THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: メディア

大型連休では中日(なかび)になることが多い4月30日は、図書館記念日だそうです。今から75年前のこの日に、公立図書館は原則無料などを定めた図書館法が交付されたことを記念して、定められたとのことです。そこで今回は、ジャーナリストとして欠かせない存在である図書館や書店、そして本について、モビリティとの関係を交えながら書いていきたいと思います。

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先月、子どもの頃は毎月購読していて、近年は記事を書かせてもいただいた鉄道専門誌「鉄道ジャーナル」が休刊になりました。自分と関係の深い雑誌としては、かつて編集部に在籍していたこともある自動車専門誌「カー・マガジン」が4年前に休刊となって以来の、大きな出来事になりました。これ以外のジャンルでも、雑誌の休刊のニュースはいくつか目にしていて、厳しい状況にあることを教えられます。

インターネットの普及が大きな理由であることは間違いないですが、それは速報性で劣るだけではないと思っています。インターネットは自分の好きな情報だけを選んで見ることができるので、興味がない情報は見なくなり、さまざまな話題を幅広く扱う新聞や雑誌、テレビやラジオなどは、無駄な部分が多いと考える人がいるような気がするのです。それが証拠に、特定のテーマを深掘りする書籍の販売は、雑誌ほどは落ちていません。

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こうした傾向は、いろいろな部分で弊害を生み出しています。そのひとつが鉄道の工事運休のときの反応です。事前にいろいろな方法で告知されているのに、自分の興味のある情報しか見ないので、スマートフォンという情報端末を手に持っていながら、知らなかったという言い訳を平然とする人がいます。海外では昨日から、タイ入国時に米国ESTAなどど同様の電子渡航認証システムが必要になりましたが、それを知らずに空港で慌てて手続きを始める人がいたようです。

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こういう場面で知らなかった側に立ち、交通事業者の情報伝達に問題があったように報じるマスメディアにも疑問を抱いています。幅広くニュースを扱う新聞やテレビを見ていれば、運休情報は手に入るはずなので、自分たちの存在意義をアピールできるチャンスなのに、なぜか敵対関係に位置付けがちなSNSの側に立っているからです。報道機関が民の側に立つこと自体は非難しませんが、その立場に固執するあまり、情報社会の変化に気づかないというオールドメディアぶりは改めてほしいものです。

そもそも私は新しもの好きで飽きっぽい性格なので、図書館や書店に行ったら専門のコーナー以外にも足を運んで、気になる本があれば借りたり買ったりしています。ただ書店は本を買う場なので、いろいろな書物を気ままに見て回るには図書館が最適です。最近読んだ脳科学の先生の本では、脳は新鮮な情報を入れ続けていれば衰えにくいと書いてあって、いままで以上にいろいろな本を読もうという気持ちになりました。

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多くの人がそのような体験を得ることができるよう、せめて公立の図書館は公共交通で行きやすい場所に用意してほしいものです。私が訪ねたところでは、富山市、宮城県名取市、石川県七尾市などが、駅や停留場のすぐ近くにあって便利そうでした。たとえ列車やバスの本数が少なくても、待ち時間を読書に充てることができそうです。本を通じて多くの情報に出会う習慣をつけることは、移動はもちろん、生活のあらゆる面に生かされると考えています。

自動車の取材で何度も訪れたことがある神奈川県の箱根に、初めて船に乗る取材で行ってきました。芦ノ湖を巡る遊覧船に加わった富士急行の「箱根遊船SORAKAZE」です。長い間この地で遊覧船を運航してきた西武グループの伊豆箱根鉄道が、箱根周辺での展開を縮小することになり、静岡県函南町にある十国峠の施設ともども、富士急行が事業を引き継ぎ、新型船を就航させることになりました。

