THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: コミュニケーション

元日の能登半島地震で大きな被害を受けた地域を、大型連休直前に取材で訪れました。石川県を中心にサービスを展開する北國銀行および北陸鉄道とつながりを持っていたので、金沢市でまず両社の担当者から話を聞いた後、現地に向かいました。その模様は東洋経済オンラインで記事にまとめましたので、ご興味のある方はご覧ください。

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現地ではまず道路に衝撃を受けました。金沢市と輪島市を結ぶ自動車専用道路、のと里山海道と能越自動車道は、七尾市と志賀町にまたがる徳田大津IC(インターチェンジ)と輪島市ののと里山空港ICの間が、金沢方面は通行止めで、輪島方面も至るところで盛り土が崩れ、応急処置として細く曲がりくねった道を何とか通している状況でした。そのため通常は約2時間で行ける金沢〜輪島間が、一般道(県道1号)とほぼ同じ約3時間もかかりました。

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金沢市から輪島市への道はこのほか、半島の外縁をなぞるように走る国道249号線がありますが、こちらは輪島市内が通行止めで、大型車両が走れる金沢〜輪島間の道路は県道1号と片道のみ開通している自動車専用道路しかありません。港は隆起で使えない状況であり、過去の震災と比べても厳しい状況にあることを教えられました。それだけに海沿いに集結した自衛隊の姿が頼もしく思えました。

加えて北國銀行と北陸鉄道から聞いた話では、従業員も大変であることがわかりました。幸いにして亡くなった方はおらず、軽い怪我をした人が数人とのことでしたが、二次避難で金沢市などにいる方、避難場所から仕事場に向かっている社員がいるそうで、一部の銀行の支店は営業日や時間を限り、バスは迂回を含めた臨時ダイヤでの運行となっていました。

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交通分野で感心したのは、のと里山空港やのと鉄道穴水駅をハブと見立てて、ここで特急バスや鉄道に乗り継ぐことで、珠洲市や能登町の人々が金沢市に向かえる便を運行していることです。地震によって運転士不足がこれまで以上に深刻となった中で、異なる分野の事業者が連携をすることで移動を確保しようという姿勢に感心しました。



北國銀行によれば、現地企業や商店の本格的な復興は大型連休以降とのことで、北陸鉄道からは大型連休を使って家族が倒壊した実家を確認した後、解体に取り掛かる人が多いという話もありました。マスメディアは4月末時点での解体終了がわずかであることを悲観的に報じていましたが、表面的な数字だけを取り上げるのではなく、もっと地域の事情を汲み取った報道をしてもらいたいものです。

能登半島の中で、奥能登地域と呼ばれる輪島市、珠洲市、鳳珠郡穴水町および能登町の2市2町の人口は合わせて約5.8万人。東日本大震災で大きな被害を受けた自治体で言えば、宮城県気仙沼市とほぼ同じで、石川県全体の人口の約5%にすぎません。高齢化も進んでおり、珠洲市では50%を超えています。今後急激な人口減少に見舞われて、インフラ整備がさらに厳しくなる可能性もあります。

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2つの会社はこうした可能性ももちろん認識していました。そして能登を支えていくために、両社がともに挙げていたのが観光でした。しかも北國銀行は、金沢や加賀に観光に来てもらうことが能登の復興につながるという動きが大切と話し、北陸鉄道では、観光産業への支援によって交通の需要が増えてくることを期待していると語っていました。

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たしかに輪島市の中心部など、数年前に訪れたときとは景色が一変してしまっており、復興はこれからという言葉を実感しました。だからこそ、同じ石川県内の他の場所を観光してもらい、それを復興に役立ててもらうという方法は、多くの人にとってなじみやすいと思いました。マスメディアで能登の話題がめっきり減って気になっているという方、まずは北陸に足を運び、そこで間接的に能登を支援してみてはいかがでしょうか。

