THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: まちづくり

先週のブログで取り上げた松江市に向かう途中で、JR西日本芸備線に乗りました。芸備線は、岡山県新見市の備中神代駅と広島市の広島駅を結ぶ路線で、このうち備中神代駅と広島県庄原市の備後庄原駅の間は、2022年度の平均通過人員(輸送密度)が1日あたり100人以下にすぎないことから、全国に先駆けて「再構築協議会」が立ち上げられ、存廃が議論されています。個人的にもどんな状況なのか興味があり、平日日中に備中神代〜備後落合間を往復しました。

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予想とはまったく違う光景が待ち受けていました。備後落合行きは座れない人がいるほどで、伯備線新見駅まで向かう帰りの列車も座席はほぼ埋まっていました。乗車区間のうち東城〜備後落合駅間の輸送密度は1日20人で、先日発表された2023年度でも同数でしたが、単純計算しても2列車で40人ぐらいは乗っていました。そして備後落合駅では、この駅が終点になる木次線の列車から、30人ぐらいが次々に降りてきました。2022年の輸送密度では、同線出雲横田〜備後落合間が54人だったので、こちらも想定外でした。

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ここまで利用者がいた理由として、話題の線区ということが大きそうですが、もうひとつ乗り換えのしやすさもあると思いました。1日の本数は、芸備線の三次方面が5本、備中神代方面と木次線はともに3本ずつしかありません。しかし私が利用した14時30分前後では、14時19分から25分にかけて3方向から列車が到着し、それぞれ15分ほど停車したあと、40〜44分に折り返していくという、乗り換えを前提にしたような設定なのです。

過去に利用した他の地方鉄道でも、乗り換えのしやすさが印象に残っている駅はあります。たとえば千葉県夷隅郡大多喜町にある上総中野駅は、小湊鐵道といすみ鉄道の終点であり、別々の鉄道事業者なのにホームが並んでいるだけでなく、乗り継ぎしやすい時刻設定の列車が多く、小湊鐵道のオフィシャルサイトの時刻表には、いすみ鉄道の列車の時刻も記しています。両鉄道がメディアで取り上げられることが多いのは、首都圏であることも大きいですが、アクセスのしやすさに配慮している点もあると思っています。

空の移動まで含めて考えれば、地方空港の連絡バスが飛行機の発着時間に合わせた運行をすることは、常識となっています。空港には飲食店や土産物店など、時間をつぶす場所があるにもかかわらずです。山陰からの帰りは出雲空港までバスで移動したことは前回書きましたが、乗車した松江しんじ湖駅前の時刻表には、バスだけでなく飛行機の出発時刻も書いてありました。乗り換えは単に移動距離を少なくするだけでなく、待ち時間を少なくすることも重要だとあらためて感じました。

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芸備線に話を戻すと、利用者の多くはいわゆる「乗り鉄」風でしたが、それは列車の本数が少なすぎるがゆえだと考えています。備後落合駅で3方向の列車が同じ時間帯に集まるのは、1日の中でこのタイミングだけ。仮に途中下車して散策しても、次の列車は少なくとも2時間以上あとです。現実的には列車に乗り続けるしかないような状況なのです。

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高速移動は中国自動車道が並行しているので対抗は難しいとしても、日中にあと2回ぐらい、3方向の列車が集まる時間帯があれば、地域住民はもちろん、乗り鉄以外の観光客も、使える移動手段だと目を向けるのではないでしょうか。逆に言えば、沿線の自治体が飲食店などを用意して活性化を図ろうとしても、今のダイヤでは効果は期待できないと思います。一部のルートを付け替えてスピードアップもしたいところですが、列車の本数を増やすだけでも、状況は変わっていくような気がしました。

*来週は夏休みをいただきます。次回は8月24日更新予定です。

島根県に用事があったので、以前から気になっていた松江市に宿泊しました。中心市街地は宍道湖のほとり、もうひとつの湖である中海に向けて大橋川が流れ出すあたりに広がっており、北岸にそびえる国宝・松江城のお堀を含めて昔から水の都と呼ばれ、水辺の活用や保全を目的とした官民一体のプロジェクト「ミズベリング」に早くから参加していたことを知っていたので、訪れてみたのです。