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詳細については自動車専門誌「ENGINE」に執筆したので、気になる方はご覧になっていただければと思いますが、SORAKAZEは新造ではなく、西武時代に建造された大きな窓を持つ双胴船をベースに、JR西日本特急列車「やくも」、完全電気推進タンカー「あさひ」などを手掛けた川西康之氏がデザインを担当したものです。



特筆すべきは時代背景を考え、量から質への転換を図るとともに、環境対応を図っていることで、定員を700人から550人に減らす代わりに、天然芝を敷き詰めたデッキ、ブランコ風ベンチ、赤富士をイメージしたソファ、畳を敷いた小上がりスペースなど、遊び心あふれる空間に仕立ててあり、ゆったり移動する船旅にふさわしい場になっていました。

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一方で気になったのは、同じ芦ノ湖に小田急電鉄が就航している箱根海賊船との関係です。かつて西武と小田急は、この地域でバスを含めた激しい競争を繰り広げ、「箱根山戦争」とまで呼ばれました。西武側の規模縮小で争いは収まったかのように思えますが、富士急と小田急のウェブサイトでは、相手側の船は紹介されず、元箱根や箱根関所跡近くの港は、200mほどしか離れていないのに別々になっています。

下は天然芝が敷き詰められたSORAKAZEのデッキから元箱根港を眺めた写真で、左側の白い低層の建物があるあたりに富士急、右側の鳥居の近くに小田急の港があります。たしかに残るひとつの港の場所は違いますが、利用者から見れば同じ港で両方の船に乗れたほうがいいわけで、会社が変わっても戦争の爪痕が残ってしまっているような光景は残念でした。

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さらに懸念するのは、こういう雰囲気を残していると、多くの人から公共交通は競争原理が成り立っていると見られ、利用者が減って赤字になれば撤退するのが当然とみなされることです。今、日本の多くで人口減少や少子高齢化から公共交通の利用者が減り、運賃収入だけでは到底運営していけないのに、黒字赤字で判断しようとする人が多いのは、こうした状況も関係しているのではないかと思います。

このブログで何度も書いてきましたが、欧州の公共交通はそうではありません。その名のとおり公共施設の一部という考えから、公的組織が地域の交通を一元的に管轄し、まちづくりという視点で路線や便数などを考え、税金や補助金を主体とした運営がなされています。黒字か赤字かで言えば大赤字ですが、生活のために必要なインフラという考えから、公が支える仕組みになっているようです。

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公共交通で競争原理が成り立つのは、人口も所得も増え続けているような世の中だと思っています。今はそれとは逆に近い状況であるわけで、そもそも競争そのものが成り立たないと考えるのが自然ではないでしょうか。日本の交通事業者から「競争」という考えがなくなることで、黒字赤字という議論が少なくなり、欧州のように公で支える仕組みに近づいていくことを希望しています。

今年のモビリティ関連の大きなニュースのひとつに、東京モーターショーがジャパンモビリティショーに変わったことがありました。これと歩調を合わせるように、モーターショーの主役だった自動車会社のモビリティ視点、つまり乗り物ではなく人の移動を主役として考えた取り組みが目立ちつつあります。今年8月に開業した芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)の沿線でも、そんな事例がありました。

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ライトラインの芳賀町側終点の脇には、本田技研工業(ホンダ)および同社の研究開発を行う本田技術研究所の施設があります。かつてブログで紹介した東武鉄道東上線みなみ寄居駅がホンダの出資で生まれたので、そのような話があるか取材し、みなみ寄居駅の最新情報とともに「東洋経済オンライン」で記事にしました。くわしくはご覧になっていただければと思いますが、ルートや停留所の位置について要望はしなかったものの、軌道と車道の確保のため敷地の一部を提供したとのことでした。

最初の写真を見ると、停留所の設置に合わせて右側の車線がややオフセットしています。道路の右側はホンダ関係者の駐車場なので、この一部が提供されたと思われます。ライトラインへの土地提供と言えば、途中の清原地区市民センター前のトランジットセンターがもともと隣接するデュポンの敷地だったという記憶があります。ホンダでもそれに近い対応をしているということです。