少し前の話になりますが、昨年11月、千葉市の幕張メッセで、第9回レイルウェイ・デザイナーズ・イブニングが行われました。鉄道デザインの未来を考える活動として2013年から続いているもので、私も何度か参加しています。昨年は「鉄道とブランディング」というテーマで、年末に私がまとめた実施報告がアップされたので、対象をモビリティに広げて、このテーマを考えたいと思います。

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日本のモビリティシーンで、早くからブランディングを確立した存在と聞かれたら、阪急電鉄の名を挙げる人が多いのではないのでしょうか。1910年の開業時からマルーンの車体色を使っているうえに、塗装前にパテを使って表面を平滑に仕上げることで、光沢のある見た目に仕上げているとのこと。車内についても、木目調の化粧板とゴールデンオリーブ色の座席の組み合わせは長年不変で、座席は表面の素材や内部のスプリングにもこだわっているそうです。

車両だけでなく、写真の大阪梅田駅ホームも、月一回ワックスがけをしているとのことです。大阪梅田の百貨店や沿線の住宅地にも、いろいろな配慮が行き届いているのでしょう。不特定多数の人が日常的に使う鉄道で、ここまで美しさにこだわるのは異例ですが、それが上品で落ち着いたブランドイメージを作り出していることがわかります。

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道路を走る乗り物では、カワサキモータースジャパンのモーターサイクルを思い出します。欧米では不吉な色とも言われるライムグリーンを、1969年からレーシングマシンで使いはじめ、現在では市販車を含めてイメージカラーになっています。またシリーズ名のNinjaは今年40周年です。いずれも万人向けという感じは受けませんが、むしろそれがカワサキらしさをアピールし、熱狂的なファンづくりに役立っていると考えています。

一度は手放したブランドの象徴を甦らせたのが、今月2日の羽田空港での事故で奇跡の全員脱出を果たした日本航空です。尾翼に描かれている「鶴丸」は、1959年に商標として登録されましたが、21世紀に入ると日本エアシステムとの統合に伴い、一度消滅しました。しかし2010年の経営破綻からの再建のシンボルとして復活。その後は日本ならではのおもてなしはそのままに、エアバス機の導入など柔軟な部分も併せ持つエアラインに変わりつつあるようです。

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最初に紹介したレイルウェイ・デザイナーズ・イブニングでは、実施報告にもあるように、新京成電鉄、南海電気鉄道、相模鉄道の3社が最近のブランド戦略について説明しました。このうち相模鉄道の車両は、最近は東京都内に乗り入れているので乗る機会もあり、独自の存在感を示していると思っています。だからこそ今後、時代の変化にうまく対応しながら長く育てていけるかどうかがキーになりそうです。



今は社会が成熟してきて、デザインやテクノロジーだけでは差別化が難しくなってきました。しかも情報は溢れていて、何をもって判断していいか迷う人も多そうです。そうした人たちに、根源的な哲学や精神をわかりやすく伝えるのがブランドではないかと考えています。モビリティについて言えば、乗ってもらえるかどうかを決める要素のひとつになるわけで、これまで以上に重要になると、鉄道会社の話を聞きながら思いました。

先週に続いて二輪車の話題を、ちょっと違う角度から取り上げます。今回取り上げるのは、日本自動車工業会(自工会)二輪車委員会が開催しているメディアミーティングです。先月25日に行われた第6回メディアミーティングは、静岡県田方郡函南町にある「バイカーズパラダイス南箱根」で行われると聞いたので、ツーリングがてら参加してきたのです。

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当日の様子は自工会のオフィシャルサイトに紹介されていますので、そちらをご覧ください。個人的にまず感心したのは、自工会二輪車委員会委員長でヤマハ発動機代表取締役社長の日髙祥博氏が参加したことです。同氏は会場に駆けつけたメディア関係者と歓談の後、バイカーズパラダイスの建物内でミーティングをスタート。モータージャーナリストのKAZU中西氏、自工会常務理事の江坂行弘氏も参加しました。

ミーティングはさきほどまでの和やかな雰囲気から一転して真剣そのもの。まず中西氏が関わる「伊豆スカイライン・ライダー事故ゼロ作戦」の活動や、この活動によって伊豆スカイラインのライダーのマナーが変わってきたことが紹介され、その後日高氏および江坂氏、メディアを交えて、ライダーのマナーや高速道路料金など、多彩なテーマにについて議論が行われました。