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JR西日本松江駅前のホテルに荷物を置いた私は、まず大橋川に出ました。宍道湖遊覧船が発着していた乗船場の周辺は、遊歩道として整備されていました。船や対岸を眺めながら宍道湖のほうに歩みを進めていくと、宍道湖大橋の手前で白潟公園に出ます。湖畔では近所の人たちが心地よさそうに過ごしており、うらやましく思いました。翌日は北岸の千鳥南公園や松江城周辺を巡りましたが、こちらも水辺と親しめる場所が数多く用意されていました。

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一方ホテルで見たテレビでは、松江市の別の側面を知ることになりました。今年1月に営業を終了した松江駅前の一畑百貨店の利活用についてのニュースがあったのです。閉店から半年が経過しましたが、まだ方向性は明らかになっておらず、秋には公表できるとのこと。松江駅の反対側にはイオンがあり、特急で30分足らずの鳥取県米子市には百貨店が3軒あるので、お客を取られてしまったのかもしれません。

駅前にはほかにも気になる箇所がありました。駅前交差点に歩行者用地下道が用意されているのは、金沢駅や鳥取駅など日本海側のいくつかのターミナル駅で見たことがありますが、松江駅前の交差点には駅の反対側に渡る横断歩道がなく、地下道に頼らなければいけないうえに、ここに地下駐車場も併設されていて、なんと地下道の途中を駐車場にアクセスする車道がクロスしているのです。ここまで自動車優先の作りは最近では異例です。

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松江市を訪れてもうひとつ感じたのは、JR松江駅から市役所や一畑電車松江しんじ湖駅があるエリア、松江城や島根県庁があるエリアまで、それぞれ2kmほど離れていることです。これらの間はバスで結ばれていますが、地方のバスでよくあることとして、どこのバス停から出るどのバスに乗れば行けるのかがわかりにくく、レンタサイクルはありますが周遊向けなので、短時間利用と乗り捨てができるシェアサイクルがあれば便利になりそうです。

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帰路は松江しんじ湖駅から松江駅経由のバスで出雲空港に向かいましたが、夕刻だったこともあり、駅前通りや国道9号線でひどい渋滞に遭遇しました。中心市街地に湖があり川が多いということで、一部の道路に自動車が集中してしまっているようでした。とはいえ湖や川は松江市の魅力の源泉でもあるので、この地形を生かすモビリティを考えてほしいと感じました。

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松江市オフィシャルサイト「松江駅前デザイン会議」のページはこちら

松江市では一畑百貨店の閉店を機に、「松江駅前デザイン会議」を何度か開いており、現時点でも市民アンケートの結果などは見ることができます。市民の方々も松江らしさとして「水の都」「宍道湖」を挙げている人が多いので、そのあたりをイメージできる駅前にしてほしいものです。今年はJR西日本の特急「やくも」が新型車両になり、この地域はいままで以上に注目を集めているはずなので、観光で訪れる人たちが心地よく感じる玄関口を作ってほしいものです。

今回のテーマはモペッドです。モペッドとはモーター+ペダルという意味の造語で(ゆえに「モペット」は誤りです)、エンジンを使ったタイプは昔からありました。セルモーターや変速機がない代わりに、ペダルを漕いで助走をつけ、その勢いを使ってエンジンを掛けるという仕組みでした。本田技研工業の第1号車はこのタイプで、私もフランスの「ソレックス」に乗っていたことがあります。

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最近のものは電気モーターを使っており、見た目は電動アシスト自転車に似ています。とはいえモーターだけで走ることができるので、特定小型あるいは一般原動機付自転車(原付一種)としての登録が必要で、警察では「ペダル付き原動機付自転車」と呼んでいます。つまりナンバープレートの装着や自賠責保険への加入が義務付けられますが、都内で見かけるものの多くはナンバーをつけていません。違法車両であることは明白なので、ここでは違法モペッドという表現を使っていきます。