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さらにホンダではライトライン運行開始に合わせて、JR東日本宇都宮駅との間の送迎バスを廃止しています。こちらについては、自治体やLRT事業者との議論はないものの、バスの利用実績からシミュレーションを行い、LRTを利用する他の乗客への影響を確認したうえで判断したという説明でした。コスト削減だけでなく、周辺の渋滞緩和、バスの運転士不足対策など、数々のメリットが考えられます。



もうひとつ、今年度のグッドデザイン賞で特別賞のひとつであるグッドフォーカス賞 [地域社会デザイン]に輝いた、ダイハツ工業の福祉介護・共同送迎サービス「ゴイッショ」も紹介します。こちらは介護業界の人手不足を解決するために、介護施設の業務の3割を占めるという送迎の仕事を地域に委託したことに加え、複数の施設の利用者を乗合で送迎することで効率化を図るとともに、空き時間で地域内の他の移動も賄うというものです。

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ゴイッショのオフィシャルサイトはこちら
グッドデザイン賞受賞ギャラリーはこちら

ゴイッショは香川県三豊市で2019年に実態調査を実施したあと、実証実験、プレ運行を経て、2022年6月に正式運行に発展。今年9月からは滋賀県野洲市でも実証実験が始まりました。同社の車両を使わなければいけないのかが気になりましたが、担当者に尋ねたところ他社の車両でもかまわないとのことで、この点も評価されてグッドフォーカス賞受賞となりました。

2つの事例に共通しているのは、自動車会社の本業である車両販売がなく、インフラ整備やサービス提供で社会との関わりを持ち、課題解決しようとしていることです。売るだけでは解決できないことが増えてきたのだと思いますが、どちらもモビリティという言葉にふさわしい事例であり、モーターショーがモビリティショーに移行した今後は、こうした取り組みがさらに増えていくのではないかと関心を寄せているところです。

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そういえば来年は、トヨタ自動車が静岡県裾野市の工場跡地に建設を進めている「ウーブンシティ」の第1期建物が完成予定とのことです。モビリティの実証実験は2025年以降ということですが、先月近くを通ったところ、建物が形になりつつありました。ここまで書いてきた事例とは違い、ウーブンシティはゼロから構築していく地区であり、既存の地域より理想的なモビリティサービスが展開できるのではないかと期待しています。

今年9月に大阪府を走る金剛バス(金剛自動車)が、12月20日いっぱいですべての路線の運行を終了するというニュースは、モビリティに興味がある人であれば覚えていると思います。その後沿線の自治体や他のバス会社などが協議を行い、3分の2の路線が存続することになったそうですが、都市部のバス会社がまるごと営業を止めてしまうという発表はショッキングでした。

今年は4月にJR西日本(西日本旅客鉄道)が、2019年度の輸送密度が1日2000人未満の線区について収支率などを開示するという問題提起があり、他の鉄道事業者からも同様の発表が相次ぎました。金剛バスの一件はそれに並ぶ衝撃でしたが、異なる部分もあります。鉄道は利用者減少によるローカル線の危機なのに対し、バスは運転士不足が原因で、都市部の路線も影響を受けていることです。

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このテーマについて今週、ニュースサイト「東洋経済オンライン」で記事を公開させていただいたところ、バスの記事では珍しく多くの方に読まれ、Yahoo!ニュースでは多数のコメントをいただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。そこでは自宅近くの路線が減便の末に廃止になったことなど、現状を報告するとともに、運転士不足の理由についても触れました。ご興味があればお読みください。

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そこにも書きましたが、自分なりに考える運転士不足の理由は、過酷な労働環境と低賃金の、大きく分けて2つがあると思っています。ただこれは、一方だけを改善すれば良いわけではなく、両方を見直さなければ効果は薄いと考えています。