自工会とは名前でわかるとおりメーカーの集まりです。にもかかわらずこの日はライディングマナーや高速道路料金など、メーカーが直接関わらない分野まで話題を展開していて、みんなが本気でより良いバイクシーンを目指していることが伝わってきました。メーカーとメディアが対等に意見交換をしている様子も好感を抱きました。

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東京に戻って自工会のオフィシャルサイトを見ると、たしかに二輪車委員会のページは、情報ページの「MOTO INFO」をはじめユーザー寄りの内容が多く、今回のようなミーティングが開催された理由が理解できました。その背景として、世界有数の二輪車メーカーが4つもありながら、普及率では東南アジアや欧州を下回っている現状を変えていきたいという気持ちがあるのかもしれません。

個人的にはこうしたアクションを、自工会全体で展開してもらえればと思います。乗用車は関係する分野が広すぎるので直接対話は難しいかもしれませんが、トラックやバスを擁する大型商用車については、2024年問題や運転士不足などに直面しているわけで、作る人と使う人が直接つながることで、より良い方向に世の中を動かすことができればと期待しています。

自工会が数年前から、「クルマを走らせる550万人」というキャッチフレーズを展開していることを知っている人もいるでしょう。自工会がまとめた「日本の自動車工業2022」によると、その内訳は製造部門が89万人なのに対して、運送会社やバス会社などが属する利用部門は271.8万人と、全体の半分近くを占めています。

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第6回メディアミーティングを伝える自工会オフィシャルサイト「MOTO INFO」はこちら

この数字を見ても、日本の自動車関連業界では、使う人が重要な位置を占めていることがわかります。 だからこそ二輪車委員会が実践しているように、ユーザーに近い立場の人間とメーカーの人間がリアルに交流する場が、もっと必要ではないかと感じています。そう思わせるほど、今回のメディアミーティングはライダーとしても、メディアに関わるひとりとしても、中身の濃い時間でした。

今週のブログは先月8日に続いてイベントの話題です。今回紹介するのは、5月28日(日)から6月2日まで、神奈川県鎌倉市で、今年で第4回目となる「鎌倉ワーケーションWEEK」です。

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ウェルビーイングな社会の実現に向けて、企業や個人が枠を超えてつながり、サスティナブルな行動やあり方を学び、次世代の働き方をともに実践する場とのことで、市内のワークスペースやカフェやお寺を拠点に鎌倉ならではのワークスタイルの体験、交流の場への参加、各種プログラムへの参加を行うことで、ウェルビーイングな働き方を実践できるそうです。



鎌倉でのワーケーションの提案は、とても価値があると思っています。なぜならアフターコロナという状況下で再び問題になりつつあるオーバーツーリズム対策として、観光の分散化につながるからです。その中で私は、5月29日(月)14時30分から16時30分まで、ヤマハ発動機の主催で行われる「ウェルビーイングな人中心のまちづくりとモビリティ」に出させていただくことになりました。

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ヤマハ発動機では以前から、「Town eMotion(タウンイモーション)」という取り組みを進めています。「モビリティの可能性を広げ、人々が賑わう豊かなまちづくりを」をテーマとしており、先月茨城県つくば市で開催した「ひとまちラボつくば」もその一環で、鎌倉でも昨年「ひとまちラボ鎌倉」としてワークショップやトークイベントなどを開催してきました。今回のイベントも、その流れの上にあるものと認識しています。

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つくばでは自転車タクシーやカーゴバイクの試乗や展示が行われていたので、そちらにフォーカスした話をしましたが、今回はウェルビーイングがテーマということで、自らが動くことによって得られる豊かさについても触れていきたいと思っています。かつて隣りの藤沢市に住み、観光以外で何度も足を運んだ経験も生かして、話題提供や意見交換をしたいと思っています。

