、統一感のあるデザインでまとめてある事例が多くありました。LRTの車両を落ち着いた色にする代わりに、バスは逆にわかりやすいグラフィックやカラーとした都市もいくつかありました。それだけLRTは景観の一部であるという意識が強いのかもしれません。

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GKデザイングループでは、富山地方鉄道の富山港線(旧冨山ライトレール)および市内電車環状線、昨年開業した芳賀・宇都宮LRTと、国内のLRTのデザインを担当してきました。双方に共通しているのは、トータルデザインという考え方です。GK Reportにも書いてありますが、モビリティ以外のさまざまなデザインを担当してきた経験を生かし、車両や停留場だけでなくサインやプロモーションなど、LRTに関係するデザインをひとつのものとして進めてきました。

おかげで富山も芳賀・宇都宮も、目に見えるすべてものに統一感があり、都市景観にすっと溶け込んでいます。同じ気持ちを抱いている人は多いのではないでしょうか。つまりLRTには機能面だけでなく、デザインによって都市景観に彩りを添える力もあると考えています。だからこそ今後も日本に新たなLRTが生まれ、GK以外のデザインスタジオが参入することで、トータルデザインが磨き上げられていくことを期待しています。

先週末は私が所属している「日本福祉のまちづくり学会」全国大会で北海道に行ってきました。毎回研究発表をさせていただいていて、今回は4月に体験しに行った石川県小松市のライドシェアをテーマとしましたが、ここで困ったことが起こりました。原稿を提出した6月初めからここまでの間に、日本のライドシェアを取り巻く状況がガラッと変わってしまったからです。

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最大の動きは7月、国土交通省に「交通空白」解消本部が設置され、一部の自治体やメディアが使っていた、自家用有償旅客運送発展型の「自治体ライドシェア」に代わる名称として、「公共ライドシェア」が登場したことです。同本部ではタクシー、乗合タクシー、ライドシェアなどを地域住民や来訪者が使えない「交通空白」の解消に向けて早急に対応していく組織としており、公共ライドシェアは「日本版ライドシェア(自家用車活用事業)」と並立するものと定義しています。

多くのメディアが日本版ライドシェアばかりを紹介し、これまで傍流どころか無視に近い扱いをされてきた自家用有償旅客運送発展型ライドシェアについて、政府が公共ライドシェアという看板を掲げ、導入支援を進めると明言したのは大きな転機であり、このブログなどで日本のライドシェアは2種類あると説明してきたひとりとして、喜ばしく思います。

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国土交通省「交通空白」解消本部オフィシャルサイトはこちら

公共ライドシェアの確立は、当初6月を目処としていた、日本版ライドシェアへのタクシー事業者以外の参入が、タクシー業界の反対で延期されたことへの反動だと思っています。実は小松市などが関わる「活力ある地方を創る首長の会」から生まれた自治体ライドシェア研究会は、4月に一般社団法人全国自治体ライドシェア連絡協議会に発展し、政府と協力・連携して公共ライドシェアの導入に取り組んでいくとしていました。この動きは大きかったと感じています。

一連の動きに対応する民間事業者もあります。たとえば日野自動車は昨年7月、自家用有償旅客運送向けの遠隔運行管理受託サービスを鳥取県智頭町で導入しており、続いて今年7月からは、小松市と智頭町、兵庫県朝来市で、通信型ドライブレコーダーを用いた運行管理業務の実証実験を開始しています。ドライブレコーダーのデータを用いて事故やトラブルの記録し、日報の作成も可能で、安心・安全な運行をサポートしていくとしています。

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日野自動車のニュースリリースはこちら

一方日本版ライドシェアでは、国内最大のカーシェアリング事業者であるパーク24グループのタイムズモビリティが、Uberのパートナーである法人タクシー事業者ロイヤルリムジンとともに、カーシェア車両を活用したライ ドシェアの試験運用を東京都内で開始すると発表しました。カーシェア車両によるライドシェアは日本初になります。自家用車を所有していない人、あっても使える時間に制限がある、所有車が条件に合わないなどの場合でもライドシェアに参加できます。

その日本版ライドシェアでは、7月から曜日や時間帯に加えて、雨天や酷暑時にも稼働可能となりましたが、実際はアプリの未対応やドライバー不足により、運行実績ゼロのタクシー事業者が多いというニュースもあります。一方の公共ライドシェアでは、タクシーに空車がない場合に限りライドシェアを配車する「タクシー優先配車」を、10月から導入するとしています。この場合、料金はタクシーと同額になるとのことです。

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パーク24のニュースリリースはこちら

日時だけでなく天候まで細かくルールを定めた日本版ライドシェアと、タクシー優先配車というシンプルな手法を考えた公共ライドシェア。日本らしいのは間違いなく前者ですが、移動のニーズにリニアに応えられるのは後者でしょう。ドライバーにとっても昨今の天候より、タクシーが足りなくなるタイミングのほうが読みやすいはずです。というかタクシーの運転手も、そのような感覚を研ぎ澄ませて運行をしていたはずで、この種のモビリティサービスには必須の技術ではないでしょうか。