ナンバーなしで乗ることができるのは、多くの車両がオンライン販売だからでしょう。販売業者のウェブサイトには原付登録が必要などと書いてありますが、登録するかどうかは購入者の判断になります。そして多くの購入者がナンバーを取らずに乗るのは「バレないから」「逃げ切れるから」の2点に尽きると思っています。多くは違反を承知で乗っているというのが個人的な見解です。もともと違反をしているからでしょう、信号無視や歩道走行など、他の違反も平然としているという印象です。

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私も東京都内で違法モペッドを何度か見たことがあります。歩道を歩いていて、すぐ横を抜いていったこともありました。個人的には自動車の駐車違反などより、はるかに人に直接危害を及ぼす状況であり、前に書いたように確信犯である可能性も大きいので、積極的な取り締まりをしてほしいと思いますが、路上で監視したり自転車で追いかけたりという現状の対策は役不足なので、自分なりに考えた案をここで挙げておきます。

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それは違法モペッドを含めたパーソナルモビリティのための取り締まり用車両を用意することです。具体的には郵便配達やフードデリバリーなどに使っている二輪や三輪の原付二種がふさわしいと思っています。パトカー(四輪の警察車両)は軽自動車から3ナンバーのセダンまであるのに、白バイが大型二輪ばかりであることを不思議に思っていました。小型の二輪/三輪車なら機動性の高さを生かして、生活道路での交通事故や住宅地内での事件などでも役立つはずです。

近年、電動キックボードをはじめ、新しい形のパーソナルモビリティがいろいろ出てきました。多くは個人が使うために開発されたものですが、業務用として生まれた車両もあります。すでに一部の民間企業は積極的に導入していますが、自治体や警察などの公的機関はあまり活用していないと感じています。私もいくつか乗ってみて、便利であることは確認しているので、安全で快適な社会の構築のために役立ててもらいたいものです。

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ちなみに私はモペッドそのものを撲滅すべきとは思っていません。特定小型原付登録なら、スピードが20km/h未満に抑えられるので安全性は高まるし、同じカテゴリーの電動キックボードより安定感があるからです。すでにこのカテゴリーに対応した車両がいくつか販売されており、自転車シェアリングでおなじみの「オープンストリート」では、首都圏の一部のステーションで車両を用意しています。



同社が特定小型原付の車両を導入した経緯などは、インターネットメディア「メルクマール」で記事が公開されているので、気になる方はご覧になっていただければと思いますが、私も乗ってみたところ、自転車に近い車体なのですぐに慣れ、漕がないので楽であるうえに、電動キックボードより安心だと感じました。体力に自信がない人でも安全快適に移動できるパーソナルモビリティという点で、存在価値があると思っています。

日本で暮らしているほとんどの人は、イオングループが展開するショッピングモール「イオンモール」を知っていると思います。郊外の開けた土地に広大な店舗と駐車場を用意し、多くの人がマイカーを使って来場するというシーンも同時に思い浮かべるのではないでしょうか。

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そのイオンモール、近年都市部への展開が多くなっており、結果的に鉄道でアクセスしやすい拠点が目立つようになりました。個人的にもこの動きは気になっていて、先月仕事で埼玉県越谷市のイオンレイクタウンを訪れたのを機に、イオンモールに取材をしたうえで、東洋経済オンラインに記事をまとめました。気になる方はご覧になっていただければと思います。



 記事を書く過程では、自分自身が流通業にくわしくないこともあって、いろいろな発見がありました。そのひとつが、イオンモールはイオングループの中ではデベロッパー(イオンではディベロッパーと表記)であるということです。つまり三井不動産や三菱地所などと同じ業種です。ちなみにスーパーマーケットを運営するのはイオンリテール、いなげや、ダイエー、マルエツなどとなっています。

つまりイオンモールは自分で小売を行うのではなく、さまざまな業種の専門店に入ってもらい、その賃料を収入としていることになります。多くの専門店が営業できるだけの集客力は重要になるでしょう。しかもイオンモールが進出したことで、地元の商店街が寂れてしまったという話も聞きます。地方の衰退を加速させる懸念があったことも、都市部に目を向けるようになった理由になりそうです。