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最初に書いたとおり、鎌倉ワーケーションWEEKは市内のさまざまな場所で開催されますが、ウェルビーイングな人中心のまちづくりとモビリティの会場は、鎌倉駅東口を出て若宮大路右側を南に進み、徒歩4分のところにあるカフェ兼ワークスペース「ANOTHERDAY KAMAKURA」(所在地:神奈川県鎌倉市御成町4-10)です。リアル・オンラインともに参加者を募集中です。よろしくお願いいたします。

今月初めにこのブログで告知したように、先週土曜日、茨城県つくば市で、ヤマハ発動機とつくば3Eフォーラムの共催による「ひとまちラボつくば」が開催されました。当日会場に足を運んでいただいた皆様、運営関係者の方々には、この場を借りてお礼を申し上げます。私もトークセッションに出つつ、当日用意された電動化車両に触れたり、専門家の方々と意見交換をしたりと、充実した時間を過ごしました。

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車両については、ヤマハの4輪電動自転車プロトタイプ、日本製と欧州製のカーゴバイク、欧州製自転車タクシーがありました。2種類のカーゴバイクは以前東京都世田谷区でのイベントで乗ったので、今回は自転車タクシーの運転と同乗、そして特別にヤマハのプロトタイプを試すことができました。すべて電動アシストがついており、ヤマハのプロトタイプはフル電動への切り替えも可能ということで、大柄な車体ながら楽に走らせることができました。

ところでこれらの自転車を見て、日本の公道は走れないのではないかと思った人がいるかもしれません。おそらくその方は、日本独自の規格である「普通自転車」を、公道を走れる自転車のことだと考えている可能性があります。警視庁のウェブサイトによれば、自転車は荷車や馬車などと同じ軽車両のひとつで、普通自転車とは車体の長さが190cm以内、幅が60cm以内、4輪以下であることなど内閣府令で定める基準に適合する自転車のことと書いてあります。

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警視庁「自転車の交通ルール」ウェブサイトはこちら

つまり軽車両>自転車>普通自転車で、すべて公道の走行は可能です。カーゴバイクでも、今回用意された日本製「STREEK(ストリーク)」や、以前ブログで紹介した川崎重工業「noslisu(ノスリス)」は、普通自転車の基準を満たしています。では走るうえでの違いはあるかというと、警視庁のサイトには、普通自転車であれば例外的に歩道の通行が可能とあります。しかしそもそも自転車は「車道が原則歩道は例外」ですから、大きな違いにはならないでしょう。

それよりも多くの人が懸念するのは駐輪場ではないでしょうか。日本の駐輪場は多くが普通自転車前提で、1台ごとに輪止めやレールに固定する方式が一般的となっており、欧米のようなシンプルなパイプ型と比べると、駐輪できる車体がかなり限定されます。横並びを好む日本社会らしいとも言えますが、前が2輪のタイプは普通自転車であっても難しそうな感じがしています。

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少し前のブログで紹介したフランス・パリの自転車環境整備「プラン・ヴェロ」には、物流を含めたカーゴバイクの環境整備も含まれていて、カーゴバイクの寸法を考慮した自転車レーンや駐輪場の整備のほか、物流拠点としてのマイクロハブも準備するそうです。自転車で賄える移動や物流は、なるべく自転車に任せることで、過度に自動車に依存した社会からの脱却を目指すという意志が伝わってきます。

昨年のブログでは、欧州の子供乗せ自転車はカーゴバイクに近い設計が多いことを書きました。日本で多く見かける、2輪の普通自転車の前後の高い位置に子供を乗せる方式より、安定性や安全性でははるかに上です。自動車は2輪車から大型トラックまで目的に応じていろいろな車種があるわけで、自転車にも普通自転車のほかに大型自転車のようなカテゴリーがあっても良いのではないでしょうか。

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昔は大柄な自転車は動かすだけでひと苦労でしたが、今は電動アシストのおかげで、自転車タクシーのような車格であっても楽に動かせることも今回実感したことです。移動の多様性を謳うのであれば、運転免許なしで乗れる自転車の多様化にもっと目を向けるべきではないかと、今回のイベントに関わってあらためて感じました。

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