いずれにしても国の方針で、我が国のライドシェアは日本版ライドシェアと公共ライドシェアという2つのルールが確立されたことになります。理想を言えばひとつにまとめたほうがわかりやすいですが、まちづくりのなかでこの種のモビリティサービスを入れる際には、2つの手法を選べるようになったわけで、敷居は下がったし裾野は広がったと言えるでしょう。今後も動向に注目していきたいと考えています。

このブログでも何度か取り上げてきた芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)が、今週月曜日に開業1周年を迎えました。ニュースで報じられているように、利用者数は当初の予測を約2割上回っており、しかも今年7月の利用者数が過去最高だったそうです。4月以降は開業直後だった昨年9月の利用者数を超え続けており、乗る人が増え続けていることがわかります。

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私が今年乗ったのは6月の週末だけですが、宇都宮駅東口からショッピングモールがある宇都宮大学陽東キャンパス停留場までは座れない人もおり、公共交通として定着していることが確認できました。10年以上前からこのプロジェクトを見てきたひとりとしては、たしかに開業までの紆余曲折はありましたが、拙速に進めなかったからこそ、成功を収めたのではないかと思いました。

宇都宮市が東西の交通軸を考えたのは、今から30年も前のことです。しかしその後、県知事が変わると動きがストップしたりしました。県知事も市長も推進派になり、2013年に芳賀町を交えて本格的な検討委員会が設置され、市役所にはLRTのための部署ができたものの、その後も市長選挙で反対派の候補が僅差まで肉薄したことがありました。

LRTがJR東日本宇都宮駅の東側から整備した理由のひとつに、同市東側から芳賀町にかけて広がる工業団地に向かうマイカーによる交通渋滞がありました。当初はこれを解消することが最大の目的でした。逆方向、つまり朝宇都宮駅に向かう利用者はあまり期待していないという説明でした。それが明るみに出て、多くの市民に関係ない路線に多額の税金が使われると捉える人が多くなったことが、思うように進展しなかった理由のひとつだと思っています。

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そこで市では、市民路線であることを強調するプロモーションを始めました。シンボルカラーのイエローを使い、駅のポスター、ホームページなどで、LRT整備の理由から費用まで、丁寧に市民に説明しました。そのうちに工事が始まり、車両が披露され、市民にも形が見えるようになったことで、徐々に理解度が高まっていったと感じています。

つまり予想以上の利用者を記録し、それが今も増加を続けているというのは、工場への通勤者をメインとした、もともと計算できていた数字に、プロモーションなどによって新たに興味を持った市民の移動がプラスされ、後者の数がLRTへの理解とともに少しずつ増えてきているのではないかと解釈しています。

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1周年に際しては、沿線人口や商業施設の来店客数の増加などが報告されています。中でも象徴的なのは3年前、宇都宮市で26年ぶりの小学校開校になった、ゆいの杜小学校でしょう。市が発表した今年5月現在の児童数は850人を超え、市内最大の小学校に成長しました。宇都宮市ではライトラインが、少子化対策や子育て政策にもなっているということになります。

とはいえ良いニュースばかりというわけではありません。現金利用者による電車の遅延は最近は目立たなくなりましたが、トランジットセンターで連絡するバスの本数が少ないうえに、電車が遅れると(LRTは道路の信号に従って交差点を通行するので多少の遅れは出ます)接続がうまく行かないという不満が寄せられています。

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LRTとバスの連絡については、富山ライトレール(現在は富山地方鉄道)富山港線のフィーダーバスの紹介をしたことがあります。あちらは電車とバスを同じ事業者が運行しているので、本数が多く接続がスムーズということもあるでしょう。トランジットセンターで連絡するバスについては、コミュニティバスのように市が運営すれば、融通が効くかもしれません。

今後について宇都宮市では、JR宇都宮駅から西側に約5キロ延伸する西側ルートを、2030年代前半に開業したいとしています。現地に行ったことがある人ならわかると思いますが、宇都宮市の中心部はこのあたりで、栃木県庁や市役所、オリオン通りと呼ばれるアーケード、東武宇都宮駅などがあります。いずれもJRの駅から歩くにはやや距離があるので、LRTで行けると助かるという人は多いはずです。

それとともに気になるのは、いままでもプロジェクトを揺るがしてきた政治、具体的に言えば選挙ですが、最近はこれまで反対候補を擁立してきた組織も車両基地を見学するなどしているようです。新たに小学校が生まれ、そこが市内最大になるような効果をもたらしたLRTにただ反対するというのは、難しいと考えはじめているのかもしれません。

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だからこそ今後は、今あるトランジットセンターなどの不満点を丁寧に解決しつつ、西側延伸をまちづくりとしてどう生かすか、という方向に論争をシフトしていってほしいものです。それが本来の政治であり、まちづくりではないかと思っています。

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