とりわけ前者については、長時間労働だけでなく、乗客の安全性や快適性の確保、交通渋滞もある中での定時運行の維持、路上駐車車両の回避、歩道にできるだけ寄せての停車、両替を含めた運賃収受など、多くの業務をひとりで兼務しており、利用者として見ても大変であることはわかります。たとえ待遇が良くなっても、運転士は遠慮したいと思う人が多いでしょう。



Yahoo!ニュースでは、タイトルで利用者に言及したこともあって、いわゆるカスタマーハラスメントの実態を報告する書き込みがいくつか見られました。私が利用者に触れた理由は本文に書いたとおりですが、すべてが実話かどうかはさておき、昔から日本に根付く「お客様は神様」的な思想が、エスカレートしていることは自分も感じています。

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そこで思いついたのは、以前ブログで触れた、悪質な交通違反をした自転車利用者への青切符(交通反則切符)交付検討という話題です。バスには鉄道警察隊のような組織がないようなので、このルールをバスやタクシーの悪質な利用者にも適用できるルールを作るとともに、停留所付近での駐停車や発進の妨害などの交通違反を、運転士が警察に伝えられるようにして、取り締まりをさらに厳しくできないかと考えています。

バスは公共交通であり、多くの利用者にとってなくてはならない、インフラのような存在です。だからこそ運転士を含めた事業者が、余裕を持って移動を提供できるよう、相応の環境整備をしていってほしいと思っています。そうやってバスのプライオリティを上げていくことで、運転士になりたいという人が増えるような社会づくりを望みたいところです。

多くの地方が、過疎化と高齢化に悩む中、地域交通を維持しようと革新的な手法で取り組んでいる事業者がいくつかあります。今回はその中から、島根県に本拠を置くバイタルリードの代表取締役・森山昌幸氏にオンラインでインタビューをする機会がありました。内容については、オンラインメディア「レスポンス」で公開していますので、興味のある方はご覧ください。なお私は現地を訪れたことがないので、今回の写真はすべてイメージと考えてください。

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同社が展開しているモビリティサービス「TAKUZO」は、5年前に実証実験を始め、翌年から本格サービスに移行した、地方のための新しい交通サービスです。タクシーを使ったサブスク(定額)、乗合のAIオンデマンド交通で、専用の配車システムが複数の移動需要を束ね、乗合とすることで、最小限の運行台数で効率よく配車することが特徴です。料金は月額3000~5000円で、運行時間はタクシーの空き時間帯を活用した平日9:00~16:00を想定しています。



話を聞いていて印象的だったのは、住民の移動だけでなく、タクシー事業も支えていくという考えです。具体的には、利用者の発着時間を少しずつずらしてもらうことで、1台あたりの輸送人数の最大化、運行コストの最小化を目指しているそうです。

地方の中には過度にクルマに依存した社会なので、マイカーに限りなく近い移動を提供しようとしがちですが、利用者に寄り添いすぎると、事業者側が体力的にも金銭的にも辛くなっていくとのことです。利用者にとってそこそこ便利でありつつ、タクシー事業者がやっていけることが大事と考え、自らサービスを立ち上げたそうです。

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たしかに人口減少が進む地方では、タクシーの利用者も少なくなっていくので、そのままではドライバーの収入も減ってしまいます。そうなればドライバーのなり手はますます減っていきます。それが最終的には利用者に降りかかってきます。もちろんライドシェアを解禁すれば話は変わりますが、現状のルールで考えれば、地域住民の移動と交通事業者の維持を、同時並行で考えていく必要があるのです。

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裏を返せばいままでは、「お客様は神様」という考えが強かったのだと思います。これはモビリティに限った話ではなく、多くの分野で言えることです。たしかにそれは日本らしさではありますが、そこにこだわりすぎるあまり、犠牲になっていることはないでしょうか。大切なのは全体最適という視点です。厳しい場所で地域移動を成立させている人の言葉は重いと感じたのでした。

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