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しかし都市部には、以前からそこで住んだり働いたりしている人が多くいるわけで、すべての来場者がマイカーで押し寄せると、交通渋滞によってさまざまな問題が発生し、地域社会に迷惑をかけることになります。実際にインターネットで調べると、具体的な事例がいくつか出てきます。そこで鉄道駅の近くにイオンモールを開設する、あるいはイオンモールの近くに新たに駅を作るなどの動きが出ているのでしょう。

 ではイオンモールを訪れる人のうち、鉄道で来る人はどのぐらいいるのでしょうか。イオンレイクタウンについて聞いてみると、平日15%、休日17%とのことでした。一般的に、自動車の数が1割減れば渋滞は半減すると言われているので、15%というのはかなりの効果を上げていると思われます。休日のほうが多いのは、遠方からレジャー目的で来る人、渋滞を避けたいという気持ちを持つ人が多いからではないかと予想しています。

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もうひとつ、イオンモールが早くから環境対策に熱心に取り組んできたことも関係していると思っています。たとえば電気自動車の充電スポットの設置はかなり早く、私も取材で何度もお世話になりました。イオンレイクタウンでは店内に、さまざまな環境対策を実践していることを紹介するボードが掲げてあり、駅直結であることもそこに含まれています。

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とはいえイオンモールは鉄道にこだわっているわけではなく、地域の魅力を高めることが最大の目的であり、その中で鉄道を選択する場合もあると答えていました。モビリティはそれ自体が目的ではなく、まちづくりのための手段のひとつと考えている自分にとっては賛同できる考えです。これからも地域との共生というスタンスで展開をしてほしいと思いました。

私もよく利用する東京のターミナル、新宿駅西口の再開発が本格化しています。駅前広場を囲んでいた新宿スバルビルと明治安田生命新宿ビルが取り壊されたのに続き、小田急百貨店新宿店本館も姿を消し、吹き抜けの中を地下駐車場にアクセスするらせん状のスロープが巡る地下広場は、工事のための巨大な構造物で覆われました。このあとスロープも撤去されるとのことです。

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新宿駅西口の再開発の内容については、下で紹介しているように、ブログでも2020年10月に取り上げました。そのときは具体的な動きが始まったばかりでもあり、漠然と見ていましたが、小田急百貨店が消え、地下広場が蓋で覆われた状況を目にして、残念という気持ちが大きくなりました。どちらも昭和を代表する建築家のひとり、坂倉準三氏の作品であることも大きいと思います。



これに限らず最近、高度経済成長期に生まれた名建築が、全国各地で姿を消しつつあります。坂倉氏が生まれ故郷の岐阜県羽島市で手がけた旧市庁舎も、解体が決定したそうです。東京で言えば、国立西洋美術館本館や国立代々木競技場など、重要文化財に指定されたものは保存の方向になるようですが、中銀カプセルタワービルのように画期的な建物であっても、解体されています。

一方で現役の施設として存続している建築もあります。東京都内では目黒区総合庁舎がそのひとつです。こちらは建築家村野藤吾氏の手で千代田生命保険本社として生まれ、同社が経営破綻したときに区が買い取り、総合庁舎に衣替えしたものです。維持管理は大変かと思いますが、外観は今もきれいで、内部も階段や中庭など当時の面影を残しています。駅から離れた住宅地の中にあった旧庁舎と比べると、中目黒駅の近くという立地も区民にはありがたいでしょう。

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目黒区総合庁舎についての解説はこちら

建築やデザインに関わる人たちの話では、あの時代は東京オリンピックや大阪の万国博覧会など、国際的なイベントがいくつも開かれたことで、自分たちの実力を世界にアピールする絶好の場が与えられたことが、結果的に日本の建築やデザインが一気にレベルアップし、世界的に評価され、著名な建築家やデザイナーを何人も輩出することになったそうです。

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たしかにあの時代は、日本全体に勢いがありました。建築も例外ではありません。今の日本を築いたという点では、古代から近世にかけて作られた建築に匹敵するのではないでしょうか。後世に名を残すことになる建築家が腕を振るった作品たちです。そういった人たちの偉業を讃え、後世に伝えていくという意味でも、あの頃の建築を残していくことには価値があると考えます。

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